恋は盲目 |
【ケイナ視点】
ここ数ヶ月、メルルとまともに会えてなくて寂しい日々を送っていた。お城での
仕事もけっこう失敗をしていて、それを責められるよりも慰められたりするから
尚更辛かった。何でもいいから、メルルと会って話をしたいなぁ。
そんな、願い事をとある星が流れた日に叶いもしないと思って願ったことが
近いうちに起こるとはこの時の私には思いもよらないことだった。
「ねぇねぇ、ケイナ。今度私の護衛としてこない?」
「えっ・・・私なんかでいいの?ステルクさんとかジーノさんは?」
「それが・・・」
お城で私が待機している場所に笑顔で駆けつけてきたメルルに、私がいつもの護衛さん
たちのことを聞くと深刻な顔をして伏せてしまう。それを私は慌てて訂正して
落ち込んでるメルルを励ました。
「だ、大丈夫。メルルのためなら何だってするわ!」
だらんっと下がるメルルの腕。私は手を取って一生懸命に私の気持ちをメルルに
伝えるとさっきまでの落ち込みが嘘のように目をキラっと輝かせて私の手を今度は
メルルの方が私より強く握り返してきた。
その力強さと暖かさにドキドキしていると。
「よかった〜、ケイナならそう言ってくれるって信じてた〜」
今度ははしゃいでぴょんぴょん跳ねてまるで小動物のように喜びの表現を見せる
メルルに私もその真意を知らずに一緒に喜んでいると、メルルから不穏な言葉が。
「安心してね、ケイナの命は私がちゃんと守って保障してあげるから」
「へ?」
メルルは立派な錬金術師を目指しているんじゃなかったっけ?
確かに錬金術の仕事もある程度はこなしていたけど、一緒に旅をしていて一番に
思ったことは。
「さぁ〜、この地域一帯の敵を殲滅させるぞぉ〜〜〜!」
「はぁ・・・はぁ・・・。まだ戦うんですか、メルル〜」
「そりゃそうよ。私の目標は国のみんなを守るために最強の戦士を目指すんだから」
「えっ!?立派な錬金術師じゃなかったの!?」
「ほらっ、おしゃべりしてる暇なんてないよ!!」
「ひ、ひえええぇぇぇ」
採取地に行って採取よりも魔物討伐の方に力が入っているメルルの姿があった。
他に護衛の姿はなく、私はメルルに用意された見たこともない強そうな装備をこしらえて
戦闘でメルルのサポートをしていた。
最初はぷにとか可愛らしい敵だったはずなのに、いつしか火山まで行って楽しそうに
ドラゴンを狩っているメルルの姿に眩暈を起こしそうだった。いや、実際眩暈を
起こしていたのだ。暑さにやられたのだろうか、ここんとこ慣れない戦闘の連続で
疲弊していた体が今になって悲鳴を上げたのかもしれない。
「メルル・・・」
メルルはドラゴンと対決していることに夢中だ。私は膝をついて目を瞑って、せめて
メルルの邪魔にならないように自分の身だけを守っていないと。その時感じた胸に穴が
空くような感覚。あれ、私なんで今こんな気持ちでいるんだろう。
メルルと一緒にいるはずなのに、一人でいたときと同じ気持ちでいるなんて。
でも、それはなんでだか、何となくわかっていたことだった。メルルはいつも、国や
錬金術に戦闘。依頼、周囲の人たちの話ばかりしている。一緒にいるみたいなのに
私だけ蚊帳の外にいるみたいな感覚でそれがすごく寂しく感じたのだ。
いっそ、今この暑い熱い場所で目を閉じたように真っ暗な世界に全てが溶け込んで
しまえばいいのにって思った瞬間。
「ケイナ!大丈夫!?」
そんな大きな声と共に私の体が強く引き寄せられた。そっと目を開けると泣きそうで
心配そうな顔をするメルルの姿があった。ドラゴンはお姫様一人に倒されて情けなく
ダウンしていた。
「メルル・・・」
「ケイナ・・・気づかなくて、ごめん。とりあえず、ここから出よう!」
すると、メルルは軽々と私の体を持ち上げ、お姫様抱っこのような形ですごい速度で
走っていく。まるで王子様のように感じられた。ぼーっとする意識の中で私はメルルと
やっていけるのか不安で仕方なかった。
気がつくと麓にある民家のベッドで私は目が覚めた。近くで私の手を握っている
メルルが泣きそうな顔をして私を見ていた。なんだかひんやりするなぁ、と思っていたら
氷のうが額に当たって気持ちよかった。
「・・・」
「メルル?」
「私ダメだな・・・。ケイナのことを守るっていっておきながら、ケイナの具合を
悪くさせちゃって」
「ううん・・・。メルルは悪くないわ。私が自己管理が甘かったの」
言うとメルルが無駄に心配しそうだから言わなかったことだったけど、この際だから
私の思いの丈を全てメルルに話した。一緒にいたけど、メルルは私以外のことに夢中に
なって、寂しかったこと。最初の夢とは道が外れている不安など。
「ケイナ・・・。寂しい思いをさせないようにしようと思ってたけど、逆だったんだ」
「メルル・・・」
「戻る・・・?アールズに・・・」
「え?」
そこにいた姿は今までの元気で自信に満ち溢れていたメルルの姿はなく、まるで親を
失った子羊のようにか弱い表情を浮かべていたのだ。そんなメルルを見て私は久しぶりに
カチンときた。怒った。私はメルルのために働きたいのに、私の意志を受け取らないで
勝手に決めようとしているメルルに腹が立った。
「メルル!」
「!?」
大きく声を荒げて名前を呼ばれたメルルは驚いて固まっている一瞬。その瞬間を
見計らって私は重い上半身に勢いをつけて起こし、右手でメルルの後頭部にまわして
グイッと引き寄せた。私の唇に柔らかく湿って暖かい感触が伝わってくる。
軽く触れただけなのに、その温もりがずっとあるかのように唇に残る感触。
メルルも予想外だったのか、私の顔を見ながらぼ〜っとしている。
「ケイナ・・・?」
何とか振り絞った声で私の名前を呼ぶ。目では「何で?」と聞いてるように見えた。
「メルルは私のことわかってない!私は、メルルが思うよりずっとタフなの!
今回たまたま調子悪かっただけで・・・。そんな寂しいこと言わないで・・・」
「ごめん・・・ケイナ」
これじゃどっちが寂しいのかわからない。切ない顔をしたメルルが痛々しくて
私は彼女の頭を引き寄せて抱きしめた。胸元近くにメルルの吐息を感じる。
ずっと、こうしていたかった。こういう日を待ち望んでいた。だけど、それは
私だけの気持ちかもしれない。そう思うとずっとこのままっていうわけには
いかないと思った。
そっとメルルを離すと、メルルはぐしゅぐしゅ音を出しながら顔を上げると
そこには鼻水交じりの顔があった。お姫様らしくない状態に私は一瞬固まった後
すぐにハンカチなどを使ってメルルの張りのある肌に触れながらいつものように
接した。
心なしか、メルルの表情から赤みが出ていたように見える。気のせいかな。
でもその様子も少しの間だけで、すぐに元気なメルルに戻って私はホッと胸を
撫で下ろした。
「目指せ、最強の錬金術師!!」
そして、この出来事をきっかけにメルルのやる気は衰えることを知らずに開拓に
錬金に。戦闘に・・・。やがては。
「ぬわぁ!」
「ハッハッハ、マスク・ド・Gさん!私の勝ちのようですね!」
「ま、まさか姫君にやられるとは・・・」
リザードの巣にちょっかいを出していたメルルにお灸をすえるために登場した
マスクドGさまもあっさり返り討ちにしてしまい、地面に倒れて狼狽えるGさまに
メルルは笑いながら私を引き寄せ、G様に指を差してこう宣言していた。
「愛の前には私の敵はいなーい!」
太陽のような眩しい笑顔に私はドキッと心臓が跳ねる。まるで私は告白されてるような
気分になっていたが、メルルの言う愛というのは国やその人たちのことなのだろう。
だから、私一人に向けられてるわけじゃない。おちつけ、落ち着け私。
「私にはケイナがいてくれるからね!」
そう言うとメルルは不意に私の頬にメルルの頬がくっついた。というより積極的に
メルルの方から私にべたべたくっついてきていた。それを見ていたGさんにメルルは。
「私の夢を叶えるために、マスクドGさん、一緒に来てください!」
「そ、それはできん話だ・・・」
立ち上がる前に断ろうとするGさんに近づいてしゃがみこんだメルルは明らかに
黒さを匂わす笑顔をGさんに向けてもう一度同じ質問をした。すごい鍛えた杖を
Gさんの方にトントンと叩きながら。その迫力にGさんも根を上げてしまった。
「わ、わかった・・・。ついていくから勘弁してくれ・・・!」
こうして、無理やり護衛を増やしたメルルの勢いは止まることを知らずに爆進して
いったのであった。
あらゆる敵と倒していって、やることがあらかた片付いたメルルは私の手を
取って久しぶりにメルルの部屋に入っていった。中は私が掃除していたのがそのまま
埃だけが綺麗に取り払われていた。
「ん〜、久しぶりの私の部屋〜!」
「何だか、ちょっと前までいたはずなのに懐かしい感じがします・・・」
「それだけ外の生活に慣れてないし。第一、ケイナ気づいていない?」
「え?」
私が疑問の声を向けるとメルルは指を折りながら数え、終わった後は大きめの声で
嬉しそうに言い放つ。
「1ヶ月だよ、1ヶ月!ケイナそこまで外にこのお城の外に出たことないもんね?」
「そりゃそうですよ・・・。メルルが連れ出してくれなくなったんだから」
護衛の人たちが充実してからは私がメンバーから外された時のショックはすごくて、
その日は眠れなかったくらいだ。私はメルルに必要とされていなかったのではないかって。
でも、私のそんなずっと引きずった悩みを、いとも容易く解いてくれた。
「だって、万が一ケイナに何かあったらって思ったら、ああするしかなくて。
あの日は私、一日悩んだんだよ。でもケイナの安全が一番だから決めたんだ」
「メルル・・・」
「せめて、私がケイナを守れるくらい強くなってからまた頼もうと思ってた。でも、
ちょっと早かったんだよね。私が目指す方向がブレ始めたときから、みんなが少し
敬遠気味だったし。だからね、つい。甘えられるケイナに頼りたくなって…それに」
ベッドの上で語らいながらメルルの顔の向きが上向きだったのが徐々に下がって
いって、俯きとまでは行かないまでもそこそこ下がって、目にはうっすらと涙が
滲んでいた。
「寂しかったんだよ・・・。えへへ、ダメだね。私・・・」
「ううん、メルルは強くなったよ」
私は肩を掴んで優しく抱き寄せると、まるで子供をあやすようにメルルの背中を
軽くポンポンと叩いて、その存在がとても愛しくて私はメルルを励ました。
「始めの時はとても儚げに見えたメルルの目標だったけど、今では目の前、いや
もう到達しているくらいの自信さが覗けた。実際、きっちり役目を果たしている
じゃないですか。メルルは強くなりました」
「ケイナ・・・」
メルルは一瞬、躊躇うような間を空けてから抱きつく手に力を込めてメルルは
振り絞るような声で切なそうに話した。
「私、ケイナが好き」
「私もよ、メルル」
「そういう意味じゃなくて・・・とても大切な・・・恋という意味の好き・・・」
「えっ・・・」
昔から私はお姫様のメルルよりも、個人としてのメルルにとても好意を抱いていた。
これが憧れからくるものだろうと思ったけど、成長していくにつれ、その想いが別の
ものだと感じたのはメルルが錬金術を学ぶ2年くらい前だっただろうか。
二人でこっそりお城を抜け出してピクニック気分でモヨリの森に出かけた際、
青ぷにに襲われたとき、身を挺して私を庇ってくれた時からまるで昔絵本で読んだ
王子様のようで、胸に熱い何かを感じたのが最初の自覚だった。
でもそれは女の子同士、叶わない夢だと思っていたから、私はメルルが近づく時に
これは偶然なんだ、メルルにそんな気はないんだと思っていた。じゃないと苦しくて
仕方なかったから。でも、私のそんな努力も意味を成さないということがメルルの
告白でわかってしまった。
メルルも同じ状況の中で私を意識していたことを言われてしまったら気づかざるを
得ないじゃない。
「メルル・・・」
「ケイナ・・・」
メルルのたどたどしい必死の説明を笑いもせず、笑顔も作れずただ。私は、目に
涙を浮かべていた。それは嬉しさと驚きから来た涙であった。その涙をハンカチで
拭い、一息つけてからメルルから一旦離れて無理に笑顔を作って言った。
あぁ、それにしても私今すごくひどい顔してるんだろうなぁ、とか片隅で思いながら。
「そんなこと言うと、私本気にしちゃいますよ・・・」
「いいよ、わたし。ケイナが大好きだから」
「メルル・・・」
こんなにも胸が熱くなったことがあったか・・・。私は今にも溢れそうな想いを
胸に溜めながらうっすらと涙を浮かべた。
「だいじょうぶ、ケイナ」
「大丈夫・・・大丈夫。これは幸せな気持ちの涙だから」
「ケイナ、じゃあ・・・」
「えぇ、私も・・・。同じ状況でメルルのことを意識してた」
真っ直ぐで強くて綺麗な瞳をしたお姫様に私は恋をした。
叶わないと思っていた夢が彼女の手によって道は開かれた。
そのことで私はもうずっとこの方から離れはしまいと心に誓ったのだ。
「メルル、大好きです!!」
「ケ、ケイナ!?」
私は不意打ち気味にメルルに飛びついて驚くメルルにこの言葉を浴びせてから
強く、強く抱きしめた。それをメルルも優しく抱き返してくれたのだった。
それからお姫様ではなくなったメルルの旅に私はもっとも頼れる存在として
メルルと一緒に前線に立っていた。武器も薬箱から斧になって、メルルも最初は
驚いていたっけ。
「今日はこの辺でいいかな」
「そうですね、魔物の方からメルルを見ると恐れをなして逃げていきますし」
「ちょっと、私が化け物みたいな言い方しないでよ!」
「そんなこと言ってません。メルルは可愛いです」
「くっ、不意打ちにそんな嬉しいこと言ってくれちゃって」
「だから、これが終わったら今日はもう休みましょう?」
私の休むには他の意味も含まれていることをメルルは真っ先に気づいて顔を赤くした。
手を口元に運んで少し恥ずかしそうに呟く。
「今日はケイナ主導権なんだよね・・・」
「えぇ、可愛い声聞かせてね」
「うぅ・・・何だかケイナにしてもらうと、いつまでも慣れないんだよね。なんか
照れくさいというか、恥ずかしいというか」
「ふふっそんなこと言ってもダメですよ。今日はメルルを良い声で鳴かせてみせます!」
「うわーん、そんなことに気合いれなくてもいいってばー!」
「ダメですよ、大切な営みをそんなこと呼ばわりでは。メルルがその気にならないって
言うなら――――」
「わわっ」
少なめに採取していたメルルをお姫様抱っこして、残りの籠や武器を背負って私は
走り出した。二人の家に向かって、昔夢にまで見ていたことが現実になってから
というもの、私は毎日が楽しくて仕方なかった。
そりゃたまにはケンカもするけれど、他愛のない言い合いだったりして
すぐに仲直りもする。その時はいつもメルルから謝ってくるけど。
そんな幸せな毎日が詰まっている家へ向かう途中、綺麗な澄み渡った青空の下で
メルルが高らかに叫んだ。
「もう、こっちの方が数倍恥ずかしいよーーーー!!!」
その言葉が木霊し、周辺にいた動物たちが驚き私達を見つめていた。それはまるで
自然にも祝福されているようでむず痒かった。私達はこうして、本当の意味で
幸せを手に入れたのでした。
終
説明 | ||
ケイナ×メルル?な百合っぽいのを目指した話です。 めっちゃ強くなったメルル となかなか一緒に旅できないケイナの モヤッとした所から始まります。 普通にゲームやってると、 もうケイナが奥さんすぎてメルルの相手は他に 当てはまらない状態になってしまいましたww もし楽しんでもらえれば 幸いですv |
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