魔法少女さや☆マギカ4 護る物(前)
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護る物(前)

 

 

 

 

 

 

 「ごめんっ、サヤ数学の宿題見せてっ!!!!」

 「自分でやりなさいよ、そんなんだと受験で苦労するんだからね」

 

 彼女の名前は野中杏子(のなかあんず)、男勝りでスポーツ万能、ただ頭は少し弱い、いわゆる『アホの子』だ。

 

 かつての自分を見ているようで、沙弥は少し寒気を覚える。彼女の世界を壊さないためにも、彼女と仲良くしてはまずい。の、だが……

 

 「そっか〜、そうだよなぁ。悪い、自分でもう少し考えてみるわ」

 

 再び自分の問題プリントに目を向け計算をし出す杏子。彼女はほとんど自分でやっていて、いくつか分からない部分を見たかったらしい。

 

 思えば、最初から全部写す気満々だった自分とは大違いだ。

 

 「……ほら、ちゃんと解き方も読んでおいて」

 「さっすがサヤっ、オレに出来ないことを平然とやってのけるっ!!!!!」

 

 満面の笑みを漏らす杏子。思えば巴マユも、こんな事を思いながらも楽しく自分と居てくれたのだろうかと考えてしまう。

 

 なんやかんやで自分も、彼女を突き放せないでいた。

 

 「てか何なのさっきの台詞。どっかで聞いたことあるんだけど」

 「母ちゃんの部屋にあった漫画に書いてた」

 「母ちゃんって……勝手に読んでいいもんなの?」

 「いいさ……母ちゃん、居ないし」

 

 彼女の母親は彼女を産んですぐになくなったらしい。野中杏子(のなかきょうこ)、旧姓佐倉杏子は死ぬ前に自分の名前から漢字だけを取り出し娘に託したのだとか。

 

 佐倉杏子……どこかで聞いたことのある名前だとも思いながら、それは思い出すことが出来なかった。

 

 「あ、ここ間違ってるぜ」

 「え、嘘っ!!!!??」

 

 

 「あれ、今帰りか?」

 「ああ、うん……部活終わったし」

 「じゃあオレも一緒に帰るっ」

 

 もう大分日も落ちていた夜時、玄関のげた箱で沙弥は杏子に出会った。別段用事はなかったのだが、自分も相手も互いの家がどこかなど知らないはずだし、自分だって教えていなければ聞いてもいない。

 

 「部活やって腹減ったしさ、おごるからコンビニ飯付き合ってくれよ。今朝のお礼もかねて」

 「コンビニ飯……別に良いけど」

 

 よっしゃっ、と胸の前で小さくガッツポーズをする杏子。沙弥もかなり腹が減っていたのでコンビニには立ち寄るつもりだったが彼女と同席とは思いも寄らなかった。

 

 何だか自分はとても無理をしているのではないかと感じる。彼女を突き放そうとも出来ず、かといって心を開いて歩み寄ることも出来ないでいたのだから。

 

 近くのコンビニで行われていた『春の祭典フェア』に便乗し、杏子は明太子のおにぎり、沙弥はツナマヨのおにぎりを選んだ。

 

 「あっ、おにぎり温めて下さい」

 「おにぎりって温めるもんなの?」

 「だってあっためたほうが美味いじゃん」

 

 ただそれだけの理由だった。別に店員も静かにレンジに放り込んでチンしてくれる。

 

 杏子はお金を払って袋を受け取り、少しまだ肌寒いコンビニの外に出て、薄暗い夕闇の中沙弥におにぎりを手渡す。

 

 「はむっ……うん、うまいっ!!!!」

 「ほんとだ……美味しい」

 「なっ??」

 

 ご飯粒をつけた口元、八重歯をこぼして微笑む彼女が妙に愛くるしかった。

 

 「いや、素直に参りました杏子さん」

 「いやいや、よいのだよサヤ……」

 「久しぶりだね、上条沙弥」

 

 空気が緊縛する。それは沙弥だけが感じているのか特に杏子が何かを感じている様子はない。

 

 「キュゥ、べえ……」

 「なんだ、こいつ。妙に可愛いかっこして……」

 「そいつに触らないで!!!!」

 「久々あったっていうのに、つれないね上条沙弥」

 「お、こいつ喋るのか。おおそうかそうか、よく人間の言葉を覚えたな〜」

 

 いまいち状況の読めていない杏子に一から説明するのはこの場では難しかった。

 

 「時にそこの赤い髪をポニーテールにまとめた彼女、名前は?」

 「あ、オレは野中杏子。上条沙弥のお友達です」

 「そうか、じゃあ野中杏子……君は何か叶えたい願い事はないかい?」

 

 

 キュゥべえの目がぎらりと輝いたような気がした。彼の言わんとするところは沙弥には痛いほどよく分かる。

 

 「願い事か? そりゃあ色々あるけどなぁ……とりあえず、もっとスタイルのいい女の子になりたいぜ」

 「杏子……そいつの言葉に耳を貸しちゃ駄目」

 「何をそんなに動じているんだい上条沙弥」

 「そうだぜ、折角こんな可愛い小動物がオレに質問してくれてるってのに……」

 「杏子」

 

 沙弥は杏子の両肩を手でがしっと掴む。しっかり相手の目を見て……強く言い放った。

 

 「答えて杏子。理由は今はちゃんと言えないけど……私と、この動物と、片方だけ信じるなら、どっちを信じる?」

 「決まってんじゃん、サヤを信じるさ……っくしゅい!!!」

 

 くしゃみでのけぞる杏子、彼女が強く自分の方をとってくれたことが沙弥にとってはとても喜ばしいことだった。

 

 「ありがとう……これから先、こいつが何を言ってきても、一切耳にしちゃ駄目だからね」

 「あ、ああ……分かったよ」

 「へぇ……野中杏子、また近いうちに来るよ」

 

 キュゥべえはきびすを返すと夜の茂みの中へ消えていった。沙弥の緊張が解ける。

 

 「さて……帰るか。サヤんちどっち?」

 「ああ、こっから右」

 「オレんち左ってか、すぐそこのあの白い家なんだよね、そいじゃまた」

 

 沙弥にばいばいと手を振りそのまま駆けだしていく。いつだって彼女は元気で、その元気を周りにもくれる。

 

 (ごめんね、杏子……)

 

 胸の奥では大事に思っていても、魔法や戦いから遠ざけるためには有無を言わせぬ断定的な発言が必要になってくる。それが、少しだけ申し訳なかった。

説明
サブタイは別に誤変換ではありません、本編を知っている人は分かってもらえるはずです。
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魔法少女 魔法少女まどか☆マギカ 二次創作 美樹さやか 巴マミ 佐倉杏子 的な何か 

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