愛しい嘘つき。
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どうしようもないことを

 

どうしようもないのだと言われるのが嫌いだ。

 

そんなことはもちろんわかっているのだし。

 

あえて突きつけられたところで

 

何も変わらないだから。

 

そんなことを言われた日は私の気分は最悪となり

 

歩いていた猫のちょっと手前で大きな足音を立てて追い払ったし

 

自転車のドミノ倒しをした学生を横目に知らん顔で通り過ぎた。

 

鳴り続ける携帯電話の着信音もなんて不愉快なんだろう。

 

自分で設定したはずの軽快なリズムはますます私を不愉快にするばかりだった。

 

突然に流行のメロディが途切れる。

 

メールの着信音から電話の着信音へと切り替わる。

 

少し耳から話してボタンを押した。

 

「ねえ、壊れたものは戻らないけど。同じものは作れるよ。」

 

あれが最高の出来だった

 

あの瞬間しか出来ないものだった。

 

「君が戻ってこないなら、もうすぐ僕が作り上げるよ?」

 

出来るはずがない。

 

だいたい電話の向こうの男はとてもじゃないが不器用で

 

図画工作の成績ですら地すべりしてたような男だ。

 

「ほら、なんだったら僕はあれを見落としがちな細かい部分まで再現して伝えて見せるよ?」

 

そんなの嘘だ。出来たところで小学生以下の粘土細工

 

「あの大きな翼の中に一枚だけ傷のついた羽がある。」

 

嘘だ嘘だ。

 

「左側から数えて…」

 

彼は淡々と語る。まるで見えてるかのように。

 

ついさっき、アホみたいな教授が老いた足を躓かせて倒して台無しにした大きな天使像。

 

最高の出来だった

 

最高の作品になるはずだった。

 

「帰るわ」

 

戻るわ、わかってるあれ以上のものを作ればいいってこと。

 

それが出来なきゃもう辞めるしかないってこと。

 

だけれどそんなこと言われたって慰めにはならないわ。

 

「うん、待ってる。」

 

私は歩みを止めて、踵を返す。

 

途中まだ立て直してるだろう学生を手伝って。

 

あの猫に小さなにぼしを差し入れて

 

そしてもしかしたら彼と一緒に待っているかもしれない

 

私の天使と同じキズのついた小さな小さな不恰好な天使のことを想って。

 

 

説明
嘘つきな彼に感じること。
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嘘つき オリジナル 真実 

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