北郷一刀の奮闘記 プロローグ |
目を覚ますと見知らぬ部屋だった。
ベットから上体を起こし、辺りを見回す。
大きく開いた窓にはカーテンはなく、オレンジ色の光が差し込んでいた。
自身が身を預けているものに加え、無人の寝台が三つほど、部屋の隅には簡素な机が一つ。
机には竹で作られた巻物のようなもの、確か竹簡と言ったはずだ、がいくつか積まれていた。
壁に備えられている棚にはよく分からない植物だとか木の実だとかが収められており、不気味な雰囲気を醸し出している。
同じく壁には燭台が置かれ、夕暮れに染まる部屋の中で火が灯されるのを今か今かと待ち侘びているようである。
見回せば見回すほど自分のいる場所が分からない。
今時、竹間を使う所などはないだろうし、燭台を使う所も現代日本ではそうそうお目にかかれない。
ましてや、その二つを使うとなると尚更である。
とりあえず分かったことと言えば、全く知らない場所だと言うことだけだ。
ただ、ほんの僅かではあるが、所々に見覚えがあるようにも感じられる。
室内に漂う雰囲気が、学校には欠かせない保健室に何処となく似ているのだ。
しかし、自分が通う聖フランチェスカ学園の保健室とは全く異なっており、どちらかと言うと、小学校の保健室を彷彿とさせるような古めかしさである。
楽しくも短い、正しく矢のような六年間を過ごした学舎は、田舎の学校らしく寂れてはいたものの、もう少し近代的ではあった。
少なくとも、照明器具は燭台などに頼っていなかったはずである。
さて、どうしたものか
人とは意外と頑丈な生物らしい。
全く予想だにしない事態でも頭の方は徐々に回転を速めていってくれている。
こうした順応の早さというのも、人間という種が様々な外敵や自然の脅威に見舞われながらも、驚異的な発展を遂げた一因なのかも知れない。
考える葦とはよく言ったものだ。
ならば、現在、自分が持ち得る唯一の武器を放棄するのは愚の骨頂というものだろう。
取り敢えずではあるが、差し迫っての命の危機はなさそうである。
少なくとも、寝台に横たわらせてくれる位には、自分の扱いについて丁寧であるはずだ。
何が有るのかも分からない外を無闇矢鱈に歩きまわるよりかは、此処で事態の収拾を図る方が得策であろう。
見回した室内の様子は。やはり保健室のようである。
しかし、仮にここが保健室だとしても、自分がお世話になる理由など皆目見当がつかない。
一体、どのような過程を辿れば全く知らない部屋に寝ていることになるのだろうか。
急に倒れるような病は患っていないはずなので、病気といった線は考えにくい。
ならば事故にあったとも考えられるが、五体は満足であり、痛みを感じるような所もない。
感じられるのは長時間寝た後のような気怠さであって、事実、長い間目覚めなかったせいなのであろう。
窓からの景色は庭を映しているようで、大きな木が何本かと小さな東屋を見ることができる。
樹木の葉が生い茂っているのを見るに季節は初夏といったところだろうか。
だが、自身の記憶では、今は十一月のはずである。
流石に半年近くも眠っていたとは考えにくい。気怠さはあっても体を動かせない程ではない。
国外、それこそ地球の裏側にまで飛ばされでもしたと考えなければ、季節と記憶の折り合いがつかなそうだ。
この相違は、自身の状態を知る重要な要素となる可能性があるが、分からないものに時間を割く余裕はない。
とりあえず、次は、目についた机を調べてみることにする。
机とは多くの情報を持つものである。
卓上の物を見れば、持ち主が大雑把なのか整理整頓ができるのかを知ることができるし、机の用途に関しても凡その推測がたてられる。
例えば、仕事関係なのか、学習目的なのかである。
さらに、机の上の書物、今回は竹簡ではあるが、それを紐解けば職種や身につけようとしている教養を窺い知ることができる。
さっそく、竹簡をカラコロと広げてみたはいいが、内容に関しては全く分からなかった。
広げた先にはびっしりと漢字の羅列されており、中には見知った文字も見受けられるが文章としての意味を見出すことはできない。
おそらく中国語であろう言語で書かれた書物を読み解くことなど、一介の日本人学生である北郷一刀には無理だった。
全く以て分からないことだらけである。
中国語のような文字でありながらも、季節は日本とかけ離れている。
紙や蛍光灯が多く出回るこの世の中で竹簡と燭台が使用されている。
その燭台もそろそろ明かりを灯さねば存在価値を失ってしまう。
細く伸びていたはずの影は、周りの影と同化し、その姿を暗がりの中に隠しつつある。
それが何とも心細く感じられた。
本当に自分はどこにいるのだろうか。
これ以上は得られそうな情報はなく、意を決して外へと踏み出そうかとしている所に声がかかった。
女性の声である。
長いこと聞くことのなかった人の声に懐かしさを感じ、
「目が覚めたようですね。」
と居場所も分からぬ自身の耳に届いた日本語は、まるで救いをもたらす福音の如く響いた。
数多の外史に天の御遣いと降り立った北郷一刀。
その中の一つの、始まりの日のことである。
この外史の行方は誰も知らない。
北郷一刀の奮闘記 プロローグ 見知らぬ、天井 了
〈あとがき〉
二次創作をやるなら続きものをやりたい、と思い作り出した作品です。
まだまだ、構想中なので色々と修正が加わったりしていきますが、生暖かな目で見守って頂けたら幸いです。
更新は最低でも月一を目安にやっていきたいと思います。
最後になりますが、やたらと堅苦しく、シリアスっぽい感じで始まってるプロローグですが、基本的に私の他の作品同様ギャグっぽい路線でいくつもりです。
さらに、一刀君は内政や軍隊に殆ど関わらずに庶民として生きていくことになると思いますのでよろしくお願いします。
説明 | ||
できれば続きものを、と思い書いたものです。 最低でも月一での更新を目安にしたいと思います。 |
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