入り混じったマコト
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 二人の男子生徒が帰路を辿っている。一人は長身痩躯で眼鏡をかけている。一人は中肉中背で制服を着崩している。傍から見ても普通の光景だ。中肉中背の男はもう一方の男に話しかけている。

「最近物騒になったよな。この前も被害にあった人の家族をニュースで報道してたぜ。昨日お前が休んだときも、まさかなんて思っちったよ。場所も結構ここから近かったしな。でももう捕まったんだよな。これで安心ってもんよ」

「ああ、あの連続通り魔か。まあ安心しろって俺は生きてるし」

「死んでたらこんな話振れないっての。というか話すこともできないじゃねえか」

 二人の男は軽く笑いあった。眼鏡の男は少し間を溜めてから喋りだす。

「ところで話は変わるが」

「なんの話だよ」

「去年の事件のこと知ってるか」

「そりゃもちろん。知らないやつなんていないだろ。ちょうど一年前のことだしな」

「まあそうだよな。それでさ、あの事件の概要ってただの自殺で終わってるだろう」

「そうだな。なのに今年もまた行くんだったよな」

「ああ。普通なら自粛するものだと思うがな。うちの教師の考えることはよくわからんさ」

「んで、その事件がなんだって?」

「実はな、あれは自殺なんかじゃないみたいなんだ」

「初耳だな」

「だろう。俺もそんなわけあるかって思ったよ」

「なんか理由とか、根拠とかあるわけね」

「俺の姉が証人さ」

「お前姉さんいたんかよ。知らなかったぞ」

「言ってないからな。あっちも言うなって脅してたからな」

「いま言ってよかったわけ」

「いいんだよ。そうしないと説明できないしな」

「ならいいけどよ。それで実際はなにがあったわけよ」

「結論から言っちまえば簡単さ。自殺なんかじゃなくて他殺だったわけよ」

「大体想像はしてたわ。でも世間でも自殺ってことになってるぜ。話が大事だっただけにな」

「まあ仕方ないだろ。東京タワーから修学旅行中の生徒が飛び降りたんだ。話題になるのは当然だ。でも報道されたのが全部正しいってわけじゃないんだよ。見えている部分だけに真実があるわけじゃないんだ。色々と入り混じってから報道されているわけよ」

「随分と核心をついたっていうか、物事の本質を知ったように言うんだな」

「茶化すなよ。まあ話すぞ」

「悪い悪いって、続き頼むよ」

「あの事件の概要を話そう。今から約一年前の修学旅行でのことだ。うちの先輩方は東京タワーに行ったわけだ。それで当然のように展望台のとこに行く。そこで、一人の女生徒がひっそりと窓を割って落ちた」

「確かにそういう事件って聞いてるな」

「真実もこれと全く同じだ」

「はあ? お前言っていること違うじゃないか」

「続きがあるんだよ。続きが」

「ならそれも話しちまえよ。じれったいな」

「俺はそう安々と話すのは好きじゃないんだよ。話し癖さ。まあ続きを言おう。その女生徒が自殺を起こした原因ってのがやっぱりあったんだよ」

「それは随分と調べられたらしいな。結果はなんだったっけ」

「一般的には、勉強のストレスってされてるな。遺書にもそう書いてあったらしい」

「聞けば聞くほど、どこも間違ってないように思えるな」

「そうか? これを聞けば納得すると思うぜ。その女生徒はいじめに遭っていたんだよ」

「ああ、なるほどな。合点がいったよ」

「それに耐えかねて自殺したわけだ。結果的に他殺だろう」

「そうだな。でもよ、直接的に危害を加えたのが誰かわからないようじゃ、他殺って断定できないんじゃねえの。お前だったらそう考えると思ってたけど」

「よく分かってるな。けど俺を知ったような口ぶりをするのはまだまださ。いじめていたのが集団とは言ってないぜ」

「単独でいじめてた奴がいたのかよ。陰湿なやつだなあ」

「そいつが直接的に彼女に自殺するように要求したんだ」

「そいつは筋金入りの悪だな。悪鬼だな」

「俺も信じたくなかったさ」

「で、そいつは誰なのか知ってるのか」

「知ってる」

「まじか。知らないと思って聞いたんだぜ今の」

「だろうな。俺も知りたくなかったさ」

「それで誰なんだ?」

「その修学旅行に同行した人物さ」

「おいおい、じれったいな」

「さっきも言っただろう。これはそういう癖さ」

「次はフルネームで頼むぜ。俺が知ってる先輩かもしれないしな」

「お前は知らないと思うぞ」

「なんだ。残念だな。いや喜ぶべきところか。知り合いじゃないってことは」

「そうだな」

「で、結局誰なんだよ」

「じゃあ言うぞ」

 眼鏡を掛けた男はじっくりと間を溜める。次の台詞を間違えないように。このことを忘れないように。

 

「女生徒を自殺にまで追いやった犯人は、この世の悪鬼とも呼べる人間は――俺の姉だ」

 

説明
 お題は、東京タワー、真実、交錯。
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