黒髪の勇者 第二十八話
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黒髪の勇者 第二章 海賊(パート18)

 

 アウストリアの魔術は事前の予告通り、海賊船からの必死の砲撃をその魔術によってことごとく海面へと叩き落として行った。連続して襲いかかる砲弾を物ともせず、シャルロッテが走る。アウストリアの魔術に導かれて、ただ一直線に。その名前の通り、海を愛する少女が、海の平和を荒す者たちに制裁を加えるように。

 『こちらビックス。』

 海賊からの砲撃が開始して三十分程度が経過したころ、伝令管を通じてビックスの落ち着いた声が響き渡った。そのまま、普段の口調からは信じられないほどに凛とした声で続ける。

 『間もなく本船は海賊船への強襲接舷を仕掛ける。全員、左舷甲板に集合せよ!』

 その言葉を耳に納めて、詩音はアウストリアに軽く会釈をすると、船首から左舷甲板へと向けて走り出した。海賊船は既に肉眼でもはっきりと分かるほどに近付いてきている。魔術で気勢を削がれたとは言え、それでもチョルル港襲撃で気が立っている海賊たちは単純な戦闘を選択したのだろう。

 「シオン、こいつの使い方は分かるかのう?」

 左舷甲板に到達した詩音に向かって、オーエンが長い筒状の物体を放り投げた。木製で作られたその物体について、知識だけは詩音も有していた。

 マスケット銃である。

 「使ったことはありませんが・・。」

 銃を受け取り、全体を眺め回しながら詩音はそう答えた。

 「何、大砲と使い方は一緒じゃ。銃口から弾込めして、引き金を引けばいい。勝手に発砲するからのう。」

 オーエンのその言葉に、詩音は軽く頷いた。少なくともマスケット銃は火縄銃ほどには発砲準備が複雑ではない。続けてオーエンから手渡された鉛玉と火薬を、見よう見真似で銃口に押し込んでいく。長い棒を銃口から差し入れて、反発が来るまで鉛玉を押し込めた詩音は、緊張した表情のままで銃を構えてみせた。

 「準備はよいか?」

 突撃隊の指揮を執るのはビックスらしい。確かビックスは、若いころは王都で軍を率いていたのだったか。堂々としたその態度に感服しながら、詩音は他の百名程度のメンバーと同じように強く頷いた。

 「ビックス殿、無理はなされぬように。」

 苦笑しながらそう言ったのはグレイスである。操舵は別の人間に任せて、自らで前線に立つつもりらしい。

 「ふん、まだ若造には負ける気がせんわ。」

 グレイスに向かって、鼻を鳴らしながらビックスが答える。

 『準備は整ったかね?』

 やがて、伝令管からアウストリアの声が響いた。

 「はい、全て整っております、公爵様。」

 代表して、ビックスがそう答えた。

 『宜しい。では、私の魔術で一度敵の甲板を洗う。その隙に敵船に乗り込んでくれ。私もすぐにそちらに行く。』

 「畏まりました、公爵様。」

 ビックスがそう言った瞬間、シャルロッテの前面にそそり立っていた海水の壁が唐突に力を失ったように、その威力を失わせた。

 その先にはもう手と鼻の先にまで近付いた海賊船の側舷が見える。高さはシャルロッテよりも数メートル長い。全長も一回り以上大きいだろう。

 「やはり、フリゲート艦だったか。」

 その姿を見つめて、グレイスはひょう、と口笛を吹きながらそう言った。その間にも、シャルロッテと海賊船の距離はみるみる内に縮まってゆく。

 やがて海賊船の甲板に立つ人間の表情まで区別出来るほどに近づいた時、海賊どもがマスケット銃をシャルロッテにむけて構えた。そして、その指を引き金に掛けた時。

 再び、海面が盛り上がった。アウストリアがもう一度魔術を発動させたのである。

 だが、今度の魔術は先程の魔術に似ているようで、全く異なったものであった。まるで暴風雨に遭遇したような勢いで盛り上がった波はただ直立するだけでは収まらなかった。質量を増加させた海水はそのまま、海賊船へと向けて襲いかかったのである。

 空しく響いたマスケット銃は、アウストリアが作り出した海水の流れにその威力を即座に失うことになった。続けて、甲板に立っている海賊どもをそのままの勢いで薙ぎ払ってゆく。

 阿鼻叫喚の絶叫が響き渡り、やがて海水が鎮まる頃には、海賊船の右舷甲板に人の姿は一切見当たらなかった。ある者は反対側の左舷甲板に叩きつけられ、不運な者は海水の勢いに負けて反対側から海面へと落下して行ったのである。

 「よし、投げ縄を投げろ!海賊船に接舷する!」

 そのタイミングでビックスがそう叫んだ。それに合わせて、シャルロッテの船員たちが一斉に鍵縄を海賊船目掛けて放り投げる。無人となった甲板に鍵縄をかけることは容易いことで、すぐに合計五つの縄が海賊船から吊り下げられた。そのまま、シャルロッテが海賊船へと並行に体当たりを仕掛けた。砲台の発砲を防ぐ為だ。

 どん、と重い衝突音を響かせて接舷したシャルロッテから飛び出したのはビックスである。

 流石歴戦の勇士と言わせんばかりの勢いで縄を掴んだビックスはそのまま、海賊船の側舷を足場にしながらするするとその体を上昇させてゆく。続けてオーエンが、そしてグレイスが続いた。

 無論、他の船員たちとともに、詩音も鍵縄に手をかけている。

 「ふざけんな!」

 なんとか生き残ったらしい海賊が、鍵縄へ向けて手斧を振り上げた。だが、その動きよりも早く、ビックスが片手に掴んだマスケット銃を海賊目掛けて発砲する。

 が、と蛙がつぶれたような声をあげて、海賊が海面へと落下していった。その胸には、すっぽりと空いた銃痕が残っている。

 「後方、援護頼む!」

 打ち終えたマスケット銃をシャルロッテへと放り投げながら、ビックスがそう言った。続けて現れた海賊はオーエンが、そしてグレイスが放ったマスケット銃の餌食となり、例にもれず海面へと空しく落下して行った。まだシャルロッテの甲板に残っている船員からは連続した射撃が開始されている。潮の香りに混じり、焦げくさい硝煙の香りが周囲を包んだ。

 そして詩音も、先程弾込めをしたマスケット銃を海賊目掛けて打った。海賊の右腕から紅い液体が噴出する。手から離した手斧が甲板の上に転がったと詩音が認識した直後、その海賊はビックスが突き上げた槍の餌食となった。

 「ビックス、一番乗りじゃ!」

 串刺しにした海賊を無造作に振り切ると、甲板の上に立ったビックスがそう叫んだ。

 「儂は二番手じゃのう。」

 続けてオーエンがそう言いながら、背中のバトルアックスを両手に掴んだ。グレイスもシミターを抜き放っている。

 そして詩音も、甲板へと到達した。シャルロッテよりも一回り以上巨大な甲板には、合計百名程度の海賊。

 「うむ、全員纏めて相手してやろう!」

 ビックスがそう叫び、短めに持った槍を最短距離で海賊に突き刺した。本来ビックスは長槍使いではあるが、船内の戦闘ということで小回りの利く短槍をあえて選択したのである。一人を突き刺してビックスは、続けて手斧を振り上げた海賊に向けてもう一度槍を突き出した。

 その背後では、オーエンが力任せにバトルアックスを振り回している。戦斧術とは形だけのもの、ただ怪力に任せて大斧を振り回しているだけという様子ではあったが、オーエンの怪力に重量を持った斧が加わって並みの人間が防ぎきれるはずもない。通常の武器ならば押さえ切れるような単純な攻撃だが、ドワーフの怪力の前にはたとえ鋼鉄の盾であっても、まるで紙切れのような薄っぺらい存在にしかならなかったであろう。

 「シオン、行くぞ!」

 続けて、グレイスがそう言った。シミターを振り回し、見事に鍛えられた肉体で海賊を袈裟に切り裂いた。そのまま海賊が血の海へと叩き落とされていく。

 そして、詩音は。

 迫る海賊に対して、冷静に太刀を構えた。相手の装備はシミター。真正面から振り下ろされた刃を軽く受け流しながら、詩音は唇を噛みしめた。

 覚悟しろ、詩音。

 そうして、詩音は太刀を振るった。唐竹に一文字、直線に斬る。脳天に叩きつけられた刃はそのまま海賊の頭蓋を見事に切断した。

 ごつり、と骨を砕く嫌な感覚が詩音の手元に響き、返り血が詩音を襲った。視界が紅に染まったことを自覚しながら、詩音はもう一度唇を噛んだ。

 一人、殺した。

 それはとても、そう、自分が傷つくよりも嫌な感覚だった。だが、そうしなければいけなかった。

 「後悔と贖罪は、後ですればいい。」

 先程ビックスに言われた言葉を小さく呟いた詩音は、そのまま別の海賊へと向けて駈け出した。

 一度一線を踏み越えてしまえば、後はどうにも感じない。

 シミターを中腰に構えた別の海賊と向き合いながら、詩音は思わずそう考えた。

 間合いを測る詩音に対して、海賊ただ無造作に、シミターを上段に振り上げての突撃を行った。

 一歩、二歩。

 詩音は小さくそう呟くと、海賊にむけて大股に振り込み、そのまま左に太刀を薙いだ。オーエンが自慢するように、恐ろしい切れ味を誇る刃はそのまま海賊の胴を切り裂き、背骨までも砕く。真一文に切り抜けることは出来なかったが、それでも海賊の命を奪うには十分な打撃だった。

 だが、それでも海賊どもの戦意が消えることはない。

 やられたら、やり返す。

 そう言わんばかりに、今度は数に任せて三人の海賊が詩音に向けて刃を構えた。一人はシミター、他の二人は手斧である。

 「流石に、三人一度はきついなぁ。」

 小さく、ぼやくように詩音はそう言った。

 「なら、手を貸そうか。」

 いつの間に甲板へと到着していたものか、戦闘時とは思えない程度に気楽な口調でシアールがそう言った。

 「では、お願いします。」

 詩音がそう言うとシアールは小さく頷き、手前にいた手斧を持った海賊へと襲いかかった。

 詩音が思わず恐怖するほどの速度で海賊との間合いを詰めたシアールは、そのまま左方向へと切り上げる。避ける余裕もなく、手斧を構えたままの恰好で血液を噴出させた海賊が仰向けに倒れた。言葉を失った海賊どもの隙を見逃さず、詩音も一人を屠る。その頃にはシアールが二人目を餌食としていた。

 「凄いですね、シアールさん。」

 瞬く間に二人を倒したシアールの腕に驚きを隠さないままで、詩音はそう言った。

 「話している余裕はないぜ、シオン。」

 その言葉に詩音は改めて太刀を構え直した。違和感を覚えていた太刀の重量バランスにも慣れつつある。

 そして、潮に代わって猛烈に漂いだした、血の匂いにも。

 だが、それを悩んでいる時間は今の詩音には用意されてはいなかった。圧倒的に数で勝る海賊どもは、数人が殺されたところで表情一つ変えず、寧ろ益々戦意を高めている様子で詩音たちに襲いかかってくる。だが、個別に戦ったとして、力だけで押そうとする海賊どもが詩音たちに敵う訳もない。

 特にオーエンとビックス、この二人の力は際立っていた。オーエンが怪力に任せて大斧を振るうだけで、海賊どもが三人は一度に死ぬか、運が良くて重傷を負った。まるで岩石のような重量を持つ大斧を、まるで木の枝を持っているかのように軽々しく振り回すオーエンに太刀打ちできる人間がいるはずもない。オーエンの前では、勇者であってもただの赤子、真上から叩き下ろされるバトルアックスの存在に気付いた瞬間には文字通り肉の塊へと変化させられているのである。

 一方でビックスは、幾多の戦場で鍛え上げられた槍術をこの場においても如何無く発揮していた。元々ビックスは剣術は不得意とされている。だが、眼孔を射抜くほどの腕前と呼ばれたビックスの槍術に、訓練もまともに受けていない海賊が敵う訳もない。シミターで斬りつけられたとしても、その槍に防ぎ止められ、次の瞬間には細かな弧を描く槍にその心臓を撃ち抜かれているのである。

 「てめぇら、勝手に戦うな!敵の数は少ねぇんだ、包囲しろ!」

 やがて、船尾の方向から一人の男がそう声を上げた。その両手にはシミターよりもより短い刀を掴んでいる。どうやら両刀使いらしい。

 詩音がちらりと視線を向けてそう考えた時、海賊どもは統制のとれていない動きで、それでも詩音たちを包囲しようと陣形を整えてくる。

 「どうやら、あやつが頭領のようじゃな。」

 白髪まで鮮血に染めたビックスがそう言った。

 「包囲されると少しやっかいじゃのう。」

 続けて、オーエンがそう答える。

 「なら、今のうちに突破しましょう。」

 最後に、グレイスがそう答えた。未だ包囲網を完成させていない海賊に向かって、三人が駆ける。先手を打ったのはオーエンであった。無造作に、まるで赤子の手を捻るような軽々しさで、バトルアックスを横に薙ぐ。包囲の為に一か所に固まっていた海賊たちは、まるで馬車に衝突したかのように吹き飛ばされ、空を舞った。ごつり、と重く鈍い音が響く。それだけで包囲網の一角を崩したオーエンに続いて、グレイスがシミターを振り下ろした。オーエンの攻撃に戦意を喪失した海賊の頭蓋が割れ、つぶれたような声を漏らした。

 「お前ら、どいつもこいつも使えねぇな!」

 頭領がそう叫んだ。そのまま、両手の短刀を振り回しながらビックスに襲いかかる。右からの刃を上空に掲げた槍で抑えたビックスは、連続して左上空から襲う短刀を避けるためにそのまま一歩後退した。

 「逃がさねぇよ!」

 続けて、頭領がそう叫んだ。だが、それよりも早く詩音が太刀を振り下ろす。二つの刃を交錯して防いだ頭領は次の瞬間に常人の胴周りはあるだろう右足を詩音目掛けて振り上げた。それを後ろ跳びに避けながら詩音は太刀を正眼に構え直した。

 「フランソワはどこだ。」

 間合いを取りながら、詩音はそう訊ねた。

 「フランソワ?」

 怪訝な表情をした頭領に向かって、詩音は更なる追求を続ける。

 「お前達がさらっていった少女のことだ。」

 「ああ、あいつらか。あいつらなら牢にいれてあるぜ。

  なんだ、お前たちはあいつらを助けに来たってことか。

  ま、俺に勝てれば、だがな!」

 頭領はそう言うと、両手の短刀を腰に当てて、重量で押す様に詩音に向かって跳びかかる。伸びる右腕に光る刃を太刀ではじき返す。続けて左。

 試合とは全く異なる緊迫感の中で、詩音は冷静に両手から複雑に繰り広げられる太刀筋を見極めていた。少しでも見極めを間違えれば、失うものは自分の命だ。

 自らに言い聞かせるように詩音はそう考える。間合いが近すぎる。太刀の長さはおよそ一ヤルクと少し。対して相手の短刀は半ヤルクと少しの長さしかないだろう。短い刀を両手に、自慢の体格を生かした体術で責める。

 試合だと、同じ武器だからな。

 詩音は何度目かの攻撃を太刀で弾きながら、そう考えた。もう少し、間合いが欲しい。そう考えて数歩下がる。だが、それよりも早く頭領の刃が襲いかかってくる。自分の勝負をさせてくれない。

 このままだと、まずい。

 詩音はそう考えた。体力は明らかに相手の方が上だ。第一、片手に持った短刀とは思えないほどの衝撃がいちいち、刃を受け止めるたびに詩音の両手に響き渡ってくる。

 「シオン、間合いを気にし過ぎるな!お前の剣術は教科書通りで面白くねぇ!多少は傷ついても死にやしねぇんだからよ!」

 唐突に、シアールの声が響いた。視界の端に海賊を切り裂いたばかりのシアールの姿が映る。

 よくまぁ、戦いながら自分のことを見ていられるもんだ。

 ほんの少し呆れるように考えた詩音は、頭領が短刀を振り降ろした瞬間に頭領に向かって飛び込んだ。襲いかかる刃をはじき返した直後、右肩に刺さる痛みを感じる。二本目の刃が詩音の右肩を切ったのである。

 だけど、それよりも。

 詩音はそのまま、太刀を短く構えて頭領の胴にそれを突き刺した。そのまま、横に薙ぐ。切り裂かれた腹から血液と、贓物がこぼれ出したことを見ながら、詩音は抜ききった刃を返した。体中に振りかかる血液をものともせず、詩音は目の前にあった頭領の左腕目掛けて太刀を振り上げた。丁度腱の位置、肘の部分をそのまま斬り飛ばす。そのまま頭領の背後に回った詩音は、体制を戻すと、片腕となった怒りに任せるままに振りかえった頭領の胸元目掛けて、その刃を突き立てた。辞世の言葉を述べる間もなく、頭領はどう、と仰向けに倒れて絶命した。

 その様子を見て、海賊どもは漸くその戦意を喪失したらしい。一部の海賊が小舟に乗って逃亡していったが、大半は詩音たちによって捕縛される事になったのである。

 

 

 何が起こっているのだろう。

 船倉に押し込められたフランソワは、先程から続く砲撃と阿鼻叫喚の声に耳をそばだてながら、そのような事を考えた。周りの女性たちは明らかな戦いの音に恐怖し、既に失神している人間もいる。

 戦いの音が収まってから、もう十分くらい経つけれど。

 そう考えながら、フランソワは懐中時計を何となく眺めた。

 内輪揉めだろうか。フランソワがそう考えた時。

 船倉へと下りてくる、少し疲れたような足音がフランソワの耳に届いた。

 誰だろう。そう考えたフランソワに向かって。

 「フランソワ、無事か!」

 船倉の入り口で、疲れ切った、それでも懸命に張りのある声を上げた少年の声が、フランソワの耳に届いた。

 「シオン!」

 思わず立ち上がり、格子に取り付く。足音はすぐに駆け足に代わり、そして。

 待っていた人が、現れた。

 彼はとても安堵したような表情でフランソワを見つめて、それから素早く格子を封じていた南京錠に手をかけた。他の女性陣も、救援が来たと気付き、それぞれに歓声を上げ始めた。

 勿論、来たのは詩音だけではない。ビックスが、グレイスが、オーエンが、そして、アウストリアがその姿を見せた。

 「フランソワ。」

 詩音がそう言いながら、南京錠を解いて格子を開いた。

 他の人にも、お礼を言わなければ。

 頭の片隅でそう考えても、もう想いは止まらない。そのままフランソワは詩音に飛びつき、そのまま抱きしめた。その背中に、詩音の温かい掌が重なる。

 「信じてた、信じてたわ。」

 安堵から溢れる涙を詩音の胸に押しつけながら、フランソワはそう言った。

 「だって、シオンは、勇者様だもの。黒髪の、勇者様だもの。」

 「俺だけの力じゃない。皆がいてくれたから戦えたんだ。だから、俺は、そんな人間じゃないよ。」

 詩音が遠慮するようにそう言った。

 「それに、沢山の人を殺した。俺の身体はもう、返り血で真っ赤だよ。」

 まるで自嘲するように、罪を被るようにそう言った詩音を、フランソワはより強い力で抱きしめた。

 「いいの、それでもいいの。伝説の勇者じゃなくてもいいの。だって、」

 そう言って、フランソワは涙に濡れたままになっている顔を上げた。

 「だってシオンは、私の勇者様だもの・・!」

 

 

 

黒髪の勇者 第一編 ミルドガルド 完

 

 

第二編 王立学校 へと続く。

 

説明
第二十八話です。

これで第一編が終了になります。
来週か、再来週から第二編がスタートします。

ではでは、よろしくお願いします!


黒髪の勇者 第一編 第一話
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