Baskerville FAN-TAIL the 2nd. |
「バンビールさーん。お届け物でーす」
その声が聞こえるが早いか、猛スピードで玄関へ走ってくるグライダ・バンビール。
「ハ、ハンコ。お願いします……」
既にグライダの手にはハンコが握られており、受取証にポン、とハンコを押した。
「……毎度どーもー」
宅配員が荷物を置いて去った。
一秒。
二秒。
三秒。
「……やっと。やっと来た……」
嬉しいのと笑い出しそうなのを無理矢理押さえ込み、すぐ近くの電話に手を伸ばした。
「? おねーサマ、どーしたのかなぁ?」
「さぁね。グライダに聞いて」
その光景の一部始終を見ていた、妹のセリファ・バンビールと同居人(というのはちょっと違うかも知れないのだが)のコーランが言った。
世界で最も不可思議な港町として名高いこのシャーケン。
ここにも、朝はきちんとやってくる。
同時に、面倒な騒動までやってくる。
平穏な日は、一日としてなかった。
この広い町のどこかで、必ず誰かがはた迷惑な騒動を引き起こし、巻き込まれるのだ。
だからこそ、ここへ来れば??どんな職種であれ??仕事にあぶれる事はない、とまで云われている。
それから小一時間ばかりが経ち、彼女の家に、一人の男がやってきた。
「あ、クーパー。いらっしゃい」
略式の神父の礼服を着込んだ優男??オニックス・クーパーブラックが、応対に出たグライダに軽く会釈をし、
「ボクに、何の御用なんですか?」
神父らしく、丁寧な言葉遣いでそう訪ねる。
「待ってたのよ。あたしじゃぜ?んぜんダメでさぁ……」
グライダが続きを話そうとした時、彼女の脇をセリファが通り、クーパーに抱きついた。
「わーい! クーパー。おみやげは?」
期待感の詰まった瞳で抱きついたまま彼を見上げる。
背中にくくりつけられたグライダのぬいぐるみも、じっと彼を見つめる。
すると、彼はニッコリと笑い、
「わかっていますよ。はい。おみやげです」
左手にぶら下げている包みをセリファに見せる。セリファの顔に満面の笑みが浮かび、
「わーい。おみやげおみやげー!」
包みを両手で抱きしめ、小走りに奥へ駆けて行く。
実に、微笑ましい光景である。
「大変ね、クーパーも」
少々同情気味に苦笑したグライダを見て、
「御心配には及びません。ボクが好きでやっている事ですから」
澄ました笑みで答えるクーパーだった。
「あら、オニックス。来たの?」
彼の姿を確認したコーランが声をかける。
「おじゃまします、コーランさん」
コーランに向かって軽く会釈をした後、
「ところで、グライダさん。ボクを呼んだ用事というのは、一体何なのですか?」
「……あ。話し忘れてた」
セリファの乱入で話すのをすっかり忘れていたグライダ。
「ま、とにかくあたしの部屋に来てよ。その方が早いから」
「あ……。そう、ですか」
案内されて、彼女の部屋へ通される。
ガチャッ。
ドアを開けると、そこに一人の男が。
「ああ。やっと来たか、グライダ」
床にあぐらをかいて座り込み、ぶ厚い冊子をのぞき込んだままその男は言った。
グライダは無表情のままその男の胸ぐらをつかみ上げると、押し殺した声で、
「どっから入った? おまえ……」
彼は無言のまま開け放した窓を指さすと、
「……そこは『窓』だ。次からはちゃんとドアからこーいっ!」
胸ぐらをつかみ上げたまま逆の手で彼を殴り飛ばした。
小柄な彼の体は、彼が入ってきた『窓』から外へ飛び出していった。
「……次が、あるのでしょうか。いや。彼の事ですから、ありますね。きっと……」
ポツリと、クーパーが言った。
今度はきちんと『ドア』から入ってきた彼、バーナム・ガラモンドは、持っていたぶ厚い冊子をクーパーに渡した。
「まっさかさまに落ちて、よく無事でしたね、バーナム」
「ダテに、武闘家は名乗ってねーからな。受け身ぐれー簡単簡単」
殴られたショックを毛ほども見せず、バーナムが笑ってみせる。
「……でしたら、殴られずにかわすか避けるかできたのではないですか?」
クーパーは、彼が見ていた冊子をパラパラと眺めながらそう尋ねた。
「……なるほど。このミニコンポのビデオ端子を繋いでほしいわけですか」
「そーなのよ。あたし、こーゆーの弱くってさぁ」
ハッハッハ、と乾いた笑いを浮かべながらグライダが言った。
「弱いくせに、こんなモン買うから……」
「電卓も満足に扱えん機械オンチのあんたにだけは、言われたくなかったわ」
バーナムを見ながら溜め息をつく彼女。
「これはね、レコードとテープとCDとMDを従来よりクリアで迫力あるサウンドで聞けて、テレビと繋げればビデオやLDやDVDだってすっごくきれーに見られるのに、たったのごまんろくせんEM(えむ)とくれば、買わないわけないでしょ?」
取説を見ながら真剣な眼差しで説明するグライダ。
ちなみにEMとはこの世界共通の通貨単位で、日本円に換算して約一円である。
「このテレビと繋げればいいんですか?」
いくつかのビデオ端子を手にしたままクーパーが彼女に尋ねる。
「あ、ちょっと待って。ゲームが出来る様にもしておいて」
そう言ってから、思い出した様に、
「あ。あと、衛星放送のチューナーにも繋げてほしいんだけど……」
と続けた。
「それですと……」
端子をチェックしていたクーパーが彼女にそう言った。
「ビデオ端子が足りませんね……」
「ややっこしいのはヤだから、任せる」
そんなの聞きたくもない、と言わんばかりにグライダが言った。
「そうしますと、買って来なければなりませんね……」
「は?い。セリファがお買いものに行くぅ」
おみやげのお菓子を片手に、セリファがにこやかに手を上げながら言った。
「では、セリファちゃんにお願いしましょう」
クーパーはメモ帳に素早くペンを走らせ、ピッと器用に紙を切り離し、彼女に渡した。
「表通りのオーディオショップへ行って、店員さんにこれを見せるんですよ」
「はーい」
素直に返事をするセリファ。
「……コーラン。立て替えといて、お金」
グライダが彼女の肩を叩いてポツリと言った。
「……自分で出しなさいよ、グライダ」
呆れ顔のまま、コーランが呟いた。
「いいじゃない、それくらい」
「ダメ」
「……ケーチ」
仕方なく、自分の財布からお札を出す。
「はい、セリファ。早く買ってきてね」
「はーい。おねーサマ」
貰ったお札をきちんと四つにたたんでから、首から紐で吊るした財布に入れ、しっかりと口を閉じる。
「じゃあ、行ってきまーす」
グライダに向かってそう言うと、元気よく駆け出していった。
「……クーパーよぉ。てめーで買ってきた方が早くねーか?」
バーナムが、道路の真ん中で転んで泣きそうになっているセリファを窓から見下ろしてボソッと言った。
「セリファちゃんが買ってくる端子がなくても、ある程度は繋げられますからね。そのぐらいはやっておかないと……」
端子を繋ぐ作業を続けながらクーパーが答える。
「……さて。えーと。グライダさん。すみませんが、ハサミかニッパーを取って戴けませんか?」
「……え。あ、はいはい」
そう言いながら、机に置かれたハサミをポン、とクーパーに手渡す。
「あと、ドライバーも……おや?」
「どうしたの、クーパー?」
首を傾げたクーパーを見て、急に不安気な表情を浮かべるグライダ。
「……」
無言のまま配線を見ていたクーパーだったが、急に繋いだビデオ端子を外し出した。
「ど、どーしたの、クーパー!」
「わかった。間違えたんだろ?」
ちゃかす様なバーナムの口調に、別に腹を立てた様子もなく、クーパーが言った。
「一つお聞きしておきますが、これは、グライダさんお一人で運ばれたのですか?」
「軽かったから一人で運んだけど、それとこれとどういう関係があるわけ?」
不思議そうな顔でそう答えるグライダ。
バキン!
何を思ったか、ドライバーの柄を、チューナーのディスプレイめがけて叩きつけ、壊してしまったのだ。
「な、何するのよ、クーパー!」
突然の彼の行動に驚き、掴みかかろうとするグライダを制し、
「ボクが壊した所を、よく御覧になって下さい」
その余りに真剣な表情に、さすがに怒りをこらえてよく見てみれば、ディスプレイが完全に砕けたそこから見える内部の機械配線は、機械素人のグライダや、機械オンチのバーナムでも「お粗末」とわかる位で、先にグライダが述べた機能があるとはとても思えなかった。
「……ど、どーゆー事。これ」
「オレに聞くなよ」
バーナムが口を尖らせる。
「あんたに聞いてないわよ」
すぐさまグライダがきつい口調で返す。
「まさかとは、思っていたのですが……」
深刻な表情でクーパーが呟く。
「まさかって、どういう事なの、クーパー?」
真剣な顔でグライダが尋ねる。
バーナムも彼の次の言葉を待つ。
「ここ数日、宅配便の中身、特に電化製品が粗悪品にすり替えられている事件が、立て続けに起こっているんです」
驚く二人を見つめ、更に続けた。
「発送する店も宅配会社も『異常はない』と言っていますが、こうして事件は起こっていますから、どちらかが嘘をついているか、この二つの店を取次ぐ所が原因と考えるのが自然かと思いますが……」
そうクーパーが説明する。
「それに、いくらグライダさんでも、本来なら10キロ以上ものミニコンポを『軽々と』は運べないでしょう」
「なるほど……」
グライダも素直に納得する。
「ボクが考えていたよりも、事態はずっと深刻になっている様ですね……」
クーパーが腕を組んで何やら考え込む。
「事情はともかく、これをやった奴ぁぜったいに許さないからね……」
バーナムとクーパーの背筋も凍る様な、グライダの声だった。
「……あいつ、目がマジだぜ」
「……犯人の方に、同情します」
そう呟いて肩を落とす二人だった。
「……ったく、あのガキ。ど?こまで買い物行ってんだよ」
バーナムが悪態をつく。
日も傾きかけたというのに、ビデオ端子を買いに出たまま、セリファは戻って来ていない。
彼女の足でも、そのオーディオショップまでは、十分もあれば楽に往復できる筈なのである。
「確かに、いくら何でも遅すぎますね。何かあったんでしょうか?」
クーパーが、出されたお茶を一口飲む。
「何かあったって……」
グライダが力なく呟く。
「……誘拐か何かされたんじゃ? あの子結構可愛いから、ロリコンの変態オヤジにでも目ぇつけられて……」
そう言いながら、彼女の手が小さく震える。
「それで、無理矢理連れてかれて、裸にされて、メチャクチャにされて、ボロボロになっちゃって……」
グライダの妄想は、どんどん怪しく、そして危険な方へイッてしまっている。
「あ、あの。グライダさん。それは、いくら何でも話が飛躍しすぎでは……」
呆れつつも声をかけるクーパー。しかし、グライダは、小声でブツブツ呟きながら自分の世界に入ってしまっている。
「……何処からそーゆー考えが出てくるんだか」
バーナムが珍しく冷静な態度で呟く。
「……私が、探してみようか?」
今までずっと黙っていたコーランが口を開いた。
「悪魔の私なら、普通の人間よりも行動範囲が広いし……」
「『探査』の魔法でも使うのですか?」
クーパーがすかさず尋ねた。
「それなら、さっきやったわ。だけど、それでもわからなかった。有効範囲の外にいるか、魔法の効かない場所にいるか、そのどちらかね。きっと」
力なくそう答えたコーラン。
「有効範囲って、どの辺りまで?」
真剣な顔でコーランに尋ねるグライダ。
「ここを中心とすれば……オニックスの教会の辺りが入るか入らないかってトコね」
と、妙に冷静な口調で答える。
「とりあえず、何か行動を起こそう。ここでくっちゃべってたって、セリファは見つかんねーしな」
パン、と右拳を左手に叩きつけた。
「しかし、ボク達四人では、人手が足りませんよ。何とかならないものでしょうか?」
「心配いらないわ、クーパー」
グライダが、自信あり気に言った。
「『親衛隊』に頼めば、十人二十人すぐに集まるわよ」
「親衛隊?」
三人がすっんきょうな声を上げた。
それから一行は、グライダの案内で港の魚市場のそばにある食堂へ行った。
「ヘルベチカ・ユニバース」
少々薄汚れた看板には、あまりきれいではない手書きの文字でそう書かれていた。
「おばさーん。いる?」
引き戸を開けるなり、中に向かって怒鳴る。
「今準備中だよ。……何だ。グライダちゃんじゃないか。どしたんだい、こんな時間に」
でっぷり太った、人の良さそうなおばさんがグライダを見るなりニコニコ笑いながら顔を出した。
「ゴナさん達は? ここにいないの?」
「砂浜に行ってるよ。でも、そろそろ戻ってくるんじゃ……ほぉら、戻ってきた」
表でガヤガヤとやかましい怒鳴り声の様な話し声が聞こえ、乱暴に引き戸が開いた。
入ってきたのは、いずれも「海の男」を想像させる、日に焼けた屈強な男達だった。
「おう。酒持ってきてくれ」
「何言ってんだい。まだ準備中だよ。出直しといで!」
入ってきた男達を、特に、先頭に立っていたゴナを鋭い目で睨みつけ、怒鳴り返した。
「……? 何でぇ。グライダじゃねーか。セリファちゃんは一緒じゃねーのか」
チッ、と舌打ちし、一番奥の席にドカッと座り込む。
「そのセリファがどっか行っちゃったのよ」
というグライダの言葉が終わらないうちに、
「ぬわにぃ?っ!」
突然血相を変えてグライダに詰め寄った。
「それで、セリファちゃんは何処行っちまったんだよ! 姉キのおめーがついていながらよぉ!」
力任せに彼女の胸ぐらをつかみ上げ、ガクガク揺さぶっている。
「お、お、落ち着いてよ」
何とか彼をなだめようとするグライダ。
そして、状況を説明し始める。
「……まあ、とりこし苦労ならそれでいいんだけど、万が一って事もあるでしょ? それで、ゴナさん達にも手伝ってもらおうって」
グライダの話を腕組みしたまま一部始終聞くと、
「よっしゃ! そーゆー事なら、オレ達に任しとけ!」
そう言うが早いか、腰にぶら下げた小型の防水製トランシーバーを出し、
「……おう、オレだ。セリファちゃんがどっかに行っちまった。何か知ってる奴はすぐに連絡よこせ!」
コホン、と一つ咳払いをして、トランシーバーのスイッチを切った。
「これで大丈夫だ。ま、大船に乗ったつもりでいろや、グライダ」
フンッ、と鼻で笑いながら彼女を見るゴナ。
「……なぁ、兄貴。さっきから出てくる『セリファ』ちゃんて、誰なんです?」
ゴナの隣にいた彼の仲間の一人が不思議そうな顔で尋ねると、ゴナは得意気な顔になって、懐から何かを取り出した。
それは、パウチ処理済みのセリファの写真だった。
彼はそれを眺めながら、
「セリファちゃんはなぁ。オレ達の可愛い妹みてーなモンよ。やる事なす事いちいち愛しくってよぉ……」
写真を眺めながら、遠い目になる。
「兄貴って、ロリコンだったんですか?」
「違うっ!」
ゴナは間髪入れずに怒鳴り返した。
「セリファちゃんはオレの一コ上なんだぞ。ロリコンなワケねーだろ!」
「兄貴の一コ上って事は……。ゲッ! この顔で19歳なんですか?」
さすがに信じられない様だ。
「そうよ。あたしの双子の妹」
グライダがボソッとつけ加える。
「……」
もっと信じられない様だった。
「あの、グライダさん。先程言っていた『親衛隊』というのは、彼等の事ですか?」
「そうよ、クーパー。ほとんどファンクラブみたいなモン」
ため息交じりにボソッと答える。
そうしているうちに、彼の仲間から次々と知らせが入ってくる。
『ゴナ! 昼間、町の出口にいるの見かけたぞ!』
「そうか、わかった」
『黒ずくめの変な奴と話してるの見たぜ!』
「誰だかわかんねーか?」
『知らねーよ』
『あー。そいつ、多分魔術師ギルドの奴だ。ギルドの会員証のブローチしてたから……』
「じゃあ、魔術師ギルドの方へ行って調べてみてくれ」
その迅速なやりとりを見て、
「……警察なんかよりよっぽど早いわ」
ポカン、と大口を開けて、その光景を眺めるグライダ。
「あったりめーよ。セリファちゃんのファンクラブの会員は、この町に何百人といるんだ。みんな、セリファちゃんの事を心配してるし、何か不自然な所があったら、すぐ仲間中に連絡が入る」
「……そこまでやってたの、あんたたち?」
グライダは、もう完全に呆れ返っていた。
「あったりめーだ! セリファちゃんは、オレ達、いや、この町のアイドルだぜ」
しっかりと握り拳までつくって力説するゴナを見て、「もう何も言う事はない」と言わんばかりに溜め息をつく。
その時、店の入り口が開き、誰かが入ってきた。
「ゴナの兄貴。セリファちゃんの情報持ってきたわ」
入ってきたのは、盗賊ギルドのメンバーで、グライダとも親しい女盗賊・ルリールだった。
彼女は、持っていたノートパソコンをテーブルに無造作に置き、キーボードをものすごいスピードで叩きながら、
「さっき、魔術師ギルドの奴じゃないかって言ってたから、あたい、調べてみたんだよ。そうしたら……」
画面には、あまり人相の良くない痩せた男の写真が写し出されていた。
「名前はDB。本名はわからないけど、そう呼ばれているようね。昔から、炎の魔術に関する書物やアイテムなんかを、片っ端から集めているんで、その筋では有名な奴よ。元々は、結構名家の騎士の家系の出だったんだけど、体が弱いせいで結構親兄弟にいじめられてたらしいわ」
写真に添えられたプロフィールを読み上げ、更に続けた。
「で、今は、総合家電メーカー・オプチマのスポンサーをしているわ」
「オプチマ?」
唐突にグライダが叫んだ。
「それって、あたしが買ったミニコンポ作ってる会社……」
「このノートパソコンもオプチマの製品だよ。おまけに、この間出たばっかりの最新型」
クーパーが何やら考え込んでいる。
その時だった。突然ルリールのノートパソコンの画面が歪み、フッと消えてしまったのだ。
「なっ、何よ、これ? 買ったばっかりなのに……」
それでも、キーボードをガチャガチャ叩いていると、勝手に何か文字が浮かび上がってきた。
『コノメッセージヲミタカタヘ
マジュツシDBハ ホノオノマケン・レーヴァテインヲテニイレヨウトシテイル
アクイアルヤツニレーヴァテインヲワタサナイデクレ
ソシテ イッコクモハヤクケイサツニ』
「レーヴァテインっていったら、グライダの剣じゃねーか!」
今まで展開について来られなかったバーナムが口をはさむ。
「グライダさんが炎の魔剣・レーヴァテインを持っている事は、調べればすぐにわかるでしょうし、本人に話がいかなかったという事は……」
「セリファちゃんを人質にして、グライダの剣と交換って考えか……」
クーパーの言葉を受け、画面を見つめていたゴナが呟く。
「……コーラン。そのDBって奴が、何処にいるのかわかる?」
グライダが、もう待てないといった感じでコーランに詰め寄った。
「……あっきれた」
「何がよ、コーラン」
「逃げ隠れする気はないみたいよ。クーパーの教会のまん前で待ち構えてるわ」
コーランのその言葉で、その場にいた者全員が「ザワッ」となった。
「……よぉし。セリファとミニコンポの恨み。まとめて晴らしてやるからね」
グライダが不敵に微笑んだ。
「……さぁて。どーやって呼び出してやろうか」
日も沈みかかっているこの時。魔法使いのDBと、家電メーカーオプチマ社長・ライノタイプが、少々カッコつけた態度で立っていた。
セリファはロープで縛られ、猿ぐつわをされている。彼女は眠らされているのか、何もしゃべらない。
「まったく。あいつに秘密を知られなければ、もっと楽に事が運んだものを……」
悪態をつきながら、足元にあった小石を蹴飛ばした。
「DBさんの計画をウチの製品の中に仕込んだ、と言った時には、心臓が止まるかと思いましたよ。おかげで、適当な品とすり替えてでも調べ尽くすハメになって、ウチの製品の評判はガタ落ちです」
ため息交じりに肩を落とす社長。
「そう言うな。総ては、遠大なる我が計画の為。多少の事には目をつぶってほしい」
妙にカッコつけた仕種で眼下の海を見下ろす。
「……それに、レーヴァテインさえ手に入れば、こんなガキに用はない」
「用がないなら返してくれない?」
いきなり後ろから声をかけられ、あわてて十歩ぐらい逃げる二人。声をかけたのはグライダである。
「い、い、いつからいた!」
「『あいつに秘密を知られなければ』って辺りからかな?」
顔は笑っているが、目は真剣そのもののグライダが、DBを睨みつける。
「あたしの剣をどーしようっての?」
声が一オクターブ低くなる。
普段ならすぐにでも剣を出して斬り捨てるところだが、セリファが人質になっている今、そういう訳にもいかなかった。
その迫力に一瞬ビクッと震えるが、すぐさまピッと背を正し、
「どーでもいいだろう。おまえには関係ない事だ。早く剣を渡せ」
できる限りカッコつけた態度で言う。
「渡してもいいんだけど、普通の人間には扱えないわよ。この剣」
右手にレーヴァテインを出現させ、彼にそう告げた。
「バカにするな! この天才魔術師たるこのDBを、そんじょそこらの有象無象連中と一緒にされては迷惑千万!」
やはり、妙にカッコつけた物言いである。
「……あっそ。じゃ、受け取りなさいな」
彼女はレーヴァテインを地面に置くと、DBのほうへ剣を滑らせた。剣は、DBの足元でピタリと止まる。
「剣を渡したんだから、早くセリファを返しなさいよ」
「……そうだな。社長。そのガ……いや、お嬢さんの縄を解いてやってくれ」
グライダを睨みつけながら、足元の剣を拾おうとするDB。彼がその剣に触れた途端、
ブオッ!
「うわぁぁっ!」
触れた所が燃え上がり、彼は手に大火傷を負っていた。その光景に、DBもライノタイプも、目を点にするばかりだった。
「なっ、何だ? 持ち主以外の者は触れられない仕掛けか?」
持ち合わせの薬で応急処置をしながらグライダを睨む。
「……そうじゃないわ。レーヴァテインは、触れた物総てを焼き尽くす炎の魔剣。神ですら、例外じゃない」
言いながら右手をかざすと、剣がフワリと宙に浮き、グライダの手に戻った。
「じゃあ、何で地面が燃えてないんだ?」
DBがすかさずつっこむ。
「総てが燃えるなら、どうして地面は燃えてないんだ?」
「…………」
確かに、鋭いツッコミではある。
「……そんなの知ってるわけないでしょっ! 偉い賢者か学者にでも聞いてよっ!」
グライダが思い切り大きな声で怒鳴った。
それから一呼吸置いた後、
「あたしが平気なのは、あたしの体質のせい。総ての魔法を無効にする体質でね……」
そして、ゆっくりと剣を構えた。
「あなたじゃレーヴァテインに触る事もできないのがわかったでしょ? だったら、早くセリファを返しなさい」
しかし、DBはそんな彼女を鼻で笑い、
「そんな見えすいたデタラメを信じるとでも思ったか!」
そう怒鳴ると、常人の数倍のスピードで呪文を唱え、彼の手に巨大な火球が現れる。
「動くなよ。動けばこの火球をお前じゃなくこいつにぶつけるぞ」
横目でセリファの方を見るDB。その為、グライダの行動が一瞬遅れた。
「死ねぃ、女ぁ!」
そして巨大な火球は、グライダにクリーンヒットした!
「……いつまでこんなトコに隠れてなきゃなんねーんだよ」
教会の陰に隠れたまま、バーナムが小声で言った。
「しょーがねーな。あいつ一人で行くって聞かねーんだから」
グライダとDB達のやりとりを隠れ見ながらゴナが言い返した時、グライダの全身が炎に包まれた!
「グライダ!」
一同が大慌てで飛び出す。
「な、な、なんだぁ!」
いきなりわいて出た面々に驚くDB。
「心配いりませんよ。こっちには人質があるんですから」
セリファを片腕で抱えたままライノタイプが言った。その声を聞いて、
「あ、お前いたの?」
「いたの? は、ないでしょ」
「すまんすまん」
と、いきなりのんきな会話を始める二人。
「なぁにやってんだ、てめーら!」
そんな二人に怒鳴るバーナム。
「早くセリファちゃんを離しやがれっ!」
負けじとゴナも怒鳴る。
「……こっちには人質があるんだ。おまけにあの女も無事には済むまい」
と、自信満々で言うDB。
「それはどうかしらね、DB」
軽い嘲笑交じりに、コーランが言った。
「グライダの対魔法防御はハンパじゃないわ。気を抜いてる時ならいざ知らず、少なくとも『あんな火の球程度』じゃ死なないわよ」
「なんだと!」
DBが叫ぶと同時にグライダの全身を覆っていた炎が消えた。
服そのものはところどころ焼け焦げてはいるものの、彼女自身は、まったくの無傷である。
「ほ?らね」
自信たっぷりにコーランが言う。
「な、な、なんなんだ、お前は!」
驚きをあらわにして叫ぶDBとライノタイプに向かって、
「知らないわよ、そんなの。生まれつきこうなんだから!」
再び剣を構えると同時にキッと目つきが鋭くなる。
「でも、あたしにここまでの事したからには、覚悟はできてるんでしょうね……」
DBは、焦って呪文を唱えるが、グライダを傷つけることはできなかった。
DBとライノタイプはガタガタ震えながら、
「わ、わかってます。妹さんはお返ししますから。どうか命だけは……」
ペタンと地面に座り込んでひたすら懇願する二人だが、
「問答無用!」
「ヒイィイィイィイィッ!」
彼ら二人の必死の叫びもむなしく、レーヴァテインは振り下ろされた。
さて。明けて翌日。
「結局何だっんだ? 今回の一件は?」
食堂ヘルベチカ・ユニバースでフライ定食を食べるバーナムがポツリと言った。
「さあね。肝心の首謀者が恐怖で幼稚園児に逆戻りしちゃあ、真相は闇の中」
そう言いながら、お気に入りの果実酒を一口飲むコーラン。
「見当はつきますよ」
唐突にクーパーが言った。
「彼は、レーヴァテインの強大な炎の力で、炎の王を従わせるつもりだったのでしょう。地・水・火・風はいうに及ばず、精霊の力が強く宿っている物を使って精霊を支配する方法は、古くから知られていますから」
「炎の王? イーフリートって奴の事か?」
そう言って、バーナムがライスのおかわりを取りに向かった。
「それは多分、イーフリートじゃなくて、炎の大王エドルプルナァの事ね。イーフリートなら、それ相応の実力があれば、別に何のアイテムも必要じゃないし」
と、コーランが説明を入れる。
「『炎の魔剣は、炎の大王の分身である』という説話もありますからね」
と、クーパーがつけ加えた。
「それ従えて、世界征服でもするのか?」
「その可能性もない訳ではないですが、エドルプルナァを従えたというだけで、魔術師としての名声は思いのままでしょうね……」
バーナムに向かって静かに、そして少し悲しげに呟くクーパー。
「……それにしても、グライダさんを怒らせるとどうなるか、改めて思い知った様な気がします」
そして、横目で彼女を見た。
彼らの隣のテーブルでは、グライダとセリファが仲良く食事している最中であった。
そんな二人を見てクーパーが、
「うるわしの姉妹愛、ですかねぇ……」
「あれが同性愛にならん事を祈るぞ」
バーナムが胸の前で十字をきる。
「同感」
コーランも静かに呟いた。
そこへ、グライダの冷めた視線が。
「あんた達。あたしをバカにしてない?」
説明 | ||
「剣と魔法と科学と神秘」が混在する世界。そんな世界にいる通常の人間には対処しきれない様々な存在??猛獣・魔獣・妖魔などと闘う為に作られた秘密部隊「Baskerville FAN-TAIL」。そんな秘密部隊に所属する6人の闘いと日常とドタバタを描いたお気楽ノリの物語。 | ||
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