オブリビオンノベル 4.第三話〜遺跡探索〜
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「討伐奨励ダンジョン?」

 

 アンネッタの報告を簡潔にまとめると《現状進展は無し》とのことだった。

 しかしそれ以外に幾つかの情報を持って彼女はやってきた。それが今の話題となっている、討伐奨励ダンジョンと呼ばれるものだった。

 

「はい。基本的に治安維持は帝国軍が行なっていますが、現在シロディールの地域は広く管理しきれていないのが状態です。そのため、定期的に一部のダンジョンを討伐対象に指定しているのです。こちらのダンジョンで討伐した成果を報告すれば、成果に応じた報酬が支払われる、という形だそうです」

「ふぅん……なるほど、ねぇ」

 

 その話を聞いてむしろ気になるのは、そうした治安維持の対策の手を広げているにもかかわらず発生した神話の夜明け教団の件だった。

 その治安維持拡充案が成果を上げていないというのならまだ頷ける。

 しかし逆に、成果を上げているというのなら、内部の情報が漏れている可能性も十分にありえた。アンネッタの言う所によるとどうやらそこそこ程度らしいが、それをどう捉えるべきか。

 

「それから、こちらが」

「まだ何かあるの?」

「現在討伐奨励ダンジョンには指定されていない場所なのですが、この近くにロタンダ・ヴェイルというアイレイド時代の遺跡があります。そこにどうも、何らかの魔法を記した書物を残したという文献がみつかったそうです」

「そんなものもうとっくに誰かが持ちだした後なんじゃないかしら?」

「その可能性はあります、ただ……発見された当初からかなりの規模の山賊が根城にしているようなのです。山賊にそうした魔法を理解する頭があればの話ですが、残っている可能性も十分に在るのではないかと」

「なるほど、無くても体を動かす意味では調度良さそうといったところか」

 

 アンネッタは私の言葉に静かにうなずいてみせた。

 

   *   *   *

 

 アンネッタとの話も終わり日が昇る時間に近くなり私は借りた部屋へと引っ込むことにした。年季の入った古い木づくりの階段は登る度にギシギシと軋んで音を立てる。

 窓の外を見れば、月明かりが木々を照らす夜暗のシルエットが浮かび上がっていた。

 陽の光と決別してかなり経つ。

 夜暗を怖がり、暖炉の明かりで本を読み、夜の闇から逃げるようにベッドに潜り込んだ頃のことを思い出して、郷愁の念に駆られつつ人の居ない廊下を歩く。

 二階にあがって一番手前にある部屋のドアを開けると、誰も居ない冷えた空気が溢れ出してきた。

 部屋へと踏み込みドアを閉じた瞬間、不意に胸を締め付けられるような感覚に襲われた。

 誰もいない部屋。

 空気の冷え切った部屋。

 暗い、部屋。

 

(餓えておるのかの、らしくないことじゃ。そのような時期はとうに過ぎておるじゃろうに……)

 

 感覚はすぐに消えて、ただの暗い部屋だけが残る。

 苦笑しつつ、ベッドへと腰を下ろした。

 買ったばかりの調合器具を取り出して、先ほどの感覚を振り払うこともかねて、器具の確認と調合を試して見ることにした。

 レシピには簡単なものが三つほど記されている。人参とトウモロコシを利用した体力回復剤。ネズミの肉と骨粉を混ぜあわせた体力を奪う毒。犬の肉と鹿の肉を組み合わせた怪我の治癒薬。多少の時間を要したものの、それなりのものは出来たように思える。

 後は実際に使ってみて使い勝手次第かと思った所で窓の外を見れば空が白んできていた。

 

「ふむ、そろそろ寝るかの……」

 

 作ったポーションを小物携帯用のベルトポケットの中に仕舞い、ベッドに潜り込んだ。程なくして訪れた日の出、そして急激に重くなる体を感じながら、私は眠りに落ちた。

 

   *   *   *

 

 暗闇の中に浮いている。足場がなく、飛ぶわけでもなく、落ちるわけでもない。ただ水の中を漂うように、私はその暗闇の中で目を覚ました。

 おそらくこれは夢なのだろう。そう自覚できた。

 自覚した瞬間、唐突に足場が生まれる。自然とそこに着地したけれど、その足場以外はまた暗闇のままだった。

 

『私のアミュレットを、ジョフリへ届けるのだ』

 

 唐突に聞こえた声に私は振り向いて剣を抜こうとするけれど、手は空を切る。腰に下げていた剣はそこにはなかった。

 暗闇の中、離れた場所に立つその人影には見覚えがあった。

 シロディールへとやってきた最初の日に、夢の中で会った人物だった。

 赤い豪華なローブをまとっている彼の胸には、アミュレットは下がっていなかった。

 ローブの人影、おそらくは……ユリエル・セプティム。

 彼はそっと、私の足元を指さした。

 視線を向けるとそこには赤い宝石の嵌められたアミュレットが転がっている。

 

『その、アミュレットを……ブレイズの長、ジョフリへと……届けてくれ』

「なぜ?」

 

 ユリエル・セプティムは答えない。

 ただ、私がそうすると信じて疑わぬような瞳で私を見て。

 そうして、唐突にその姿を消した。

 

   *   *   *

 

 床を挟んで階下から賑やかな喧騒が聞こえてくる。おそらく酒場が賑わう時間なのだろうと、私はベッドから体を起こした。

 記憶に焼き付いたかのように、アミュレットは鮮明に思い出せる。

 ユリエル・セプティムと思われる男の目も……。

 

「……胸糞悪い」

 

 何が嫌だったのかわからないけれど、あの目を思い出すだけで言いようのない嫌悪感を感じてしまう。そのことを考えるのもやめて、早々に支度をして宿を発つことにした。

 出発前に魔術師ギルドに足を運び、魂の束縛、簡単な鍵の解錠、重量の軽減など汎用的な魔法を幾つか仕入れ、コロルの北門から街を出る。

 夜風が木々を撫でてゆく。葉擦れの音を聞きながら、私は再び夜道を歩き始める。

 目覚めの悪さからか、足取りはひどく重かった。

 

 街道沿いに歩く傍らで、自生している植物のなかでよさそうなものを採集しながら歩く。まだ実用すると決まったわけではないけれど、荷物が許す限りは持ち歩くに越したことはない。

 不要ならば街で買取をしてもらえばいいのだから集めておいて困ることもあるまい。

 亜麻やマリアサザミ、ブラックベリィなどといったものを摘み取りながら夜道を進む。道の端々に野盗と思われる死体が転がっているのだが、やはり街道とはいえ物騒なことには変わりないらしい。

 

(どうせなら街道に通る野党などにも報奨金をかけてやればよかろうに……、この切り口をみるに手練じゃの……街道沿いを警邏しとる帝国兵かの)

 

 適当に死体をあさり、幾つかのロックピックを拝借しつつ先を進むとどうやら先行していた帝国兵らしき人影を発見した。警戒しているのか剣を抜いたまま街道をゆく様は、見方次第では正直どちらが野盗か一見して見分けはつかない。

 どうやら進行方向は同じらしいのだが、正直な話、邪魔だった。

 多少の野盗ならば自分でもどうにかなる。体を動かさないことにはカンを取り戻すもない状況で、その材料が行く先行く先排除されるのは正直好ましいものではない。

 

(かといって……帝国兵に手を出すわけにもいかんしどうしたものか、そういえばアンネッタが近場の遺跡がどうとか言っとったのぅ)

 

 地図を頼りに軽く確認しながら街道を外れて件の遺跡──ロタンダ・ヴェイルとやらへ足を運ぶ。

 山道の中を進むと程なくしてそれらしき遺跡後を発見することができた。

 長い時間に晒されてひどく風化してか、地上に出ている部分で無事な所は少ない。

 作られたときはおそらく立派にそびえ立っていたであろう幾本もの柱は崩れ苔むして、遺跡の入口にしかれていたであろう石畳は時の流れと共に崩れて足場としての役割をなさなくなっている。

 石畳の間から生えた草によって風景の一部となり果てた遺跡。

 

「時の流れとは無残なものじゃのぅ。栄華を誇ったとされる古代の遺跡すら、この有様では……」

 

 自然とこぼれた独り言を聞く者は誰もいない。遺跡の入口には確かに、人が出入りしている形成が見て取れた。

 そっと石扉を押し開けると湿ったかび臭い空気が漏れ出す。

 剣を引き抜き、足音を殺しながら、私は慎重に遺跡の中へと歩を進めた。

 

   *   *   *

 

 遺跡は入り口に入った所で三叉路になっていた。正面の通路には気配がなかった為、左右どちらの通路を選ぶか暫し迷った末、右の道を進むことにする。少し通路を進むと階段があり、降りた所ですぐに人影と遭遇した。

 見張りをしているのであれば下っ端の山賊だろうと思い、剣を構え一息に斬り捨てようと踏み込む。その判断を押し留めて体は即座に後ろへと跳躍した。

 一瞬前まで自分が居た場所を炎を纏ったウォーハンマーが通りすぎてゆくのを見て、自分の本能が顕在であることに安堵する。

 炎は私達吸血鬼が苦手とするものだった。もしも焼かれでもしたらそれだけで深手を負う。焼けた傷口はなかなか再生が始まらないという厄介なものだった。

 素早く距離をとり階段の上へ登る、魔法を付加された武器を持っているということは下っ端ではないのだろう。気を引き締め階段を上がってきた所で死角から斬りかかる。

 相手もなかなかやるらしく、ウォーハンマーの柄で剣を受け止めると、すぐさまそれを私めがけて振り下ろしてくる。

 受け止められた瞬間に背後へと飛び退り、火球の魔法で牽制しつつ次の攻撃のチャンスを探る。

 数発の火球を打ち出し、そのうちの一発が相手の顔の付近で炸裂した瞬間、壁を蹴り天井付近まで飛び上がった。暗い遺跡の中、目の前を火球が通りすぎれば当然視界を奪われるはず。

 敵が私を見失ったであろう一瞬の隙。その瞬間を見計らい、首筋に狙いを定め私は天井を強く蹴る。

 隙を狙った剣閃は、まるで私の動きを予測したかのように差し出されたウォーハンマーの柄で遮られた。

 上空からの勢いを消せないままに着地するのをまずいと判断し、態勢をあえて崩し通路を奥へ転がることで距離を取る。

 着地していたであろう場所を炎を纏ったウォーハンマーが叩きつけていた。

 勢いをそのままに立ち上がり態勢を立て直す。相手も同じようにウォーハンマーを構えなおしたところだった。

 

「ずば抜けた動きをする奴だ」

「それは汝(うぬ)もじゃろう?」

 

 狭い通路で互いに距離を図りながら呼吸を図る。

 先に動いたのは相手のほうで、その巨体からは考えられない速さで間を詰めて、横殴りにウォーハンマーを振るう。

 即座に背後へ飛び退り、振り終えたところを狙って私は剣を振り抜いた。

 あろうことか相手はその斬撃をしゃがむことで避けて見せる。再びその場で踏みとどまるのは危険だと判断し、相手の上を飛び抜けようとする。

 しかしそれを読まれていたらしく、ウォーハンマーを握る両手を思い切り振り上げられる。

 あらぬ態勢からの攻撃だったのが幸いし威力こそ大したことはなかったものの、腹部に命中すると同時に殴り飛ばされた私は自分の勢いもあいまって壁に激しくたたきつけられた。

 咄嗟に血の力を開放することでその負傷を無理やり治癒し壁からさらに跳躍した瞬間、先ほどと同じように自分の居た壁をウォーハンマーが粉砕した。

 がらがらと遺跡の壁が崩れる音が響く。

 長い時間の流れで脆くなっていたことを差し引いても、凄まじい威力だった。

 

「浅かったか……」

 

 完全に後手、そして失策だった。もうこれで相手が油断することはあるまい。あらかたの動きも、そして耐久力についても知られてしまった。

 ジリジリと間合いを詰めてくる相手に対して、どうするか思案する。

 数瞬の間思考して出た答えは、いささか優雅さにかける答えだった。

 剣を鞘に戻し、構えを取る。その構えに一瞬だけ相手は気圧されてか、警戒してか足を止める。

 互いに同時に動いた。初動ならば相手のほうが早かっただろう。ウォーハンマーが私の胴体をめがけて振り抜かれる。

 それを避けることを、完全に捨てての抜刀からの一閃。

 ウォーハンマーが私を叩き潰す一瞬前に、私の剣は相手を捉えていた。

 剣が肉を裂き、骨を断ち、致命傷となるほうがわずかに早かったかどうか……。

 直後に私は燃え盛るウォーハンマーによって壁に叩きつけられ、叩き潰された。

 

 

 

「げほっ……かっ、は……」

 薄暗い遺跡の廊下で動くのは私だけだった。

骨が何本か折れた気がする。周りに他の敵が居ないからこそ出来た荒業だった。

 

「人間なら、死んどるの……恐ろしい奴じゃった……」

 

 治癒魔法で怪我をある程度直した所で、たった今倒した見張りには似つかわしくない男の首筋に食らいつく。

 与えた損傷が大きすぎたためかほとんど血は残っていなかった。

 少々残念に思いつつ荷物を漁る。それなりの金の入った財布ぐらいで身軽なものだった。

 

「此処を拠点にしとるから糧食の類を持ち歩いとらんのじゃろうな……さて、厄介な事になったかのぅ」

 

 ふと思い出し、怪我の治癒用のポーションを飲んでおく。少々使うには早い状況かもしれないけれど、先のことを考えて極力状態を整えておきたかった。

 緩やかにではあるが怪我が癒されていく感覚がある。まだまだ効力が低いようだけれど、それでも補助として使うには十分だろう。

 体調が完全にとは言わないまでも復調した段階で、さらに遺跡の奥へと足をすすめる。

 この時点で正面から全て切り伏せるという考えは捨ておくことにした。

 少し進むと大広間にがあり、向こう側までかなりの距離があった。その通路の先に人影が見え、咄嗟に近場の物陰に隠れた。

 息を潜め、まずは部屋を観察する。あからさまに不自然な部屋の作りだったので見回してみれば、床に残る大量の血痕が目についた。

 

(こりゃなにか罠があるの……誘いこんでみるか)

 

 物陰から出て、人影に向かって初歩の火球魔法で牽制してやるとあっさりとこちらへ走りこんできた。

 この遺跡を根城にしているのだから迂回するかと思えば直進してきて……私が想定している場所よりも奥の床がなくなった。

 数瞬後に悲鳴が聞こえ、そして静になる。地響きのような音と共に床が戻った時、そこには動かなくなった人影が倒れていた。

 

「なんじゃ、こっちはフェイクじゃったのか」

 

 と思い足を踏み出した瞬間床がせり上がる。咄嗟に飛びすさると床はそのまま天井までせり上がり、しばらくしてゆっくりと降りてくる。

 天井には大量の鉄槍が仕込んであった。

 

「二段構えかいっ!」

 

 次は罠が作動しないように通路の端を通る。罠にかかった死体からも使えるものがあれば回収しておきたかったが、近くによると罠が再び起動しそうだったから諦めた。

 その後横道に別の部屋があり、その奥にも賊が居たのでおびき寄せて罠にはめてみた。

 こやつら本当にこの遺跡を根城にしとる連中なのかと疑いたくなるぐらいに、面白いように罠にかかって半数近くがあっさりと処理できた。

 残った半数についてもほとんどが手負いであり、特別語ることもなく切り捨てる。

 遺跡を入ってすぐに出会った見張りと思われる男とは雲泥の差だった。

 

「ふむ……見張りに手練を置いていた、と考えるほうが妥当かの。とすると残る腕利きは頭領ぐらいか?」

 有象無象ばかりの賊を切り捨てて、奥へ奥へと踏み込んでいくと、やがてかなり広い部屋へ通じ、その端に通路が一つだけあった。

 ひと通り見てまわるけれど、不自然な部屋の大きさに思える。

 

(こういう部屋の作り方は……得てしてなにかしらあるもんじゃろなぁ……)

 

 部屋を注意深く見回すと、ただの壁だと思った場所の手前に、少々変わった作りの床があった。体重をかけるとゴトリと音がして、目の前の壁が静かに沈んでいく。

 隠し部屋へ続く通路に踏み込むと、背筋がゾクリと震える。確実に奥に何かが居るだろう。慎重に足を進め、部屋の中に居たものを見た瞬間、私は飛び出していた。

 ゾンビや魔物、賊といった輩ではなく、そこに居たのは霊体だった。

 そのうちの片方を見た瞬間、全身が総毛立つ。決して近づかれてはいけないという直感が全身を支配する。

 もう一匹の霊体は私に向かって冷気魔法を連続して撃ち出してくる。

 先にこちらをどうにかするべく抜刀して跳びかかる。その間に二発ほど冷気魔法を被弾するけれど、躊躇せずそのまま一閃で切り捨てる。

 吸血鬼にとって火が大敵だが、それと逆に冷気には多少の耐性がある。多少の冷気ではさしたダメージにはならない。

 これで一対一の状況には持ち込めた。すぐさま振り返ると、もう一匹の霊体は私めがけて襲いかかってくる。距離を取るよりも速く、それが私の中に侵入してきた。

 聴覚が薄くなり、世界から音が消えてゆく。

 感覚が麻痺して体に力が入らない。

 視覚以外の感覚が急激に薄れていく。

 

(ぬ、かっ……た)

 

 そのまま、遺跡の奥。隠し部屋の中で、私の意識は途切れた。

 

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