三人の御遣い 獣と呼ばれし者達 赤羽編 拠点1 何てことない小さな幸せ
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春蘭「はああああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

城の中庭で春蘭の怒号が鳴り響く

 

大地を揺るがすかのようなその怒号の先には

両手をポケットに入れたままの無防備な姿勢で赤羽烈矢が対峙する

 

春蘭「でりゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

その烈矢に対して、春蘭は獣の如き咆哮と共に斬りかかる

 

烈矢「よ……っと」

 

振り下ろされる剣撃は、スウェーバックでかわす烈矢の前髪数本のみを切り落とし、空を切った。斬られた前髪はハラハラと宙を舞い、風に乗って消えていく……

その様を見ながらバックステップで春蘭から距離を取る烈矢は―――

 

烈矢「……あと少し速くないと流石に当たってやれないぞ。もっと踏み込め。もっと近づけ。この程度なら床屋の鋏の方がまだ殺傷力があるぞ」

 

前髪を切られたにも係わらず、淡々とそんな軽口を叩いていた

 

春蘭「ちぃっ!相変わらず貴様の余裕は勘に触る!ならば……」

 

そんな烈矢の余裕とも言える態度を前に、春蘭は忌々しそうに舌打ちをする

 

その後も

 

一撃

 

二撃

 

三撃と

 

春蘭の烈火の如き連撃が烈矢を襲ったが、その攻撃のどれもが紙一重の所で避けられる

 

春蘭「くそっ!くそっ!!くそおおおぉぉぉぉ!!!」

 

それでも春蘭は攻撃を止めない

 

振り続けられる剣撃は先ほどよりも遥かに速く、先ほどよりも遥かに力強く、常人ならば即死、運が良くても再起不能、それほどの攻撃を休むことなく繰り出し続けた

 

 

 

 

 

しかし―――

 

 

 

それでも攻撃は当たらない

 

 

 

何度剣を振ろうとも

 

 

 

何度間合いを詰めようとも

 

 

 

その一つ一つがまるでまったくの無意味だったと言うかのように烈矢は距離を取り続け、春蘭に近づく事すら許さなかった

 

 

 

 

 

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そんな仕合とも呼べない手合わせが終了すると春蘭は今までの疲労感がピークに達したのか、その場に持っていた大剣を放り投げると大の字になって地面に寝転んだ

 

 

 

 

 

春蘭「…はぁ……はぁ……はぁっ、げほっげほっ……」

 

その場に倒れた春蘭は咽返るほどに息を切らせ、必死に呼吸を整える

そして、先ほどまで剣を振っていた自身の右手を見つめると烈矢との仕合を思い返す

 

 

 

 

 

春蘭(…くそ……畜生……また届かなかった!また……勝てなかった!!なんで…なんで私の剣は奴を一度も捕らえることが出来ないんだ!!私に一体何が足りない!?)

 

振っても

 

振っても

 

自身の剣は空を切るばかりで

 

詰めても

 

詰めても

 

烈矢との間合いは離れるばかりで

 

そんなことを繰り返すだけの―――

 

仕合とも言えない手合わせは武人である自分にとって侮辱と恥以外の何でもないというのに…

 

何故、自分は

 

こんなに苦しいのに

 

こんなに悔しいのに

 

笑っているのだろう……

 

華琳様ならわかるのだろうか

 

秋蘭ならわかるのだろうか

 

それとも

 

烈矢(あいつ)だったらわかるのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

そんな疑問を抱いていると春蘭の近くに二つの人影が近づいてきた

 

秋蘭「大丈夫か、姉者?ほら、これで汗でも拭うといい」

 

一つは先ほどまで仕合を観戦していて、今現在倒れた春蘭に手ぬぐいを差し出してくる秋蘭と―――

 

烈矢「お疲れ……まぁ、この前よりは幾分マシって感じだな」

 

汗一つかかずに何事もなかったかのように淡々と皮肉を口にする

 

赤羽烈矢が立っていた―――

 

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仕合が終わった中庭には手合わせを終了した三人が休憩をしていた

三人は中庭の隅に配置された卓を囲み、卓上に置かれた菓子などを摘みながら先ほどまでの手合わせについて反省会を開いていた―――

 

春蘭「だから!!一体どこが悪かったのかを具体的に言ってくれないとわからんだろうが!!」

 

はずだった……

 

秋蘭「姉者、落ち着け。具体的に言えと言っても姉者の頭では理解出来んだろうが…」

 

春蘭「秋蘭!!!」

 

秋蘭「だから落ち着けと言っているだろう?それに赤羽の口下手など、ここ数日で嫌と言うほどわかったじゃないか。何をそんなに怒る必要がある?」

 

春蘭「それは!……そう…だが」

 

秋蘭に諭され、春蘭は項垂れる

色々と騒ぎはしたが、秋蘭の言うとおりだということは春蘭自身がよく理解していた

その理由も数日前の決闘から今日までの間、秋蘭と春蘭、そして華琳を入れた三人は赤羽烈矢の人柄を、一緒に生活する中で完璧にとは言えないまでも少しずつだが知るようになったからだった

しかし……少しずつ知るようになったと言っても、それは決して友好的な意味だけではない

むしろ逆の意味としての方が数としては圧倒的に多いと言える

確かに烈矢と一緒に生活する中で三人は真名を許し、烈矢の持つ『強さ』以外に幾つも良い所を見つける程に親しくなった

 

 

料理上手な所

 

 

掃除、洗濯が完璧な所

 

 

裁縫が上手な所

 

 

といった『家庭的な面』に烈矢は意外なほど長けていた

正直、烈矢のあまりの強さと風貌からは一言で言えば、『暴力』といった言葉が印象として相応しい

知り合ったばかりはそういった負の印象にしか目が行かなかったのに、時間を共に重ねるごとに今まで見る事の出来なかった面を見れるようになったのは、華琳達と烈矢が少なからず親しくなった証拠かもしれない

しかし、親しくなったからと言って烈矢に対して気に入らない点がないわけではない

 

 

がさつだし

 

 

喧嘩っ早いし

 

 

春蘭同様、勉強しないし

 

 

春蘭「……おい」

 

 

嫌な点を挙げたらきりがない

だけど、そんな嫌な点のどれもがどうでもよくなるくらいに

とてつもなく気になる点が一つだけあった

 

 

 

それはとても些細だが―――

 

 

 

それは確実に気のせいなんかではなく―――

 

 

 

そして―――

 

 

 

『そのこと』に気付いているのは意外なことに

 

 

 

 

 

 

 

 

春蘭だけだった

 

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私はあいつが気に入らない……

 

別にあいつのことが嫌いだと言っているわけではない

 

あいつは強いし―――

 

料理も美味いし―――

 

私の鍛錬にも付き合ってくれるし―――

 

今のところ、嫌いな点は見当たらない

 

だけど…………気に入らない

 

矛盾しているが私の正直な気持ちだ

 

原因は恐らく、きっと『あれ』のせいだろう

 

『あれ』をされるから私は無性にあいつが腹立たしく感じるのだと思う

 

だけど、もしかしたら『あれ』は私の気のせいかもしれない

 

一応、確認としてもう一度確かめよう

 

もしかしたら本当に気のせいかもしれないからな

 

 

――

 

 

 

―――

 

 

 

 

春蘭「……それで?結局、私は何でお前に勝てないのだ」

 

出来る限り不機嫌な感じで聞いてみる

まぁ、本当に不機嫌になっているわけだが……

これで『あれ』が出なければ、きっと私の勘違いに違いない

 

そして私はそんな淡い期待を持ったまま、赤羽の様子を窺った

 

烈矢「……ふむ」

 

赤羽は初め、考え事をするかのように腕を組み、溜息を一つ吐くと質問の問いに答えた

一体どんな答えを出すのか楽しみだ―――

 

 

 

 

烈矢「……わからん」

 

 

 

 

 

 

……

 

 

 

どうやら、こいつは私を舐めているらしい……

 

 

 

春蘭「……お前、殺されたいのか?」

 

あまりに腹が立ったため、無意識の内にかなりの殺気を赤羽に叩きつけていた

周りからは短気だと言われるが、今回ばかりは仕方がない

折角、この私が聞いているのに悩んだ挙句が「わからん」の一言では腹が立つのも無理からぬ話だ

 

そんな私の殺気に気付いたのか、奴は呆れた様子で手を振りながら言い訳を始めた

その反応を見ると正直かなりイラついたが……まぁ、叩き切るのはこいつの言い訳を聞いてからでも遅くはないか……

一応、頼んで師事しているのだから、多少は目を瞑ってやらんとな

 

そんなことを思っていると―――

 

烈矢「いや、すまない。言い方が悪かった。でも、毎度毎度反省会の時にいきなり怒るのは勘弁してくれ。正直、あまり気分の良いものじゃない」

 

言い訳どころか逆に私に文句を言い始めた

意表を突かれた私も、これには流石に―――

 

春蘭「うっ………す、すまん」

 

―――としか言い様がない

そんな私の様子を見た赤羽は再度溜息を吐くと先ほどの答えの続きを口にした

 

烈矢「まぁ、春蘭が怒るのも分かるけどな……少しは落ち着け。前にも言ったけど、俺はぶっちゃけ指導能力は皆無なんだから、あんまり助言を求められても正直困るんだよ。……確かに俺は春蘭の鍛錬に付き合ってはいるけど、『助言をしてやる』なんて一言も言ってないだろうが」

 

春蘭「そ、それは……そうだが―――」

 

赤羽の言葉は最もだった……

赤羽の言葉の通り……私は鍛錬の相手を頼んだ時に『助言をしてくれ』とは一言も言ってはいない

勝手に私自身が師事したつもりになっていただけだ

 

烈矢「大体、俺は本格的に武術を学んだ訳ではないんだぞ?そんな奴が小さい頃から武人として生きてきた人間に対して偉そうに助言なんか出来ると思うか?適当なことを言って今までお前が培ってきた力を俺が壊しちまったら、目も当てられない事になっちまう。お前に教えるなら、それこそ一刀や兵衛みたいに幼少時から武術に携わっていた奴ぐらいじゃないと無理だろうし…………俺に出来るのなんて精々『鍛錬相手』になってやるくらいだ。それで満足出来ないようなら―――もう鍛錬は止めにするか?」

 

そう言うと、赤羽は私から

 

 

 

目を逸らした

 

 

 

……まただ

 

 

 

また、『あれ』だ

 

 

 

もう、ここまで来たら疑う余地など最早ない

私の勘違いだと期待した思いはこうしてあっさりと間違いだったと突きつけられる

もう、認めよう

 

 

 

こいつは―――

 

 

 

こいつは―――私に対してキツイことを言った後は顔を真っ赤にして決まって『目を逸らす』

 

 

 

いや、私に対してだけじゃない

 

他の者にも―――正確には華琳様や私に秋蘭、それに奴の身の回りを世話する侍女に対しても……奴はこういった態度をよく取っている

よく取っている……と言うよりもほぼ毎日だ

話をしている最中に顔を真っ赤にしてそっぽを向き、その間は話し相手の顔をまったくと言っていいほど見なくなる

その様子を見るからに恐らく怒っているのだろうが、それがどうにも私は気に入らない

秋蘭や華琳様はどうやら気付いていないようだが私にはわかる

奴と過ごすようになって一番時間を共にしているのは私なのだから……

だからこそ考えてしまう

こいつが私たちに対してどういう感情を抱いているのか

 

私たちのことが嫌いなのか

 

私たちのことがその……す、す、好き―――なのか

 

 

 

きっと私が気に入らないのはそこなんだ

 

こいつの気持ちが一体どっちに向いているのか

 

私たちに対してどんな気持ちで接しているのか

 

まぁ、それも店に頼んでいる『あれ』を渡せば少しはわかるだろう

 

あのことも謝らなければならないからな……

 

だからこそ今日は何としても、この反省会が終わった後にこいつを街に連れて行かねば!!

 

 

 

私は赤羽の言葉を耳に入れることなく、そんなことをひたすら考えていた

 

 

 

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烈矢「―――もう鍛錬は止めにするか?」

 

赤羽は姉者に対して冷たく言い放った

 

いや、冷たくしているわけではないのだろう

 

むしろ逆……

 

赤羽は姉者に対してかなり気を遣って接している

 

その証拠にこいつはいつも厳しいことを言った後は必ずと言っていいほど姉者に菓子を振る舞う

 

今もそうだ

 

厳しく言っているのも実際は姉者を休憩させるため

 

姉者に無理をさせないためだ

 

姉者は気付いていないだろうが、二人がしているこの鍛錬の内容はやっている本人が思うよりも遥かに過酷だ

 

一方が(この場合姉者だが)ひたすら攻め続け、対峙する相手に攻撃を届かせる訓練

 

通常の打ち合う鍛錬に比べ、まるで追いかけっこのようなこの鍛錬は攻撃側にとって、あまりに大変な作業だ

 

自分よりも遥かに上の実力者に―――それも逃げに徹している相手に攻撃を当てるのだ

生半可な攻め、踏み込みでは決して届くわけがない

それこそ頭を使い―――まるで獣の狩りの様に無駄のない攻めと相手を追い詰める術を持って立ち向かわなければ到底無理な話なのだ

 

どちらも今の姉者には欠けている

 

無駄のない攻めも

 

頭を使い、相手を追い詰める術も

 

そのどちらも今の姉者には欠けている

 

と言うか姉者に頭を使う行為は無理だろう

 

姉者が頭を使うなど、それこそ『飢えた熊に釣りの仕方を教える』様なもの

 

簡単に言えば、身に付ける必要がなく―――また、身に付けられるはずがないのだ

 

姉者は本能で戦う獣の様な武人

 

考えるという行為を省くことで全ての対応を幼少より鍛えた体に委ねることで相手の攻撃の全てを捌き、相手の予想を越えた攻撃で敵を屠り去る

 

それが姉者の戦い方だ

 

だから、姉者にそんな頭を使うことなど必要ないのだ

 

いや

 

正確には―――必要ないと思っていた

 

初めはこんなやり方では姉者の鍛錬になるはずがないとタカをくくっていた

 

だが、そんな考えも数日経った今では微塵も心に浮かばない

 

何故なら姉者は日に日に強くなっているのが目に見えて明らかだったからだ

 

最初は攻めるどころか、赤羽の動きを目で捉えることすら出来なかったのに……今では後一歩の所まで追い詰めることが出来るようになったのだ

攻撃に無駄がなくなり、追い詰め方も地形や相手の立ち位置を考慮し、効率良く動いている

 

今までの姉者では想像も出来ないほど賢い戦い方だ

 

そして……姉者をそんな想像も出来ない姿にしたのは紛れもなく赤羽だ

 

そのことが私の赤羽に対する好奇心を加速させる

 

元々面白い奴だとは思っていたが、姉者との鍛錬をずっと見学していたことでその思いは大きくなるばかりだ

 

 

 

そんなことを思っていると―――

 

 

 

 

 

 

春蘭「べ、別に鍛錬を止めるとまでは言っていないだろうが!」

 

烈矢「ふんっ……俺には『助言しないなら止めてやる』としか聞こえないがな」

 

春蘭「誰もそんなこと言っていない!!」

 

 

 

気付いたら目の前の二人の言い合いが更に激化していた

 

正直話を聞いていなかったのでどうしてこんな状況になったのか、まるでわからないのだが……

 

話の流れを聞いていると、どうやら姉者が赤羽の話を聞いていなかったために起きた諍いらしい

 

まったく……『あれ』を渡す前に喧嘩などするなんて……

流石は姉者と言うべきか

 

まぁ、今日は珍しく華琳様以外の人間のために動こうと言うのだ

たまには姉者の手助けをするのも悪くない

 

さぁ、助け舟でも出してやるか

 

 

 

そして私は赤羽に話しかけた

 

 

 

 

 

秋蘭「赤羽、そのくらいで勘弁してやったらどうだ?きりも良いことだし、暇なら街にでも出てみないか?」

 

 

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私達は今街に来ている

 

 

 

理由は先ほどまでの反省会で私と赤羽が言い争っている時のことだ

 

最初はただ私達の言い合いを上の空で聞いていた秋蘭がいきなり―――

 

 

 

秋蘭「―――街に出てみないか?」

 

 

 

―――と言い出して、私と赤羽を半ば強引に連れ出したからだ

 

別に迷惑な訳ではない

 

むしろ好都合だ

 

正直、街に出るための口実が上手いこと思いつかなかったため、切り出す頃合が中々見つけられなかったから、秋蘭のこの言葉は私にとって願ってもないものだった

 

恐らく私一人では赤羽を街に連れ出すどころか、赤羽との口喧嘩すら止めることは出来なかっただろう……

『あのこと』も未だに謝れていないし、秋蘭がいなければ言いたいことすらまともに言えないとは……考えれば考えるほど己の不器用さに嫌気が差す

 

 

そんな自分の不甲斐なさに肩を落としていると―――

 

 

 

烈矢「……どうした、気分でも悪いのか?」

 

 

 

―――私が落ち込む原因となった男が語りかけてきた

まったく、無駄に細かい所に気が付く奴だ

 

烈矢「気分が悪いならどこか店にでも入って一休みするか?ここのところ鍛錬ばかりでまともに休んでいないだろう?」

 

赤羽は無愛想ながらも私に気を遣い、歩く速度を遅くし足並みを揃える

こういった何気ない心遣いには本当に頭が下がる

しかし、気を遣ってくれることは嬉しいが、今の私にはこの気遣いすら……心苦しい

 

春蘭「べ、別に……お前には関係ない!お前は黙って私達に付いて来ればいいんだ!」

 

その証拠にこの通り―――お礼すら素直に言えないばかりか、悪態を吐いてしまうのだから……私の罪悪感は募るばかりだった

 

 

―――

 

 

 

――――――

 

 

 

そして―――

 

 

 

そんな気まずい雰囲気の中、私達は目当てである店に辿り着いた

 

烈矢「……で?ここがお前らの目当ての店なのか?」

 

春蘭「まぁ……そうだな」

 

烈矢「ここ……どう見ても鍛冶屋にしか見えないんだが?」

 

秋蘭「まぁ……鍛冶屋だからな」

 

烈矢「…………」

 

春蘭「……………」

 

秋蘭「………………」

 

……

 

…………

 

烈矢「……これ、俺必要なくないか?帰っていいか?」

 

案の定、予想通りの答えが返ってきた

しかし、だからといって「はい、いいですよ」と言う訳にはいかない

なんとしてもコイツにはこの場に留まり、『あれ』を受け取って貰わなければいかん

絶対に逃がしてなるものか!

 

春蘭「だ、駄目に決まっているだろう!お前をここに連れてきたのは荷物持ちをさせる為なのだから、帰られたら私達が困るだろうが!」

 

烈矢「……別にそれは構わないが……それだったら別に俺じゃなくても良かったんじゃないか?鍛冶屋ってことは注文していた武具か何かを受け取りに来たって事だろ?だったら予め部下の誰かを連れて行けば荷物持ちには事欠かなかったと思うんだが……何でわざわざ『俺』なんだ?」

 

春蘭「うええぇ!?い、い、い、いや……あの…別に…その……特にお前…だからいけない……というわけでは…………ない……ようなある…ような……」

 

烈矢「……どっちだよ?つーか何動揺してんだよ、春蘭。お前今日様子がおかしいぞ」

 

春蘭「な!?べ、別に動揺なんかしていないだろ!わ、私はただ―――」

 

ただ―――『お前に渡したい物があるだけだ』

 

そう言おうとしたが、私の口はその言葉を吐き出してはくれない

 

こういう時、素直じゃない自分の性格に腹が立つ

 

烈矢「ただ……何だよ?」

 

春蘭「…………」

 

烈矢「……答えろよ」

 

答えられない私に赤羽が詰め寄る

 

私は答えられないために視線を宙に移し―――やがて、縋るように秋蘭の方を見た

 

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姉者がこちらを見ている

 

大方、「助けてくれ」とでも言いたいのだろうが……

 

相変わらず誤魔化すということが出来ない人だ

 

まぁ、そこが姉者の可愛らしい所でもあるのだが……

 

それでも今のこの状況を考えれば、『あれ』を渡す前に赤羽にばれるのはあまり良いものではない

 

姉者が折角私や華琳様以外に心を開こうとしているのだ

 

妹として、ここは私が一肌脱ぐとしよう

 

まったくもって……やれやれだ

 

秋蘭「赤羽、姉者を苛めるのもそのくらいにしてやれ」

 

私の言葉に赤羽が振り返る

 

烈矢「……別に苛めてるわけじゃねえよ。ただ……何で隠すのかなって思っただけで……」

 

秋蘭「そうか?私はむしろ隠す気持ちもわかる気がするぞ」

 

烈矢「……わかるのか?」

 

秋蘭「妹だからな」

 

烈矢「……そうか―――羨ましい限りだ」

 

そう言うと……赤羽は少しだけ悲しそうに微笑んだ

その表情は何処となく、今はいない誰かに想いを馳せているかの様な

そんな儚い印象を受けるものだった

 

 

 

しかし、今の私にはこの時の赤羽が何故こんな表情を浮かべたのか……その理由がわからなかった―――わかるはずもなかった

 

 

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春蘭の我が侭から一刻が経ち、今……俺こと赤羽烈矢は秋蘭と一緒に喫茶店にいた

しかし、待ちに待った休憩時間だと言うのに……俺の心は『あること』が原因でそわそわしていた

 

 

烈矢「ふぅっ……なぁ、秋蘭」

 

秋蘭「……何だ、赤羽?」

 

烈矢「……確かに俺は鍛冶屋には居たくなかったし、荷物持ちも正直やりたくねえって言うのが本音だけどよ―――本当に春蘭を放っといて良かったのか?」

 

 

 

そう……

 

 

 

これが俺のそわそわする原因となったもの

 

 

 

俺達はあの後、鍛冶屋に用がある春蘭と一旦別れた

 

本当は心配だったから最初は一緒に付いて行くつもりだったのだが―――

 

秋蘭「お前が付いて行った所で体術使いであるお前に魏の武将である姉者に武具について助言など出来はしないだろう?姉者が武具を選んでいる間、私達は近くの喫茶店で茶でも飲んで一休みしていようではないか。―――そんな心配するな。頃合を見て戻ってくれば問題はない。姉者も私達がいない方が気兼ねなく商品を選べると言うものだ。……ほら、ぼさっとしていないで行くぞ」

 

―――などと言われ、半ば強引に喫茶店に連れて行かれた

 

正直、かなり違和感を覚える流れだったが恐らくそれを問い詰めた所で秋蘭が素直に教えてくれるわけがない

魏に客将として居据わる事になったが、華琳と秋蘭は未だに掴み所がなく、特に秋蘭はクールと言うか……感情をあまり表に出すタイプではないので、イマイチよくわからないというのが本当の所だ

 

 

 

秋蘭「ああ、姉者のことか?さっきも言ったが、姉者だって一人で商品を選びたい時があるはずだ。私達と一緒にいたらどうしたってお互いに気を遣ってしまうだろう?だったらそれまでの時間はお互いが好きなように行動して有意義に使った方が良い」

 

烈矢「……まぁ、それはそうだな」

 

秋蘭「だろう?だったら姉者のことは少しの間忘れて―――今は私との『この時間』を楽しもうではないか」

 

そう言って俺に微笑みを向ける秋蘭は

 

どうしようもなく優しげで

 

どうしようもなく美しかった

 

そして俺は……そんな微笑みを向けられたことで不覚にも一瞬心を奪われてしまった

 

烈矢「……別に、構わない…けどよ。楽しむったってどうやって楽しむんだ?俺は面白いことなんか出来ないぞ」

 

秋蘭の笑みに動悸が激しくなるのを感じた俺は、無理矢理に話の流れを引き戻す

そんな俺の胸中がわかっているのか、秋蘭は楽しそうに話を続けた

 

秋蘭「何……ただこうして茶を愉しみ、『天の御遣い』であるお前と話すだけでも十分に時間を潰し、楽しむ事が出来るさ」

 

本当に―――心の底から楽しそうに話を続けた

 

烈矢「……そうか。だけど、自分で言うのも何だが……俺はかなりの口下手でな。自分から面白い話が出来るほど器用でも、女の扱いに心得があるわけでもない―――それでも、いいんだったら、喜んで話すが?」

 

秋蘭「ああ……そんなことは百も承知さ。そんなお前だから話してみたいと思ったんだ」

 

秋蘭の言葉に耳まで赤くなるのを実感する

 

烈矢「けっ!そうかよ」

 

秋蘭「ふふっ……そうだよ」

 

 

 

そして、俺達は春蘭が買い物を済ませるまでの時間、ゆったりと雑談を楽しんだ

 

 

 

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頃合を見て俺達二人は春蘭と待ち合わせをしていた場所に向かった

 

待ち合わせ場所に着いてみると買い物を終わらせた春蘭が眉間に皺を寄せ、見るからに「怒っています」というオーラを全開にして立っていた

 

……最悪だ

 

俺は重くなる足を無理矢理に動かし、待っている春蘭に近づいていく

 

烈矢「……悪い、遅くなった」

 

そして、一応形だけでも頭を下げて謝罪する

 

どうせ怒られるのだろうが、それも仕方ない

 

怒られる覚悟の出来た俺は目を瞑ってお叱りを待った

 

 

 

……

 

 

 

…………

 

 

 

烈矢「…………?」

 

 

 

しかし、待てども待てども雷は落ちず

 

恐る恐る目を開けると―――目の前には

 

春蘭「〜〜〜〜〜っ」

 

怒るどころか

 

顔を真っ赤にして

 

恥ずかしそうに俯いている

 

春蘭がいた

 

烈矢「……えっ…あ……え?」

 

俺には何がなんだかわからなかった

 

何故、彼女は怒らないのか

 

何故、恥ずかしそうに俯くのか

 

ひたすらそんな疑問が頭を駆け巡る

 

何時もはとてつもなく理不尽なことで怒るくせに

 

何故か、待たせてしまった現状については怒った様子が見られない

 

まったくもって謎過ぎる

 

これが女心と言うものなのか……

 

一刀や兵衛だったらわかるのだろうか

 

こういう時、女性経験のない自分に腹が立つ

 

プレイボーイ―――とまでは言わないが……一刀や兵衛のように少なからず女性との交際経験をしとくべきだった

 

まぁ、こんなガラの悪い面だったから今まで女性と付き合ったことがない訳だから、したくても出来なかったと言うのが正しいのだろう……

 

 

 

自分で言ってて微妙に落ち込む

 

 

と、一応ない知恵絞ってどうでもいいことを混じえて考えてはみたものの、結局理由に見当が付かない俺は思い切って春蘭本人に聞くことにした

 

烈矢「……あ〜……あのよ…いくつか聞きたいことはあるんだが、まずは一つだけ―――何で怒ってないんだ?」

 

単刀直入に聞いてみる

 

自分で言っておいて何だが、言った内容のどストレートさに自分自身で呆れてしまう

 

本来ならば、それとなく聞くことが一般的であり正しいのだろう……

 

しかし、残念ながら俺にはそんな能力は備わってはいない

 

理由は簡単

 

『人間的に不器用過ぎた』からだ

 

今も―――

 

昔も―――

 

そして、そんな不器用な俺は不器用なりにしか目の前の春蘭と向き合えない

 

だけど、これが俺の精一杯の対応だ。これぐらいしか出来はしない

 

春蘭も俺の視線に気付いたのか、俯かせていた顔を上げると真っ赤にした顔のまま、真っ直ぐと俺のことを見つめてくる

 

その視線の真剣さに俺は先ほどまで居た喫茶店での秋蘭との会話を思い出す

 

何気ない雑談の中で店を後にしようと席を立った俺に秋蘭は真面目な顔でこう言った

 

 

 

秋蘭「……赤羽、恐らく待ち合わせ場所に行ったら姉者はお前に何かを伝えようとするだろう……何を伝えようとしているのかは私にもわからない。しかし、それがどのような内容であろうと、きっとそれは姉者の真剣な気持ちのはずだ。……だから、お前には姉者なりの精一杯のその気持ちを、そのけじめをしっかりと受け止めて欲しい。これから仲間として共にあるのだから姉者にとっても―――そして、お前にとっても必要な事だと私は思う。……だから、頼んだぞ」

 

 

 

―――と、

 

正直その時は秋蘭が何を言っているのかまるでわからなかったし、理解しようとも思わなかった

 

考えようともしなかった

 

だけど、今は違う

 

目の前の春蘭を見てようやくわかった

 

いや……わかったんじゃない

 

ようやく感づけたんだ

 

春蘭が何かを伝えようとしていることを……

 

そして、それが俺たちが今後共にいるために必要なことだと言う事を……

 

 

 

だから、俺は待った

 

彼女が話を始めるまで

 

彼女が気持ちを落ち着かせるまで

 

俺はただ、ただ彼女が口を開くのを待ち続けた

 

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そして、待ち続けた結果、ようやく春蘭は口を開いた

 

 

 

春蘭「あ、あ、あ、赤羽!!!」

 

緊張している彼女が俺の名を呼ぶ

 

烈矢「……何だ?」

 

だから俺は出来るだけ普通に、出来るだけ優しく応えた

そんな俺の雰囲気が伝わったのか、春蘭は一度大きく深呼吸をすると話を続けた

 

春蘭「……赤羽よ、私はお前にどうしても伝えたい事が―――いや……謝りたいことがあるんだ!!」

 

いきなりの申し出に驚きで目を丸くする俺

 

……謝ること?

 

何だ、それは

 

まるで心当たりがない

 

こいつは一体何を言ってるんだ

 

烈矢「……な、なに…を…言ってんだ?」

 

意外過ぎて言葉が上手く出てこない

まったく、だから人付き合いは苦手なんだ……

 

春蘭「……その様子を見ると、どうやらお前には思い当たることがない…と言うのだな?」

 

悲しげに問いかけてくる春蘭

 

……覚えてなくて悪いかよ?

 

春蘭「……ははっ、だけどな?それでも私にはお前に謝らなければならないことがあるのだ。あの時の決闘から今日までの間……寝ても覚めてもそのことばかり考えて、日に日に罪悪感だけが募るばかりだった」

 

……何かいきなり懺悔が始まったぞ?

自嘲気味に笑いながら、尚も春蘭の言葉は続く

 

春蘭「私はお前との決闘で色々な事を学ぶことが出来た。自身の人間的な未熟さ、人としての振る舞い……そして何より民に対する想いの軽さ―――数え出したらキリがないほどだ」

 

烈矢「はぁ……それならそれで良かったじゃないか。一体どこに謝るところがあるんだ?」

 

素直な疑問を投げかける

 

何故なら話が見えないから

 

今の話をまとめると―――要は『色々成長出来ました』ってことだろうが

 

だったら、それで良いじゃないか

 

何が嫌なんだ?

 

何が悲しいんだ?

 

何で謝りたいなんて思えるんだ?

 

全てが良い方向に向かっているなら、もうそれでこの話は終わりだろうが!

 

それで良いだろうが!!!

 

 

 

様々な疑問が頭をよぎる

 

しかし、そんな俺の疑問を、考えを全て否定するかのように春蘭は静かに首を振る

 

春蘭「……違うぞ、赤羽。お前は何もわかっていない。確かに『私』は成長出来た。……だけどな?だけどな、赤羽?」

 

繰り返し俺に語りかける春蘭

その目には薄っすらと涙が溜まっていて、ゆっくりとその綺麗な頬を流れ落ち―――

 

春蘭「私がそれらを手に入れた代わりに―――私はお前を『傷付けてしまった』」

 

―――心の底から悲しそうに俺の『額の十字傷』にそっと触れた

 

烈矢「!!!」

 

傷口を優しく撫でる様子から彼女がこのことで激しく悔やんでいることが容易にわかった

 

……違うな

 

『容易に』じゃない

 

『ようやく』わかったんだ

 

こいつは―――

 

春蘭は―――

 

数日前の俺との決闘から今日までの間、ずっと一人で―――

 

俺を傷付けたことに―――傷ついていたんだ

 

-11ページ-

 

―――

 

――――――

 

烈矢「―――で、それをいつまでも女々しく気にしていたってわけかよ?」

 

 

春蘭に対して辛辣に吐かれる俺の言葉

 

傍から見たら「…鬼畜か!」と思われるであろう、この発言

 

俺自身でもそう思う

 

そして、その酷い言葉を投げかけられた春蘭は……きっと更に傷ついただろう

 

だけど、不器用な俺にはこれしかやり方がわからない

 

下手な慰めの言葉を口にしたところで、俺みたいな奴の言葉ではきっと相手を傷つけるだけ…

 

だから…

 

だから……俺みたいな奴は口でアレコレ言うよりも―――こういう風に行動で……勢いで示した方が絶対に良いんだ

 

 

 

そんな想いを馳せながら、俺は春蘭の頭を―――優しく撫でた

 

 

 

春蘭「…………ふぇ?」

 

 

 

頭を撫でられた春蘭は涙で前が見えないからなのか、あまりの予想外過ぎる事態に頭が正常に働いていないからなのか、子供のような声を口にする

 

不覚にも涙で潤んだ表情でそんな声で上目遣いに見上げられたことで、俺は周囲から見ても分かるほどに赤面してしまった

 

そして、赤面した俺の顔を見て道行く人達はクスクスと笑う

 

……正直、全員ぶっ殺したくなった

 

だが、今はそんなことをするわけにもいかず、未だに現状を理解出来ていない目の前の馬鹿っ娘に俺は再び声をかける

 

 

烈矢「……確かに!俺はお前に傷付けられた。それは否定しようのない事実だ。この額の傷だって、恐らく一生消えることはないだろう―――」

 

俺の言葉に春蘭がまたも俯く

 

しかし、そんな春蘭に構わず、俺は尚も話を続ける

 

烈矢「―――でも……だからってそれが何だっつーんだよ!!」

 

俺の怒声に春蘭がハッと顔を上げる

 

春蘭「……え?」

 

烈矢「聞こえなかったのか?なら、もう一度言ってやる!『それがどうした』!?俺は確かに傷ついたよ!お前との決闘で!!でもそれは『体』に限っての事だ!『心』が傷ついたわけじゃねぇ!!それを勝手に『赤羽烈矢、只今傷心中!!』みたいに言いやがって!!勝手に話を進めんな、この馬鹿娘が!!」

 

いきなりの俺のキレっぷりに目の前の春蘭、そして後にいる秋蘭は驚きのあまり目を見開く

 

春蘭「だ、だって!お前は傷付けた私のことが嫌いなんだろう!?憎んでいるんだろう!?だからいつも私に対して冷たく―――」

 

何言ってんの、こいつ!?

 

烈矢「誰が嫌ってるなんて言ったんだ、この馬鹿!嫌ってんなら誰がお前の鍛錬なんかに付き合うっつーんだよ!!嫌ならシカトするに決まってんだろ!?それに冷たくしたって何時のこと言ってんだ、お前は!反省会のこと言ってるんだったら、あれは完全にお前の言い分がおかしいんだよ!!気付けよ、この馬鹿!!!」

 

もう、マジで馬鹿だな、こいつ!!

 

春蘭「なっ!?じゃ、じゃあ……いつも話の途中で『顔を真っ赤にして』私から目を逸らすアレは何だ!!あんなのどう見ても私のことを嫌ってるとしか思えないだろうが!?」

 

烈矢「―――っ!」

 

秋蘭「…………」

 

春蘭「ほ、ほらな!図星だから何も言い返せないんだろ!?……私のことが嫌いだから、私のことが憎いから!だからお前は私から目を逸らすんだろ!?」

 

烈矢「……違う」

 

春蘭「何が違うんだ!?全部本当のことだろう!!その弱気な態度が良い証拠―――」

 

烈矢「違うって言ってんだろうが!!!!」

 

春蘭「―――っ!」

 

 

俺の二度目の怒声に場は凍りつく

 

何でこんなことになるんだよ

 

本当なら仲良くしたかったのに…

 

結局、全部俺がいい加減な態度をとったせいだってことかよ

 

上等だよ

 

言ってやろうじゃねぇか、本当のこと

 

 

 

そして、俺は本当のことを口にした

 

-12ページ-

 

 

春蘭「はぁああああああああ!?」

 

 

 

春蘭の声が街の中に木霊する

 

 

 

春蘭「じゃ、じゃあ…あれか?お前が今まで私や華琳さま達から目を逸らしていたのは……その―――『女が苦手だから』というくだらない理由のためだったと言うのか!?」

 

…随分な言い草だな、こいつ

事実とはいえもう少し言葉を選べよ、マジで……

軽く傷付きそうだよ、クソめ!!

 

烈矢「ああ、そうだよ……悪いか、この野郎」

 

悪態を吐くことをくらいしか出来ない俺

 

正直、凄い情けない

 

春蘭「悪いに決まってるだろうが!それを知らなかったがために私がどれだけ―――」

 

秋蘭「―――姉者、そのくらいにしてやれ。姉者が本当に言いたい事はそんなことじゃないんだろ?」

 

理由を知った春蘭にひたすら責められていると、今まで傍観を決め込んでいた秋蘭がいきなり口を挟んできた

 

春蘭「しゅ、秋蘭!?」

 

秋蘭「ふふっ……誤解も解けたのだから、そろそろ『あれ』を赤羽に渡しても良い頃じゃないか?」

 

春蘭「秋蘭!!!」

 

秋蘭「はははっ!わかった、わかった。それじゃ後は姉者に任せて私は先に帰るとするよ……精々頑張れ」

 

 

 

そう言って、秋蘭は俺達二人を残して城へと帰っていった

 

-13ページ-

 

烈矢「……帰りやがったぞ、あいつ」

 

春蘭「……そうだな」

 

烈矢「さっき秋蘭が言ってた―――『渡したい物』って……何だよ?」

 

春蘭「ええ!?いや…あの……えと…その……」

 

明らかな動揺を見せる春蘭

すると春蘭の背中越しに何かが揺れるのが目に入った

 

烈矢「……もしかして、俺に『渡したい物』って―――その背中に隠している包みのことか?」

 

何となくそんな気がしたから一応確認のため、指摘してみる

 

春蘭「え……あっ!!〜〜〜〜〜っ///」

 

あからさまに恥ずかしそうに俯いた

 

……どうやら、ビンゴのようだな

 

 

俺の勘が珍しく当たったことに自分自身で感心していると―――

 

 

 

春蘭「……あ、赤羽!!あの……これを受け取れ!!」

 

 

 

いきなり目の前にさっきの包みを突きつけられた

 

恐る恐る手渡された包みを開けてみると―――

 

烈矢「こ、これって……」

 

―――中には一本の『包丁』が入っていた

 

烈矢「春蘭……この包丁は?」

 

贈り物の中身が包丁だったことに驚きを隠せない俺に対して春蘭はもじもじと動いて俺から視線を外して質問の問いにぼそぼそと答える

 

春蘭「見ればわかるだろう、包丁だ。折角謝罪するのだから出来れば何か贈り物がしたいと思ったんだ。……お前は何時も料理を楽しそうに作ってくれるから、料理に関係する物を贈れば喜ぶんじゃないかと思って…な」

 

烈矢「それで……わざわざ謝る為に鍛冶屋で俺専用の包丁を頼んでくれたってことなのか?」

 

春蘭「…………うん」

 

弱々しく頷く春蘭

 

やばい……

 

嬉しすぎて泣きそうになる

 

俺は泣きそうになるのを耐えるために顔を上に向けて空を仰ぐ

 

何時もの強気な態度とは似ても似つかない彼女のその表情に

 

俺は心に小さな幸せが生まれるのを感じた

 

一体この気持ちをどうやって春蘭に伝えればいいのだろう

 

普通に感謝?

 

抱きしめる?

 

どれを選んだところで彼女を傷つけてしまうのではと心配になる

 

不安になる

 

だけど……伝えたい

 

この気持ちを

 

俺の精一杯の感謝の気持ちを彼女に伝えたい

 

 

 

だから、俺は出来る限りの精一杯の笑顔を向けた

 

少しでも…

 

この気持ちの十分の一でも彼女に伝えられるように

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

烈矢「……ありがとう」

 

 

 

 

 

-14ページ-

 

 

あとがき

 

 

 

 

ようやく卒論が終わった!!

 

 

 

この拠点話に並列で終わらした卒論

 

 

 

正直、後半の内容がイミフという人が多数いると思われますが

 

 

まぁ、そこは適当に流すか、オブラートに包んでコメしてくれれば嬉しいです

 

 

ちなみに今回一番の不安は烈矢の内心とか春蘭、秋蘭の気持ちとか

 

 

恋愛未満?みたいなところが全然上手くいかなかったので

 

 

呼んでくださる方々には「う〜ん」というものだったと思います

 

 

そこのところはご勘弁下さい

 

 

 

 

ということで、次回はまた一刀のところに戻ります

 

 

予想していると思いますが、公孫賛とか趙雲出します。

 

 

予想出来すぎてつまらないと思うかもしれませんが、何卒宜しくお願いします

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
卒論も終り、ようやく少し自分の時間が出来るようになりました。
自己満のこの小説にかけられる時間が増えた事に嬉しさを感じます
前回からだいぶ時間がかかりましたが、それでも見てくださる方がいれば幸いです
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コメント
一輝 様 コメントありがとうございます! 二人の不器用さが少しでも伝わったのなら大変喜ばしく思います。今後とも宜しくお願いします(勇心)
更新お疲れ様です。春蘭と烈矢の不器用な感じが伝わって楽しく読ませていただきました。これからも頑張ってください。(一輝)
きたさん様 コメントありがとうございます! 二人の不器用だからこそ起きた今回の拠点話。少しでも楽しめていただけたら幸いです(勇心)
春蘭も烈矢も不器用すぎて・・・いいね!(きたさん)
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