双子物語-33話-
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【春花視点】

 

 いつものように授業で受けるノートや教科書を用意していると、隣からナンパみたいに

声をかけてくる男子が一人。それは積極的に声をかけてはくるが、話の途中でナヨナヨ

してくる、典型的ダメパターンな植草大地だった。最近は部活を覗きにくる女子たちに

色々と目移りしているらしい。優柔不断というか、なんというか。

 

「ねぇ、春花・・・」

「なによ・・・」

 

 気まずいと言わんばかりに目を泳がせながら恐る恐る私に声をかける大地くん。

野球部のエース張ってるような人がそんな弱腰なのが余計に私をイラつかせるのだが。

 

「女の子紹介して」

「は?」

 

 はっきり言って欲しいと思ったが、女子にその頼みごとはどうなんだろうと思いつつ。

内容が内容だけに答えづらく反応しないと、大地くんが更なる言葉を足してきた。

 

「元気で、優しくて、包容力のある人がいいな」

「理想高すぎだろ!夢みるなよ!」

 

 私は思わず立ち上がって大地くんをにらみつけると、おどおどしていた大地くんの

表情が少し真顔になって私を見据えていた。

 

「だってさ、その理想が彩菜だったんだけど。春花に取られちゃったじゃん。女の子同士

なのに・・・」

「うん、気持ちはわからなくもないけど、喧嘩売ってるって解釈でいいかしら?」

 

 差別的なナニカとまるで私と彩菜が釣り合わないって言われてるみたいで非常に

むかついた。そんな私は拳をグッと力を込めて持ち上げると慌てて大地くんは言葉を訂正

した。私の反応を見てからの態度だったので尚更、悪意しか感じないのだが。

 

「ごめんごめん。で、俺エースなのにモテないわけよ。なかなか自分から話しかけに

いけるタイプじゃないし。だから紹介してもらおうと・・・」

「あんた・・・。チャラい格好してる割にはそういうとこでチキンなのよね〜」

 

「なっ・・・!それは春花や彩菜にあわせた結果じゃないか」

「別に合せてなんて言ってませんよ」

 

「くっ・・・ひどい」

「ほんとに情けない男だなぁ」

 

 本気で泣きそうなので、私はもう一度椅子に座って考えてみる。とはいえ、私も

心当たりのある友達は少ない。というか、いない。話し友達はいても、いつも

彩菜ばかりに気が行ってしまうのでそういう気軽な関係な子が・・・。

 

 その瞬間、私の心の中で黒い何かが溢れてきた。そうだ、あの人にしよう。

そうすれば私と彩菜はずっと恋人確定のまま。

 

「ふ、ふふふ・・・」

「こ、怖いよ・・・」

 

 私の黒い笑みを見た大地くんは青ざめた表情で生まれたての小鹿のように

プルプル震えながら呟いていた。だがそんなウザい反応など今の私にはどうでも

よくなるほど閃いたのだった。

 

 その前には彩菜の説得を確実に成功しなくてはならないのだが。どういう風に

言うかを考えているうちに、大地くんの頼みごと所か授業の内容ですらほとんど

頭に入らなかったという。

 

「何をやってるんだか、私は」

 

 そう自分にツッコミつつ、以降自分の立場に関わってくる問題だからないがしろには

できない。なにしろ、勉強よりも大事なことなのだ。いや、勉強も大事だけど。

成績が悪いと強制的に連れ戻されるし。その大変な両立には逆にやってやろうじゃない、

という意気込みを呼び起こし私のテンションは一人で勝手に最高潮に達していたのだった。

 

 その後に部活中の大地くんを呼び出して心当たりがあるから話してみるという話を

持ちかけると、部活中のために大きくは喜べない大地くんに私からは更に

釘を刺しておいた。過度な期待はしないようにって。表面上は浮つきながら頷いて

いるが、おそらく私の言葉を聞いていないことはわかった。

 まぁ、私も似たようなものだし、嘘も言ってないし。伝えたことは確かだから

そのまま私は一人で帰宅したのだった。本当は彩菜と帰りたかったが、授業が終わると

早々に私の元に来て、菜々子さんからの用事があるといわれたので、じゃあ仕方ない。

という流れに行き着いたのだった。

 

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 久しぶりの一人帰宅。そういえば最近はよくマンションまで送っていってくれてるな。

前なんて、誰が頼んでも面倒そうにしていたのに。でも、それは私にとって嬉しいこと

なのだ。だって、好きな人と少しでも長くいられるのだから。

 

 そんな、嬉しい時間の中。ちょっと薄暗いからって変な男から声をかけられた。

昔から使い古された誘い文句で近づいてくる、スーツ姿のサラリーマンのおじさんだ。

 

「お嬢ちゃん、欲しいものあるでしょう。買ってあげるからおじさんと良いことしないか」

「いえ、けっこうです。間に合ってますので」

「いいからいいから」

 

 私をその辺の一般市民と間違えたおじさんは運がなかったといえる。強引にも私の腕を

取った瞬間、私とおじさんの間に割って入る一つの影。パンッと静電気が走ったような

衝撃の後、私だけが見知った姿の全身黒スーツずくめの紳士的な人に助けられた。

 

「な、なんだ。お前は・・・!」

「こちらこそ、何なんでしょうね。キサマ程度の輩がお嬢様に触れたことへの

憤りをどうしてくれますか・・・」

 

「なっ・・・!」

「その行為・・・!万死に値する!!」

 

 刹那、全身スーツの人の身長を超える回し蹴りが放たれ、ちょうどおじさんの側頭部に

痛烈にヒットした。おじさんは悲鳴を上げる間もなく気を失って倒れた。

 そして、黒ずくめの人は私の前に跪いて謝礼をしてきたのだ。そう、一見小柄な男性に

見える彼女は、小さい頃から私を見守ってくれているお父様が雇った方だった。

 

「お嬢様、あのようなものを近づかせ、申し訳ありませんでした!」

「いいわよ、顔を上げなさい。朋・・・」

 

 朝倉朋。30歳。私の警護や小さい頃は勉強も教えてくれた王子様みたいなお姉さん。

綺麗な艶のある黒髪や凛々しい目じりに瞳は時折、私もどきっとするほどかっこよく

感じるときがある。青春を味わうこともなく、ずっとウチで働いてばかり。

 

 ここ最近は可哀想に思えてくるばかりで、自由にさせてあげたい時もあった。

 

「また・・・。お嬢様にそんな顔をさせてしまって・・・。私ったら何をしてるんだか」

「あっ、今のは別に」

 

「・・・」

「あのね、朋。私はとても嬉しいのだけど、貴女にはやりたいことをやらせてあげたい」

 

「お嬢様。私にとって、それは役に立たないから首を刎ねるのと同じことですよ」

「朋・・・」

 

「お嬢様は昔からお優しいのはわかります。でも、私の気持ちも理解してもらいたい。

全ての物事を常識という物差しで測らないでください」

「あっ・・・」

 

 それは私達も同じことが言えるのだ。常識から外れた人生を歩んでいたからって

幸せではないわけがないのだ。ずっと私に付き添っていて、縛られていた感覚が

あったから、勝手に哀れんでいたのか。最低だ、私は。

 

「あっと・・・。ちょっと言い過ぎました」

「いいのよ、朋」

 

「お嬢様。これだけは言っておきますね。私はこれが犠牲とは思いませんよ。すごく

誇り高く感じるし、愛するお嬢様のためなら何だっていたします」

「貴女が言うと本当に何でもしそうで怖いから頼めないのよ」

 

 表では自由にしてるとされている私だが、いつもこうやって視察の目が入っている。

いつ何が起こっても無事でいられるように、私だけ守られているのだ。それは昔の私には

当たり前のように聞かされていて、でも友達のいなかった私にはもっと彼女には砕けて

接してもらいたかった。そうしたら、あるいは・・・彼女のことを好きになっていた

かもしれなかったのだ。

 

「では、ここらで私はお暇させていただきます!」

「早いな。朋、もう少しおしゃべりを・・・」

 

「お嬢様最後に一つ。もうお年頃なのですから動物モノのプリントパンツは処分

した方がよろしいかと」

「・・・!よ、余計なお世話よ!!」

 

「では、失礼いたします」

 

 そういうとまるで忍者のようにすばやく走って私の視界から去っていった。

その運動能力たるや、オリンピック関係者が羨むほどだと思われる。こんなに生真面目で

優しい従者がいることを私はもっと普段から感謝をしないといけないんだろうなぁって

思いつつも、他の事ですっかり忘れてしまうのだから罪深い話である。

 

 目の前から消えつつも、気配だけは私がマンションの部屋の中まで入るまで感じる

ことはできた。律儀にも仕事は最後までやるらしい。でもそれだったら、ちゃんと私を

送っていってくれればいいんじゃないかと思うが、それは彼女の美的感覚の何か

なのかもしれないし、安全でいられる限り私がどうこう言うこともでもないのだ。

 

 一人暮らしだから当たり前なのだが、部屋の中は真っ暗で私は玄関の傍にある

スイッチを押して灯りをつける。料理するのが面倒だからいつもはコンビニの

お弁当とか買ってるんだけど、色々あって忘れてしまった。仕方ない、今は食パン

しかないから、トーストしてバター塗ってコーヒーと一緒に胃袋へ流し込む。

 

 その時、ふと楽しそうに食卓を囲んで暖かい料理を美味しそうに頬張る雪乃や

彩菜のことを思い出して、私は少し寂しい気持ちでいた。私も親も他の関係者も

そうだが、食事は飢えない程度に、栄養を偏らない程度に摂取することだけを

考えてればいいと思っていたが、また久しぶりに澤田家でご馳走になりたいなと

ぼ〜っとしながら考えていた。

 

 明日もあることだし、大地と先輩をぶつけるためにも、色々案を練りながら

寝ることをにした。そうしたら、寂しさの気持ちが残っていたのか。

その夜は彩菜たちの家族とで楽しい夢が見れたような気がした。

これが、自分の家族じゃない所が現実味が強くて切なくなるのであった。

 

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 翌日の登校途中で彩菜が通る道で待っていると、私を見て驚く様子もなく自然に挨拶を

してくる彩菜。そこで学校へ辿りつく前に説明をしてしまおうと思っていた。それは

学校に着くと先輩が待ち伏せるようにここ最近、校門近くにいるために着いたら本人の

前で私が持ちかける話をしてしまうことになる。そうなると、本人はその場で拒絶。

ある程度、勝手に進めておかないと強引に持っていけないからである。

 

 それで彩菜を誤魔化せるかというと、前の雪乃の件でいざというときの判断に自信を

失いかけているから「先輩のため」とか言って後押しすれば大抵は押し切れるという

寸法である。私が一日かけて説得の内容をまとめたものを演技を交えながら語ると

徐々に彩菜の表情が曇り、どこか犬が困ったような顔と言うとイメージしやすいだろうか。

そのような表情を私に迎えて目でどうしようと訴えかけてくる。

 

 もう、その時点ですごく可愛いのだが、私は心を鬼にして最後の仕上げを彩菜に

伝えた。

 

「先輩のためだよ。このまま3人で付き合えるわけもないし、もし先輩がその気に

なってくれたら丸く収まるじゃない。私は彩菜以外だめだし、ダメでもともとという

気持ちで考えれば大丈夫よ」

「そうかなぁ・・・」

 

 自信なさげな疑問系の言葉に持っていくのは大抵、ほとんど肯定してると取っても

いいだろう。私はすごい笑顔で頷くと彩菜は少し不審そうな眼差しで私を見るが

一切動じることなく彩菜を見つめ返した。

 

「しょうがないなぁ」

 

 この言葉を待っていた。この言葉を持って、先輩と交渉することにすれば彩菜の

言うことだから、そうそう断れなくなるだろう。その展開を望みながら練ってきた

内容である。多少黒いと思われても、私は自分の幸せのために、他の女を男子と

くっつけようとするのは躊躇いはない。それに、本当に相性がよければ、それはそれで

ハッピーエンドなんだから、と自分に言い聞かせた。本当に、今の世の中は同性よりも

異性同士の方が住みやすいのだから。

 

 そんな話をしながら思考を巡らせている内に校門前へとたどり着いた。そこには案の定

彩菜を探してる先輩の姿があった。先輩は私の姿を捉えると、とてとてと、小走りで

近づいてきた。私の傍に彩菜がいると考えたのだろうか。よくわかっているな。

 

 目があってからだったから一瞬、私に向かってきたのかと錯覚したがすぐに彩菜に

飛びついてきたのを見て理解した。いや、その前から理解はしていたのだが。

私は何を期待していたのだろう・・・。

 

 余計なことは考えていないで私は先輩の腕を掴んで引き寄せた。

 

「・・・なに?」

「ちょっと、話があるんですけど」

「あやなと・・・」

「いいから!」

 

 3人の距離感がほぼ同じ様にして互いを見合える三角形みたいな形で

向かい合う。そして、黙る彩菜を不思議そうな表情を浮かべて首を傾げる先輩。

あざとく感じるけど、彼女は天然でそういう仕草してるんだろうなって思えた。

 

 で、さっそく話を始めようとした途端に嫌がる素振りを示す先輩。どうやら

私がよからぬ企みをしていると直感的に感じているのだろう。こういうタイプは

嫌だと思ったら話も聞かずに話を打ち切る可能性が高い。

 

「こんなに嫌ならやっぱ止めようよ、春花」

「一度決めたことをそんなすぐに曲げようとするから、雪乃に見限られるんでしょ」

「うぐぅ・・・」

 

 雪乃の話を持ち出すと古傷が痛むのを知っての言葉。さすがに罪悪感はあるが

それとこれとは別である。構わずに彩菜の名前を持ち出して再度交渉を始める。

先輩に紹介したい人がいると、持ち出して試しでいいからと、せめての逃げ口を

用意してあげる。そこで無理やりくっつけようとするほど私は鬼ではない。

 

 彩菜の名前を出すと先輩はあんなに頑なだった嫌がり方を緩めて話を聞き始める。

そうしてから、少し考えた後に渋々了承するような仕草をした。そのときの表情は

まるでいじめられてる子犬のようで私はなんだか胸が痛かったが、そこは強引に

忘れようと心がける。

 

 話の内容は連休に入る今週内で彩菜と私の昔からの付き合いの大地くんと

デートとまでは言わずに遊んでおいでという言い回しにする。おそらく慣れない言葉を

使って不安を煽るよりは聞きやすい言葉で説明した方がいいと判断した。彩菜も

フォローしたつもりなのか、大地は悪い人間じゃないから大丈夫だよ、っていうから

すぐに先輩は頷いて了承していた。

 

 行き先や合流場所は本人同士で決めて欲しかったが、この話をする前日に大地くんから

情けない声を上げて、電話で相談してきた。携帯を耳に当てベッドで横になりながら

適当に決めていったら大地くんから、当日までの流れを頼んできたのだ。

そういうことは自分でやれといいたかったが、それまでにヘマされて、このチャンスを

なかったことにされるのも嫌だったので、仕方なく受けることにしたのだった。

 

 こうして先輩が頷いたのもあって、すんなりこの計画は決まったのだった。

朝っぱらから校門前でワケアリ3人組が集っていてそこそこ注目されていたが、

予鈴のチャイムが鳴り響いて私達は我に戻り、慌ててそれぞれの教室へと

小走りに向かうのであった。

 

 教室に入ってから最初の授業が終わり休み時間にそわそわしながら大地くんは

私の様子を見に来ていたから私は指でOKサインを送ると、いそいそと近寄ってきた。

 

「先輩だけどいいかな。ちょっと無口だけど」

「いいよ、いいよ。ありがとう〜」

 

 どんな人かもよく知らない内に喜んじゃってまぁ。そんなことは気にせずに私は

先輩に言った内容の言葉を大地くんにも伝えておいた。きっちり伝えると不安そうな

楽しみなような、複雑な表情を浮かべる大地くん。未だそわそわして女々しいにも

ほどがあるというか。そんな姿を見て昔の私が彩菜に対して同じことをしているのかと

思うと苦笑いがこみ上げてきた。

 

 時間は気づけば早いもので、カレンダーを見るともうお出かけの前日になっていた。

ベッドの上からカレンダーを見ているとインターホンの音が鳴り響き、ドアを開けると

不安そうな彩菜が目の前に現れた。ちょっ、来るなら来るであらかじめ連絡をして

欲しかった。部屋着のまんまでしかも超乱れていたから私は本人の前で手櫛やなんやで

混乱しながらも、彩菜を部屋に招いた。

 

 そういえば彩菜がここに来るのは本当に久しぶりじゃないだろうか。片手で数えられる

ほどの回数しかないだろう。どういう気分の変化だろうか、わくわくしていたら、

どうやら明日の大地くんと先輩とのデートに関することらしい、一気に私のテンションも

下がり、ドキドキもなくなっていた。

 

「で、なによ」

 

 半ばヤケな言い回しで彩菜に言葉を引き出させようとしていたら、思わぬ言葉が

悩んでいる彩菜の口から飛び出してきたのだ。

 

「明日、私達も行こうよ・・・。その明日先輩が行く遊園地に」

「え・・・!?」

 

 そこまで真剣になるのは想定外で私はこれからどうなるのか、別の意味でドキドキが

止まらなかったのだった。

 

説明
【彩菜編】春花視点での、彩菜の周りにうろつく先輩への処分を
どうするかの話。とはいえ、彼女も丸くなって随分平和な考え方に
なりました。
ここで久しぶりの幼馴染も登場しますし、どうなることやら
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