Aの悲劇 2話 僕とお茶 |
突発的な衝撃,不自然な体勢.それらが僕の呼吸を乱すのは何の造作もないことだ.しかし目の前にいる全身黒の女性は中肉中背の僕を引っ張り上げておいて,全く疲れた様子を見せない.そんな事に気を向けている僕に向かい,まるで子供が転んで擦り傷をした時に心配する母親のように声をかけた.
「大丈夫?」
「ハァ・・・ハァ・・・だ大丈夫です・・・助かりました・・・」
「そう,良かった.」
女性は安心すると崩れ落ちたフェンスに目をやった.
フェンスはちょうどアパートの扉の幅くらい崩れ落ちていた.ただ気になるのはアパートのそんなに古くない見かけに反し,何故かこの部分だけ腐食が進んでいるという事だ.
「このフェンス前々から直さなきゃと思ってたのよねぇ.」
「は,はぁ.」
それにしても少し落ち着いてみれば,この女性・・・顔は端正に整っており,なかなか美人だ.ロングワンピースでよく分からないが,おそらくスタイルもなかなか・・・うん,話が逸れた.とりあえず年はそんなに離れていないように見える.
僕の視線に気がついたのか,女性はこちらを振り返る.
「アタシがどうかした?」
「あっ・・・いえ,その・・・ゲホっ.」
僕は目をそらし,ごまかしついでに咳ばらいをした.
「大丈夫?お茶でも飲んで休む?」
「いえ・・・大丈夫です.」
「そう?その手に持ってるハス餅お茶と一緒に食べたらおいしいと思うけどなぁ.」
(・・・何だこの人・・・助けてもらったとはいえ,初対面なのになんだか馴れ馴れしいような・・・でも良い人みたいだ.)
「あー・・・では是非.」
「うん!お茶には甘いお菓子だよー.さっ,ついてきてー」
そういうと彼女はくるっと向きをかえて奥の階段へ向かった.
僕も立ち上がり彼女についていく.
「さっここがマイホーム!」
「・・・はぁ」
なぜだろう,見かけに反して妙に明るい・・・というかテンションの高い人だ.
「さ,入った入ったー.ごゆるりくつろぎなー.」
彼女に連れてこられたのは1階の隅の部屋.中はシンプル・・・というか・・・無個性的?部屋の中心にローテーブルがあり,それを挟むように1人用ソファが2脚置いてあるだけの非常に簡素な部屋だ.
「失礼します・・・」
僕はソファに腰をかけ,一息つくと,手提げ袋からハス餅の箱を取り出した.
女性はお茶を準備している様で,キッチンから声が聞こえた.
「君,今日からここで暮らす安藤エイジ君だっけ?」
「え?はい,そうですが何故自分の名前を?」
そう聞くと女性はお盆をもって部屋に入ってきた.そして湯呑をローテーブルに置くとこう答えた.
「アタシが大家の難波サヤコです,よろしくね,エイジ君!」
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この作品(?)は以前ひまZineというSNSに投稿してたものを,設定をそのままに大幅に内容を変更して書いています.もっとも,そのサイトいまは潰れちゃったんですけどね・・・ | ||
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