妹紅のバレンタイン |
2月14日はバレンタインデーと言うらしい。
なんでも好きな人にちょこれーとなる物をあげるイベントだ、と輝夜が言っていた。
それは月の都だけではなくどうやら外の世界でのイベントなんだとか。
しかしなぜそんな素敵なイベントがこの幻想郷で流行らないのかと言うと、元々この幻想郷には原料となるかかお豆ってものが栽培できないのが原因だそうだ。
あのグルメで有名な西行寺幽々子でさえ食べたことがないものがこの幻想郷にあるわけがない。
だが外のせかいならばどうだろうか。 ちょこれーとが多く売られているに違いない。
そう思った私、藤原妹紅はあるところに向かっている。 そこは幻想郷の賢者の一人・八雲紫の自宅だ。
彼女の能力があればここと外の世界に自由に行き来できる。
ということは簡単にちょこれーとが手に入る!! そして慧音にちょこれーとを渡して喜んでもらうのだ。
なぜ里の皆はこの考えに行き着かなかったのかと思うと何だか優越感に浸っているような感じがした。
しかしだな。
「ここはどこなんだ?」
幻想郷はあまり広くなかったはずだから八雲紫の住居も何とかなるだろうと思っていたのだが、どうやらそうでもなかったらしい。
初めて見る場所だな。
「時間があまりないのに・・・。これじゃあ慧音にちょこれーとが渡せないじゃないか!!」
流石にこのままだとまずい。 何か八雲紫に関する情報を集めないと。
そう思った私は一先ず博麗神社へと向かった。
「はぁ?紫に関する情報?」
「ああ、何でもいいんだ。とにかく教えてくれ!! 主に住んでいる場所を中心に頼む!!」
霊夢は箒を肩に担ぎながら何かを思い出していた。
「そうねぇ。紫の家なんて2回位しか行ったことないわよ。」
「本当か!!場所を知っているのか!?」
一番最初に訪れた博麗神社で有益な情報を獲れるとは!! これはツイてるんじゃないか私!!
なんだか昂ってきた!!
「いや、知らないわよ。」
私の昂っていた感情は一瞬で冷めた。
「どういうことなの・・・。」
言っている事が矛盾しているから何だか混乱してくる。
「私は確かに紫の家に言ったけど、2回とも紫のスキマを利用して行ったから道なんて見てないのよ。」
なんということだ。 霊夢たちは八雲紫の能力を使用していたなんて。
「だから私じゃあんたの力にはなれないわ。悪いわね。」
「気にしないでくれ霊夢。元々私が押しかけてきたんだからな。 他には何か知らないか?」
「普段あんたは紫の事に興味を持ったことはあるの?」
「ないな。」
「そういうことよ。私も興味はないの。」
霊夢がこれ以上知らないといったなら仕方ない。
「ありがとう霊夢。お礼といては何だが賽銭だけでも入れさせてくれ。」
そう言いながら賽銭箱に小銭を投げ込む。 全部で500円位か。
すると霊夢は直ぐに賽銭箱の蓋を取り、中身を回収していた。
「・・・ぐすっ。 ひっぐ・・・。」
「な泣くなよ霊夢。足りないんならまだ出してやるからさ。」
「あびがどう・・・。」
その後なんやかんやで3000円位消費したが、霊夢が泣き止んだのを確認した私は次の場所へ向かうことにした。
八雲紫は稗田阿求と友人だそうだ。
この時間帯なら阿求は散歩しているはずだ。 そこを探し当てよう。
「いつもこのへんで見かけるんだけど・・・。今日は来ないのかな・・・。」
辺を探し始めて5分後。
「おっ。」
上品な着物を着て頭に花の髪飾りを付けて歩いている少女。
「やっと見つけた。お〜い、阿求〜。」
私の声に反応して振り向いて手を振ってくれる。 彼女が稗田阿求。
幻想郷の出来事を一つ一つ記録している凄い奴。 私より年下でちっちゃいのに大人びていてしっかりしている凄い奴。
「こんにちは妹紅さん〜。」
丁寧な挨拶をしながら近づいてきてくれる。
「こんにちは阿求。」
「こんなところで会うなんて偶然ですね〜。お散歩ですか?」
「いや、今日は阿求に会いたくてさ、探していたところなんだよ。」
阿求は顔を赤らめながら笑っていた。 少し言い方が変だったかな?
「それで私に何か用でもありましたか?」
「ああそれがだな・・・。」
私はできるだけわかり易く説明することを心がけた。 どうも私の話し方は下手らしい。
「なるほど。それで紫と親しい私に情報を。」
「そうなんだよ。できれば八雲紫の住んでいるところを教えて欲しいんだよ。」
私たちはすぐ近くの団子屋で休みながら会話をしている。 ここのみたらし団子は阿求曰く美味いらしい。
確かに美味いが私の欲しい情報はそれではない。
「そうですね〜。紫はいつも私のところに来てるから私は紫の家に行ったことがないんですよ〜。」
「そうか〜。阿求もだめかー。」
私は背もたれにもたれ掛かりながら溜息をつく。 阿求は「ごめんなさい。」と言っていたがとんでもない。
だが情報収集は上手くいかないらしい。 正直八雲紫には式神の八雲藍がいることは知っているし、何度か里で見かけている。
ていうか喋った。 中々いい奴だったことだけ覚えているのだが、どっちに行ったかは覚えていない。
その後も阿求が色々教えてはくれたものの、これと言って私の欲しい情報は無かった。 その話の内容はどちらかと言えば思い出話に近かった。
分かったことは阿求が八雲紫を慕っていることだ。 余程仲がいいのだろうな。
「それじゃあ私は行くよ。引き止めて悪かったね。」
「そんなことなかったですよ〜。私も楽しかったです。」
私が勘定を済ませようかと思ったら店のおばあちゃんが
「勘定ならあそこの巫女さんが払ってくれたわよ。」
としわくちゃの指を向かいの方を指していた。
「あら奇遇ね。」
そこにいたのはなんと博麗霊夢だった。
霊夢は団子の串を銜えながら器用にお茶を飲んでいた。
「なんでお前がここにいるんだよ?」
「何だっていいじゃない。私がここにいたらおかしいの?」
「そんなことはないが・・・。」
「あ〜、霊夢さん。ご機嫌よう〜。」
「あら阿求じゃない。久しぶりー。」
相変わらず阿求はマイペースだな。 そして霊夢は早速何か買い物に来ていたみたいだな。
「で?妹紅。何か紫についてわかったの?」
「いんや、全く収穫なしだ。」
霊夢に阿求がダメとなると候補は鬼の伊吹萃香と冥界に住んでいる西行寺幽々子か。
「まぁ紫なんてそんな感じだからね〜。」
「そうですね。全くつかみどころがないですからね〜。」
霊夢は「そうそう。」と相槌を打ちながら立ち上がる。
「そう言っても何も始まらないからな。私は別の所を当たってくるよ。勘定ありがとうな。」
「待ちなさい!!」
周りの空気が止まった感じがした。私が振り返ると真剣な表情の霊夢がいた。
私と戦った時でさえあんな顔してなかったのに。
「あんたがこれ以上動き回る必要はないわ。」
「はぁ?」
口を開いたと思ったら何を言い出すんだこの巫女は。
「あの霊夢さん。それは一体どういうことですか?」
阿求が私が言うより先におずおずと訳を聞いた。
「そのままのとおりよ。紫はここにいる。」
霊夢が言った言葉を瞬時に理解し、周りを見渡してみるがその姿はない。
阿求も店の中を見てきたが「居ないです〜。」と言いながらこっちを見ているだけだった。
「おい霊夢。八雲紫はどこにいるんだ?」
「今呼ぶわ。紫、そこにいるのは分かってんだからさっさと出てきたらどうなの?」
霊夢は誰も座っていない長椅子の方に声をかける。
すると「あらいやだ。バレてないと思ったのに。」と言う声が聞こえたと思ったらその空間に線が入り、ぐにょんと音を出しながら空間に穴があいた。
そこから人が出てくる。背の高い、金髪の、派手な服を着た、そんな人物を私は探していた。
「八雲紫・・・。」
ポツリと呟く。ようやく見つけた。
「紫〜お久しぶり〜。」
「あら阿求じゃない。久しぶりね。」
阿求が挨拶したのを確認し、私も挨拶をする。
「こんにちは。八雲紫。」
私の声に反応しこっちの方を見る。
「あら、あなたは・・・。」
「藤原妹紅だ。永夜異変の時に会ったことがあるだろ。」
「ちゃんと覚えているわよ藤原妹紅。」
八雲紫はニコッと私に微笑みかけてきた。どうやら覚えてくれていたらしい。
「ところで霊夢さんはいつから紫のことに気がついていたんですか?」
阿求が紫の隣に座って質問を投げかける。 確かにそれは私も気になる。
「最初からよ。」
「「へ?」」
私と阿求が間の抜けた声を揃えて出してしまった。
「それってどういうことだ霊夢?」
「どうもこうも、あんたが神社に来た時からに決まってんじゃない。」
「えっ。」
私は言葉に詰まった。なぜ霊夢は教えなかったのか。
霊夢は「自分の人探しに入り込む必要はないと思っているからよ。」と言っていた。 訳がわからん。
「じゃあなんで今ここで私の存在を言っちゃうのよ〜。」
「私はお賽銭をくれた人には優しくするの。」
霊夢が私に力を貸してくれた理由はどうであれこれはチャンスだ。
「八雲紫、あんたに頼みがあるんだ。」
「・・・何かしら?」
深呼吸して気持ちを落ち着かせる。
「私にちょこれーとを譲ってくれないか。」
「ダメよ。」
早かった。 八雲紫は私の願いを一蹴した。
「なんでなんだよ!?」
「大方あなたはバレンタインの日にチョコを上白沢慧音に渡すつもりでしょう?」
「・・・なんで分かるんだよ。」
言い当てられた。 私は誰にも言ってないぞ。
「あなたのようにチョコを相手に渡したいと思う人は沢山いるの。でも滅多に流れ着いてこないチョコの代わりにっておはぎやお団子などを用いて相手に渡しているの。」
「そ、そんな・・・。」
「それをあなただけ特別にチョコを手に入れて渡して相手は本当に喜ぶと思う? ましてやあなたが渡そうとしている上白沢慧音は特に?」
「・・・・。」
そうだったのか。 皆ちょこれーとをあげたい気持ちを抑えて、それでも工夫して自分の気持ちを相手に伝えていたのか。
「それなのに私ときたら・・・笑っちまうな。」
「妹紅さん・・・。」
「・・・・。」
心配してくれる阿求。 興味無いといった感じでお茶を啜る霊夢。 それを眺める八雲紫。
「でもま、あなたがチョコを作るというなら協力してあげないこともないわ。」
「え。」
言っている意味が分からなかった。 ちょこれーとを作る?
「あなたチョコが元は何が原料か知ってる?」
えー確か・・・。
「かかお豆・・・っだったか?」
「正解。」
「それを使って作れってことか?」
八雲紫は「せいかーい。」と笑いながら拍手をした。
「あなたにはこれから我が家に来て、そこでチョコを作ってもらうわ。そして完成したチョコは持って帰っても構わないわ。」
「本当か!?」
八雲紫は頷きながら「完成したらね」と言って団子を注文していた。
私が言えた事ではないが年寄りは特に親切だな。実感できる。
「へっくし。・・・風邪かしら。」
それから私たちは八雲紫の家へ向かった。
家自体は普通の屋敷だった。 まぁ何の期待もしていなかったのだがな。
「さて、これからチョコを作るわけなんだけど・・・。」
八雲紫の言葉が止まる。
「どうかしたのか?」
「いや、あのね。霊夢に阿求。なんでここにいるの?」
私の隣に座っている霊夢と阿求に質問を寄こした。
「だって〜。私紫の家に行ったことなかったから行くなら今回しかないと思ったのよ〜。」
むぅ、と八雲紫は唸る。「それにね」と阿求は続けた。
「チョコレートの作り方なんて今の幻想郷には存在しないし記録も残っていない。記録にないものを記録するのは私の役目でしょ〜?」
阿求はニコニコと笑いながら自論を展開させていった。
「しょうがないわね。それなら許してあげるわ。」
その言葉を聞き、阿求は小さく喜んでいた。
「さて次は・・・。」
「あによ。」
八雲紫が向けた視線の先には霊夢がいた。
「あなたはなんでここにいるの?」
「なんだっていいじゃない。暇なのよ。」
単純すぎる理由に八雲紫は呆れたようだ。私も呆れたのだからな。
「それにあれよ、ご飯食べたい。」
「本音が聞けたわね〜紫。」
「本当にね。」
短く言葉を返すと私の方を向き「それじゃあ行きましょか。」と言って部屋を案内してくれた。
台所に到着。
「それじゃあ早速始めるわよ。」
そう言って八雲紫はスキマから袋を取り出し、その中から細長い豆を取り出した。成程あれが「かかお豆」か。
「さて、まずはカカオを120度で20分程焙煎してもらえるかしら。」
「任せな、火の扱いはお手の物だぜ。」
いきなり得意分野か。これは早く完成するんじゃないか?
その後かかお豆を砕き、皮と胚芽を取り分別する作業。
これは阿求が手伝ってくれた。霊夢は八雲紫に晩飯の献立を聞いていた。
「終わったわよ紫〜。」
阿求が八雲紫に報告をする。
「そう。じゃあ次はすり鉢を使って細かくしていきましょうか。」
スキマからすり鉢とすり棒を取り出して阿求を中継して私の元へ渡してきた。
「力仕事は私がするから阿求は休んでいていいよ。」
「じゃあ私は見ていますね〜。」
阿求は指を汚して手伝ってくれていたので、これ以上手伝わせるにはいかないだろうな。筆が汚れないか心配だ。
私は仕分けた豆をすり鉢に入れ、細かくしていく。中々楽しいな。
10分後には豆は粉末状になり、何だか胡椒みたいになった。
私がかかお豆をすり潰していた隣で阿求が「かかおばたー」なるものを包丁で細かく刻んでくれていた。
じっと見ているのも退屈だったそうだ。 ちなみに霊夢は座布団の上でお茶を啜っていた。
「次はそこに刻んだカカオバターと粉砂糖、粉ミルクを入れてかき混ぜなさい。あと湯煎しながらね。」
温度は45〜50度よ、と
八雲紫の忠告を聴きながらすり鉢に材料を入れて更にかき混ぜる。温度を保ちながらかき混ぜ続けるのはかなり苦労したがなんとかなるもんだな。
それからはひたすらすり続け、味見をしたり舌触りを確認しながらすり続ける。 味見担当はなんやかんやで霊夢の担当になっていた。
最初からそれが狙いで来たようなものだったからな。
「もう十分かしらね。」
そう言って八雲紫はステンレス製のボールにドロドロになったちょこれーとの液体を入れ、水の入った台に浸してちょこれーとを冷やし始めた。
その間ちょっと休憩。 八雲紫の式神である八雲藍と久しぶりに会った。
確か1年前に洩矢諏訪子が開いた立食パーティ以来だったか。
休憩も終わり、再び湯煎。
今度は30度を維持するらしい。
「お疲れ様。これが最後の作業よ。」
そういって八雲紫は様々な型を取り出していた。
「好きなのに流し込むといいわ。」
「そう言われてもな・・・。」
正直どれにしようか悩む。
ちゃんとした形のものから微妙なものまで、選り取りみどりだ。
かなり悩んだのだが最終的に阿求が推していたハートの型にすることにした。
そこにちょこれーとを流し込んで冷蔵庫にいれて待つだけ。余ったちょこれーとは霊夢や阿求がスプーンで掬って舐めていた。
その後、私たちは八雲藍が作った晩飯をご馳走になった。気のせいか油揚げを使った料理が多かったような気がする。
霊夢は持ってきたタッパーにおかずを入れてもらていた。全く図々しいやつだな。
「固まるには一日くらい寝かせておくのが一番。その間にあなたはラッピング用の包み紙でも買って来ておきなさい。」
八雲紫にそう言われた私は霊夢と阿求を連れて人里に帰った。
「それじゃあ私はこっちだから。」
そう言って霊夢は神社への道を歩いて行った。
「私はそのまま帰るけど、阿求はどうするの?」
「そうね〜。」
阿求は屋敷に帰らないと使用人たちが心配するんじゃないか?
「ちょっと慧音の所に泊まらせてもらおうかしら。」
「どうして慧音のところへ?屋敷に帰らないのか?」
阿求はにこやかに説明をしてくれた。
「だって今から帰っても家の者に小言を言われるだけじゃない。だったら友人の家に泊まっていたって言った方がいいでしょ?」
そんなものなのかな。
「それなら私が帰りに言っておいてやるよ。慧音の家はあっちだからここでお別れだな。」
「そうですね〜。それじゃあ妹紅さんお願いします。」
阿求は深々と頭を下げ、一人で慧音の家へと向かっていった。 ある程度確認した私は阿求の使用人に阿求が慧音の家に泊まる事を伝え帰宅した。
「明日は何時に出ようか・・・。」
そんな事を考えていたら眠たくなってきた。
「また明日にしよう。」
それからの記憶は無い。
朝。 今日はいつもより早く目覚めた。
「寒っ!!」
今日は相当冷え込むな。出来ることなら今日は出かけたくないんだけとな。
「仕方ない、散歩でもしに行くか。」
竹林を適当にブラブラして時間を潰し、人里に出向く。
「皆寒そうだな・・・。」
里の皆は厚着で外出していた。そりゃそうだろうな。
気が付けば里の雑貨屋さんの前にいた。
「おや妹紅さん、何か買い物かい?」
私に話しかけてきたのは茂美と言うばあちゃん。悠二って人に恋をしているらしい。ってけーねが言ってた。
「やあ茂美ばあさん。そうだな、何か可愛い包み紙とかないかな?」
茂美ばあちゃんは「おやおや」と言いながら何かを探し出した。
「妹紅さんから「可愛い」が聞けるとは思わなんだよ。」
「そんなこと言わないでくれよ茂美ばあさん。私だって感情はあるさ。」
思わず苦笑いをしてしまう。本当に私が可愛いものを持っていても仕方がないし似合わないだろうな。
「これなんかどうだい?」
そう言って取り出してくれたのは、包み紙ではなくキラキラした紙製の箱だった。
「慧音先生に渡すならこれくらいでないとね。」
「!?なんでそのことを!?」
まただ。また言ってもないのにバレている。
「そのくらい誰にでもわかるわよ。妹紅さんから慧音先生への思いが溢れ出てきていますもの。」
そんなことを言われると顔が熱くなる。居ても立っても入れなくなった私は代金を支払いその店を飛び出していった。
「うふふふふ。若いわねぇ。」
八雲紫の自宅に再び招かれた私は完成したちょこれーとを丁寧に箱に入れ、簡単な手紙を書いてそこに入れた。
「しっかりね。」と八雲紫に背中を押されて人里に送られた。
「せめてお礼を言いたかったのに。変な借りが出来ちまったじゃねぇかよ。」
人里に到着した私は慧音がいる寺子屋に向かった。
やはりそこに居た。私はちょこれーとをポケットに入れ、心の準備をした。
「やあ慧音、会いにきたよ。」
私が言葉を発すると慧音は顔を上げ、私の方を見て笑顔で迎えてくれた。
「おぉ妹紅か。よく来たな!!」
これが慧音が里の皆から好かれる元なのだろうな。
「今日はどうかしたのか?急にくるなんて珍しいじゃないか。」
「別にいつ会いに来てもいいだろ。」
「それもそうだな。」
慧音はニカッと笑ってくれた。
「慧音。その後ろのは何?」
私は慧音が座っていた場所より少し右にいくつかの袋があった。
「ああこれか。今日はバレンタインだろ。だから子供たちが私にってくれたんだよ。」
慧音は若干照れくさそうに、でも嬉しそうな表情を浮かべていた。
「そっか、それは嬉しいな。」
「ああ。実は妹紅の分も預かっているぞ。」
「本当に?」
「私が嘘を付いてどうする。ほらこれがそうだ。」
慧音から受け取った袋には煎餅や飴が沢山入っていた。
「嬉しいな、慧音。」
「そうだな。」
慧音が笑っている。私の顔も自然と綻んでいく。
「そうだ慧音、じつは・・・。」
私が慧音にちょこれーとを渡そうとした瞬間何かが焦げている臭いがした。
どうやら慧音も気づいたようだ。でも一体どこから・・・。
辺を見渡していると人里の消防団「ハメ組み」が出動しているのに気がついた。
「妹紅、私たちも!!」
「あぁ!!」
私と慧音はハメ組みの後を追っていった。
そこには大きな炎を上げ、燃えている店があった。
「茂美ばあさんの店だ!!」
私の声に慧音が反応する。
そんなばかな。ついさっきまで私の相手をしてくれていたのに!!
しかも周りの話だとばあさんはまだ中にいるらしい。
「クソっ!!」
私は炎が渦巻く店に飛び込んだ。
背後で慧音たちが悲鳴を上げているのが聞き取れた。
でも私は死なない。死ねない。そう言う体なのだ。
その体を使わなかったら宝の持ち腐れだから。里の皆の力になりたいから。
「ばあさーん!!」
店の中で声をかけて見たが返事はない。
元々大きな店ではないのだが、奥に部屋がいくつかあるのでややこしい。
「アグッ!!」
落ちてきた木材が私の頭に直撃した。
頭から血が流れてきていた。だがばあさんを探すのには何の問題もなかった。
「ばあさん!!」
やっと見つけた。
カウンターの下に倒れていた所を見つけれた。
「ばあさん!!しっかりしろ!!」
私の声に全く反応しない。
取り敢えずばあさんを抱え出口へ急ぐ。
外へ出ると同時に慧音や里の皆によってばあさんは永遠亭へと運ばれた。
私も煙を吸いすぎたのか頭がフラフラする。
視界が360度回転したところで私の記憶は途切れた。
次に目を覚ましたのは火事家現場から離れた里の広場。
私が起きるとまわりにいた皆が歓喜の声を上げていた。
「妹紅さーん!!」
「うわっ!!」
すぐ横から涙をボロボロ零しながら抱きついてくる阿求がいた。
「もこうざんがっ・・・もう・・火傷だらげのずがだをみたどきは・・・私・・・私っ・・・!!」
「分かったから分かったから!!もう私は大丈夫だから、なっ?」
私は阿求をなだめ、なんとかその場から離れ永遠亭へ向かった。
永琳曰く今は眠っているだけで火傷も大したことはなかったようだ。
「妹紅!!大丈夫なのか!?」
私が永琳と話していると慧音が走ってきた。
「安心してくれ慧音もう大丈夫だから。」
私の言葉を聞いた慧音は安堵の溜息を着くと直ぐに私を睨み上げて
「妹紅!!お前はもう少し自分の体を大切にしようかとは思わないのか!!」
慧音は叫ぶように私を怒鳴りつけた。 永琳や近くにいた鈴仙が止めにかかったがそれでもなお慧音は怒鳴っていた。
「わ、悪かったよ慧音。でも自分に出来ることをしないでいるのは嫌なんだよ。」
「だからって!!・・・だからって・・・!!」
慧音は握り拳を解き、その場に崩れるよに座り込んだ。
「慧音・・・。」
「・・・馬鹿者。」
慧音は顔を両手で覆い隠し、鳴嘔しているのが分かった。
永琳も鈴仙も私に道を譲ってくれた。
「慧音、お前にプレゼントがある。顔を上げてくれないか?」
「・・・。」
私はポケットからちょこれーとの入った箱を取り出して手のひらに乗せた。
慧音は涙を拭い箱を見る。近くにいた永琳も鈴仙も同じく。
私は箱の蓋をとって中をみせた。
「・・・何これ?」
一番最初に口を開いたのは永琳だった。
「何ってちょこれーとだ。」
「でも・・・。」と鈴仙。
「こんなドロドロに溶けたのを渡されたって・・・。」
私は箱の中身を確認する。
「うげっ!!」
箱の中には茶色いドロドロとした液体が箱の中を汚していた。
「もしかして炎の熱で溶けたんじゃ・・・。」
私は鈴仙の言葉を聞いてハッとした。
「・・・・。」
慧音は押し黙っていた。
「わ、悪い慧音!!これは手違いで・・・!!」
「いいんだよ。」
「へ?」
慧音は私の頬を優しくさすりながら優しく声をかけてくれた。
「私は茂美さんを救ってくれたことだけで十分素晴らしいプレゼントを受け取らせてもらったよ。ありがとう妹紅。」
「・・・いいよ。それでいいなら私もそれでいい。」
私は慧音の手を握りながら返事をする。
慧音の手は暖かい。ホッとする。
慧音は何がなんでも私が守る。 里の皆もだ。
それが私に出来る最高の孝行だからな。
「慧音。」
「どうした?」
「これからもよろしくな。」
慧音を抱きしめる。鎖骨あたりに暖かい吐息がかかる。
「あぁ。こちらこそな。」
慧音が私の背中に腕をまわして抱きしめてくれた。
周りには輝夜、永琳、鈴仙、てゐがいたが気にならなかった。
その後妹紅さんはハメ組み団長・ビリー・米倉・ヘリントンから感謝状と選ばれた団員のみに支給される火消しの法被が渡された。
更に紫から幻想郷の守護者・人里の守護神の称号を与えられた。
慧音は精神疲労が酷かったため一日寺子屋を休んだのだが、その一日で全快してしまった。
一週間は掛かると診察した永琳は苦笑いをするしかなかったようだ。
これも生徒に対する愛と自分の仕事に対する誇り由縁だろう。
これからの人里はこの二人が居る限り平和そのものだろう。
私もこれからが非常に楽しみだ。
稗田阿求
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