東方忘却記 紅魔編 |
「……ん、ようやく入ったわね」
「レミリア様?」
「話したでしょう?あいつらよ」
「例の……この事態を何とかしてくれる人間、ですか?」
「そうよ。そいつらが来たの」
結界の中に入った一行は、霧の湖のほとりにいた。
湖の中央にある紅魔館……そこに向かおうとしていたのである。
「じゃあ……早苗は頼むわよ魔理沙」
「任せとけ。ちゃんと運ぶぜ」
「すみません……ご迷惑を」
「気にすんなって。いいからしっかり掴まってろよ!」
「は、はいっ!」
三人が飛び上がり、霧の湖を横断していく。
静か過ぎる湖の上を飛んでいると、一際紅いものが見えてきた。
吸血鬼の住む館、紅魔館である。
「……おかしい」
「どうした?」
「妖精が一匹もいないし、チルノたちもここに来るまでに見かけなかった。……やっぱりあんたたちや藍みたいな妖怪だけじゃなくて、幻想郷全ての生命が影響を受けてるのかしら……」
「さあな。だが、紅魔館に着けば分かるんじゃないか?」
「……そうね」
紅魔館のある島に直陸しても、なんら気配が無かった。
「……確かにおかしいな」
「行くわよ。何か分かればいいんだけど」
「あ、ちょっと待ってくださいよ霊夢さん魔理沙さーん!」
三人はここから徒歩で行くことにした。
飛んでいては見逃してしまうものもあるかもしれない、という霊夢の提案があったからだ。
しかし、その提案も実りは無かった。
紅魔館にたどり着くまでも、何も無かったからである。
「はぁ……収穫なしね……あれ、美鈴じゃない」
紅魔館の門には、いつもどおり紅美鈴が門番をしていた。
しかし様子が変である。
「あんた達か……レミリア様がお待ちになってる。入れ」
「やっぱ記憶無いのかしら?」
「……そうだな。私にはあんた達が誰だか知らないし分からない」
「そ。じゃあ入らせてもらうわ」
「……」
「……あれが本来の美鈴か」
「多分ね。とんでもない威圧感じゃないの……」
「彼女、誰なんですか?」
「あんたは知らなかったわね。紅美鈴って言って、この館の門番よ」
「ふぅん」
門を過ぎ、正面玄関に手を伸ばそうとしたところに、突然咲夜が現れた。
「……ようやく来たか」
「あら咲夜」
「待て、コイツ突然現れたぞ」
「そういえばそうね。あんたは記憶はあるのかしら?」
「記憶?……何のことだ?」
「どういうことだ?記憶が無いのなら能力の使い方も分からないはずだが」
「それについては私から説明させてもらうよ」
「レミリア!ちょうどいい、あんたに会いたかったのよ」
「あら、嬉しいじゃないか。立ち話もなんだ、入るといい」
紅魔館の中にレミリアと咲夜が入り、霊夢たちもその後を追った。
そこには、今までいなかったはずの妖精たちが集まっていた。
チルノや大妖精の姿もある。
全員、無邪気に遊んでいるようだ。
「なんで妖精たちがここに……」
「私が命令したのさ、保護しろとな」
「どういうことよ」
「今に分かる」
凄まじい地響きと共に、咆哮が聞こえてきた。
紅魔館の外からである。
「今のは!?」
「まさかフランドールが……」
「違う。あれは宵闇の妖怪」
「宵闇のって……ルーミアか」
「そう。どこの誰だか知らないけれど、とんでもない妖力をあいつに与えたせいで暴れてるのよ」
「美鈴が撃退してるってのか?」
「そうね。今のあいつは紅魔館の防壁。それも、最強のね」
「ところで……レミリア」
「何?」
「あんた、記憶があるみたいね。何か知っていることがあれば吐きなさい」
レミリアが振り返ると、目の前に霊夢の御祓い棒が突きつけられた。
きょとんとするレミリアだったが、突然押し殺した笑いを浮かべた。
「……っくっくっく、やっぱり面白いなぁ霊夢は」
「……」
「身構えなくて大丈夫だよ。今の私はルーミアにすら勝てない」
「は?」
「言葉の通りさ。弱ってるんだよ。能力も使えない」
肩をすくめるレミリア。
その表情には、自虐も含まれていた。
「拍子抜けねぇ……」
「笑ってくれても良いんだぞ?」
「ばーか。笑うわけないじゃない」
「で、イチャイチャしてるとこ悪いがお二人さん……」
ようやく、魔理沙が呆れた表情で二人の間に入った。
「この事件の解決の方法だが、完全にルーミアが怪しいと思うんだが」
「そうね。じゃ、ちょいちょいと退治しますか。手伝ってね魔理沙」
「……霊夢さん、私は?」
「早苗はここで待ってて。能力も記憶も無いあんたじゃあ何も出来ないからね」
「……はい」
「それからついでに教えとくよ、霊夢」
「ん?」
「今の紅魔館の中にいる者で記憶があるのは私とパチュリーだけだ。きっちり一匹一匹確認したから確実さ」
「ありがと」
魔理沙と二人、扉を開けて出て行く霊夢。
そこは、最早ごっこ遊びでは済まされない弾幕が繰り広げられていた。
地面が抉れ、門は最早形を成していない。
美鈴の姿を探してみると、空中にいた。
「何よ……あれ……」
空に浮かんでいるのは美鈴だけではなかった。
巨大な闇の塊、そう形容するしかないものが空を覆っていた。
「アレがルーミアらしい」
咲夜もいつの間にかいた。
「私がサポートに入る。レミリア様からの命令でな」
「時間を止める能力か。期待するわよ」
「じゃ、おっぱじめるか!」
「魔理沙は後方支援、私と咲夜で直接接近する!」
「了解!」
「了解」
「先手必勝ォ!恋符!『マスタースパーク』!!」
魔理沙のマスタースパークが、闇に突っ込んだ。
しかし、効果は薄い。
「マスタースパークでも闇に掻き消されるなんて……どんだけ強いのよ!」
だが、その一撃でルーミアの興味は美鈴から魔理沙に移ったようだ。
とんでもない量の弾幕が魔理沙に向かって降り注ぐ。
「やべっ!」
弾幕は魔理沙のいた所を消し飛ばした。
間一髪で魔理沙は弾幕から逃れていた。
「何だよあの弾幕!」
「妖力に任せて力だけで撃ってる!当たったらただじゃすまないわよ!」
「なんてこった!」
「しょうがない、ここは私も秘蔵物出すしかないか……!」
霊夢が懐から出したのは、陰陽玉だった。
しかし、それは普通の陰陽玉ではない。
「宝具!『陰陽鬼人玉』!」
霊夢がスペルを唱えると、数倍、数十倍へと大きくなっていく。
遂には霊夢を超え、霊夢自身も持っているのがやっとの大きさと質量の物体へと巨大化した。
「っらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
それはただ、投げるだけで効果がある。
そもそも陰陽玉自体に妖魔調伏の加護がされているためだ。
陰陽玉は闇にぶつかると、強烈な光を発した。
調伏の光である。
この光は普通の妖怪であれば見ただけで消し飛ぶという強力なものであるが、この闇を中和し消し去るという効果しかなかった。
「見えた!」
「あれがルーミア!?」
「妖力で姿が変化してる!?それに、リボンも無い!」
闇が取り払われた中心には、ルーミアがいた。
しかし、姿が違う。
愛らしい子供の姿は影も形もなく、長く伸びた髪、大きくなった身体
、鋭い爪。
そこにいるのは、ただ一人の妖怪だった。
「シィィィィィィィィッ!!」
「!!避けられな――――」
「いっ!?」
弾幕は霊夢とはあさっての方向に向かっていた。
しかし、霊夢がそこにいたのは間違いない。
そう、咲夜だ。
時間を止め、霊夢を安全な場所へと移動したのだ。
「咲夜!助かったわ!」
「どういたしまして」
「しかし強い……弾幕も桁違いね」
「どうすればいいのでしょうね」
ルーミアの弾幕は接近を許さず、かつこちらの逃げ場を塞ぐように展開している。
本来の弾幕ルールではあってはならないことだが、最早ルールも何も無い。
闇もいつの間にか再形成されている。
「でたらめな妖力に任せて弾幕を放っているだけだから、必ず綻びがあるはず!」
「なんとか本体に辿り着ければ……」
「咲夜、時間を止めて何とかできない?」
「……どうだろう。弾幕が濃すぎて時間を停止してもなんとかなる可能性が少ない」
「魔理沙、あんたは?」
「恋符のチャージに時間が掛かるんだが、集中できない。避けるのに集中しないと被弾しちまう」
「手詰まりだっての……!?」
「さっきからドカンドカンとうるさいと思ったらあんた達か……」
「パチュリー!?」
「何よ豆鉄砲喰らった様な顔で」
紅魔館の扉が仰々しく開き、小悪魔が先導するメイド妖精が次々に溢れ出して来る。
それは軍隊と呼ぶに相応しく、隊列を組んだ。
「……念のために図書館に防壁かけといて正解だったわね」
「防壁?」
「精神防壁よ。ただ、今回のはいささかきつかったわ」
「お前らしいな。だから記憶があるのか」
「魔理沙……あなたに貸した本が帰ってくるのはいつかしら?」
「さあな。死んだら回収すればいいじゃないか」
「暢気に会話してないで状況を見なさいよ!」
メイド隊は列を成し、盾でルーミアの弾幕を凌いでいる。
こんな状況でどんな反撃ができるのか、と霊夢は怒っていた。
「まあ見てなさい紅白。私の部下の力、甘く見ないことね」
そう言うと、パチュリーはひらりと手を翻した。
その合図だけでメイド隊は防御を解除し、ルーミアへと突撃していく。
「さあ行きなさい私の僕たち!私の敵を打ち倒しなさい!」
「だがあれじゃあ本体にはたどり着けないぜ?」
「ふっ、計算済みよ。メイド隊!日符の構え!」
パチュリーの言葉でメイド妖精たちが即座に陣形を構築した。
円陣を組み、その手にはスペルカードを持っている。
「あれは……」
「私が開発した簡易スペルカードよ。妖精とかの比較的力が弱いものでも扱えるようにと」
「便利なものを作ったわね」
「日符!『ロイヤルフレア』!!」
小悪魔がスペルカードを唱えると、円陣を組んでいた妖精たちのスペルも発動した。
戦闘空域を包み込む、太陽のような光。
それは、ルーミアの展開していた闇を少しずつ取り払って進んでいく。
だがしかし、所詮は複製。
完全に闇を払うことは。贋作の太陽には不可能だった。
先程の巨大な闇の塊ほどではないが、小さな闇が浮いていた。
「ッチ……出力不足!」
「でも、居場所は分かった」
何時の間に準備していたのか、霊夢が魔理沙の箒に足を乗せている。
「紅白……何をするつもり?」
「私は飛ぶ速度があんま速くないからねぇ。こうやって魔理沙にぶっ飛ばしてもらうのよ」
「一体何を言って……!?」
「行くぞ霊夢!」
「頼むわよ魔理沙!あそこの闇の塊まで、一気に送って頂戴!!」
魔理沙が魔法の詠唱を終えた。
聖白蓮が使っている身体強化魔術を魔理沙なりにアレンジしたものである。
魔理沙の腕に力が入る。
狙うは闇の中心、ルーミア。
ルーミアも何かを察したのだろう、弾幕を展開しようとしたが。
「しょうがない、ケリは巫女に譲ろうか」
「レミリア様」
「やれ咲夜。巫女の道を護れ」
「御意」
咲夜の放つナイフにより、阻害されて。
「でぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
魔理沙の怒号が響き渡る。
霊夢を乗せた箒をハンマー投げの要領で一回転させ、その勢いのまま打ち出した。
「おおー、早いじゃないか」
「魔理沙さん謹製新魔術だ。まだオリジナルには及ばないけどな」
霊夢は体勢を整え、到達後すぐに攻撃に移れるように準備していた。
避けられたなら結界でブレーキをかけるまでだ。
「ッ!!?」
その心配は必要が無かった。
咲夜のナイフに気をとられていたルーミアは、急速接近する霊夢への対処が一瞬、遅れた。
しかし、一瞬で十分だった。
鳩尾に霊夢の足がめり込む。
そのままルーミアを周囲を覆う結界へと押し込んだ。
「博麗式格闘術……!昇天脚!!」
霊夢の放った蹴りが動けないルーミアの胴体に直撃する。
しかし、これで終わりではない。
「神技!『八方鬼縛陣』!!」
ルーミアを空中に縛り付け、霊夢はそのまま攻撃を続ける。
「抄地昇天脚!!」
陣ごとルーミアを吹き飛ばし、そのまま結界へと突き飛ばした。
そして、とどめの一撃を。
「神技!『天覇』!!」
結界ごと。
「『風神脚』!!!」
突き破った。
「まさか結界ごと蹴り飛ばすとは……恐ろしいな霊夢は」
「そうですね、お嬢様」
「ん……記憶も戻ったか」
「ええ、結界が破れた途端に」
「……だあぁ、疲れたぜ」
「お疲れ様、魔理沙」
魔理沙が座りこんだ途端、お茶を差し出す咲夜。
完全に記憶を取り戻したようだ。
「ありがとさん」
「あー疲れた。私にも頂戴よお茶」
「霊夢もお疲れ様。凄いわねぇあれ」
「ありがと。……まあ、賭けだったわ。あれで結界が破れなければもう一苦労してるところよ」
「ルーミアは?」
「再封印してきたわ。森のどっかで寝てるでしょ」
霊夢は自分のリボンを使い、ルーミアの力へ再封印を施した。
放っておけばまた起き出して暴れる。
結界が破れた今では、幻想郷自体への脅威になってしまうからだ。
「で、あんた達も何も知らないと」
「ああ、私たちも被害者だ」
「……まあ一発で犯人が見つかるなんて思ってなかったけどね……」
「だが、紅魔館を救ってくれた例はしよう。いつでも力と知恵を貸すよ」
「……ま、今回のことは私も気になるし。協力するわ」
こうして、紅魔館周辺の結界と、異常は取り払われた。
しかし、まだ何も分かってはいない。
むしろ、謎が増えたと言える。
ルーミアへと妖力を与えた犯人は一体誰なのか。
物語は、まだ始まったばかりである。
説明 | ||
紅魔館周辺に展開されている結界へと入り込んだ三人だったが、そこには妖精どころか妖怪もいなかった・・・ | ||
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