真・恋姫†学園〜新たなる外史の青春演技!?〜邂逅
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「来てしまったな……」

 

「来ちゃいましたね〜」

 

戦国がやってしまったとばかりに呟くが、森羅は暢気そうに言っている。

実際問題として、今の気持ちは『冥府』に旅立つような感じである。これから遭う人物の事を考えれば、それは大袈裟でも比喩でも無くなってくる。

そんな二人の目の前にある冥府の扉の名前はプレートにこう書いてあった。

 

『校長室』

 

このプレートから分かるように現在二人は聖フランチェスカ学園の校舎内にいる。

勿論、ちゃんと制服を着て職員室を訪ね、出勤している先生に用件を述べてからここに向かった。どうやら、職員室にいる先生方は戦国と森羅が校長から用件があると言う風に事前に連絡を受けていたらしい。

既に寮に到着している事は連絡を受けていたため、これから呼ぼうと思っていたのだとか。

寮に着いている事を誰が連絡したのかは知らないが。

 

「どうします?」

 

「行くしかないだろ」

 

「"逝く"とも変換できそうですね」

 

「嫌な事言うな」

 

洒落にならない事を森羅が言った後、意を決したとばかりに戦国は扉をノックし、

 

『失礼します』

 

二人同時に言葉を発すると、戦国、森羅の順番に入って行った。

そして彼らがあるモノを目にし、またもや同時に言葉を発した。

 

『なん……だと』

 

それを見た瞬間、彼らは驚愕した。ありえないと。

しかし、目の前に起きている現象を肯定せざるを得なかった。

 

「貂蝉と卑弥呼が服(しかもスーツ)を着ている……だと!?」

 

「((蒼|あおい))さ〜ん、イレギュラー要素が発生してますよ〜!」

 

戦国が目の前に起きている現象を口に出し、森羅は見ているであろう人物に声を掛ける。

 

「お主ら、儂らに対して((些|いささ))か失礼ではないか?」

 

卑弥呼は入って来た二人に突っ込みを入れる。仮にも目の前にいる人物は校長なのだから、傍から見れば失礼極まりない行動だろう。

今のところはどちらが校長なのかは分からないが。

 

「そうよん。私たちだって着るの結構((躊躇|ためら))っちゃったんだから」

 

「なぜ躊躇う……」

 

普通衣服は着ておくものだろうと戦国は貂蝉の言葉を聞いて思ったが、目の前の人物は説いても意味はなさそうだとすぐに諦めた。

 

「それで、用件は?」

 

思考を切り替えて戦国は早速本題に入る。

呼ばれたからには何かしらの用があるのだろう。

 

「そうねえ。用と言うのは、貴方達二人とご主人様についてなんだけど」

 

貂蝉がそう切り出した所で、二人は早速疑問に思った。

 

「北郷一刀と僕ら二人がどう関係するんです?」

 

代表するような形で森羅が言う。少なくともこの外史で直接的な関係は今のところ無い筈だと、森羅は思った。

 

「確かに、あまり関係ないように思うかもしれないけどねん。二人はご主人様と直接会った事がないでしょ?」

 

「それは、まあそのとおりだが……"この"外史ではこれから会うと思うけど」

 

貂蝉の言葉を肯定するように戦国は呟く。そして、彼の言葉を裏返すと他の外史では会った事があると言うことになる。

勿論、この外史にいる北郷一刀が自分の知っている北郷一刀とイコールで結ばれるかと言われれば、違うだろう。外史は簡単に言えば並行世界なのだから、この外史にいる北郷一刀もオリジナルとはどこか微妙に違っている可能性は大いにある。

性格的なものはおそらく変わらないだろうが。

 

「そして、お主らはイレギュラーじゃ。これだけ言えば大体分かるじゃろう」

 

その卑弥呼の一言で答えは察しがついた。

 

「あれですか?北郷一刀が僕らの存在に違和感を覚える…と」

 

森羅が答え、と言うよりも考えられる事をそのまま口に出したような答え方をする。

それが答えだったのか卑弥呼と貂蝉は頷く。

 

「そう言うことじゃ。ご主人様は元はこの現代を舞台とした世界に住んでおった。当然、ここで過ごしてきた記憶はあるじゃろう。大分、薄れとるかも知れんがのう」

 

「薄れてるとは言え、記憶は記憶よん。ご主人様があちらの世界に飛ばされる前、貴方達はこの外史でご主人様と一緒にいた訳ではないでしょ?」

 

貂蝉から問いかける様に聞かれて、二人は段々納得したような顔をする。

 

「はいはいはい。記憶にない人物がいれば違和感もそりゃ覚えますね」

 

ようやく合点が行ったとばかりに森羅は大きく頷く。対して戦国は、まだ納得行ってないとばかりに腕を組み俯いて考えていた。

そんな、彼を見て卑弥呼は尋ねた。

 

「どうした?戦国殿」

 

「いや、北郷一刀が俺たちに違和感を覚えたとして、それからどうするんだ?って言うことを考えていた」

 

「うむ、実はそこが本題なのだ」

 

戦国の言葉に卑弥呼が同調する。

それに対して、森羅は突然の本題と言う言葉に「え?」と言う感じで話している二人を見た。

 

「彼女達はこの世界にいた訳ではないからの。暮らしに戸惑うことや違和感を覚えることはあっても、お主ら個人に覚えることはないじゃろ。じゃが、先程も言ったようにご主人様は違う」

 

「そこでねん。本題としては、貴方達二人の正体をご主人様に話すか否かって言うことよん」

 

卑弥呼が言う『彼女達』と言うのは、三国志からやって来た女性武将たちの事であろう。確かに元々この世界の住人ではない彼女達が、ここの世界の人物に対して知るはずもない。違和感も何もないだろう。

自分たちの正体を話すかどうか。貂蝉にそう聞かれた時に二人はどうしたものかと考えた。

 

「別に話さないって言う手もありますよ」

 

思案に((耽|ふけ))っていると、突然この部屋にいる誰とも違う声が響く。

直後、卑弥呼と貂蝉の背後から一人の青年が白く光る空間から出てくる。それに気付き、全員が注目し貂蝉が問う。

 

「あらあら♪蒼ちゃん、いつから聞いてたのかしらん?」

 

「森羅さんが、私の名前を呼びながら『イレギュラー要素が発生してますよ〜!』と叫んでる辺りからですね」

 

要はほとんど最初から聞いていたようである。

 

「なら、別に突っ込んでくれても良かったでしょ……」

 

「森羅殿、言ってくれれば儂が突っ込んでも良かったのじゃぞ?」

 

森羅の呟きに卑弥呼が反応し体をモジモジとさせる。どう考えても死亡フラグにしか聞こえなかった。

 

「貴方が言うと、違う意味にしか聞こえないから遠慮しておく……」

 

「なんじゃ、つれないの」

 

逆に嬉々としてお願いしますとでも言えばいいのだろうか。そうして、((目眩|めくるめ))く漢女の世界。ほとばしるパッション。

そこまで来たところで、思考は自動的にシャットアウトした。むしろなぜ考えたと森羅自身、嫌悪感を覚えた。

 

「(……死ねる。冗談抜きで学園生活どころじゃなくなってしまう)」

 

心の中でそう呟き軽く鬱になった彼は、扉の横の壁に片手を当てて項垂れる。

 

「森羅が自滅してる」

 

「何を想像したかは検討付きますけどね……」

 

戦国と蒼の順番でどちらも呆れたような口調で言う。彼が立ち直るのは時間がかかりそうなので、蒼は説明に入る。

 

「さて、早速ですが別に正体を言うか言わないかはお二人の自由ですよ。でも、黙っていても秘密と言うのはいずれバレるでしょうし、問い詰められますよ?なんで黙っていたんだ?って。そう言うことになるのが嫌でしたら、最初に話すのも手かもしれませんね。で、話して距離を置かれたくないと思ったら話さなくてもいいでしょうし」

 

((捲|まく))し立てる様にして説明する蒼。それに戦国は真剣に耳を傾ける。

 

「でも、彼の事ですから話した所で距離を置くようなことはしないと思いますよ?実際、卑弥呼と貂蝉がそうですし」

 

朗らかに微笑みながら彼は言う。その様子に、肩の力が抜ける様な感じが戦国はした。

 

「あれ?でも、一刀は二人の事避けてるんじゃ?」

 

「復活早いな……」

 

ひょっこりと言った感じにいつの間にか戦国の隣にいる森羅。それに対して戦国は苦笑いを浮かべながら隣を見て言う。

そして、森羅の疑問に蒼は答える。

 

「それはほら、何と言いますか……生理的であって、人間的には距離を置いてはいないと思…う?」

 

「なんで疑問形になってる……」

 

「だって、どう言えばいいのか分からないんですよ戦国さん。でも、一刀自身も根は良い奴みたいな事言ってたからあからさまに距離を置いてる訳ではないと思いますよ?」

 

蒼は考えを述べるが、そこに貂蝉が割り込む。

 

「あらやだ♪ご主人様ったら良い"漢女"だなんて、やっぱり普段は素直じゃなかったのねん」

 

どこで蒼の台詞を聞き間違えたのか、それとも都合のいい耳をしているのかおさげ髪の巨漢はそんなことを言う。

これにより、一刀に死亡フラグが立ったかもしれないが森羅、戦国、蒼の三人はいい気味だと思ったのは余談である。

 

「まあ、ともかく。あのお人よしの一刀のことですから、別に大丈夫だとは思いますけどねえ。一刀から恋姫たちに伝わったらどうなるかは知りませんけど」

 

「おいおい……大丈夫か?」

 

蒼の一言に戦国は不安を掻き消す様に突っ込む。

 

「なんにしても、一応お二人はこの外史に組み込んでありますから。好きなようにしたらいいと思いますよ?限度は考えて欲しいですけどね。それに、私はイベントを用意するだけで実際物語を作って行くのは貴方達の行動なんですから」

 

それから二人は校長室から出て行き、寮に戻る。

蒼も説明が終わるとすぐに戻って行った。

そして、その道中二人は蒼の説明を反芻しながらこれからどうするのかを決めるのであった。

 

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一方、男子寮に向かう森羅と戦国とは違う3つの影。

 

「はぁ、みんな置いてきて大丈夫なのか?」

 

心配そうに呟くのは北郷一刀。

それに付き添うように右に張?こと蒼燕。左に凌統こと((美雄|メイション))がいる。

元々この三人は住んでいた寮があるため、念のため余裕を持って戻る事にした。

そして、まさかこの春休みで全員と閨をする事になるとは思ってもいなかった。ほぼ、毎日と言っていいほど昼は常識などを根気よく教え精神的に、夜は精力的に頑張っていた。

 

「う〜ん、大丈夫じゃないかな?袁家の人たちの行動が心配だけど……」

 

「大丈夫ですよ。いざとなれば、切り捨てますから」

 

「えっと、姉さんそれどっちの意味で?」

 

「必要とあれば、物理的にでも」

 

少し、凄みのある言い方をする自分の姉に思わず「あ、あはは……」と苦笑いする美雄。これは、冗談じゃないと直感的に彼女は悟った。

そもそも、蒼燕は冗談があまり好きではないためこう言う時でも本気で言っている可能性が高い。

 

「……さすがにここで血生臭いことは止めて欲しいんだけど」

 

「冗談ですよ。北郷さん」

 

一刀が勘弁してくれとばかりに止めに入るが、蒼燕は柔らかく微笑んで返す。

それに安心したのか歩みながら北郷は息を吐いてから、未だに見えない寮のある方角を見る。

しかし、先程の言葉の真意を知るものが一名。

 

「(嘘だ……)」

 

北郷の陰から自分の姉を見ながらそう思った。アレは間違いなく((殺|や))る気だった。

やはり、色々と袁家に恨みがあるらしく今も引きずっている事が窺い知れる。

 

「(多分、出会っちゃったからなんだろうな〜)」

 

あれからと言うものの、過去の気苦労と言うか、苦悩と言うか。

とにかくそう言うものを思い出してしまっただろうと、美雄は思った。それまでは、イライラと言うか不機嫌さを表に出すことはなかったのだが一度気になってしまったら、と言うやつなのだろう。

しかし、蒼燕自身は今の立場を悪くするつもりは毛頭ないことを知っているので、本気で言ってはいるが実行に移すつもりはないだろうと美雄は考える。

多分、場合によっては社会的に切り捨てるのは本気。

あまりこの事については考えずに別の話題に切り替える。

 

「そう言えば、かず兄」

 

「ん?」

 

「かず兄の今の学年って何年生なの?」

 

「……あ」

 

気になっている話題を振ったら、一刀が突然立ち止り片手で目頭を押さえる。

どうやら、触れてはいけない話題と言うより地雷だった。

 

「そうだよ、俺。あっちの世界に行ってどれぐらい経ってると思ってんだよ」

 

一刀は一刀で完全に失念していた。なぜ、今まで気付かなかったのだろう。そもそも、今年は何年であるかなどの時系列を最初に聞いておくべきだったのだ。

こちらではどれだけの月日が経っているかは知らないが、長い事空けていたに違いない。もしかしたら、こちらでは行方不明者になっているのかもしれない。

それから、様々な事を考えている内に不安が出てくる。

自分の居場所はもうないのでは?

最悪のパターンが頭の中でイメージされてしまう。

 

「あ〜、かず兄?」

 

心配そうに下から一刀の顔を美雄は覗きこもうとするが、手でよく見えない。

 

「えっと、どうしたらいいのかな姉さん?」

 

困った時の姉頼みとばかりに蒼燕に美雄は問いかける。それから、蒼燕は溜息を吐くと美雄に近くに来るようにジェスチャーする。

それから、顔を近づけて蒼燕は美雄に小声で何かを話すが、今や絶望の淵と言ってもいいほどの様子の一刀には聞こえていない。

話が終わったのか、美雄はコクリと頷くと明るい赤色の髪を翻して短距離走のオリンピック選手もびっくりな程の速さで、男子寮のある方角へと走って行った。

……数分後。

行った時と同じスピードで美雄が戻って来た。そして、そのまま一刀の胴へと叫びながら突っ込む。

 

「か〜ずにい〜〜〜!!!」

 

「ごふう!?」

 

あまりにも見事に入ったため、一刀は一瞬何が起こったか分からず、ネガティブな思考も遮断された。

と同時に胃の中の食物が逆流するのを感じたが、何とか持ちこたえる。

 

「どうしたんだよ、美雄」

 

「さっき、姉さんに頼まれて男子寮に行って来たけどかず兄の名前あったよ」

 

「え?」

 

意外なことを美雄に言われて、思わず呆けてしまう。

 

「もう一度言ってくれるか?何がなんだか……」

 

「だから、かず兄の名前が男子寮にあったんだってば!」

 

現実味を帯びていないのか一刀はもう一度聞き、美雄は強く返した。

そこでようやく一刀は実感する。

 

「もしかして、余計な心配だった?」

 

「そう言うことになりますね。随分前に貂蝉さんが言っていましたが、自分たちの都合のいいように帰れると。つまりはそう言う事です。北郷さんに取っても都合のいいように帰れたのでしょう」

 

そこまで言ったところで一刀は大きく安堵の息を吐いた。

その様子に、蒼燕は悪戯っぽい微笑みで尋ねる。

 

「居場所がなくならなくて良かったですね」

 

「……っ」

 

彼女の言葉以上に顔が近くて一刀は動揺する。

 

「ほら、行きますよ」

 

「…あ、ああ」

 

すぐさま距離を離した彼女の言葉で我に返った一刀は再び歩み始めるのであった。しかし、少しばかり動悸が治まりそうにはなかったが。

未だにこう言う不意打ちに慣れないからからかわれるのだろうと言う風に、一刀自身反省するのであった。

 

「(姉さんが僕以外に悪戯っぽくなるの、なんか面白くないな〜。……いやいや、なに考えてるの僕)」

 

その二人の様子に変な違和感を覚えている妹が一人いたが、すぐに思考を追い払って二人の後を追いかけるのであった。

歩いて数分後には男子寮が見えてきて、北郷一刀はやっと着いたとばかりに息を吐く。

遂に寮の前に着くと、蒼燕と美雄はここまでとばかりに別れを言う。

 

「それでは、自分と美雄は女子寮に戻らないといけないので」

 

「それじゃあ、入学式の時に会おうね〜」

 

「ああ、付き合ってくれてありがとう」

 

そのまま二人は歩み始めて男子寮から離れて行く。少しばかり見送っていると、途中美雄が振り返り小さく手を振った。

それに答えるように一刀も片手を肩辺りまで上げて小さく振ると、彼女は笑顔で再び前を向いた。

そんな光景に思わず顔を緩ませた後、一刀は男子寮を見上げる。そのまま、階段の方へと向かい二階へと上がる。

薄れている記憶の中で自分の部屋であった扉の前に立ち、ネームプレートを見る。

そこにあるのは自分の名前。その事に安堵したところで気付いた。

 

「(俺、鍵持ってないじゃん……)」

 

またもや、失念していた自分に思わず肩を落とす。

 

「(ダメもとで試すか?)」

 

開くわけはないだろうと思うが、とりあえずドアノブに手を掛けて捻る。

 

ガチャリ。

 

その瞬間にあれ?と思った。鍵が開いているのだ。

ラッキーとばかりになんの疑問もなくそのまま扉を開ける。

 

「あ〜ら、いらっしゃい。待ってたわご主人様♪」

 

なぜかそこに黒光りする巨漢がいた。しかも、いつも通りの((標準装備|紐パン))で。

嬉々としていた感情は消え失せ、彼はそっと扉を閉めた。

 

ガタッ。

 

「何も言わずに扉を閉めるのは失礼じゃないのん」

 

閉める前に貂蝉の右手がそれを阻んだ。

 

「いいや!俺は何も見なかった!だからその手を離せ!そして、次扉を開けたら消えろ!!」

 

「し、しどいわご主人様!!こんなか弱い((女子|おなご))を部屋で一人きりにするなんて!!」

 

「部屋に勝手に入ったのはお前だし!!お前がか弱いの定義に入るのなら、なにがか弱いのか分からなくなる!!」

 

言葉を発しながら、全身の筋肉を使って無理やり扉を閉めようとするがビクともしない。

と言うか、右腕一本なのに止められている。やはり、あの筋肉は見かけ倒しではないらしい。

 

「早く離せ!寮に紐パンの巨漢がいたら俺の都合が悪くなる!!」

 

「あら、ならご主人様が入れば解決するじゃないのよん♪」

 

「お前と同じ空間にいるとナニが起こるか分からん!!だから、断る!!」

 

「もう、我がままねえ。ぶるあああああああああああぁぁぁぁ!!」

 

突然、大声を出したかと思うと物凄い力で扉をこじ開けられ、腕を掴まれ部屋の中に放り投げられる。

 

「ぎゃあああああああああああああああぁぁぁ!!」

 

抗えるはずもなく、フローリングの床に顔面から一刀は突っ込んで行き、直立したかと思うとそのまま倒れて背中を強打した。

その様子はなかなか痛々しかった。

 

「安心しなさい♪ただ単にご主人様にお話があるだけよん。何もしないわ」

 

「本当だろうな?」

 

痛み以前に貞操の方を心配していた一刀は貂蝉に問う。

 

「ええ、本当よん」

 

その言葉を取りあえず信じることにして一刀は起き上がり、顔と背中をさする。

それから、本題に入る。

 

「で、話って言うのは?」

 

「ええ、ご主人様がいる今この世界の時間軸についてなんだけれどね」

 

「ああ、違和感を覚えた。向こうじゃあ、結構な時間が経ってるしこっちでもそうなのかとさっき考えてたんだけど……」

 

「前にも言ったでしょ♪都合よく帰れるって。それは、ご主人様も例外では無いのよん」

 

「もしかして、今って」

 

「そう、ご主人様が消えるおよそ一年前。つまりは、ご主人様がこの学園に通い始めた時にまで戻ってるの」

 

「でも、それはそれでおかしい気がするんだが……過去ってことはその、過去の俺がいるはずだろ?」

 

「それについては、詳しく話すとややこしくなるけれど。大まかに言うと今のご主人様の体は、過去の自分のモノなのよん」

 

「え?」

 

意外な事実を突き付けられ唖然とする。これで、本日は二度も驚いた事になる。

 

「それってどう言うことなんだ?」

 

「つまり、ご主人様は過去の自分に憑依したって言う方がいいわね」

 

「…………」

 

あまりに話が突然過ぎて、一刀は何がなんだか分からなくなってきた。

だが、その一方で死線をくぐり抜けてきた経験が、一刀を冷静にしていく。状況を判断するのは冷静になること、あちらの世界で文官たちに、武官たちに、王に、何より彼女達に習ったことだ。

 

「……それで、過去ってことは俺がいなくなった期間がないって事なんだよな?」

 

「ええ、つまりはここで過ごしてきた一年間が白紙に戻ったと言うことになるわねん。ご主人様がここで友人になった者たちは今では初対面と言うことにもなるわ」

 

「それは、いいんだ。一度友達になれたんだ。もう一度友達になれるはずだから」

 

「あら。じゃあ、何かほかに心配な事があるのかしら?」

 

貂蝉がそう問いかけた時に一刀は即座に三つの事を思い浮かべた。

 

「ああ、一つは向こうの世界にいた時の俺の体はどうなったんだ?」

 

「鋭いわねん。体の方は今は正史と外史の狭間にあるわ。もし、向こうの世界に戻る事になったら今のご主人様の精神が狭間にある体へと入り、それから戻ると言うことになるわねん」

 

「二つ目に過去の俺の精神は、どこに行ったんだ?」

 

「一応、ご主人様の中にいるわ。今は眠っている状態よん。死んでる訳ではないから安心して♪」

 

貂蝉の言葉を聞き安堵する。さすがに自分で自分を殺したとなれば、寝つきが悪くなるどころの騒ぎではない。

 

「それで、三つ目なんだけど……」

 

この質問こそが一刀にとって一番重要なモノであった。一つ間を置き、意を決して尋ねる。

 

「一年後、また俺はあっちの世界に行くのか?」

 

過去と言うことは、再びあの出来事が起こるかもしれないと言うことだ。

しかし、今では『彼女達』と言う存在があるため今までとは違う状況にはなっているが、それでも心配だった。

あちらでは、吹っ切って過ごしてきたがいざ帰れたとなったら再び迷いが出てきてしまったのだ。

家族を『また』置いて行ってしまっていいのかと言うことを。

だからこそ、貂蝉に尋ねておきたかった。

そして、答えを待つ。

 

「……それは、分からないわ」

 

「分からないって……」

 

何とも言えない回答に一刀は思わず気が抜けた。

 

「それは、私が決めることではなくご主人様が決める事よん。いずれにしろ、選択する時が来るわ。その時、ご主人様が後悔しない選択を選べばいいのよ。これは、ご主人様自身の人生、ご主人様の行動によって綴られるご主人様自身の物語なのだから」

 

「俺自身の物語……」

 

その言葉が胸の中に妙に印象に残った。

そして、後悔しない選択肢を選ぶ。

 

「(そうだな……悩むなら、とことん悩んだ方が良いに決まってる)」

 

その先の自分の答えこそ、自分の後悔しない選択なのだから。

いずれにしても、もし選択肢が"あの時"に出てくるのならば最低でも一年位の猶予はあるだろう。

そんな彼の心情を察したのか貂蝉が問いかける。

 

「やることは決まったようねん」

 

「ああ、今を楽しみながら悩み抜く事にするよ」

 

「そう♪なら、頑張りなさい。私はそろそろ戻る事にするわ」

 

「ありがとう、貂蝉」

 

そうして何も言わずに貂蝉は扉から出て行こうとする。それは、心なしか満足そうな顔だった。

だが、その前に一刀は気付いた。

 

「て、おいちょっと待て!!扉から出る所を誰かに見られたら、マズい事に―――――」

 

完全に閉じようとしている扉に向かって一刀が勢いよく走り、開けるとそこには景色が広がるだけだった。

 

「あれ?」

 

右に左に下の階にと視線を移すが、あれほどの巨漢がどこにもいなかった。

 

「一体どうなってるんだ?」

 

まるで、瞬間移動でもしたかのように忽然と消え失せた。

 

「まさか、跳んで行ったとかじゃあないよな……」

 

発言だけを聞くと、彼の頭の方が飛んでいるように聞こえるが、あの巨漢に関しては常識があまり通じないのであり得ない話ではないだろう。

 

「はあ、取りあえず。持ち物でも確認しておくか」

 

そう言って一刀は部屋に戻って行った。

 

一刀が部屋に戻って数分後、男子寮の方に向かう二つの影、戦国と森羅である。

 

「いやあ、まさか凌統ちゃん達と接触するとは思わなかった」

 

「まあ、割とフレンドリーに話しかけてくれたけどな二人とも」

 

ここに来るまでに二人は蒼燕と美雄に接触していた。戦国の言う通り、フレンドリーに話しかけてくれて思わず話が弾んでしまった。

 

「しかし、あの二人もいずれ種馬の毒牙に掛かっちゃうんでしょうねえ……」

 

「おい、さすがに凌統ちゃんはダメだろ」

 

森羅がしみじみと言っていたが、戦国は突っ込みを入れる。

 

「なんでですか?」

 

「蒼の話によると、あの子16だぞ……」

 

「あ〜……でも、種馬の前には関係なさそうですけどね。最近の学生は進んでるらしいですし」

 

「いや、まあそうかも知れんが……それでもさすがにダメだろ」

 

男同士でしかできないような話を彼らは繰り広げて行く。

 

「はぁ、まさか荷物の受け取りがまだあるとは、と言うか今日だし……携帯も寮の鍵も何故か机の上にあったし」

 

その一方で寮の二階から降りてくる北郷一刀。疲れたように彼は一人呟く。

当然、戦国と森羅には気づいていない。

それは二人も同様で、話しているため北郷一刀の存在に気付いていない。

そのまま、一刀は階段を降り切り二人の居る方へと歩いて行く。少し俯き加減でいるためにまだ気付かない。

そうして、そのままお互いにすれ違ったその時であった。

 

「え?」

 

「あれ?」

 

「ん?」

 

三者三様の反応を示し、すれ違った人物をお互いに振り返る。

こうして彼らは邂逅した。

 

続く。

 

-3ページ-

 

〜あとがき劇場〜

 

とうとうお二人が接触しました。

 

はたしてこれからどうなるのやら。

 

……言うことがない。

 

いや、あった。

 

凌統に手を出したら、一刀君をデストローイします。

 

一刀「……おい」

 

嘘です。少なくとも漢女の餌食になって貰います。

 

一刀「なんでだ!?」

 

ああ、違った。去勢するんだ。もげろ。

 

それでは、次回をお楽しみに。

 

一刀「待て!いくらなんでも理不尽―――――」

 

プツンと強制終了。

 

説明
今回も戦国さんと森羅さんのターン!

ついに二人が『彼』と接触します。

色々とややこしい話になった気もしますが、矛盾点はないと信じたい。
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コメント
戦国さん>カオスになることは間違いなしですけどね。(青二 葵)
森羅さん>祭さんで妄想するんだ!!(青二 葵)
骸骨さん>魔法の言葉ですよね。もげろ。(青二 葵)
さて・・・これからの展開が楽しみだ、他の管理者さんたちがどう出てくるかも楽しみですw(戦国)
嫌なモノを想像してしまった・・・(;´Д`)ゲロゲロ  (森羅)
一刀を去勢するときは呼んでください。手伝いますw もげろ。(量産型第一次強化式骸骨)
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