<BP>似た者同士<交流> |
結団式が行われている大広間の中で俺は人気の無い隅の壁に凭れ掛り、ひたすら片手に持ったグラスを意味もなく回していた。
グラスの中で並々注がれた果実酒が渦を作りながら、するすると飲み込むようにして消えていく様子を見るのはこれで何度目だろうか。
淡い赤紫色の渦が円を描いて回る度に、熟成された渋い果実の匂いがそっと鼻をつく。
辺りでは互いに酒を酌み交わしながらも世間話に華を咲かせている和気藹々とした人々の姿で城内は溢れかえっていた。
しかし俺はその中で一人嫌悪の表情を浮かべて時折、片手に持ったグラスに口を付けながらも閉幕の時を待っていた。
正直、こういう場所が好きではなかった。というのも人の数が多いと注意力と警戒心が散漫してしまいそうで普段は自分から人が多い場所を敬遠していた。
俺は手馴れた動作でそっとグラスに舌を付けると、果実の渋い味わいが口の中に広がって鼻を突き抜けていく。
舌に残る甘さを何度も確認するかのように口内を舐め回しながら、グラスをテーブルに置きに行こうかとしたその時だった。
「やあ」
俺は不意のことにぎょっとして、立ち止まった。
後ろを振り向くと何の躊躇も見せずにこちらを見る目と鉢合わせして、俺は思わず後退ってしまった。
そこには同じように片手にグラスを持ち、平然とした表情でこちらを見る山羊獣人の姿があった。
「…何だ、なにか用か?」
「いやぁ、お前さん何時間もそこに居るじゃないか。もしかすると、人気が多い場所は苦手なんじゃないかって思ってな」
突然の事にたじろぐ俺の目の前に佇む山羊は黒緑色の瞳を浮かべながら、みごとに核心をついてきた。
その柔らかな物言いと落ち着いた態度とは裏腹に、山羊の表情はどこか追慕と哀愁を感じさせるような明敏な顔立ちをしていた。
真っ白な体毛にところどころ茶色が交じっており、空色のロングコートを着たその姿は医者かなにかのようだ。
「……その通りだ」
俺は簡素にそう答えながらも若干の警戒心を保ちつつ、見定めるかのようにして山羊を見た。
黄色のスカーフを頭に巻いている山羊の頬は薄紅色に染まっており、どうやら少しだけ酒が回っているようだ。
若干酔っているのか覚束ない足取りを見せながら、山羊は俺の隣の壁へと寄り掛かった。
「私も、少々このような場は苦手でね。あんまり好きじゃないんだ」
「その割には結構飲んでるようだな」
「この果実酒の味が結構好みでな。つい飲んでしまうんだよ」
山羊は口角に笑みを浮かべながらも、何度もグラスを口に運んでいた。
彼の紳士的な物言いに俺は少しづつ警戒心を解くようにして苦笑しながら、同じようにグラスに舌を付ける。
「…お前さんも、この国には今日来たのかい?」
「あぁ。荒廃した王国がある、と聞いてやってきた始末だ」
そうかい、と山羊は小声で呟きながら続けた。
「なら、ドラゴンの襲撃に関しては聞いたんだね」
ドラゴンという聞きなれない言葉を耳にした俺はふと山羊を見ると、彼の口角からはすでに笑みが消えていた。
「そうだ、一応な」
俺は怪訝な表情を浮かべ、そっと聞き流すふりをしてグラスを回した。
その時山羊のロングコートの内側に、医療道具のような小物が入っているのを透明のグラスが捉えていた。
「…医者か?」
「本業は薬師だ。でもまぁ、そういう知識もあるがね」
「つまり、軍医か」
まあそういうところだと山羊は言い終わると、一度咳払いをして静かに溜息を吐いた。
彼の瞳は何処か物言いたげな眼差しでもあったが、俺は深く気にしなかった。
「…名は何だ?」
酒がグラスの中で波打つのを見つめながら俺は静かに問いかけると、ほんの一瞬だけ山羊は迷いの色を瞳に浮かべた。
「人に名乗る時は、まずは自分から名乗るものだぞ」
「…聡明だな。俺はジルバだ」
「私はエリック・カペルだ。エルとでも呼んでくれ」
するとエルはまた微笑を浮かべて、すっとグラスを俺の前に寄せてきた。
俺もグラスを持ち直し、静かに頷きながらそっとグラスを同時に交し合う。
カチン、と目の前で心地よい音が静かに鳴り響いたのを感じながら、果実酒を一気に喉に流し込んだ。
香りの良いはっきりとした甘みと果実の甘酸っぱい匂いが口に広がるのを感じながら、喉をゆったりと通っていく。
鼻腔をくすぐるような心地よい味わいに、俺は一人そっと笑みを浮かべた。
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今回はエリック・カペルさん(http://www.tinami.com/view/380923)をお借りして交流させてみました! 初の顔合わせ〜ということで、ちょこっとだけ触り部分です。 |
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