準備は出来ていた |
シュッと衣擦れの音が響く。
小狼の指が素早くネクタイを緩めたのだ。そのまま引っ張り続けたら、簡単にネクタイの結び目が解けてしまうほどのスピードで。息苦しさから逃れる事を切望するように。
だが、彼はその指の動きを途中で止め、左右に振ってみせた。礼容に結ばれていたネクタイの結び目が、だらし無く垂れ下がり、開かれた喉元を強調した。
白い制服の下にチラリと、少年の鎖骨が覗く。
(あっ……!)
さくらの頬に朱が差した。
礼儀正しさをそのまま体現しているような、制服姿の小狼。その礼節をわきまえた装いの下からまろび出た彼の素肌は、不思議な艶やかさを持って少女の目に飛び込んできた。
その仕草に野性味のような男の子らしさを感じ、その素肌に男性としての色気を感じてしまう。
小狼にとっては何でもない事でも、彼に絶賛恋愛中のさくらにとっては、全てにドキドキさせられてしまう。ましてやそれが、普段の生活の中では中々垣間見る事の出来ない、彼の素肌であったのなら。
加速し始めた胸の鼓動が、少女の両眼に不思議なフィルターを掛ける。制服の下に隠された彼のしなやかな身体を意識してしまう。あの大きな胸に抱き締められた時の、安心感と甘い気持ちを思い出す。
熱に浮かされたような顔付きのまま、さくらは小狼の一挙手一投足に目を奪われていた。
彼が少しだけ笑いを含んだ口元をして近づいてくるまで。
あごに彼の指先が触れ、ちょっとだけ持ち上げられた時にはもう、準備は出来ていた。
閉じたまぶたの裏に彼の姿を想像して……。
それから――。
説明 | ||
小狼が“攻め”に転ずる前の、ちょっとした挙動にさくらは鼓動の高鳴りを覚える……。 キスの一歩手前というシチュエーションです。 |
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