博麗の終  その14
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【混迷】

 

 レミリアは、縁側の踏み石できちんと靴を脱いで、霊夢の部屋へと向かっていた。

 

 従者を外で待たせたまま、ずっと無言で、ゆっくりと向かっていた。

 

 

 そこで待つ者を思いながら、独りで。

 

 

 罠がないことはわかっていた。

 

 八意永琳との話が終わったあたりで、全ての結界が解かれたことを知覚していたのだ。

 

 霊夢のいる部屋を隔てるものは、残すところ障子一枚。

 

 開けば霊夢に会えるという状況を迎えている。

 

 

 が、レミリアはそこで立ったまま、微動だにしない。

 

 

 まるで立ちすくんでいるかのように、ただ視線だけを部屋の中へと向けている。

 

 

 時間だけが流れていく。

 

 無言のまま、レミリアはただそこに居る。

 

 半分だけ満ちた月の輝きで、部屋の方向へ影が伸びている。

 

 障子には、羽のある小柄な輪郭が少しだけ歪に映し出されている。

 

 

 月がゆるゆると登り、影はさらに小さくなっていく。

 

 

 周りにいる者には長く、当人たちには短い時間が過ぎていく。

 

 

 と――――

 

 部屋の中で、かすかな音がした。

 

 軽いものが擦れたような、微細な音だった。

 

 レミリアは、待っていたのだ。

 

 

「もう、いい?」

 

 

 また中で、スッと擦れる音がした。

 

 

「はい。どうぞお入りください」

 

 

 レミリアが、障子を開く。

 

 月明かりと羽のある影が部屋に広っていく。

 

 

 

 中にはふくらんだ一式の布団と、平伏した八雲紫の姿があった。

 

 

 

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『邪魔だな……』

 

 

 障子を開いたレミリアは、霊夢を見ることができなかった。

 

 平伏している八雲紫が、レミリアと膨らんだ布団の間に位置していたからだ。

 

 

 背の低いレミリアの視点では、紫の身体と布団の下半分ほどしか見えていない。

 

 

『この期に及んでも隠すのか?』

 

 

 やや気にはなったものの、早く霊夢の元へと行きたかったのだろう。

 

 そのまま歩み寄ろうと歩を踏み出そうとしたところで、制止の声をかけられた。

 

 

「どうか障子を閉めてあげて下さい。他ならぬ、霊夢のために」

 

 

 下を向いたままではあったが、意思の通った力のある声だった。

 

 だからというわけではないだろうが、レミリアは素直に従って、無造作に部屋を閉じた。

 

 

「これでいい?じゃあ、会わせてもらうわよ」

 

 

 布団のすぐ傍にいる紫の横に向けて、無警戒に歩いていく。

 

 距離にして九歩。時間など数える間もないくらいのものだ。

 

 しかしその歩みは、近づくにつれてぎこちのないものになっていく。

 

 最後の一歩などは、踏み出すまでに、紫の深い溜め息一つ分の時間を要した。

 

 

 そして。

 

 レミリアは霊夢を見下ろして、固まっていた。

 

 

 歩み寄るほどに歪んでいった顔は、今、完全に悪魔のそれであった。

 

 

「…………どういう……こと、なの?」

 

 

 搾り出すような、呻くような、苦悶の声で問いを口にした。

 

 ふるふると身体が震えていて、右手からはギリギリと握り締める音がした。

 

 紫はゆっくりと頭を上げただけで、何も答えなかった。

 

 呆れるほどに洗練された所作で、レミリアの方をへと体を向けて見つめるだけ。

 

 

 ただ、物言わぬ口と覚悟を決めた瞳が、何よりも雄弁だった。

 

 

 

 美しかった霊夢の顔は、あらゆるところが引き攣り、強張っていた。

 

 

 

 レミリアはおもむろに布団を引っぺがした。

 

 

 霊夢は捨てられた操り人形のような格好をしていた。

 

説明
幻想郷の要は、霊夢なのです。
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