【腐注意】もし俺 小話01【オリジナル】
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CP:黒ブラ Side:黒玉♂

 

 

家に帰ると、そこは不思議の国でした。

 

何かの冒頭の如く唐突に始めてみたが、これは嘘でも冗談でもない。ただ自分の状況と目の前に広がる光景を忠実に述べただけだ。

 

出勤前に干した洗濯物は部屋の中に取り込まれてはいるが、取り込まれているだけで山積みにされている。詰んであった本は無残にも倒れてしまっていて、下敷きになっているのは掃除機だろうか。キッチンには焦げた鍋が鎮座している。しかし何故か部屋中甘い匂いが漂っているというなんとも形容し難い状態だ。

 

今朝自分が家を出るときには、綺麗と言うには程遠かったにしろ、少なくとも人が生活できる空間にはなっていた。現に常識レベルの美的感覚を持つ自分が、人並みに生活を送っていたのだから。

 

しかし今はどうだろう。

正直な所、自分の部屋とは思いたくない空間となってしまっている。果たして本当に自分の部屋なのか、思わず何度も確認をしてしまった。

どう確認してもここは自分の部屋で間違いない。そう確信をしてやっとその空間に「ただいま」と声をかけることができた。

 

そういえば、最近生活を共にするようになった人物の姿が見えない事に漸く気付く。この惨状の原因もあの人なのだろうが、そう考えると急に心配になってしまう。

取り敢えず玄関から見える範囲で彼を探すが見当たらない。慌てて靴を脱いで開け放されたリビングに入ると、丁度玄関から死角になる部屋の角に、不自然に盛り上がった毛布の塊があった。そっと近づくと、こちらの気配を感じたのか、塊が大袈裟に跳ねた。塊の前でしゃがみこみ、「ただいま」と声をかけると、今度は遠ざかるように後退りをする。もちろん、後ろは壁なのでそれ以上下がることなどできはしない。

 

「ただいま、ブラさん。どうかしたの?何か嫌なことでもあった?」

 

話し掛けると、塊がもぞもぞと動いてようやく彼が毛布から頭を出してくれた。一見してけがをしている様子がないことに少し安心する。けれどもこの惨状だ。俯いた彼に何があったのか尋ねようとすると、その前に彼が口を開いた。

 

「ほんとは、りょうりも、せんたくもする予定だったんだっ…」

 

その言葉を聴いて、洗濯物や本の下敷きになった掃除機の理由がわかった。おそらく仕事に行っている自分の代わりに家事をしようとしてくれたのだろう。危ないからそんなことしなくてもいいのに、と思うけれど口にはしない。そのまま次の言葉を待つ。

 

「いつもくろさんがしてくれるから、たまには俺もしなきゃって思って、こんなつもりじゃなかったのに、迷惑かけるつもりなんてなかったのに…!」

 

「誰が迷惑なんて言ったの?」

 

迷惑とは聞き捨てならない。本当は最後まで話を聞いて、その後ゆっくりと慰めようと思っていたけれど、思わず言葉を発してしまう。

 

「だって!部屋もこんなにしちゃって!くろさんは疲れて帰って来てるのに!俺は1日かけてぐちゃぐちゃにしただけだ!」

 

「そんなことないよ?ぶらさんは全部オレのためにしてくれたんでしょ?その気持ちだけで十分嬉しいよ?」

 

「そんなの偽善に決まってる!迷惑なら迷惑って言えよ!」

 

「迷惑じゃないって言ってるだろ!大体本当に迷惑なら最初から一緒に住むなんて言わないよ!」

 

「だって…!」

 

「だっても何もないの!誰でも慣れないことをしたら失敗するでしょ!別に悪い事したわけじゃないんだから謝る必要だってない!」

 

ビクッと彼の肩が跳ねる姿をみて、つい声を荒げてしまったことに気付いた。そんな冷静さを欠いていた自分に苦笑する。そもそも今回のことは自分を思う彼の気持ちが招いたことで、そう考えると急に愛しさが込みあがってくる。俯いたまま毛布を握り締めている彼を正面から抱き留めると、また肩が震えた。こんな状況にもかかわらず、そんな彼をみて可愛いとしか思えない自分を重症だなと思う。

 

「これから少しずつできるようになれば良いよ。オレはブラさんが居てくれるだけで十分なんだから。だから迷惑とか言わないで。わかった?」

 

彼のこわばっていた腕が背中に周り、ギュッと服を掴む感触が伝わってくる。相変わらず俯いたままの彼の頭が腕の中で僅かに上下するのを確認して、オレはもう一度その存在を確かめる様に緩く抱き締めた。

 

 

【01 家に帰ると】

 

(で、もちろんこの責任は取ってくれるんだよね)

(えっ)

 

説明
※こちらは男同士の恋愛を取り扱った作品なので、閲覧の際はお気を付けください。
ちょっと外れたオリジナルBLの小説サイドです。
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