かなかなちゃんとあやせさま きゃっきゃうふふ恋愛相談 |
題名:悪いビッチ魔女も愛の力には勝てない
作:こうさか☆あやせ
「さあ、京介。無駄な抵抗は止めてアタシのものになりなさい。でっぇへへへへぇ♪」
淫乱で悪い魔女桐乃がデレデレな顔で涎を垂らしながら京介王子へと迫ります。
マントの下は素っ裸でビッチここに極まっています。
「アタシの初めての男になって、責任取って一生アタシだけを見なさい!」
襲っている癖に責任を取れという理不尽極まりない理屈を何の躊躇もなく述べる桐乃。さすがは悪とビッチを極めた魔女です。頭の中はエロしかありません。この世全てのエロです。
「い、嫌だぁあああああぁっ! 俺には心に決めた超可愛い彼女がいるんだぁっ!!」
囚われの京介王子は体を必死に動かしながら縄を解こうと努力します。
そう。京介王子にはもう将来を共にすることを心に決めた超可愛い彼女がいるのです。だからこんなビッチに引っ掛かるはずがありませんでした。
でもこの世全ての悪の魔女は余裕の態度を続けます。
「フッフッフ。それはあの、世界一の美少女と評判のエンジェルあやせ王女さまのことかしら?」
「そ、そうだ。俺のマイ・ラブリー・エンジェル新垣あやせ王女のことだっ!」
魔女の笑いに不気味なものを感じながら京介王子は強い肯定を示しました。
「あのお姫様、まだ無事でいると良いけどねえ?」
ビッチ魔女はビッチでかつ魔女らしいエロい笑みを零します。
「どういうことだ、桐乃っ!?」
心配に駆られた京介王子が魔女に尋ねます。
「お姫様は今日ねえ、水着撮影会に参加しているのよ」
「水着撮影会?」
京介王子の額に嫌な汗が流れ出します。
「アタシが招待したエロいことしか頭にない変態ファン撮影会にねっ!」
「なぁっ!?」
京介王子は心臓が止まるのではないかと思うぐらい驚きました。
「今頃お姫様、どうなっているかしらねえ? 世の中に絶望して汚れきった体で泣いているんじゃないかしら? にゃっはっはっは」
ビッチ魔女は心の底から楽しそうに笑います。
一国の王女を自作小説の主人公のような目に遭わせようとしているのにも関わらずです。
「どこまで外道なら気が済むんだ、桐乃っ!」
京介王子が怒りの声を出します。そして同時にあやせ王女のことを思うと心配で涙が零れて落ちて止まりません。
「もう使い古しの傷物中古になっているに違いない汚れた女のことなんか忘れて、新品清純なアタシのものになりなさいってのっ!」
ビッチ魔女が野獣のギラギラした瞳を光らせながら京介王子へと迫ります。
「あ、あやせぇ……」
京介王子が目を瞑り、全てに絶望し掛けたその時でした。
「もう、絶望する必要なんかありませんよ、京介王子っ!」
部屋の扉が開かれ、光と共に美しい少女が入ってきました。
黄金に輝く王冠をかぶり、真っ白いドレスを着たその少女はこの世のものとは思えないほどに美しい存在でした。
「あやせ王女っ!」
京介王子が少女の名を大声で呼びます。
そうです。世界で一番と呼んでも差し支えないこの美少女こそが京介王子の想い人新垣あやせ王女なのです。
「あやせ王女っ!? アンタはアタシの計略で今頃男たちにそれはもう凄いことをされている筈なのにっ!?」
桐乃魔女が驚きの声を上げます。
「男たち? ああ、彼らのことね」
あやせ王女が後ろを見ます。
すると背後には恭しく膝をついて控えている男たちの姿がありました。
「嘘っ!? このエロ男たちは今頃アンタを滅茶苦茶にしている筈なのに…」
魔女が呆然と男たちを見ています。
「普通にお話ししていたら、みんな大人しく言うことを聞いてくれましたよ」
あやせ王女は何でもないとばかりにさらっと話します。
「ははははは。あやせ王女のカリスマを侮っていたのは俺も同じだったか」
京介王子が安心したように笑いました。そう。あやせ王女はみんなから絶大な人気を誇るカリスマお姫様なのです。
「さあ、悪い魔女ビッチ桐乃っ! 早く京介王子を解放しなさいっ! そうすれば今回だけは見逃してあげるわ!」
寛大なあやせ王女は王子を離せば魔女を許すと言いました。
ですが、魔女は王女の寛大な心を理解しようとはしませんでした。
「フッフッフ。何を言っているのかしら? この頭の中がお花畑並におめでたいお姫様は」
魔女が立ち上がってマントを翻します。
マントの下の裸が丸見えですが気にしません。さすがビッチを極めた魔女です。
「わざわざここに来るなんて本当におバカさんよね。これでアタシはアンタを直接葬って、京介の心をアンタから解放できるってもんよ」
魔女が右手に持っているステッキに魔力を込めていきます。
「早速だけど死になさい。超メテオインパクトっ!!」
桐乃魔女がいきなり魔法を放ちました。
大きな火の玉が王女に向かって襲い掛かってきます。
懸命な説得を試みていた王女は魔女の卑怯な攻撃に対応するのが遅れました。
絶体絶命の危機です。
「危ない、あやせ王女様っ!」
王女の危機を救ったのは、改心した男たちでした。
男たちは自らの肉体を壁にして王女の命を護ったのです。
男たちの肉体は王女の水着写真データと共に消えてしまいましたが、王女には傷一つつきませんでした。
男たちは自分が王女を護ったことを誇りに思いながら散っていきました。
「何て酷いことをぉおおおおおぉ!!」
あやせ王女が怒りで覚醒を遂げスーパーあやせ王女に変身します。
髪の毛を金髪にして逆立てるのは不良のやることなので、髪の毛はそのままに全身から金色のオーラを発します。それはまさに神を連想させる姿でした。
「淑女の魂と大和撫子の立ち居振る舞いを持ちながら激しい怒りによって目覚めた伝説のスーパー王女。それがわたしですっ!」
スーパーあやせ王女が悪い魔女を睨みます。
「フンッ! その程度の変化で逆転フラグが立ったと思ったら大間違いよ! アタシがこの世界最強のプリティーガールなんだからぁっ!」
でも、悪い魔女は王女に屈せず挑み掛かって来ました。
魔法ではなく直接殴り掛かって来る所がもう終わりですが、とにかく魔女の大攻撃です。
それに対してスーパーあやせ王女は悠然と構え、右手を魔女に向かって突き出しました。
「いさなりがやしたわをざのんいろひんいめにしたわっ!!」
「うわぁああああぁっ! あやせの想いの強さにやられたぁ〜〜っ!」
悪い魔女は敗北を認めて光と消え去りました。
「京介王子〜〜〜〜っ!」
「あやせ王女〜〜〜〜っ!」
悪い魔女から解放された王子と王女は力一杯抱き締めます。
「愛している、あやせ王女っ!」
「わたしもです、京介王子っ!」
2人は熱いキスを交わしました。
こうして相思相愛の2人は結ばれました。
京介王子とあやせ王女は沢山の子供に囲まれながらいつまでも幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし
「このお話をマンガにすれば漫画大賞も夢じゃないですね」
渾身の力作を見ながら感嘆の息を漏らします。
どうやらわたしにはマンガ原作者の才能があるようです。
後は、カメラマンの男性たちから可愛いと評判のわたしの画力を以てマンガを完成させれば完璧な筈です。
桐乃の小説に負けていられません。
「ああっ。このマンガが出版なんて事態になったらどうしよう?」
このマンガが出版なんて事態になれば当然両親は知ることになるでしょう。
そうなったらとても厳格なことで有名な父と母のことです。お兄さんとの関係について追及して来るに違いありません。
その課程でわたしがお兄さんにプロポーズを受けた。しかも性的に酷い目に遭わされている関係であることがバレてしまうでしょう。セクハラ三昧ですからね♪
そうなれば父は烈火の如く怒るでしょう。お兄さんを警察に突き出す。ううん、殺してしまおうとするかもしれません。
そうさせない為にはそれが普通な関係。つまり、わたしがお兄さんにお嫁さんになるしかありません。2人が夫婦になるしかお兄さんの命が助かる可能性はないのです。
となればお兄さんはわたしに必死に求婚を申し込んでくるでしょう。真っ白なタキシード姿で赤いバラの花束を持って。
わたしはお兄さんのことなんか何とも思っていませんが、命が掛かっているとなれば断り切れなくなるかもしれません。
「まったく、現役中学生少女と結婚したいだなんてお兄さんは変態ですね♪」
ウェディングドレスのカタログを見ながら溜め息を吐きます。
お兄さんのせいでこんな凝った服を早急に作らないといけないんですから♪
「なあ、あやせ。相談があるんだけど……」
「どうしたの、加奈子?」
わたしがお兄さんのせいで不幸に浸っていると、とても女の子っぽい表情で加奈子が声を掛けてきました。もじもじと体を動かしてとてもしおらしく見えます。
豪快、そして粗忽が売りの加奈子が一体どうしたのでしょうか?
「あ、あのよぉ…」
こんな風に自信なさげにオドオドした加奈子を見るのは初めてです。
もしかして目の前の人物は加奈子に見えるだけで三次元メルルなのかもしれません。
「そ、相談したいことが、あ、あるんだっ」
「うん」
うんと答えてみたものの、何だか嫌な予感に駆られます。
あの加奈子がこんな気を使わないといけない相談。まともな相談でないことは明らかです。
人を殺してしまったとかそういう危険な内容でなければ良いのですが…。
「実はよぉ…あたし、恋をしちゃったんだ」
「か、加奈子が…恋?」
思考回路がプツっと切れます。何か今、凄いことを聞いたけれどうまく理解できない。そんな感じです。
でも、加奈子の恥ずかしがる態度が、赤く染まった顔がわたしに何が起きているのか段々とわからせていきます。
そして──
「あたし、好きな男が出来ちゃったんだよぉっ〜!」
「えぇえええええええええええぇっ!?」
加奈子の言うことを理解した時にわたしの口から漏れ出たのは大きな驚きの声でした。
かなかなちゃんとあやせさま きゃっきゃうふふ恋愛相談
「加奈子、本当に好きな男の人が出来たの?」
「うん」
顔を赤らめて答えるかなかなちゃんにあやせさまはとても驚いたんだよ。
かなかなちゃんは普段男を財布かタクシー代わりにしか考えていない女の子だったから。
そのかなかなちゃんが恋するなんてあやせさまには不思議で仕方があなかったんだよ。
そして同時にかなかなちゃんが好きになった男の子が誰なのか、とても強い興味を惹きました。
「加奈子が好きになった人ってどんな男の人?」
あやせさまは頭の中で一生懸命にかなかなちゃんが好きになりそうなこの学校の美少年たちを思い描いたんだよ。
でも、あやせさまの頭の中では 京介お兄ちゃん > 学校の芋たち という不等式しか思い浮かびませんでした。でもこれは秘密だからクラスのみんなには内緒だよ♪
「と、年上なんだけどよ…」
「年上、ね」
あやせさまは今度はモデル事務所に所属しているイケメン美少年、美青年、美中年たちを思い浮かべたんだよ。
でも、あやせさまの頭の中では 京介お兄ちゃん > 事務所の顔だけ という不等式しか思い浮かびませんでした。でもこれは秘密だから事務所のみんなには内緒だよ♪
「3歳ぐらい年上なんだけどよ…」
「3歳?」
3歳年上と聞いてあやせさまの額にじわりと嫌な汗が浮かび始めたんだよ。あやせさまの知っている3歳年上の男なんて、御鏡くんとあの人しかいないんだよ。
「その人、格好良い?」
「顔は……地味」
地味と聞いてあやせさまの額には更に汗が浮かび始めました。該当例はもう1人しかいなくなっちゃったからだよ。
「じゃあ、優しい?」
「まるで兄貴と一緒にいるみたいな感じになる。あたしには兄貴なんていねえのによぉ」
かなかなちゃんは顔が真っ赤っかなんだよ。完全にのぼせちゃっているんだよ。
「兄貴……お兄さん」
お兄さんという単語の響きにあやせさまは強い危機感を覚えました。この先を聞いてはいけないような、でも確かめておきたいような。
でも結局確かめたい欲求に逆らえなくなったんだよ。
「加奈子の好きな男の人の名前って……何て言うの?」
あやせさまは自分の予感が外れていることを願いました。けれど、そういう願いって叶わないように世の中出来ているんだよ。
「前にあたしのマネージャーをやってた……京介ってヤツなんだけど」
「やっぱりぃいいいいいいぃっ!」
あやせさまは大絶叫しちゃったんだよ。
だって、予想した通りの人がかなかなちゃんの好きな人だったから。
「あやせは京介のことを知っているんだよな?」
かなかなちゃんはキラキラした瞳で身を乗り出してきました。
「うん。まあ……」
あやせさまは目を逸らしながらちょっとだけ俯きます。かなかなちゃんの目をまともに見られないんだよ。
「名字は? フルネームは何て言うんだよ?」
かなかなちゃんは回り込んでまたあやせさまの顔を覗き込みます。顔から発するキラキラがあやせさまには辛いんだよ。人間、自分が汚れたと感じると、綺麗なものを見るのが苦しくなるからなんだよ。
「高坂……高坂京介、よ」
あやせさまは素直に言いました。
「高坂?」
「あの人、実は……桐乃の…お兄さん、なの」
「京介は桐乃の兄貴なのかよぉおおおおおぉっ!!」
今度はかなかなちゃんが大きな声で驚きました。
「そっかぁ。京介は桐乃の兄貴なんだぁ」
と思ったら、今度は締まりのない顔でにやけ出したんだよ。妄想中のあやせさまみたい。
「そっかそっかぁ。それじゃあ今から桐乃にはもっと優しく接しねえといけねえなあ」
かなかなちゃんとっても幸せそう。
「何で?」
尋ねるあやせさまはとっても不愉快そう。
「だってよぉ……桐乃は将来、あたしの義理の妹になるかもしれねえじゃねえかよ」
かなかなちゃんは既に京介お兄ちゃんと結婚する気なんだよ。まだ付き合ってもいないのに、とってもとっても気が早いんだよ! でも、それでこそかなかなちゃんなんだよ!
「そんなこと……ある筈がないでしょっ!」
あやせさまはここが教室であることも忘れて大きな大きな声を出しました。
「何で、だよ?」
かなかなちゃんはとっても不満そう。お嫁さんの夢を否定されてお冠なんだよ。プクッと頬が膨らんでいます。
「えっと…それは…」
困ってしまうあやせさま。
あやせさまは、かなかなちゃんと同じで京介お兄ちゃんのことが大好き。京介お兄ちゃんのお嫁さんになるのは自分だと信じて疑わないんだよ。
でも、あやせさまはツンデレのヤンデレだから京介お兄ちゃんのことが好きだって認められないんだよ。エッチなゲームのヒロインで必ず1人はいるタイプなんだよ。
「そう。そうよ! お兄さんは妹のことを愛してるなんて大声で叫ぶ変態だから、加奈子は近付いちゃダメなのよ!」
あやせさまは大義名分を見つけたと思いました。でも、その理由だとあやせさまも京介お兄ちゃんに近付いちゃダメになっちゃうんだよ。焦りすぎなんだよ。
「京介は妹想いなだけなんだよ! 気持ちの悪い方に解釈するなっ!」
かなかなちゃんは反論しました。好きな男の子を悪く言われてむっとしてるんだよ。
「でも、お兄さんは、会う度にわたしにセクハラしてくるような変態なの!」
「どうせオメェが誘惑して京介を惑わせたんだろ! このムッツリスケベがっ!」
「お兄さんはわたしにプロポーズした変態なんだからっ!」
「京介のことを悪く言うなぁっ! あたしが許さねえぞ!」
睨み合いながら激しく火花を散らすかなかなちゃんとあやせさま。1人の男を2人の女が取り合う修羅場なんだよ。燃えるんだよ。楽しいんだよ。血の惨劇しか結末にはないんだよ。
でも、あやせさまは自分の気持ちを素直に認められないし言えないから、他の手を考えて打つ必要があるんだよ。そこであやせさまは考えました。
「加奈子は…どうしてお兄さんのことを好きになったのよ?」
あやせさまは搦め手から攻めることにしたんだよ。言い澱んだ所で反撃に移るつもりなんだよ。
「アイツはさ、京介はあたしの初めてのファンだって言ってくれたんだ。それがすっごく嬉しくてさ。それに、京介はあたしに優しいし、ちゃんとあたしのことを見てくれるんだ。そんな男に会ったのは初めてなんだ」
恋する乙女の表情で語るかなかなちゃん。普段のかなかなちゃんからは想像もできないほどウブな少女オーラを発しているんだよ。
「そ、そうなんだ…」
あやせさまの額からタラタラと汗が流れます。戸惑って答えられないことを期待していたのに惚気られちゃったからなんだよ。
あやせさまはかなかなちゃんのピュア乙女な態度に追い詰められてしまいました。
あやせさまは愛する京介お兄ちゃんを横取りされない為に大きな決断を迫られたんだよ。
「でもダメ。お兄さんが加奈子に靡くなんてあり得ない!」
あやせさまは首を強く振りました。
「何でだよ!」
かなかなちゃんは強い反感を示しました。
かなかなちゃんはあやせさまの言葉に女の勘が働いたんだよ。そしてかなかなちゃんの勘は間違っていなかったんだよ。
「何でって…それはお兄さんがわたしを愛してしまっているからなのよぉ〜〜っ!」
あやせさまは大声で叫びました。
「京介があやせを愛しているだと?」
かなかなちゃんは信じられないという風に瞳を細めました。
「そうよ。お兄さんはこのわたしに片想いしているのよっ!」
あやせさまは胸を叩きながら誇らしげに語りました。
「わたしはお兄さんのことなんか全然好きじゃないんだけど、お兄さんはわたしにゾッコンloveしちゃってる状態だから加奈子が恋人になるのは無理ね。だってお兄さんはわたし以外の女を欠片も見ないもの」
あやせさまはフフンと鼻を鳴らします。京介お兄ちゃんは自分のものだと遠回しにアピールしてるんだよ。
「あやせと京介が恋人になっていないのなら、あたしのチャンスはまだ残っているってことだろ」
でも、かなかなちゃんは諦めません。恋する乙女になったかなかなちゃんは普段よりもとっても強い存在になっているんだよ。恋する乙女は最強って昔から言う通りなんだよ。
「無理よ! お兄さんはわたしに惚れているんだから!」
「無理じゃねえ! あたしは絶対京介と恋人になってみせるってんだよ!」
再び睨み合うあやせさまとかなかなちゃん。
女同士の修羅場はとってもとっても怖いんだよ。でも、それが良いんだよ♪
「そんなに言うんなら……わたしがどれだけお兄さんに愛されているのか実際に見せてあげるわよっ!」
あやせさまは遂に切り札を使うことにしました。視覚的効果でかなかなちゃんを諦めさせようと言うんだよ。
同時に京介お兄ちゃんの恋人の座をゲットしちゃおうとする遠大な計画でもあるんだよ。好きな色は白なのにお腹の内側は真っ黒なんだよ。
「フンッ! どうせあやせの一方的な勘違いに決まってるんだよ」
火花を散らすあやせさまとかなかなちゃん。
「2人とも、そんなに目を血走らせて一体どうしたの?」
桐乃ちゃんが教室に入ってきました。昼休みも陸上のトレーニングに余念がない勤勉家さんなんだよ。
「桐乃はわたしの妹になるのよ! 嫌々だけど!」
「何言ってるんだ! 桐乃はあたしの妹になるんだよ!」
京介お兄ちゃんを巡る修羅場はいよいよ桐乃ちゃんまで巻き込み始めたんだよ。
「えっ? 2人とも何の話? 今になってマリ見てごっこ?」
桐乃ちゃんは何故2人が争っているのか全然理解できません。当然だけど。
「桐乃の姉にはわたしがならざるを得ないの!」
「い〜や、あたしだ!」
桐乃ちゃんを放っておいてまたまた睨み合うあやせさまとかなかなちゃん。
「あの、2人が何を争っているのかわからないけれど、ほらっ、そろそろ次の授業は教室移動だよ」
桐乃ちゃんは不穏な空気を感じて仲裁に入ったんだよ。
「桐乃っ。わたしはどうしてもこのパチもんメルルと決着をつけなくちゃいけないの。ケリがつくまで学校に来られない。だから今日はもう早退するわ」
「桐乃っ。あたしはどうしてもこのパチもん清純派と決着をつけなくちゃいけないんだ。ケリがつくまで学校に来られない。だから今日はもう早退するぜ」
だけど対決の火花を激しく燃やす2人を仲直りさせることはできませんでした。
「ちょっと2人とも〜本当に授業始まってしまうよ〜〜っ?」
桐乃ちゃんは大きな声で2人を呼び止めようとしました。だけど宿命の対決に燃えているあやせさまとかなかなちゃんの耳には全く届かなかったんだよ。
あやせさまとかなかなちゃんは京介お兄ちゃんが通う高校の前までやって来たんだよ。
時間は午後1時をちょっと過ぎた所。普通だったらまだ授業中。でも、京介お兄ちゃんは3年生だから、特別プログラムで今日は早く終わる日だったんだよ。
沢山の受験生に紛れて京介お兄ちゃんも出てきました。
「はあ〜。掛け算の5の段暗唱とかいきなり問題がハード過ぎるんだよ」
京介お兄ちゃんはとても疲れた顔をしています。受験生は大変なんだよ。
そんな京介お兄ちゃんの姿を発見したあやせさまとかなかなちゃん。
2人の様子は対照的なんだよ。
あやせさまは今にも殺しちゃうんじゃないかと思うぐらいに激しい眼光で京介お兄ちゃんを睨んでいます。
一方、かなかなちゃんは誰がどう見ても恋する乙女の表情で顔を真っ赤にしながら潤んだ瞳で京介お兄ちゃんを見ています。
「お兄さん……っ」
「京介ぇ……っ」
そしていよいよ獲物、じゃなくて京介お兄ちゃんが2人に近付いたんだよ。
「あれっ? あやせと加奈子じゃねえか。こんな時間にこんな場所でどうしたんだ?」
京介お兄ちゃんが2人に声を掛けました。
それは、2人にとって最終決戦の幕が切って落とされたことを意味していたんだよ。
「お兄さんに是非お伺いしたいことがあってここまで来ました」
先手を打ったのはあやせさま。
自分と京介お兄ちゃんの仲を見せつけることで戦わずしてかなかなちゃんを諦めさせるつもりなんだよ。
「伺いたいこと?」
「そうです」
あやせさまは真剣な表情で京介お兄ちゃんを見ました。
「お兄さん……いつもみたいにわたしに出会い頭にセクハラして下さって構いませんよ」
誇らしげに語るあやせさま。
あやせさま的には最大限の告白なんだよ。遠回し過ぎてその真意が伝わらないのだけど。
「いや、こんな人の多い場所でセクハラなんかしたら……さすがに俺の人生が終わるだろ」
京介お兄ちゃんが周囲を見回します。沢山の生徒が京介お兄ちゃんたちを見ているんだよ。目立ちまくりなんだよ。
「周りに人なんて……いませんよ?」
あやせさまが王者の貫禄で周辺のギャラリーを睨みつけました。
あやせさまの瞳から絶対の恐怖を感じた高校生のお兄さんとお姉さんたちは一斉に去っていきます。人間、怖いものには逆らえないんだよ。
でも、京介お兄ちゃんとかなかなちゃんは普段からあやせさまの魔眼の威力を受け続けて全然平気なんだよ。人間の適応力って凄いんだよ。
「これで周囲に人がいなくなりました。さあ、いつものように好きなだけわたしを性的な欲望で貶めて辱めて、求婚するなり無理やりファーストキスを奪うなりしてください」
身振り手振りで京介お兄ちゃんにセクハラを求めるあやせさま。最後の方は自分の欲望が駄々漏れなんだよ。
「あやせ……」
京介お兄ちゃんが真剣な表情であやせさまを見ました。
「はっ、はい!」
京介お兄ちゃんを見るあやせさまの顔はキラキラ輝いています。プロポーズされるに違いないと思っているんだよ。受ける気満々なんだよ。
「俺はもう、あやせにセクハラはしないって言っただろう?」
「へっ?」
京介お兄ちゃんの言葉はあやせさまにとって予想外だったんだよ。
「前の彼女と別れた時に思ったんだ。やっぱり俺はもっとしっかりしなくちゃいけないって」
京介お兄ちゃんはちょっと寂しげな、でもとても大人っぽい笑みを浮かべました。それは普段のあやせさまならメロメロになってしまう類の笑みでした。でも、あやせさまにとって今はそれじゃ困るんだよ。
「お兄さんが大人になってくださるのはとても素晴らしいことだと思います。でも、偶には少年の心も忘れないように、ねえ……」
あやせさまはウインクして京介お兄ちゃんの気を惹こうとします。
「俺は今までガキ過ぎたんだよ。だから、変わり過ぎるぐらいで丁度良いんだ」
京介お兄ちゃんは静かに首を横に振りました。
「そんな急激な変化は無理が来るだけですから。ほらっ。今なら、特別にセクハラも許しちゃいますから」
あやせさまは制服シャツの上2つのボタンを外してピラピラしてみせました。捨て身のお色気攻撃なんだよ。もう、清純派とかなりふり構っていられないんだよ。
「親友の兄の立場を利用して中学生の女の子にセクハラだなんて、本当に最低だったよな俺は。だからもう、あやせには二度とセクハラしない」
「えぇええええええぇっ!?」
あやせさまはとってもとっても驚きました。
「あやせは桐乃の大切な友達だからな。桐乃の兄として失礼のない様に対応するさ。これからも妹をよろしくな」
「……それって、わたしは桐乃の付属物に過ぎなくて、お兄さんの目にもうわたし個人は入らないってことじゃないですか」
お兄さんの言葉にあやせさまの魂が抜けていきます。ここまで無自覚に女をあっさり振るなんてさすがは京介お兄ちゃんなんだよ。
あやせさまの魂は空へと昇っていってしまいました。
グッバイ、あやせさま。なんだよ。
「あのさあ京介……さっき、彼女と別れたとかどうとか……」
一方、かなかなちゃんは京介お兄ちゃんが女の人と付き合っているのかどうか気になって仕方がないんだよ。
「ああ。9月のはじめに付き合っていた彼女に振られちまったんだよ俺は」
京介お兄ちゃんはとても寂しそうな表情を見せました。前の彼女のことをとってもとっても引きずっているんだよ。
でも、そんな哀愁が女を惹きつけることもあるんだよ。
「じゃあ、今は誰とも付き合っていないのか?」
「ああ」
京介お兄ちゃんから溜め息が漏れ出ました。
その大人の溜め息を聞いて、かなかなちゃんの心臓はドッキ〜ンって高鳴ったんだよ。
「そ、それじゃあ、京介は今、恋人を探してたりするのか?」
背の低いかなかなちゃんが爪先立ちになって京介お兄ちゃんの顔を覗き込みます。
「俺は当分、彼女は作らないと思う」
「へっ?」
京介お兄ちゃんの言葉を聞いてかなかなちゃんは驚きました。
「それって何でだ?」
かなかなちゃんは必死の表情で京介お兄ちゃんに理由を聞いたんだよ。
「俺は桐乃が彼氏を作るまで彼女を作らない。そう、決めたんだ」
京介お兄ちゃんの口調はさばさばしていました。でも、嘘の響きは感じられないんだよ。
「何でそんな話が出るんだよ?」
だからこそかなかなちゃんには京介お兄ちゃんの話が理解できないんだよ。
「俺が黒猫……彼女に振られたのは、俺がシスコン過ぎて彼女の気持ちを汲んでやれなかったからなんだ」
京介お兄ちゃんは今にも泣きそうな顔です。
一方で、その言葉を聞いてかなかなちゃんはカッチンと来たんだよ。
「おかしいだろ、そんなの!」
かなかなちゃんは京介お兄ちゃんに向かって張り上げました。
「加奈、子?」
京介お兄ちゃんは目を丸くしています。
「オメェが解決しなきゃいけない問題の責任を桐乃に押し付けてどうするんだよ!」
「なっ?」
京介お兄ちゃんの顔が引き攣りました。
「桐乃が彼氏を作らないから自分は彼氏を作らない? オメェはそれで言い訳が立って気分が晴れるかもしれねえが、そんなの桐乃にとってみりゃ要らないプレッシャー掛けられているだけだろうが!」
かなかなちゃん、マジ本気のお説教モード。さっきまでの乙女モードとのギャップが凄いんだよ。
「オメェに言い寄る女だって、妹がどうとか言われて振られたんじゃ堪らねえだろうが! オメェの言い分は自分以外の誰にも優しくもねえし、利益もねえ!」
京介お兄ちゃんは黙って聞いているしかありません。
「惚れたはれたぐらいはテメェの判断で白黒付けろ! それが桐乃や想いを寄せる女、そして自分自身の為に最低限通らなきゃいけない人の道ってもんだろうがぁっ!」
かなかなちゃんは大声で吼えました。でも、吼えた所で気が付いたんだよ。自分が好きな男の子に対して明らかに好感度が下がるような物言いをしてしまったことを。
「あ〜あ。せっかく好きな男が出来たってのに……これで失恋かぁ」
かなかなちゃんの口から大きな溜め息が漏れ出ます。
せっかく生まれて初めて本気で男の人を好きになったのに、その人に酷いことを言ってしまった。その落ち込みでかなかなかちゃんの目の前は真っ暗なんだよ。
「でもまあ、京介にも言った手前……玉砕してきちんとこの恋にケリをつけねえとな」
かなかなちゃんは顔を上げました。表情は暗いままだけど、その瞳には強い意志が宿っているんだよ。振られるにしろ、この恋に全力を尽くすという強い意志が。
「京介……大事な話があるんだ」
かなかなちゃんは京介お兄ちゃんの瞳を真っ直ぐ見ます。
「あたしは……あたしは…………」
覚悟を決めた筈なのに、その言葉を口にしようとすると物凄いプレッシャーに押し潰されそうになる。でも、かなかなちゃんは負けなかったんだよ。
「あたしはっ…………京介のことが好きなんだぁあああああああああぁっ!」
かなかなちゃんは遂に京介お兄ちゃんに告白したんだよ!
「あたしは京介のことが好きなんだっ! 京介はあたしのことなんかただのムカつく生意気なガキぐらいにしか考えていないかもしれねえけどよ。あたしは……アンタに本気なんだ!」
自分の想いを次々に口にしていくかなかなちゃん。もう半分自棄なんだよ。
「京介があたしのことを好きじゃなくても良い。でも頼むから、京介の本当の気持ちを京介の言葉で答えてくれっ!」
かなかなちゃんは深々と頭を下げました。こんな風に頭を深く下げたのはかなかなちゃんの人生の中で初めての出来事なんだよ。
しばらくの沈黙の時が流れ……
「加奈子……顔を上げて欲しい」
京介お兄ちゃんはかなかなちゃんの両手を握りました。
「加奈子の告白……すげぇ嬉しかった」
かなかなちゃんの目が上を向きます。
「それにさっきの“惚れたはれたぐらいはテメェの判断で白黒付けろ!”って言葉。ずしって胸に響いたよ。まさにその通りだ」
京介お兄ちゃんのかなかなちゃんの手を握る力が強くなるんだよ。
「加奈子のおかげで目が覚めたよ」
「おっ、おう……」
かなかなちゃん。反応は薄いけれど、本当はとっても嬉しいんだよ。今までの人生で誉められたことがほとんどないからどう反応して良いのか良くわからないんだよ。
「それで、交際の件なんだが……」
「お、おう」
かなかなちゃんの15年の人生の中で最大の緊張の一瞬。
「まずは友達から、始めてもらえないだろうか?」
「へっ?」
かなかなちゃんは思わず首を捻ってしまったんだよ。
「あの、それって……?」
かなかなちゃんには京介お兄ちゃんの答えがイエスかノーなのかわかりません。
「俺は加奈子のことをよく知らない。よく知らないのに彼女になってくれなんて無責任なことは言えない。けど、さっきのやり取りで俺はお前に心惹かれているのも事実なんだ。だから……まずは、お互いを知り合うことから始めないか?」
「タクッ。オメェは40年前の中学生かっての」
かなかなちゃんは大きく溜め息を吐きました。
「つまりそれって……あたしに京介を惚れさせろってことだろ?」
「う〜ん。というか、お互いによく知り合って好きになろうということなんだが」
「あたしはもう京介のことが大好きなんだから、後は京介があたしを好きになればそれでカップル成立じゃねえか」
何でもない風を装っているかなかなちゃんだけど、その顔はトマトよりも真っ赤なんだよ。
「じゃあ、お互いを知り合う為にこれから2人でどこか出掛けるか?」
「お友達とか言いつつ早速デートかよ。まあ、その方があたしの魅力を存分に伝えられるから良いんだけどな」
かなかなちゃんは京介お兄ちゃんの手を取って腕を組んだんだよ。
「それじゃあ出発するか。どこか行きたい場所はあるか?」
「京介が前の彼女と遊びに行った場所」
「おい……」
京介お兄ちゃんの顔がちょっと引き攣りました。
「あたしといる方が楽しいって今日のデートでわからせてやるぜ」
「お手柔らかに頼む、ぞ」
京介お兄ちゃんとかなかなちゃんは仲良く腕を組んで学校から去っていきました。
わたしが言うのもなんだけど、きっとこの2人。お似合いのカップルになれそうなんだよ♪
めでたしめでたしなんだよ。
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tokiさま あやせさまは魂が天に帰られました。その辺で真っ白な灰になっています(枡久野恭(ますくのきょー)) あやせさまはどこへ・・・(toki) 何か 珍しくHappy end?なのかな?(toki) |
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