鬼ごっこ【仔銀+松陽先生】 |
「鬼ごっこしようぜ」
寺子屋のやつらがそういった。
むかついたから、全員殴った。
≪ 鬼ごっこ ≫
「聞きましたよ銀時。友達を殴ったそうですね」
「……怒るのか?」
「では、まずは理由を聞いてみましょうか」
先生は、にっこり笑って俺の横に腰かけた。
逃げようとして腰を浮かせたところで止めた。
なんとなく、今は逃げても刃向っても負けの様な気がした。
「どうしたんですか?」
「……あいつらが、鬼ごっこしようっていったから」
「おや、銀時は鬼ごっこが嫌いなんですか?」
「だって、鬼は俺だから。俺が、俺のふりをするのはおかしい。あいつらが俺のふりをするのも変だ」
先生は「ん?」と小首を傾げた。
俺も真似して小首を傾げた。
「何故、……貴方が鬼なのですか?」
「町の奴らが俺を見るたびにそう言ってたんだ。俺の、元の名前」
先生が名前をくれるまで、俺は自分の事を「鬼」と呼んでいた。
それ以外名前がなかったし、みんながそういうから俺もそう呼んだ。
みんな俺の名前を憎たらしげに呼ぶけど、たいして気にはしない。
今日の飯と寝床のほうがもっと大事だから。
たまに会う仲間に名前は鬼だというと、ちょっと驚いてから「かっこいいな」っと笑ってくれた。
俺の名前は、どうやらかっこいいらしい。
別の奴はこう言った「気味が悪い」
俺の名前はかっこよくて、気持ち悪い。
先生が名前をくれて、俺は坂田銀時になった。
あいつらと会って、俺は自分の事を「鬼」から「俺」って呼ぶようになった。
いい歳だし、もう自分の名前を一人称で呼ぶ子どもではない。
「貴方は、鬼ではありません」
「じゃぁ俺は誰だ?」
「坂田銀時です。この吉田松陽のいとしいわが子です」
先生は、ぎゅぅっと俺を抱きしめた。
苦しいよ先生、っといっても力を緩めてはくれなかった。
本当は、苦しんじゃなくてどこかむずがゆくて、先生は雪の中の毛布のようにあったたかった。
「銀時。鬼ごっこの、鬼という人はですねとても感情表現がヘタなのです。だから町中の人に勘違いされて、顔を見ただけで逃げ出されてしまうんです」
「……鬼は、悲しくないの?」
「悲しいですよ」
あっさりと先生がそういうのが、なんか嫌だった。
もし俺の方に「鬼」がいるとしたら、先生のもとにつれていきたい。
「それで、鬼はどうしたの?何処にいるんだ?」
「鬼はみんなの近くにいます。そして逃げる子どもを追いかけて、いうんです」
「何を」
「僕は怖くないよ。僕とともだちになってよ。鬼は一人一人追いかけては、子どもたちにそういったんです。そうして一人一人、彼のともだちになって…」
「鬼は幸せになった?」
すかさず俺が声をあげた。
先生はにこっり笑う。
「えぇ。その通りです」
「………俺も、その鬼みたいになれる?」
「えぇ。でもまず、そのために貴方がするべきことがあるんじゃないですか」
「あいつらのとこにいってくる?」
「そう思うなら、そうしてみなさい。私はちゃんと、ここで見ていますから」
「うん」
俺はみんなのもとへとかけていった。
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