うそつきはどろぼうのはじまり 63 |
「今、容器内部圧が基準値を越えました。吸引、止まりません!」
計器を睨んでいた職員が、驚愕を露わに喚いた。
「現在、緊急流路へ迂回させていますが、流速が大きすぎて処理が追いつきません! 数値反転、許容量を超えます!」
バランは怒鳴った。
「吸引弁を閉鎖しろ!」
「駄目です! 圧が高すぎます! このままでは……!」
暴発する、という悲鳴は雑音にかき消された。空気中に含まれるマナは、電子機器に影響を及ぼす濃度に達しつつあった。
バランは乱暴に通話を切る。あの傲慢極まりない精霊の目的はこれか。クルスニクの槍が保有できる以上のマナを送り込み、内部から破壊する。連中はマナの玄人だ。自らの意のまま、量も行く先も操ることができる。それに思い至らなかったのは、明らかにバランの失敗だった。
暴発だけは、何が何でも阻止しなければならない。今、ここで槍が暴走すれば、確実に自身も巻き込まれる。それだけの至近距離に、彼はいるのだ。空中にいるとはいえ、一人優雅に高みの見物というわけにいかないのが惜しい。挙式会場に設定した戦艦は、そこまで機敏ではない。
槍は、吸引弁すら閉鎖できない状態にあるという。しかし吸引自体が止まれば内部圧も低下するのだ。従って、まずは吸引機構を停止する必要があった。
だがどうやって。その方法が分からないから、槍の技官も自分に助けを求めてきたというのに。
クルスニクの槍。黒匣の代替として源黒匣を組み込んだ巨大機器兵器――機器。
技師は気づいた。あれは機器なのだ。動力を落とせば全ての機構は停止する。
動力源は――源黒匣のマナは、彼女。
バランは祭壇前で槍を見据えている花嫁に、つかつかと歩み寄った。その甲高い足音にエリーゼは振り返り、顔をこわばらせた。
「……!」
新郎の血走った目を見て、彼女は反射的に身を翻していた。
大空に花火が上がった。さして美しくもない、鉄と火薬の臭いしか撒き散らさない花火である。
ミラとその配下が全力で放出したマナのお陰で、クルスニクの槍は瞬く間に許容量を迎えた。それでも尚、彼女たちは注入をやめなかったため、槍は内部から破裂してしまっていた。
限界を超えるマナを受け入れてしまった賢者の槍が、轟音を上げて瓦解していく。その様子は遠く離れたニ・アケリア霊山からでも、よく見ることができた。
「これで満足か? エレンピオスの民よ。精霊界は存在し、また我ら精霊も意志を持って存在する。お前達の与り知らぬ所でな」
うなだれるひげ面の研究員に、ミラは哀れみの籠もった一瞥を投げた。頭を垂れているのは、何も元アルクノアだけではない。レイアまでもがその場に膝をつき、畏敬すべき存在の前に屈していた。
ただ一人、若き医師だけが平然と立っていた。
ジュードは手を伸べる。親しみを込めた、穏やかな瞳で精霊の王を見つめる。精霊の主の目がそちらに向く。すい、と滑るように艶姿が近づいてくる。
精霊が手を差し出す。二人の手のひらが、重なる。
「久しぶり。元気そうで、よかった」
精霊は微笑む。こちらに現れてから初めて見せる、柔らかな笑みだった。
「君もな。少し背が伸びたようだが?」
「うん。もう二十一だしね」
そうか、と感慨深げにミラが頷いた時だった。
それまでずっと彼方を監視し続けていたシルフが、ふいに目を眇める。
「おい……あれ、まずくないか?」
言われてミラもまた目を細めた。シルフの示す方角には、崩落する軍艦の群が見えている。その中に、見慣れた姿を認め、精霊の主は紅色の瞳をいっぱいに見開いた。
「エリーゼ!? どうしてエレンピオスの軍艦に……それもなんだって花嫁衣装なんか着ているんだ?」
ミラの苛立ったような問い掛けにはジュードが答えた。
「政略結婚だよ。エリーゼは今、エレンピオスでマナ抽出の原料にされているんだ」
外道め、と思わず吐き捨てたミラだったが、すぐさま救援の手筈を探る。
「シルフ、行け!」
当該区域を指さしての命令に、だが当の精霊は喚いた。
「無茶だよ! 今、ミラを浮かせているので精一杯だよ!」
「くそっ……! ウンディーネ! 海面で受け止めろ!」
楚々とした水の精霊は、困惑の表情を浮かべた。
「ですがミラ、ここからでは距離がありすぎます。とても間に合うかどうか……」
「それでもいい、とにかく行け!」
ウンディーネは無言で姿を消した。一拍遅れて、土の精霊が現状を指摘する。
「行かせるのはいいけど、ミラ、マナが足りないでち!」
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