Virgin Blood |
視界が黒い布に覆われたと思った次の瞬間、フワリと重力が消えた。
「ほえ……?」
そして――。
次に視界が開けた瞬間には、背中側を柔らかい感触が包んでいた。
見上げて気が付く。ここは彼の居室であり、寝室だ。見慣れた天井がそこにある。
「えと…………」
視線を落とすと、ベッドに横たえた身体へ覆い被さるよう黒い布があり、シーツも含めて景色を一様に黒く染めている。その黒い景色の中心に彼の顔があった。
暗闇に映える色素の薄い髪。黒い布と対比させると驚くほど白く見える肌。それから肌の上で強く自己主張する赤い唇と、白い二本の牙。彼の両眼は冷徹な色を宿し、さくらの両眼を見据えている。
小狼はまだドラキュラの衣装のまま、さくらをベッドの上へ柔らかく押さえつけていた。
さくらもまた可愛らしい魔法遣いの衣装をまとまったまま、大道寺家で行われたパーティーの余韻を残している。
「小狼くん……?」
恐る恐る問うさくら。彼はどんな意図でこんな事をしたのか。
「……はぁ。少しは警戒しろ」
小狼は一度、溜め息を零し、今の状況を認識しろと彼女の注意を促す。それも妙に芝居がかった口調と態度で。
「ここは俺様の居城、俺様のベッドルーム。お前は捕らえられた姫君なんだよ」
紳士的でありながらニヒルな笑みを浮かべる彼の雰囲気は、パーティーの中でさくら達が想像を膨らませていたドラキュラ伯爵のイメージそのもの。
「え? でも私は魔法遣いだよ? お姫様は知世ちゃんのお母さ……」
恍けたさくらの台詞を途中で遮るよう、人差し指を唇へ添え、続けてその指で右頬をなぞる。
「ドラキュラが処女の血を好むのは知っているだろ? 俺様がお前を捕らえたのもそう言う理由だ」
頬をなぞった指は五本に増え、いつの間にか手の平全体が右頬を覆っていた。
「…………それじゃ駄目だよ。私はもう全部小狼くんのモノ、だから…………」
語尾は消え入りそうな程小さくなり、さくらは頬をリンゴのように染めて、視線を背けた。
「あ、いや、うん…………」
決して狙っているわけではないのだろうが、恍けた遣り取りの合間に挟まれたその言葉は、必至にドラキュラを演じていた小狼を思わず素に戻してしまった。
さくらはここまで来てようやく小狼が何を意図しているのかを理解し、何とか諦めて貰おうと必至に思考を巡らせた結果が先程の台詞なのだ。そうなる事が嫌ではないのだけど、今日は大道寺家ではしゃぎ過ぎたからお風呂に入って、それから……。
「…………だから、んっ!」
台詞は最後まで紡がれず、温かいモノがさくらの唇を塞いだ。
そして必至に考えていた全ての言い訳や理由が、彼の唇に絡め取られていった。
「全部が俺のモノってんなら、遠慮は要らないよな」
襟元を飾っていた赤く細いネクタイを勢いよく外し、首元の鎖骨を露わにする小狼。続けて歯に付けていた模造品の牙も外すと、ニヒルな笑みを浮かべる。
「……や、ちょ、せめてシャワー…………」
まだ言い訳を繕い、逃れようとするさくらの上に小狼は黒いマントごと覆い被さった。
「いやだ。……俺に魅了(チャーム)の魔法を掛けたのはお前なんだ」
普段は決して吐かないキザな台詞を舌の上に載せ、小狼は再びさくらの唇を塞いだ――。
説明 | ||
久々の【楽書】。しかも二連チャン。 こちらは一般向けですが、言葉の端にそうした部分を滲ませてはあります。 大道寺家の自宅でハロウィン仮装パーティーが行われた帰りとご想像下さい。 小狼はドラキュラ。さくらちゃんは魔法遣いに扮しています。 ▼2012/03/22:作品を公開するアカウントを変更しました。 |
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