二度目の転生はネギまの世界 第三話
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第三話「そんな原作再現はいらん!」

 

 

 

 さて、時が経つのも早いもので、俺は十五になった。リロイが戦争に出たのが七つのころなので、あれから八年経ったことになる。戦争自体は一年前に終結しているが、リロイが狩りだされた戦場はこの村からかなり離れている。別に切羽詰まった用事があるわけでもないから、ゆっくりと旅をしながら帰ってくるだろう。

 その間に俺はかなり魔法の腕を上げた。戦争のあおりで山賊と化した兵士相手に魔法を使うこともあったからだ。とはいえ、才能の差で年下であるディーやアリスには負ける。あの二人に勝てるのは魔力量だけだ。それすらも生まれつき魔力量の多い姉さんには負けるが。

 …………やはり才能も貰うべきだったか? これほどまで差がつくとは思わなかった。

 

「あのさ、どうしたの、アルト?」

「何でもないさ、アリス」

 

 そして(個人的に)一番変化があったことと言えば、俺とアリスが婚約したことだろう。さすがに結婚するにしても十三は早すぎるとのことで、あと二年したら結婚することになっている。

 そういえば、二十歳で真祖化する運命を固定したとか言われたが……アリスも真祖になるのだろうか? まあ、それはその時でいいか。

 

「さて、時間術式もそれなりに形になったな。この一週間で1%は消費魔力を軽減できるようになったからな」

「さすがに加速中にぶっ倒れるとかはもう無いっしょ? なら大丈夫だって」

 

 五年前、山賊が村への大規模侵攻してきた。その時に俺は時間加速を限界まで使って村を守ったが、体感時間で二分弱、実時間で三十秒程で魔力切れでぶっ倒れてしまったのだ。

 それからは時間術式の強化に励み続けた。あのころに比べれば、消費魔力は30%ほど軽減できているし、操作可能限界も四倍から十倍まで上がっている。魔力量上昇もあるので、四倍加速なら実時間で四十五秒は持つはずだ。体感だと百八十秒だから……三分か。時間停止はいまだ一秒も止められないし、止めたらそれで魔力切れ。まだまだ改良の余地があるな。

 そして咒式だが……これは未だに、実戦ではまともに発動することができない。魔力量は十分だが、咒式の構築に時間をかなり費やさないと脳が壊れる。最下級の第一位咒式ですら一分ほどかけてようやく、ひどい頭痛がするレベルで発動するほどだ。まったくもって実用的ではない。法珠が欲しい、切実に。

 

「…………ん? なんか騒がしいな」

「なんかあったんじゃねーのか? あたしは知らないけどな」

 

 まあディーの言うとおり、何かがあったのだろう。俺も知らないが。

 しかし、山賊の襲来でもあったか? それならば騒がしくなる前に『襲来だー!』とかそんな声が聞こえるのが先になるだろうから……

 

「たっ、大変だ、ディートリッヒ! リロイが、リロイが……!」

「お、兄貴が帰ってきたのか? にしては」

「死ぬか死なないかの瀬戸際だ!」

 

 その言葉で、俺たち三人の間にも緊張感が走る。あの殺しても死ななさそうなほどタフなリロイが、瀕死?

 

「兄貴!」

 

 ディーが慌てて駆けていく。アリスも飛び出そうとするが、俺は確認すべき事を聞いておく。

 

「今、どこで治療を!?」

「教会だ! 治療系術師を集めている! 君たちは使えないだろうが、治療を使える術師を集めてくれ!」

 

 俺は脳裏で一つの咒式を構築する。さすがに生体生成系咒式第四階位と比較的高位に位置する、未分化細胞を用いた治療咒式である<((胚胎律動癒|モラックス))>はまだ使えない。だが、化学練成系咒式第一階位に属する増血剤を生成する治癒補佐咒式の<((殖血|ゾーチ))>なら可能だ。

 教会まで走れば五分ほど。五分あれば、脳へのフィードバックなしに第一階位咒式を扱える!

 

「アリスは治療術師を集めろ! 俺は((これ|・・))でどうにかしてみせる!」

 

 咒式の組成式をわずかに見せ、教会へと急ぐ。アリスと姉さんには咒式については少しだけ教えてあるから、組成式を見せれば何をするか分かるだろう。

 

 

 

 

 

 教会に到着したが、リロイの姿は見えない。てっきり礼拝堂で治療していると思ったが、違ったか?

 

「む、アルトリウス君か? こっちだ」

 

 奥からリロイの父が出てくる。その手が血に濡れていることから、必死で治癒を使用していたことが想像できる。あまり得意ではなかったと記憶しているが……父親の愛だろうか。

 シュルツさんに連れられて礼拝堂の奥、神父様の自室となっている部屋まで行くと、村人が三人ほど倒れていた。ぱっと見た限りでは、魔力切れだ。

 部屋に入れば、何やら考えている神父様に、青い顔で横たわるリロイに泣きついているディーと姉さん、そして治療を続けている二人の術師がいた。術師はどちらも魔力切れが近いのか、息が上がっている。

 俺は彼らの後ろから近づき、こっそりと<((殖血|ゾーチ))>を発動する。青白いリロイの顔に赤みがわずかに戻ったから、発動には成功している、と思いたい。

 しかし、この調子じゃリロイは死ぬ。腹部が未だにぐしゃぐしゃであることに加え、どう考えても治療魔法の効果があまり出ていない。おそらく魔法攻撃、それも治癒妨害の呪いがたっぷりと込められたものを受けたのだろう。

 

「……一か八か、わが教会に伝わる儀式魔法を使用してみますか? 禁呪として封印されていたものですが、瀕死状態からの蘇生も可能であると書かれていました」

「なんでそんなものが禁呪として封印されているのですか……」

「蘇生が神の定めに反する行為だからでしょう。しかし、未だに死していない彼になら、使用しても神は文句を言いますまい」

 

 もう、俺に出来ることはこの場ではないな。

 姉さんとディーに一声かけ、俺は教会から立ち去ることにした。ん? 雲行きが怪しいな……今晩、一雨来るかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 そして夜になった。夕方頃にディーが家に来て、儀式魔法は無事発動したと教えてくれた。

 だが、未だに姉さんは帰ってきていない。婚約者の務めとして、目が覚めるまでそばにいたいそうだ。アリスも姉さんを心配して教会に泊まり込むと言っていたな。そして対照的に、ディーは自宅に戻っている。『あの兄貴のタフさなら、明日にはもうピンピンしてるさ』とは、彼女の言だ。

 確かに、あのリロイなら明日には元気になっていると信じられる。だが……どうにも妙な胸騒ぎがする。何か見落としているような、奇妙な違和感。

 だがまあ、こんなことは日常茶飯事だ。胸騒ぎがよく当たるとは、胸騒ぎがしたときに何かが起きたことは、胸騒ぎがして何も起きなかったことに比べて忘れにくいからだ。今回もまた、何事もないだろうな。

 ああ、雨が降り始めたな。この嫌な考え事も押し流してくれればいいのに。

 おやすみなさい。

 

 

 

 

リロイSide

 

 

 っつ――ここは……ああ、村の教会か。

 

 たく、あの魔法使い達、何が目的だったんだ? まさかあの戦争で俺が何かしたのか……つっても多すぎて心当たりが分からないな。

 

 っと、ダイオラマ魔法球は無事……だな。せっかく頂いたものなのに、壊れでもしたら目も当てられないからな。

 

 …………あれ? 死にかけたせいかな、やけに喉が渇く。

 

 しかもこの音は、外で雨が降ってやがるな。

 

 ((ああ|・・))、((ちくしょう|・・・・・))――((雨がいつまでも降っているせいで|・・・・・・・・・・・・・・・))、((余計に喉が渇く|・・・・・・・))。

 

 …………ん? なんで雨が降ってると喉が渇くんだ?

 

 …………考えても答えは出ねえな。

 

 くっそ、考えてたら余計に喉が渇いてきやがった。

 

 ……お、いいところに喉の渇きを潤せるものがあるじゃねーか。

 

 早速いただきますか。

 

リロイSide out

 

 

 そして一夜明けた、なんて言うとかっこよさげだが、結局はただ寝て起きただけだ。っと、まだ姉さんは帰ってきていないみたいだな。どうせリロイと一緒に教会にいるのだろう。

 ……うーん、なんだか昨日の胸騒ぎがまだおさまっていないな。何だかわからないのも嫌だし……書き出してみるか。

 

「えーっと、まずは……『封印されていた禁呪』だよな。そして『未知』に『儀式』に『蘇生』といったところか」

 

 つっても、この程度じゃ何なのかわかるわけないよな。教会の神父にもう少し詳しく聞いとけば……『教会』? まて、今何か繋がった気がしたぞ。『教会』が『禁呪』とし、『封印』しなければならない『未知』の『儀式』、だよな。

 十年以上見てないから思いだせるかわからないが……ネギまで未知の儀式で、教会が禁呪指定するもの。それに該当するものは――くそ、やっぱり出てこない。

 本編で出てきて、確実に読んだことがあるやつなのは思い出せているんだけどな……本編を思い出せるだけ順に書き出すか。

 

「『ネギの麻帆良入り』、『アスナへの魔法ばれ』、『頭の良くなる魔法図書事件』で……次は『桜通りの吸血鬼事件』だったよな……って、あああああああああああああああああ!!!?」

 

 そうだよ、何で出てこなかったんだ! 教会が嫌悪するものと言えば、吸血鬼。吸血鬼の真祖になるためには秘伝とされる魔法を使う。その秘伝の魔法が儀式であってもおかしくはないし、むしろ肉体を根本から変える以上、儀式である可能性はとても高い。そして真祖化すれば、大抵の傷は治るから蘇生と言えなくもない。

 つーか、神父。それ禁呪として封印された秘伝儀式じゃなくて、異端指定されただけじゃん! 秘伝ってのも、真祖狩りのために研究するために、『秘密裏に伝える』的な感じの。

 

「って、呆けてる場合じゃねぇ!」

 

 真祖化してすぐの精神状態がどうなっているのかは、俺には想像できない。だが原作のエヴァは、自分が人から外れたことを知り、犯人を恨みを持って殺したと言っていた。もしリロイもそうなら……姉さんが危ない!

 

「でき……るか!? 契約執行 120秒 アルトリウス・ノースライト!」

 

 自己契約執行。自分自身を魔力でブーストする荒業だ。魔法適性はあれど魔法才能のない俺には荷が重すぎる技術だが、そうも言ってられない。

 限界を超えないギリギリの速度で、教会に向けて一直線に駆けだした。

 

 

 

 自己契約執行時間が切れる前に教会に着いたのは良いが……なんだこの人の集まりは!?

 

「なぜだ……どうして俺は死なない!? なんで死ねないんだ!?」

 

 教会の中から響く、嘆くようなリロイの声。くそ、遅かったか……!

 人をかき分けて教会内部に入ると、涙こそ流していないが、死ぬほどの絶望感を味わい悲しんでいるといった顔をしたリロイの姿が。彼の服や周囲はすでにボロボロで、魔力切れか息も絶え絶えに倒れている魔法使いもいる。

 そして、そんな彼を無視してリロイを寝かしていた部屋に入る。そこには、きょとんとした顔のまま瞳を濁らせているアリスと、どこか悲しそうな、だけど慈愛を感じさせる表情で目を閉ざした姉さんが、首筋に二つの孔を空けて倒れて……

 

「あ、ああ、あああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 絶望する。吸血行為をしたリロイと、気付けなかった愚かな自分に。

 

「……イグネ・ナチュラ・レノヴァトール・インテグラ 全てを抱擁す 氷雪の女王 彼の者に 命散らす凍える吐息を 『氷葬の棺』」

 

 アリスの目を閉ざし、二人に永久凍結魔法を使う。石化魔法のように解呪すれば戻るのではなく、最低でも食らった場所は凍傷。最悪は壊死し、全身に回れば死が確定する。つまり、成功すればそれで終わりという、効果だけ聞けば極悪の魔法だ。しかし魔力量の少ない一般人程度の魔力があれば完全にレジストされてしまうため、死者か極限まで弱らせた相手にしか使えない、使い勝手の悪い魔法である。

 だが今回は、死した二人を永劫に残すために『氷葬の棺』を選んだ。俺はあと五年で不老不死の真祖になる。俺が死ぬであろうその時まで、彼女たちと共に在りたいから。

 と、氷に反射して、俺の背後に来ていた存在に目が行く。

 

「なあ、神父様」

 

 俺は背後にいる人物――神父に語りかける。ほとんど独り言のように、だけど聞こえるように。

 

「リロイを吸血鬼に変えた術式、教えてくれないか? 姉と婚約者の仇を取りたいし、リロイの望むように、殺してやりたい」

「……これは私の罪でもあります。もしも不死殺しを完成させたら、私と秘伝書も、消し去ってくれますかな?」

「ああ。約束しよう」

 

 そして――俺は真祖を殺せるだけの術式を、作り始めることとなった。

説明
あれから八年経ち、リロイが帰ってきた。
だが、無事に帰ってこれたとはとても言えない状態だった。
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