夏目友人帳-レイコの友人- |
とある少女は思う。
――友人が欲しいと。
とある少女は思う。
――あの人のようになりたいと。
互いが思い合い、そして傷つけ合ったその日々を。
今此処に追想する…………。
*−*−*−*
昔から、苛められている少女がいた。
私から見ればそれは綺麗で美しく、凛々しい人だった。
ただ、彼女は少しだけ……変わっていた。
何もないところで誰かと話しをしているようだったり、箒を振り回していたりと色々だった。
でも、私は怖いとも思わなかった。
だからある日、話しかけることを決心したのだ。
「夏――あ痛ッ!?」
「え?」
石に躓き、転んでしまう。
私に驚いたのか、その人は振り向く。
「いたたたた…………あ」
「……大丈夫?」
「えっと、すいません。驚かせてしまって……」
「敬語じゃなくても良いわよ、別に」
「あ、そう?」
鞄を拾ってスカートを叩いて土埃を落とす。
「えーっと、あなたと同じ学年でクラスの『冬霧(ふゆきり) 風香(ふうか)』っていうんだけど、知ってる?」
「ええ……いつも、みんなと一緒にいる子でしょう?」
「夏目さん……じゃなくて、レイコちゃんって呼んでも良い?」
「え?」
「え?」
凛々しくて、知的そうな顔が唖然とした顔になる。
なぜだか分からないが、愛らしい。
「……あなた、私のこと知ってるでしょう?」
「うん。変わり者なんだってね?」
「だったら、私に近づかない方が良いわ。私と仲良くなったら苛められるわよ」
「へえ。で?」
「で? って何よ。折角言ってあげてるのに」
「でも、レイコちゃんと友達になりたいんだもん。それには、苛めもなにも関係ないでしょ? 私が苛められたら、友達であるレイコちゃんが助けてくれるんだよね?」
「なっ……」
でも、これは本当の話だ。
「レイコちゃん。私ね、ずっと昔から見てたんだよ? 小さい頃から、ずーっと」
「……何? 突然」
「ずっと昔から、ずっと変わった子だなって思ってた。1人で喋ってるし、突然走り出すし。借りた本は返さないし、お供え物を食べてるし」
「……どこまで見てるのよ……」
「全部だよ」
……そうだな。
言葉にするなら、こういうのが良いんじゃないだろうか。
「ずっと、憧れてた」
「!」
「他人にどう言われようと、石を投げつけられようと、ずっと1人で立ち向かって、生き方を変えないで……私と、正反対で。私は臆病だから周りに合わせることしかできないけど、レイコちゃんは違ったから。だから、友達になりたいって思った……それだけじゃ、ダメかな?」
自分とは正反対の、そんな人に。
憧れて、近づきたいと思った。
「……後悔しても知らないわよ」
「ううん。後悔何てしないよ」
それにね。
私にも見えるようにすることが出来るから。
多分、コレは私の偽善であり、自己満足だ。
だけど、1人は辛いという事は分かってる。
1人は辛くて、周りに人がいるのに助けて貰えないのも辛いのだから。
だったら、どんな手を使ってでも理解者になってやる。
その類に詳しくなってやる。
それは中学生の時の話しだ。
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「レイコ」
「何? 風香」
「あのね、レイコ。実は…………なんと!」
「何よ?」
「3年前のあの日……友達になった日からずっと修行を続けてついに……ついに打ち明けてしまおうと思います!」
「?」
「実は、家に代々伝わる文献なんだけどね……その中に、ちょっと面白いことが分かって」
「何? 面白い事って」
今かけている眼鏡をレイコに貸す。
「はい」
「? 何よ、ただの眼鏡じゃない」
「しょうがないな……おいで、レイコ」
「え、ちょっ――」
レイコの手を引いて、近場に行く。
そして、私はある物を見て更に頬を緩めた。
「レイコ、あれ、見えるよね?」
「!? 見えて、るの……?」
「そんなことは良いから! ねぇ、コレかけて、あっちを見てみて」
「……分かったわ」
すっと眼鏡をかけて、レイコは驚く。
「それはね、見えている物が見えなく、見えない物が見える……でも、レイコの力は消すことが出来ないから……でも、レイコはもう、変わることが出来ないから。だから。だったら。私が変わってみせるよ。レイコの理解者になるよ。なってみせるよ」
「…………どうしてそこまでするの? どうして私なんかに構うの……?」
それは……
「レイコ。私は他人のことがほうっておけないの。夢見たいな事だし、バカだって言われても構わない。でもね、私は目の前で苛められている、困っている友達を黙って見過ごすほど、バカじゃないよ」
真っ直ぐにレイコを見つめて言う。
「ち、違……そう言う意味じゃ――」
「…………私は、死んでも絶対レイコの側にいたい。我が侭だし、迷惑だって思うこともあるだろうけど、それでもレイコと一緒にいたい気持ちは変わらない。レイコは、違うの……?」
その言葉に、はっとした。
私は一体、何を言っているんだ。
「……私は」
そんなこと、予想は出来ている。
「私は、違う」
嫌だ、聞きたくない。
「私は、ずっと。風香の事迷惑だと思ってた。ウザイと思ってたし、何よりその笑った顔が嫌いだった」
お願いだから……
「風香……冬霧さん。私は、冬霧風香が大嫌いよ」
言って欲しくなかった。
『私も、風香の事友達だと思ってるわよ』
って。
いつもみたいに、笑いながら。戯けながら言って欲しかった。
「……………………ゴメンね……レイコ、ゴメンね……」
「っ……」
きっと、私がいけないんだ。
レイコに、迷惑をかけてしまった。
その数ヶ月後。
冬霧風香は謎の死を遂げる。
死因は一切不明。
両親はすでにいなく、身寄りも親族もいない。
冬霧風香の死は多くの者達を哀しませた。
冬霧風香は、死んだのだ。
そう。
死んだ。
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真っ暗な暗闇の中で延々と泣き続けていた記憶があった。
親が、死んでしまったときの話しだ。
家に強盗が押し入り、父と母を殺したのだった。
ずっと昔から、憧れている人がいた。
どんなに辛い状況でも、平気で笑ってみせるそんな彼女は、私とは違った。
いつしか、私と彼女は友人になった。
しかし、私は死んでしまった。
死の数ヶ月前に、喧嘩をしたまま。
ああ、そうか……私は死んだのか…………
どうして死んだのかは良く思い出せない。
ただ、私は何故祠に座っているのだろう。何故、目の前にレイコがいるのだろう。
「……風香。ゴメンね……」
「……レイ、コ……?」
「私は口が悪いからあんな事いって……でも、風香だけは絶対に守りたかった……なのに……どうして……」
「レイコのせいじゃないよ……レイコ…………レイコ……?」
「ゴメンね……ゴメンね…………」
あ……れ……?
どうして気付いてくれないの?
どうして泣いているの?
どうして謝っているの?
どうして私はレイコに触れられないの……?
「ねえ、レイコ……聞こえたら、私の目を見てよ……手を、前に差し出して、いつもみたいに言ってよ……」
『ねえ、私と勝負しましょう? あなたが勝ったら何でもしてあげる。私を食べても良いわ。
その代わり、私が勝ったら私の友人(こぶん)になりなさい』
「レイコ、私の負けだよ。友人帳を出してよ……子分にだって、何にだってなるから……」
だから……
「だから、お願い! 手をさしのべて! 私を助けてよ! レイコッ!」
結局、レイコが私に手をさしのべることはなかった。
私は結局レイコに依存して、それでいてレイコを裏切ったのだ。
自分を恨んで、何で死んだのかも恨んだ。
何も出来ない自分を。
足掻くことさえ出来ない自分を呪った。
暫くして、レイコの子孫が生まれた。
レイコの死に際を見届け、私は人知れずして夏目レイコの孫を見守り続けている。
レイコのように必死に足掻き、レイコのようにそっくりなその顔を見ながら、今日も私は思う。
レイコ、あなたの生きた証は此処にある。
けれど、私と過ごしたときの証しはどこにもないのなら。
私の魂が存在する限り、永久に覚え続けているよ。
――私の唯一無二の親友、夏目レイコに送る――
説明 | ||
夏目貴志の祖母、夏目レイコ。 彼女は妖怪の見える人間だったが、そんな変わり者のレイコを周りの人々は毛嫌いした。 しかし、そんなレイコの前に1人の少女が不意に姿を見せた。 ――これは、悲しい2人の友情。 |
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