家族 |
上空の遥か彼方、そう大気圏外から降下してきた巨大な物体は、彗星の尾を引きながら学園の空を彩った。
「なんだあれは!!」
誰しもがそう思い、動きを止めた。
唯、ジャミトフとバスクを除いて。
「漸く、と言った所ですかな?しかしゴップ閣下も大胆な事をします」
「切り札は最初に見せる。見せるならば奥の手を持て。アレもそもそもは宇宙の肥やしになるはずの物だ。ここで使い潰しても惜しいとも思わん」
クイーンズランスのモニターに映し出された巨大な浮遊物体。
傘を広げたようなフォルムをしていて、IS学園の上空に浮かぶそれは知る者からはアンサラーと呼称されていた。
アンサラー
嘗て地球連邦が夢想した妄想の残骸。
軌道衛星上に巨大な核攻撃及び迎撃用のプラットフォームを建造し、その第一号として開発されたアンサラーは、その途方も無い建造費と技術的な難しさから開発は当初から難航していた。
だが、それらを補って余りあるその性能。
純軍事的目的から、当時地球圏最高の人工知能を搭載し地球連邦の人類管理の一翼を担っていた。
連邦に反逆するものには容赦なく鉄槌を軌道衛星上から下し、常に人類の行動を監視し続ける審判の剣。
それこそがアンサラーの存在そのものである。
だが、地球連邦の崩壊と共にその存在は忘れ去られ、長らく放置されたままであった。
しかし、近年ゴップの首相就任以前からこれの再起動が連邦で画策されその結果として核攻撃機能を廃止何とか実働にまで漕ぎ着ける事が出来たが、そこに現れたのがISの存在である。
ISはアンサラーと比べるとありとあらゆる面でその性能を凌駕し、折角再起動されたアンサラーは時代遅れの鉄屑と成り果てた。
大気圏突入でも燃え尽きることのない巨大な残骸と、維持費用から言っても連邦にとって大きな負債であり、これの処理を巡って長らく連邦議会の方でも頭を悩ませていた。
そこでゴップは簡単な応急処置を施し来るべき白騎士事件に備えこれを投入しようと目論んだ。
だがしかし、工事は遅れに遅れ時期を逸したこれは今度こそどうするかと流石のゴップも頭を悩ませていた。
そこで、アンサラーを攻撃用衛星としてではなく偵察情報収集用衛星としてティターンズに貸し出し、その管理費をIS委員会から半ば騙し取るような形で出させるなど結局のところめんどくさいから放り投げたと言っていい。
それを現在、半ば廃品処理も兼ねてアンサラーは投入されるに至ったのだ。
IS学園地下ドッグ。
ここは学園建設当初、資材を搬入する為に作られ今は忘れられた場所で彼女、篠ノ之束はいた。
だがその様子はいつもの人を食ったような姿ではなく、唯黙々と何かに取り付かれるように作業を続けていた。
......大粒の涙を流しながら。
どうして、どうして誰も私を分かってくれないのだろう。
どうして、どうして誰も私を救ってくれないの。
信じていた友人には見放され、肉親からは拒絶され、世界で最も愛した人からは罵倒され。
一体私が何をしたの!!
全部アイツが悪いじゃない。
そう言うと、私が信じていた人たちはまるで哀れなものを見るような蔑みの目で私を見つめた。
だれもかれもが私を見捨てる。
世界中が私のことを嫌いなんだ。
そうだ、初めからそうだった。
産みの親は私を不気味がり、私が天才と分かると途端手のひらを変えして親面をする。
周囲の人間だってそうだ。
私を天才、天才と持て囃しながら内心では馬鹿にして、誰も私のことを認めようとしない。
それでよかった。
私は一人でよかったんだ。
でも、そんな私を唯一人姉として慕ってくれたあの子の存在。
それを知った時、もう私は一人ではいられない。
人の温もりを知って、独りの寂しさを知って私は途端恐怖した。
何時か、何時かこの子も他の人間の様に自分から離れていってしまうのではないか?
どこか遠くにいってしまうんじゃないか。
そう思うと夜も怖くて眠れずに、私は益々自分の世界だけにのめりこんだ。
でもまた私の前に一筋の光がさしこんだ。
真っ直ぐでちょっと頑固だけど、でも絶対に私を裏切らない人。
そしてその人が連れていたもう一つの光。
私にとってそれははじめての--------
天才である私は何でも出来た。
どんな物でも作れた。
でも唯一つ手に入らなかったものがある。
他の人が普通に当たり前のように持っていて、私には無かったそれを......。
やめよう、私は否定されたんだ。世界から、そして家族からも。
涙を服の袖で乱暴に拭い、準備を終えたそれをアタッシュケースに収める。
「バイバイ、私の家族、そして私の恋人」
説明 | ||
第二十五話投稿 | ||
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