本編補足 |
オンディシアンの若獅子牙折れて
C1 鮮血殿
C2 レール市からの撤退
C3 ランチ・タイム
C4 壊れかけの若獅子
C5 父子愛
C1 鮮血殿
オンディシアン教国首都セイントにある教王の城。オンディシアン教国教王クレメンスは玉座に腰を下ろし、ひじ掛けに手をかける。傍らには補佐官がいる。眼を閉ざし、眉間に皺を寄せて青ざめた表情で額に手を当てる。
暗闇よりオンディシアン教国兵士の生首が転がり、クレメンスの足に音を立てて当たる。補佐官の表情は青ざめ、口に手を当てて身を引く。クレメンスは眼を開け、足元を見る。そして、見開かれた目で正面を向き、唖然とする。
陽光に薄く照らされ、城内の漆黒の闇より現れる赤い鎧と血がしたたり落ちる剣。そして、金髪のオンディシアン法王直轄15神将の一人、13神将を務める鮮血のカルガルトことカルガルト・フォン・リヒトシュターゼインの端麗な顔立ちが浮かび上がる。
彼の三つ編みに縛られた左の横髪の先端の桃色のリボンはクレメンスに近づくたびに左右に揺れる。カルガルトはクレメンスの一歩手前まで来ると城内を見回しながら口を開く。
カルガルト『…教王。まったく兵士の躾がなってないなぁ。』
カルガルトは剣の切っ先をクレメンスの足元の生首に向ける。
カルガルト『こいつ、城内に入ろうとしたら拒否したので斬った。』
カルガルトは腰を曲げ、クレメンスの顔を下から覗き込む。
カルガルト『構わんだろ。オンディシアン教皇直轄15神将の13神将を知らぬことはオンディシアン教に対する冒涜であるからな。』
クレメンスの額からは汗があふれ出す。クレメンスは顔を上げると目の前のカルガルトはいない。次の瞬間、カルガルトは玉座に座るクレメンスに馬乗りとなり、剣の切っ先をクレメンスに向ける。カルガルトの血走った眼には引きつった表情のクレメンスが映る。
カルガルト『お前の息子を連れ戻すだと!!ガキの使いでもあるまい!ふざけた…ふざけた任務だ。あぁ、分かるか?お前が息子を静止することができないからなぜかこの私が出てくる羽目になったんだろうが!下らない、殺せない殺せないまったく殺せない仕事!!!ふざけた侮辱!書類整理がめんどいが…。』
カルガルトは満面の笑みを浮かべる。
カルガルト『テメェが教王でもウサばらしにバッサリと…。』
クレメンスの口が開く。
クレメンス『異端のテロリスト達がトロメイア大国よりの辺境の地スルバに集結し、集落を形成しているとの情報が…。ぜ、是非とも鮮血殿に討伐をと…。』
カルガルトは剣をしまい、一歩跳んで後ろに下がるとクレメンスを見て満面の笑みを浮かべる。
カルガルト『な〜んだ…しちゃうところだったよ。早く言ってよね。アハハッ。』
カルガルトは剣をしまい、玉座の身近な支柱に歩み寄る。
カルガルト『そうかそうか。』
荒い息遣い。支柱に抱きついて体を激しく擦りよせるカルガルト。口から涎をたらし恍惚の表情を浮かべながら舌なめずりをする。
カルガルト『はぁ〜ん、殺せる!殺せるよぉ!!はぁはぁ。』
カルガルトは支柱を離れる。
カルガルト『そうと分かれば早く行かなければ!』
カルガルトは暗闇に消えて行く。遠ざかる足音。
クレメンス『…ハァ…ハァ。』
クレメンスに近づく補佐官。
クレメンス『よもやアレクサンドル教皇が他の将をさしおいて鮮血殿を抜擢してくるとは…。教皇も本気でお怒りであらせられるということだ。…はぁ。』
青い闇の中で窓からの光が照らす玉座に座って頭を抱えるクレメンス。寄りそう補佐官。仄かに照らされた周りの背景。
C1 鮮血殿 END
C2 レール市からの撤退
ロズマール王国レール市。オンディシアン教国の天幕。オンディシアン教王クレメンスの15王子ライネスとその麾下の者達が集っている。
オンディシアン教国上級兵士A『王子。教王より再三の撤退要求を無視し続けることはもう承服できかねます。』
ライネスは机を叩く。
ライネス『敵に背を向けることなどできるものか!』
オンディシアン教国上級兵士Bが一歩前に出る。
オンディシアン教国上級兵士B『兵糧も尽きはじめています。ヴロイヴォローグの守る市街は要塞と化し、長期戦は必死。長期間の遠征のため、兵も疲弊し、士気も衰える一方!。』
ライネス『たかが獣人ごときに遅れを取るようでは若獅子と呼ばれたこの私の名に傷がつく!』
オンディシアン教国上級兵士Cは一歩前に出る。
オンディシアン教国上級兵士C『御考え直しを!今、世論はロズマール王国に同情的となっております。王子がここに居残り徹底抗戦すれば教国の名に泥を塗ることとなります。輸送艇の大半が破壊され、今こそ撤退するしかないのですよ!』
天幕の外より声。
オンディシアン教国兵士A『貴様!何やっ!ギャッ!!』
顔を見合わせる天幕の中の一同。
ライネス『何事か!』
ライネスを先頭にして、その麾下の者達も天幕の外へと続く。焚火。槍に突き刺された兵士の四肢及び胴体と頭部が炙られ、揺らめく炎が照らしだす顔に返り血を浴びたカルガルト。ライネス及び一同の顔は青ざめる。
オンディシアン教国上級兵士C『…カ、カルガルト・フォン・リヒトシュターゼイン殿。』
カルガルトは笑いながら、彼らの方を向いて剣の切っ先をライネスに向ける。
カルガルト『アハッ、教王といい、君といい。兵士の躾がなっていないなぁ。無礼にも程がある。アハハハハ。遺伝というものかな。』
カルガルトは炙られている兵士の遺体を見て、目を閉じて鼻を動かす。
カルガルト『う〜ん。程よく焼けてきた。』
カルガルトは眼を開けてライネス達の方を見て、死体の突き刺さった槍を持ち上げると彼らの方へ向ける。
カルガルト『食料が無くて腹が減ってるんだろ。食べる?』
ライネスは後ろを向き、吐く。カルガルトは死体の指を食いちぎりながら立ち上がり、片手で太ももの土ぼこりを払う。
カルガルト『さてと…。』
カルガルトはライネスの方を向く。
カルガルト『とっとと行くぞ!クソガキが!!』
カルガルトはライネスの襟を掴むと引きずって行く。彼らを追いかけるライネス麾下の兵士達。ライネスは手足を勢いよく動かす。
ライネス『なっ、何をする!!』
カルガルトは歩みを止め、ライネスを見つめる。
カルガルト『何をする?何をしているとはお前のことだ!教皇の命に背くとは神に対する冒涜もいいところだ!!!教国の次はロズマール王国くんだりまで来させやがって!!』
追いつくライネス麾下の者達。オンディシアン教国上級兵士Aが前に出る。
オンディシアン教国上級兵士A『カルガルト殿!輸送船の数が不足し、とてもではありませんが全ての兵士を撤退させることはできません。』
カルガルトはオンディシアン教国上級兵士Aの方を向く。
カルガルト『詰め込めば可能だろ。』
唖然とする一同。カルガルトは首をかしげながら彼らを見る。
カルガルト『もぅ、兵士なんてど〜でもいいんだよ!早くスルバにいきたいのにぃ〜!!』
カルガルトは肩の使い魔の方を見る。
カルガルト『…めんどい!やっといて!』
使い魔は頷き、カルガルトの肩から降りる。カルガルトはライネスの襟首を引っ張って輸送機へと向かう。続くライネス麾下の者達。使い魔は腕を動かすと兵士達が風に舞いあがって、次々と輸送機の格納庫の中に詰め込まれていく。オンディシアン教国上級兵士Bがカルガルトの傍らへ駆け寄る。
オンディシアン教国上級兵士B『カ、カルガルト様!あれでは死人が出てしまいます!』
カルガルトはライネスの襟首を離すがはやいかオンディシアン教国上級兵士Bの首を斬る。鮮血が迸り、血飛沫がカルガルト、ライネス及びその麾下の者達に浴びせられる。血の雨の中で満面の笑みを浮かべて立つカルガルト。
カルガルト『神将命令に不服とは死罪に値する。アハッ、アーハハハハハハハハハハ!アーハハハハハハハ!!アーハハハハハハハハハハハ!!!』
C2 レール市からの撤退
C3 ランチ・タイム
オンディシアン教国輸送機のコックピットに座るカルガルト、隣の席にはライネス。背後にはライネス麾下の者達。口笛を吹くカルガルト、ライネスは青ざめた表情で彼の方を向く。
ライネス『カ、カルガルト様…、この輸送機は何処へむかっているのですか?教国とは方向が…。』
カルガルトは口笛を止め、微笑んでライネスの方を向く。
カルガルト『スルバだよ。』
ライネスは立ち上がる。
ライネス『ス、スルバなんてトロメイアよりの辺境の地!いったい何用で!?』
カルガルト『テロリスト達を討伐するため。』
ライネスは頭を抱える。
ライネス『このまま何時間もあの状態では兵士達が…。』
カルガルトは前を向き、顎を手でさする。
カルガルト『んーいいんじゃない。ま、いざとなれば兵糧の備蓄が増えるだけだからさ。』
ライネスは眼を大きく見開いてカルガルトを見た後、勢いよく椅子に崩れ落ちる。カルガルトが指を鳴らすとカルガルトの右側から扉が現れる。きしむ音とともに扉が開き、使い魔が現れる。カルガルトは使い魔の方を向く。
カルガルト『この辺でいいよ。全機着陸。』
使い魔は頷いて扉の中に入って行く。
ライネスはカルガルトの方を向く。
ライネス『…ここで降りるのですか?スルバに着くにはまだ距離が…。このまま輸送機を使い、奇襲をかけるのでは?』
カルガルトは眉を顰めてライネスの方を向く。
カルガルト『はぁ?闘うことが目的ではないんだよ。殺すことが目的なんだよ。分かる?』
ライネス『し、しかし我々は聖騎士として正々堂々と敵と戦うべきなのでは!!』
カルガルトは溜息をつき、目を細めてライネスを見つめる。
カルガルト『聖騎士?正々堂々?それは何のお遊びだい。まあいいや。ま、まずは腹ごしらえといくか。』
カルガルトは立ち上がり、笑いながら輸送機のコックピットから出ていく。ライネスは青ざめ、勢いよく立ち上がると輸送機のコックピットの窓から外を見る。
外には水の張られた輸送機より巨大な大鍋に用意され、その中には押しつぶされて死んだオンディシアン教国の兵士の死体が分裂したカルガルトの使い魔によって放り込まれている。火を起こす使い魔達。カルガルトは両手を腰に当てて鍋の方を向いている。
ライネスは頭を抱えうずくまる。寄り添う麾下の者達。
ライネス『い、いやああああああああああああああああああああああああ!!』
輸送機のコックピット内にライネスの悲鳴が木霊する。
C3 ランチ・タイム END
C4 壊れかけの若獅子
地面を耕す男、洗濯物を干す女。駆けまわる子ども達。市街で座り談笑する男女。高台の岩陰、カルガルトとライネス及びライネス麾下の者達。ライネスの顔はますます青ざめ、息を荒げ、額からは大量の汗が噴き出ている。
オンディシアン教国上級兵士A『これが…テロリスト達ですか。いたって普通の集落のように見えますが。』
カルガルトはオンディシアン教国上級兵士Aの方を向く。
カルガルト『観察力が足りないなぁ。あれは村人としてよく訓練されたテロリストだ!幸せそうな微笑みを浮かべ、普通と平凡を覆いにして我々を殺そうとする殺戮者ども!奴らのよく使う手よ。』
オンディシアン教国上級兵士Aは剣の柄に手をかける。
オンディシアン教国上級兵士A『何と!ならばすぐに始末してしまわなければ!』
オンディシアン教国上級兵士Aの柄を押さえた手を掴み、カルガルトは微笑む。
カルガルト『まあ、いきり立たなくてもいいさ。さてと、君達はここに残れ。私が片づけておこう。アハハハハハハ。』
カルガルトが指を鳴らすと炎が集落の周囲を円形に取り囲む。突如舞い上がった炎に怯え、逃げ惑うスルバの住民達。
建物の扉及び窓は分裂した大量のカルガルトの使い魔によって覆い隠される。カルガルトが口笛を吹くと巨大な扉が現れ、きしむ音とともに開いて紅い人型機構と巨大な使い魔が現れる。カルガルトは巨大な使い魔に駆け乗り、集落に突入し、後ろの紅い人型機構もそれに続く。右往左往と逃げ惑う住民達。
カルガルト『アーハハハハハハハハハハハ!』
激しく燃える炎が照らしだす満面の笑みを浮かべたカルガルト。彼は逃げ行く人々を切り刻む。血を掃出し、倒れる人々。紅い人型機構のコックピットのハッチが開き、体をリズミカルに揺らすカルガルトの使い魔。
岩陰のライネスの目に映る橙色の炎のスクリーンの中に現れる手をつないで駆ける少年と少女の影。後ろに現れる使い魔に乗ったカルガルト。
カルガルト『子どもの皮を被ったテロリストめ!レディーファーストだ!ハハハハハハハ!アーハハハハハハハ!!』
ライネスは立ち上がり、叫ぶ。
ライネス『止めろ!!止めてくれーーーーーーーーーーー!!!』
カルガルト『アーハハハハハハハハハハ!』
カルガルトの笑い声とともに少女の生首が炎の中から飛び出てライネスの足元に転がる。崩れ落ちる首の無い少女の体と炎の壁が仄かに映す少年の斬首される投影。
足元を見るライネス。口から一筋の血を流し、ライネスを見上げる少女の生首。ライネスは顔をあげる。炎の中から聞こえる悲鳴とカルガルトの笑い声。ライネスの眼には揺らめく炎が映えている。
ライネス『ふふ、ふへへへ、あははははは。』
ライネスの傍に駆け寄る彼の麾下の者達。
オンディシアン教国上級兵士C『ライネス王子!どうなされたのですか?』
オンディシアン教国上級兵士A『聞こえているのですか?ライネス王子!?』
ライネスは引きつった笑みを浮かべながらその場に崩れ落ちる。
C4 壊れかけの若獅子 END
C5 父子愛
教王の城。赤い絨毯を往復するクレメンス。室内に靴音が響く。クレメンスは歩みを止めて扉の方を向く。
開く扉を見つめるクレメンス。扉が開き、カルガルトがライネスの襟首を持ち、引きずって現れる。後ろに続くライネス麾下の者達。
カルガルト『ほれ、お前の息子を連れ戻して来たぞ。』
クレメンスはライネスに駆け寄る。ライネスの顔は青ざめ、体を小刻みに震わせながらぶつぶつと何か呟いている。
クレメンス『い、一体何があったので?』
クレメンスはカルガルトの方を向く。
カルガルト『ん?テロリスト討伐にスルバに連れて行ったらよく分からんがこうなった。安心しろ。スルバのテロリストどもは皆殺しにした。』
カルガルトは微笑む。
カルガルト『教皇に報告があるので失礼するよ。』
カルガルトはクレメンスに背を向けて扉へと向かう。カルガルトは扉の一歩手前まで来ると振り返る。
カルガルト『そうそう、また良い情報があれば伝えてくれ。』
カルガルトは振り向き、扉を開けて出ていく。城内に響くカルガルトの高らかな笑い声。ライネス麾下の者達はクレメンスに向かい跪く。
オンディシアン教国上級兵士A『も、申し訳ありません!我々が着いていながら…。』
クレメンス『気にすることはない。私の命を…教皇の命を聞けぬ愚か者だ。使い勝手が悪い息子等要らぬよ。ま、廃人になったとしろ、まだ息子たちは大勢いるし、足りなくなればまた作ればよいこと。鮮血殿の機嫌を損ねたり、教皇の怒りを得、破門されることよりは随分とましなことである。良かった良かった。』
C5 父子愛 END
END
説明 | ||
・必要事項のみ記載。 ・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 ・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 ※食人描写があるのでそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 |
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