魔法少女リリカルなのは -朱星の少女- 序章 |
これは、いったいどういう状況なのでしょうか?
ようやくはっきりとしてきた思考のもと、周りを見渡せば、そこは誰かの家らしく、さまざまな家具が置かれており、殺風景という言葉とは無縁。
チェストの上には写真がおかれ、そのどれもが、写っている者の幸せそうな笑みを見せ付けている。
おそらく、写っているのはこの家の住人でしょう。そもそも、住人以外の写真であったなら、それはそれで恐ろしいものがありますが……
ともかく、ここがどこかはいくら考えても分からないので、それはおいておくとして。
今はそれよりも優先して確認しなければならない事柄があるのです。
「……それで、あなたは何故私にしがみついて泣いているのですか?ナノハ」
「ぐすっ、ひっく。だってぇ……」
そう、泣いているのだ。
私のオリジナルであり、互いに魔道をぶつけ合った、あのタカマチ・ナノハであろう少女が。
しかし、私にしがみついているナノハは、その……異様に幼いのだ。
もちろん、彼女とて確かに子ども。多少受け継いだ記憶によれば、小学生という、子ども中の子どもに値する身分だったはず。
ならば幼いのは当然だろうと、普通なら思うが、しかし彼女は決して泣かず、諦めず。
そういった点では年にそぐわない意思の強さを持っていたのですが……
このタカマチ・ナノハらしき少女にはそれがない。
私の知っているナノハが、このように泣いている場面を想像できるでしょうか?
「……無理、ですね」
どう考えても、最後に脳裏をよぎるのはあの強大な魔力を収束させた、まさに星を砕く一撃。
あぁ、今でも鮮明に思い出すことが出来る。
あの眩き光。
そしてそれが自身に迫ってくる光景。
それの光景に、あの姿に、私が感じたのは……果たしてなんだったろうか?
恐怖?歓喜?それとも何も感じなかった?
少なくとも、我が全力の魔道を飲み込み、それだけにとどまらず私すらも飲み込んだ彼女に、私は満足した、とだけは覚えているが……
故に、何も感じなかったなどということはないはず。
ガチャリ
そんなことを考えていると、今いる部屋にあるドアの内一つが開き、そこから三人の人間が入ってきた。
……マズイですね。
どう考えても私はこの家の住人にとっては招かれざる存在であろう事は明確だ。
ならば逃げましょうか、と魔力を集め、全員を魔法で気絶させようと思ったのだが……
「ここにいたのか、二人とも。ただいま」
「ごめんね、なのは、『このは』。帰ってくるのが遅れちゃった」
……『このは』?
私に話しかけてきたのは、帰ってきた三人の内、まだ年若い二人の男女。
ナノハの記憶では、男のほうはタカマチ・キョウヤで、女のほうはタカマチ・ミユキだったはず。
しかし……この二人もこんなに若い、というか幼かったでしょうか?
受け継いだ記憶では、両者とももっと年を経て、大人だったような。
「なのははだいじょうぶだよ。おねえちゃんがいたから」
『おねえちゃん』?
はて、私はナノハに姉といわれるような立場だったでしょうか?
答えは……否。
「ありがとうね?このは。なのはと二人っきりでお留守番頼んじゃって。ホントは連れて行ければ一番よかったんだけど……」
そうして、最後に話しかけてきたのはナノハの母、たしか……タカマチ・モモコでしたっけ。
この人は、記憶にある姿と差がないですね……
しかし、この扱いはなんでしょうか?
私はここでは異物なはずなのに、全員が全員、明らかに親しげ……言ってしまえば、家族に接するように話しかけてくる。
「ねえおかあさん。おとうさん、なおるかな?」
「……えぇ、大丈夫よ、きっと治るわ」
ナノハの質問に、モモコはそう答え、私たちに近づき、そして抱きしめた。
「……っ!?」
いきなり抱きしめられたことに驚き、私の思考が止まる。
「だから、もうちょっと、もうちょっとだけ頑張りましょう?またいつか、家族みんなで……士郎さんと、私と、恭也と、美由希と、このはと、なのはで笑える日が来るから……」
家族みんな、ですか。
その中に、私のであろうこのはという名前も入っている。
……理由は分かりませんが、どうやら私はこの人たちの家族と言う扱いらしい。
正直、砕け得ぬ闇を得ることこそが目的である私には家族というものは不要だろう。
まぁ、王や雷刃は家族……とは微妙に違うが、似たようなものではありますけど。
ですが……
(これはこれで、悪くはありませんね)
ぬくもりに包まれるという感覚は、決して不快な物ではなかった。
説明 | ||
自らのオリジナルと魔道を競い合い、敗れた少女は、それでも満たされたまま消滅した……はずだった。 「なぜ、こんなことになってしまったのでしょうか?」 「どうしたの? おねえちゃん」 これは、何故か高町なのはの双子の姉になってしまった理の少女のお話。 |
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