二度目の転生はネギまの世界 第五話 |
第五話「俺は人間をやめたぞ!」
さて、月日が経つのは早いもので。二十歳になって数週間、とうとう俺が真祖になる日がやってきた。
こういう場合はやっぱ、あれを言ったほうがいいのかな。『俺は人間をやめるぞ、J○J○!』って。でも別に鉄仮面――材質は石だったか?――をかぶるわけでもないし、必要ないか。
「本当に、よろしいのですか?」
「ああ、神父。こうでもしなきゃ、俺の手であいつを殺してやれないんだ。っと、魔法陣はこれで間違ってないか?」
「ああ、大丈夫だよ。それでは、儀式を始めよう」
神父はゆっくりと、一言ずつ噛みしめるように呪文を唱えてゆく。その口調はミサを行う神父より、懺悔する信者のほうが正しい気がする。やはり罪の重さは彼にとって重いものなのだろう。
予め聞かされていた呪文は、あと少しで終わる。僅かに悪寒と嫌な予感がしているが、それは人をやめることへの抵抗なのかもしれない。だが、どこかで感じたことがあるような……どこだったか? 少なくともここ十年以上は経験していない感覚だが……
そして。
「!?」
最後の一句と同時に、悪寒が増大する。そして、思い出した。この感覚は、二つ前の俺が死んだ遠因、世界の歪みだ!
「しまっ……!」
意識が遠のいてゆく。まずいまずいまずい。どうにか意識を繋ぎ止め、咄嗟に時間を弄る。歪みは直接人を殺すことはない。歪みが何かを狂わせて異変を起こす。何を狂わせているのかを知れば、対処は、可能、に……く…………そ………………
再び意識が鮮明になったとき、目の前にいたのは銀髪オッドアイのロリ巨乳。つまり、第十八天使。
「……久しぶり」
「久しぶり、じゃねえよ」
というわけで、また管理世界にやってきてしまった。いや、確かに二十歳まで無病息災に生きて真祖化したけどさ。真祖化と同時にゲームオーバーって笑えねえよ!
「……ごめんなさい…………第七統括世「またあいつか」……そう……あれが貴方のパーソナルデータを弄ったから……歪みが生じた」
……そろそろあいつは死んだほうがいいんじゃないか? 管理される側から言わせてもらえれば。そう思わないのかな、天使どもは。
「……すでに降格が決まってる…………被管理者に」
「つーことは、俺と同じ人間になるってわけか?」
それはそれは大変なことで。お悔やみ申し上げます。(棒読み)
「……畜生や虫けらになっても……文句は言えない」
「へ?」
……すまん、第七天使。本気で祈ってやる。さすがに虫や獣になるのは俺も嫌だ。
って、そんなこと言ってる場合じゃねえ! 二度目の転生もこれで終了かよ!? 早すぎる! 姉さんと婚約者の敵がまだ取れてねえのに!
「……大丈夫…………まだ貴方の肉体は死んでない……ぎりぎりだけど……だから蘇生させる」
「蘇生って……大丈夫なのか、管理者って管理だけで基本は手出し禁止だって言ってなかったか?」
そう、管理者は基本的に世界を管理するだけで、例外として業務上の過失時にのみ動く。今回は……過失と言えば過失か。
「今回はこちらの責任ですから、私たちの権限でどうにでもなります。死んでいたら別世界へ転生させることくらいしかできませんが、生きているのなら蘇生という形をとれます。ああ、歪みに関しては、すでに消去しましたので安心してください」
第十八天使の言葉をさえぎるように、横から第三天使が口をはさむ。第七天使はいないようだが……はて?
「すでに彼女は降格済みかつ転生済みです。最初の転生先は、マンボウだと聞いています」
「万に一つも生存できないとか、事実上の極刑じゃねーか」
確かマンボウは、一億分の一程度しか生存できないはずだ。極刑と言い換えてもおかしくはない。
「そんなことはどうでもいいですね、話を続けましょう。蘇生にあたり、こちらから二つまで願いをかなえることになりました」
「……業務上過失致死未遂……しかたない」
仕方ないって言われてもなぁ……それほど困っているわけでもな――いや、その前に確認すべきことがあったな。
「弄られたパーソナルデータってのは何なんだ?」
「魔力成長率です。現在の魔力成長率は年に最大1%となっています。これに手を加え、真祖化と同時に最大5%まで成長率が上がるように仕組んだようです。転生時に決定される基礎データなので、戻すには願いを一つ消費しますね」
「どうでもいいことか。でも願いなぁ……あ」
そうだ。普通の二次創作では無視されているが、実際にはどうしても無視できない事柄があった。
「ネギま原作開始……二十年前の大戦時に、いなければならない人物は全員揃うようにしてくれ」
「原作が始まるように運命を調整することですか。分かりました。あと一つはどうされますか?」
「すまん。今はまだ思いつかないから、保留ってことにしてくれ」
ある程度の問題は時間が解決してくれるから、今ここで叶えてもらうような願いって無いんだよな、俺って。
それを告げると、天使二人は頷いた。
「では、次に会う時に聞きましょう。では蘇生しなさい」
「……多分……本気で願えば来ることは可能……な筈」
「本気で願えば、ねぇ……ま、覚えてたらまた来るわ」
目の前がぼやけてくる。さて、ネギま世界に戻らなきゃな。
「……ぁ」
「まて、今何を言おうと……し…………」
第十八天使が何か言いたそうにしていたが、確認する前に俺の意識は消えてしまった。
第三統括世界管理者Side
「何か言い忘れでもありましたか、第十八統括世界管理者」
被管理者・アルトリウスがいなくなる直前に何か言いたそうにした、第十八統括世界管理者に質問する。場合によってはまた彼を呼びださなければならなくなるから、少々口調がきつくなっても怒られはしないだろう。第七統括世界管理者が欠けた分、管理が忙しくなっているのだから。
「……第七統括世界管理者の席に…………彼が座る可能性があること」
「……まあ、また来ると言っていましたから、その時でいいでしょう」
ああ、そういえば彼は次代の第七統括世界管理者の候補に挙がっている。二度も私たちのせいで殺されているならその苦しみを知っている。ならば管理を慎重にするだろうと、そんな理由で候補に挙がった。私にとっては、仕事ができればそれでいいのだが。
まあ、もう一度来るかもしれないと言っていた。問題はない。
「さて、キビキビ働きましょう」
「…………えいえいおー」
第三統括世界管理者Side out
霞む目を開けると、神父が俺の顔を覗き込んでいた。どうやら蘇生は成功したようだ。そして同時に、俺が人間ではなくなったことを自覚した。どうして、と言われると答えに詰まるが、とにかく人ではなくなったことが理解できるのだ。
そして、魔力の最大量が増大している。俺が人でなくなる前の大体……八倍か。これなら真祖を殺すことができる。しかし使いきったはずの魔力が回復しきっているとは……どれだけ時間が経ったんだ?
「ようやく起きましたか。魔法陣にも呪文にも不備がなかったので、心配しましたよ」
「……どれだけ俺は寝ていた?」
「七時間ほど……でしょうか。もう夜ですよ。((満月が見えるでしょう|・・・・・・・・・・))?」
満月……ああ、満月の力が魔力回復を促したのか。それなら説明できるな。
「明日、リロイを殺す。神父はその後だな」
「……覚悟は既に出来ている」
全てを背負い、死ぬのだろう。その姿を見て、脳裏に何かが引っ掛かった。転生前、最初の自分が読んだ本に、こんな神父がいたような……
そういえば、俺は神父の名前を知らなかったな。これでは誰なのか分からない。
「そういや神父の名前ってなんだったか? 聞いてなかったか、忘れてたか。とにかく今は知らないんだが」
「私の名前かね? そういえば名乗る場面などあまりなかったかな。私は、バロウ。トマス・バロウだ」
ああ、そうか。自分の開発したものが兵器に転用され、人を多く殺してしまった。その重荷を背負い、贖罪のために足掻き続ける神父、トマス・ルートヴィヒ・バロウの並行存在か。
ならば、彼を葬ってやるべきなのだろう。その罪の重さに耐えきれなくなり、潰れて壊れる前に。
「それでは明日、全てを無に帰します。ではさようなら」
「ああ、また明日」
バロウ神父。せめて痛みもなく、安らかに逝ってください。そのために必要な咒式も、ある程度の無理を押して使ってあげますから。
翌日、ついにその時はやってきた。夕刻に教会の鐘が鳴り響くころ、俺は家を出る。
実際は日の高いうちに終わらせたかったんだが、真祖になったばかりのころは太陽光ってか紫外線に弱いってことを忘れてた。いやー、あれは辛かった。しばらくは日の下に出られねぇな、これじゃ。
「リロイ、覚悟はいいか?」
「とっくの昔に、レナをこの手で殺したときに決めてたさ」
ゆっくりと右手を肩の高さまで挙げ、人差し指だけ立てる。あとは呪文を唱えるだけでリロイは終わる。
「リロイ、未練はないか?」
「ないこともないが、叶えられないことだ」
全身に魔力を通す。あとリロイに告げることはただ一つ。
「リロイ、言葉を残すか?」
「一つだけ、あったな。レナとアリステルに一言、『済まなかった』と謝っておいてくれ。俺は同じ所には逝けそうもないからな」
「……それは俺も同じだ。復讐の為に、吸血鬼に身を落としたんだからな」
「だったな」
自虐的にリロイは笑う。俺もつられて自嘲する。俺たちは二人とも、被害者にして加害者。二人と同じ所には決して逝けない。
「じゃあな、リロイ。冥府で会ったら、酒でも飲もうや」
「楽しみにしておく」
まあ、転生の仕組みからいえば、二度と会えない可能性のほうが高いが。
「イグネ・ナチュラ・レノヴァトール・インテグラ 地獄の深淵より来たれ 無明の主 灼熱の王 我が望むままに荒れ狂いたまえ 全てを浸蝕し飲み干し焼き尽くし 平穏なるこの世に旧き時代の煉獄を再び生み出さんがために 魂をも焼き焦がす悪意の黒炎を今ここに 『蝕みの焔』」
立てた指の先に、マッチ程度の大きさの炎が灯る。闇の属性付加をされた、輝かない黒い炎が。そしてそれは俺の指の動きに合わせて、リロイの足元めがけて飛ぶ。
さほど時間をかけずに着弾し、地獄の釜の蓋が開く。
これが、俺の開発したオリジナル魔法『蝕みの焔』。闇の持つ概念『侵蝕』と火の持つ概念『高熱』と『燃焼』を組み合わせた、一級品の危険物だ。
第一段階として、接触した部位から闇が『侵蝕』する。炎としての側面も持つため、より上に昇るように闇は広がっていく性質がある。
第二段階では、侵蝕した闇が『高熱』を放つ。普通の炎と違い、内部まで侵蝕した闇が熱を放つため、内から焼かれる苦しみを味わう。
最終段階で、侵蝕した闇から黒炎が噴き上がる。この炎も『蝕みの焔』なので、この炎に触れた物にも闇が侵蝕する。これが連鎖するため、魔力配給さえあれば、理論上星ですら焼き尽くすことが可能だ。まあ、魔法使いの魔力が尽きる方が先だから、関係ないが。
そして、この最後の特性こそが、真祖殺しを成立させる。コウモリとなって逃げようにも、そのコウモリが黒炎に触れれば確実に燃え尽きる。初期の実験でも前回の実験でも、逃げようとしない限り、全身を炎が覆うのとコウモリ化では、炎のほうが速かった。つまり真祖が逃げず、術者の魔力が尽きないなら真祖を抹殺させられる。
ま、逃げることを前提とした真祖は殺せないが、そういった奴には集団リンチでもしかければいい。そっちの方が確実だ。
「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
(くそ、机上の空論は、理想値にすぎないか。殺し切れるか自信がねぇ!)
魔力が不足し、強い疲労感を感じる。誤算だ。燃えるリロイの髪が、分離したコウモリが、焼き尽くされる前に大地に落ち、闇を広げている。その闇から炎が広がり、消費魔力が激増するとは。
まずい。このままじゃ、駄目なのに……意識が、朦朧と
「強制契約執行 60秒間 アルトリウス・ノースライト」
していたところから一気に覚醒する。隣には、バロウ神父。……契約執行ってことは、従者契約を結ばれたってことか?
「これでいけるかな? 久しく使用していない秘術でね。配給できているか不安で仕方ない」
「これなら、いけます」
途切れかけた集中をどうにか戻す。とはいえ、バロウ神父一人分の魔力ではどこまで持つかわからない。お願いだ。これ以上イレギュラーは起こらないでくれ。
「あぁ……ぁ……………………」
その後は特にイレギュラーも起こらなかった。リロイの体は燃え尽き、骨とわずかな灰だけが残った。その骨すら灰にせんと、黒炎は消えることなく燃え盛る。しかし、それももう終わりだ。契約執行時間の60秒が来て、魔法に魔力を流すことが不可能になったから。
「ったく、俺も、まだまだってか?」
あ〜だめだ。もう疲れた。どうせ日の下に出ても苦しいだけだし、このまま寝ちまうか。ってか、寝る。グッナイ。
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真祖となったリロイを殺す手段は得た。さあ、虚しい復讐を始めよう。 | ||
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