IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第三話後編〜νガンダムの力
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「あら、逃げずに来ましたのね。さっきのお方が負けたから、怖くなって逃げたかと思いましたわ」

 

 オルコットさんがふふんっと鼻を鳴らす。また腰に手を当てたポーズが様になっている。

 

「……逃げないよ。夏兄の仇は僕がとる!」

 

 鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従え、どこか王国騎士のような気高さを感じさせる。

 

「その勇気に応えてチャンスをあげますわ」

 

 腰を当てた手を俺の方に、びしっと人差し指を突き出した状態で向けてくる。オルコットさんの身長を超えるレーザーライフル『スターライトmkV』の砲口が下に向いている。

 チャンスと言われ少し動揺してしまう。争わずに済むならそれでもいい。

 

「ど、どんな?」

「先ほどの方はわたくしに負けましたので奴隷扱いです。しかし、このセシリア・オルコット。それはさすがに酷いと思いました。そこで! もし、あなたがわたくしに勝ったら! その条件を破棄しても構わなくてよ? それかあなたが、わたくしに土下座して謝るのもいいですわね」

 

 ……少しでも期待した僕が馬鹿だった。こんな奴に期待する僕もまだまだだな。

 

「そこまでして……人を見下したいかっ! 土下座はしないけど、その条件乗った! もし僕が負けたら、夏兄じゃなくて僕を一生奴隷にしてもらっても構わないぞ!」

 

 相手も条件をつけてきたんだ、このぐらいは戦いの礼節だよ。

 とオルコットさんが冷めた笑い声を放つ。

 

「あはははははっ、おもしろいですわね! いいでしょう! その条件いいですわ!」

 

 キュインッ! スターライトmkVから青のレーザーが放たれるが難なく避ける。同時にブルー・ティアーズから4基のビットが放たれそれがレーザーを放つ。

 

「さあ、踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

 ふん、その程度の砲撃で押してるつもりなのかい? こっちも使おうか。

 

「行って! フィンファンネル!」

 

 その声に反応して、装備してある放熱板の6基の内、4基が離れて、コの字になる。――フィンファンネルはνガンダムの独特の武装だ。光輝自身の脳波で操作でき、ブルー・ティアーズに比べると少し大きいが、放たれるビームの威力、移動スピードはIS最高峰だ。

 

「そんな、ブルー・ティアーズ以外にオールレンジ武装があるなんて……!」

「ほらほら〜集中しないと落とされるよ〜」

 

 その驚きでブルー・ティアーズの速度が落ち、フィンファンネルで一気に4基全てを落とす。ビームライフルを使うまででもなかったね。

 

「そんなっ! ブルー・ティアーズが全滅!?」

「オルコットさん、一つ良いことを教えてあげるよ。僕がフィンファンネルを操作している時でも普通に他の攻撃ができるんだよっ!」

 

 

 

 

「光輝すげぇ……あっという間に全部落とした……」

「あぁ。いつもの弱気な光輝とは大違いだな」

 

 ピット内で戦いを見ていた一夏と箒は、光輝の戦いを見て驚きを隠せなかった。あの弱気な光輝がセシリアを追い詰めているのだ。

 

「織斑先生、一夏くんといい、光輝くんといい、すごいセンスですね〜。初めてなのにここまでやるなんて……」

「……そうだな」

「先生ったら照れてますねっ? 照れていますよねっ?」

 

  バシッ! 真耶の頭に出席簿が直撃した。威力は一夏にやっているものより数倍の威力だ。

 

「い、痛い……」

「私は身内のことでからかわれるのは嫌いなんだ。覚えておくように」

 

 怒りまじりの一言であったが、その声はどこか心配な雰囲気をかもちだしている。

 

――のびのびと戦ってるな。それでいいぞ。サイコバーストだけは使うなよ……

 

 

 

「オルコットさん、もうやめないかい?」

 

 ブルー・ティアーズも全基落として、オルコットさんは《スターライトmkV》と他の武装で攻めるが、僕には当たらない。だって、レーザーの弾道とか予測ができるんだ。

 また、オルコットさんの動きも予測できるし、容易にビームライフルやフィンファンネルが当たるのなんのって。

 

「な、なんですって!?」

「もうオルコットさんのシールドエネルギーも少ないでしょ?」

「や、止めませんわ! 絶対に勝ってみせます!」

 

 オルコットさんが凄まじい敵意を向けてきた。その敵意をまともに受けてしまった僕は反応が遅れてしまい、相手の攻撃に当たってしまった。

 

「どうしました!? さっきの威勢は嘘だったのですか!?」

 

 どうにも身体が動かない……オルコットさんのプレッシャーなのか? 

 オルコットさんの一斉発射を直撃してしまい、エネルギーが一気に減ってしまった。

 

「はぁ、はぁ、これがセシリア・オルコットの実力ですわ……」

 

 これが彼女の実力か……まさかプレッシャーにやられるなんて、思ってなかったよ……。でもオルコットさんの気持ちを感じれた。どこか悲しそうだった……。

 

「す、ごいね。あんまり使いたくなかったけど、使うよ」

 

 お母さん、ごめんなさい! でもオルコットさんも全力で戦ってるんだ。

 

「サイコバースト!」

 

 叫んだ途端、僕を緑の光が包む。これがνガンダムの本当の力!

 

「な、なんですの!? その光は!?」

「これがνガンダムの最高状態だよ。でも負担も多いから、早く決着をつけるよ!」

 

 

 

 

「あの綺麗な光は一体なんだ……織斑先生!」

 

 箒が慌てて千冬に尋ねる。

 

「あれは『サイコバースト』。光輝の意志で発動する単一仕様能力《ワンオフ・アビリティー》だ。発動すれば全般的な能力は著しくアップする。ただし、使えば光輝の精神は少しずつ蝕まれる。無闇に使えば、精神崩壊してしまう」

「そんなことが……」

 

 ここにいる誰しもが口を閉ざした。単一仕様能力を発動するのに、代償がいるISなんて聞いたことないからだ。

 

――光輝の大馬鹿者め! あれほど言ったのに……! 私の甘さが光輝に使わせてしまったのか?

 

 千冬は自分の甘さに酷く責めた。だが今は光輝に祈るしかない。

 

 

 

 

「行くよっ!」

 

 その瞬間、光輝が消え――いや、セシリアの頭上に高速移動しビームサーベルで切りつけるが、セシリアはそれを、ギリギリで避ける。

 光輝は6基全てのフィンファンネルを射出し、セシリア目掛けて、高速移動しながら追い込んでいく。

 

「オルコットさん、ごめん。終わりにするよ……」

 

 光輝は避けるのに必死なセシリアに接近し、ビームサーベルで切りつける。セシリアのエネルギーがゼロになり

 

 『試合終了。勝者――織斑光輝』

 

 

 負けたショックを感じるセシリアだが、勝利した光輝の様子がおかしかった。

 光輝の目は虚ろで焦点が合っていないし、呼吸も激しいものになっている。同時にνガンダムも光を纏う前に状態に戻る。

 

「勝った……勝ったよ。夏兄……お母さん」

「あ、あなた? 大丈夫ですの!?」

 

 セシリアの声が聞こえてないのか、突然ISが解除され、光輝は落下していく。現在の位置は地上から、約30メートルの高さだ。そんなところから落ちれば即死である。観客から多大の悲鳴が上がる。

 

「光輝さんっ!」

『オルコット! 織斑弟を回収しろ!」

「間に合って……!」

 

 千冬の声に反応してセシリアが急加速で落下し続ける光輝を追いかける。

 

「光輝!」

「お願いだ! 光輝!」

 

 落下し、意識が遠のいていく中で家族の悲痛な叫びを聞き、光輝が意識を失った……

 

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