二度目の転生はネギまの世界 第九話 |
第九話「不死の子猫と契約と」
あの時の((我|オレ))はいったい何を考えていたのか。今から過去に戻って問い詰めたいところであるが、時間制御能力は時間軸逆行を禁止してしまった。くそ。
「(何が『格好いいな』だ。((我|オレ))の名が広まって動きづらくなっただけではないか)」
そう、((我|オレ))の名が広まったため、おちおち外も歩けやしない。((我|オレ))が連れているエヴァにかかっている賞金も、ついでとばかりにつり上がっているため、エヴァの身をより守らねばならなくなってきてしまっている。仕方ないので、ヨーロッパからエジプト経由で((暗黒大陸|アフリカ))に脱出することとなった。現在、エジプトに滞在中だ。
咒式はこういうときには恐ろしく便利だ。変化に関しては魔法を超える個所がある。
「お、姉ちゃん。何を買っていくんだい?」
「ええと……これとこれを。あら、こっちのは何かしら?」
今((我|オレ))は、姉であったレナの姿になっている。魔法ではなく咒式でだ。魔法による幻術は簡易ではあるが、解呪されればなくなってしまうほど儚い。しかし咒式は違う。咒式は魔法の一種でありながら、その歴史は魔法よりも科学の歴史に近いのが原因だ。
簡単にいえば、魔法は現実に幻想を呼び出すため、解呪されると消失してしまう。だが咒式には、幻想の力で現実を改変し、その結果を扱うものも存在する。
「デーツっていう、ナツメヤシの実さ。甘くておいしい木の実でっせ」
「そう。なら8つちょうだいな」
「8つだな。まいど」
まあつまり、魔法でつけた傷に解呪をかけても意味がないのと理屈は同じなんだがな。だがそれを基本とする咒式での変身術は、本当に他者になってしまう。
骨格を変える。筋肉の付き方を変える。髪の色を変える。髪の長さを変える。眼の色を変える。身長を変える。体重を変える。指紋、掌紋、虹彩を変える。声帯を変える。
ここまでして、完全に他人になってしまう。性別? 年齢? そんなもの、材料さえあればいくらでも変えてしまう。それが生体変化系咒式の達人、変幻士だ。
「ほらよ。おまけにデーツを2つ付けとくぜ」
「あら、ありがとう」
「今後ともごひいきに〜」
そんな咒式を用いて、((我|オレ))は今姉の姿を取っている。はっきり言ってこの他人になるという行為、意外と自殺に近いものがあった。傷ならばいくらでも真祖の体が修復する。しかし咒式による肉体変化は、本当に何故か分からないが、修復対象外になっている。この体は、たとえ死んで再生されるとしても、レナの体として再生されるのだ。生体変化系咒式でないと、元に戻れない。
この発見、実験好きであることが偶然にもピタリとはまった結果でもある。右の眼の色だけを変えて再生させてみたら、オッドアイのままであったのだから。今では『((我|アルトリウス))』と『((姉|レナ))』に変化する専用咒式を創り、どんな変身をしてもすぐに戻れるようにしてある。
現在使用している宿に着く。部屋に戻り、簡易の遮音障壁を展開してから声をかける。
「……もういいわよ」
「う〜、つかれた〜」
文句を言いながらエヴァが影から顔を出す。『疲れた』とは、((我|オレ))とは違い、貴様は何もしていないだろうが。
「影の中にいるだけなのに、どうして疲れるのかしら?」
「だって、魔法を早く使えるようになりたいから、影の中でも魔法を必死に……」
まだ初心者用の魔法しか教えていないが、相当練習したのであろうな。そうでもなければ、これだけの魔力を持つエヴァが疲労を感じることはない。
では、直接見てやるべきであるな。魔法はイメージが重要である。間違ったイメージで続けると消費も多くなるうえ、正しいイメージに移行できなくなりかねん。
「そう。なら早くアフリカへ行くべきね。私も直接指導したいし」
「ねえ、アランさん?」
「なあに?」
アランとは、我のイニシャルのA.R.A.Nをそのまま読んだものだ。偽名としてちょうどいいので、そう呼ぶように言い含めた。万一聞かれても、((我|オレ))にたどり着きにくくするために。
「そろそろその口調やめてくれない? えっと、なんだか気が狂うというか……」
「この姿で((我|オレ))の口調に戻してもよいのか?」
「――ごめんなさい。やっぱり前の口調でいいです」
であろうな。((我|オレ))も女口調は気持ち悪いが、姉の声で((我|オレ))の口調は違和感しか存在せん。
「さて、一気にエジプトを抜けるけど、その前にこれをあげるわ」
先程購入したナツメをエヴァに渡す。
「これって……木の実?」
「デーツっていう、甘い木の実よ」
一応、前世で食べたことはある。甘かったような記憶しか残っていないが。そんなことはどうでもいいか。
「もう一度影に潜りなさい。この宿を出るから」
「本当だ、甘ぁい。意外とおいしいし」
「ねえ、沈められたい?」
「……は〜い。おやすみなさい」
顔全体では笑顔、だけど目だけは笑っていない。そんな顔を見せてあげたら、しぶしぶと返事をしたエヴァがずぶずぶと影の中身潜りこんでいく。さて、((我|オレ))も荷物をまとめるか。アトラスの連中に見つかると厄介だからな。
そして、アフリカに来て40年余り。その間に魔法を教え(((我|オレ))よりもセンスがあった)、咒式理論を教えてきた(こちらはさっぱりに近かった)。基本的に((我|オレ))達は二人で過ごしてきた。生物は。
「ツマリ、俺ノコトヲ人数ニ数エテナイッテコトカ?」
「そういうことだ」
まあ、途中でエヴァが作り出したチャチャゼロを人数に数えるか迷ったが、生命体ではないので数えない。そもそも、AIが貧弱であるチャチャゼロは人間性に乏しい。数えたくないというのが本音だ。
「どうした、アラン。チャチャゼロが粗相でもしたか?」
「いや、そんなことはない。ところでキティ、最近開発している魔法とやらの進み具合はどうだ」
「さっぱりだ。どうにもすすまん」
俺はエヴァのことをキティと呼んでいる。アフリカについてすぐ、自分のミドルネームを考え付いてこう言ったのだ。
(私はこの姿から成長しない。不老不死の幼女、永遠の子猫。だから私は、私自身に不死の子猫、アタナシア・キティの名前を付けるの)
だから、その思いを鑑みてあいつのことをキティと呼んでやっている。恥ずかしいのか最近は顔を赤くすることもあるが、それはそれで可愛いのでいい。しかし荒んだのか、口調が((我|オレ))に似てしまった。あの素直なキティが…………これはこれで可愛くなったな。なるほど、ツンデレとはこういうものか。
「((我|オレ))も共に考えてよいか? こう見えても、人であったころに新魔法を生み出した経歴があるのだが」
「ああ、そうだったな。私だけではどうにも進まなくて困っていたところだ。アランの意見も聞くことにするか」
そういって、キティは((我|オレ))に魔法の構想を教える。ふむふむ、魔法による自己強化。それも魔法が概念であることを利用した、自己の概念強化か。確かに魔法による強化は魔力で身体能力を伸ばす程度。それを超えるのはただ事ではない。
しかし……これはあれか、『闇の魔法』か。((我|オレ))の記憶では、魔法を取りこんで肉体を魔法と化すものであったような……
いや、それを前提に考えれば、魔法を取りこむことは十分に良いものだ。魔法を取りこむとすると、ここがこうなって、ここをこうすると……だがそうなるとこっちに支障が……
「ううむ、ひとつ思いついたが、形にしにくいな……少々書き込むぞ」
「構わんぞ。アランの考えることは、形で示されないと私にはよくわからないものが多すぎる」
許可も得られたので、術式を次々に書き込んでいく。こちらがこうだから、ここをこうして、っと。
「む、ではこちらはこうか?」
「それは((我|オレ))も考えた。だがこちらをこうする以上、そこの術式はこうしたほうがいい。しかしそうすると……」
「……ああ、ここに矛盾が発生するな。ならばこれを――――」
「それがあったか。そうなるとここは――――」
「……俺ハ御邪魔虫カ? 御主人ノ邪魔ヲスルワケニモイカネーシナァ……」
五月蠅いな、人形のくせに。
そして一年ほどかけて、ようやくエヴァと((我|オレ))が共同開発した新魔法『闇の魔法』が完成した。効果は原作と同じで、魔法を取り込むことで自己を魔法と化すものだ。ただそれだけではつまらんので、咒式も取り込めるように製作を試みた。これから始動実験と称し、キティが魔法を、((我|オレ))が咒式を取り込むことになる。
「咒式選択、<((銀嶺氷凍息|クロセール))>。咒印固定、掌握……っと」
「『雷の斧』、固定、掌握……ふむ」
隣のキティを見れば、全身に雷がちらつき、やや輪郭があやふやになっている。おそらく体が雷化している影響であろう。さて((我|オレ))は、と。
「アランは髪や瞳がやや青白くなったな。足もとの草も凍結しているから、成功しているな」
「キティは輪郭があやふやになって雷を纏っている。雷になっているな」
果たして取り込むことは可能になったようだ。これからも少しずつレパートリーを増やすべきであるな。術式解放、魔力配給破棄、咒式停止。
「オ、終ワッタカ? ココ最近相手ニサレテナイシヨ、チョックラ手合ワセシテクレネーカ?」
「そうするか。((我|オレ))はそろそろ別れようかと考えているしな」
「――え? 今何と言った?」
「ん? そろそろ別れようかと――」
「どうして!?」
身長差のせいで襟を掴めないキティは胸座をつかんでがくがくと揺らす。まあ、突然では驚くか。さて、理由を――
「どうして!? 私を捨てるの!? ねえ!」
「ま、まて。何かおかしなことを口走ってないか?」
――話すこともできないくらい錯乱するだと!? まてまて、((我|オレ))はキティにフラグなど立ててはいないのだが、キティ側から立てたというのか?
「とりあえず落ち着け。息を吸って、吐いて。ゆっくり吸って、ゆっくり吐いて」
「すぅ〜、はぁ〜、すぅ〜〜、はぁ〜〜」
「ゆっくり吸って、ゆっくり吸って、ゆっくり吸って……」
「すぅ〜〜、すぅ〜〜、すぅ〜〜……って、いい加減苦しいわ!」
「落ち着いたようだな」
半ばギャグで言ったのだが、まさか実践されるとは。ともかく落ち着いたところで話を再開しよう。
「別れる理由はいくつかあるが。最も大きい理由は、キティが((我|オレ))に依存しすぎていることだ」
「わ、私がアランに依存しているだと!?」
「でなければ、あれほど取り乱すこともあるまい」
「う……」
まあ、あそこまで依存しているとは思わなんだ。
「それと、((我|オレ))も個人でやりたいことがある。結果、ここらで別れるのが得策かと」
「……わかった。アランがそういうなら私も止めない。だが!」
顔を真っ赤にし、ビシッ! と音がしそうなほど勢い良く、その繊細な指を我に向ける。この状況で何か要求するとなると……思いつかんな。まさか処女を捧げると言い出さなければいいが。
「その前に私と仮契約しろ!」
「その程度でいいのか。ならばすぐにでもしてやるぞ。チャチャゼロ、陣をかけ」
「人形使イガ荒イゼ、ホント。ジャ、アトハ勝手ニシナ。ケケケ、ゴユックリ〜」
嫌味と愉悦を混ぜたような捨て台詞をはいて、チャチャゼロは((我|オレ))の視界から消える。楽しんでいる方が大きいであろうな、あれは。
「キティを従者にするが、いいか?」
「構わん。アランがマスターなら本望だ」
そう言ってキティは眼を閉じる。はぁ、仕方ない。宝石を使おうとも思っていたが、こっちがお望みならそうしてやるのも男の甲斐性ってやつか。
少し腰をかがめ、キティと目線を合わせる。そのまま((我|オレ))も目を閉じてキティに顔を近づけて、口づけを執行した。
「っと、これでいいか?」
目を開けると、先ほどより赤くなったキティの顔。やべ、かわいすぎる。
不埒な感情が押し寄せる前に、パクティオーカードを拾い上げる。
「カードはアーティファクトカードか。使ってみろ、キティ」
「え、あ、うん。アデアット」
((我|オレ))からカードを受け取ったキティは言われるままにアーティファクトを取り出す。現れたのは一振りの剣。だが、その形状が通常のものとはかけ離れている。素朴ながら美しく繊細な長い刀身はいいのだが、鍔のあたりに妙な機械が付属しており、トリガーのようなものまで付いている。さらには、柄は取り外して何かを入れることができるような……
いや、現実逃避は止めるとするか。まさか、((我|オレ))が行きたがった『され竜』世界の((道具|アイテム))、魔杖剣が出てくるとは。
「いやはや、((我|オレ))が咒式を使える影響か? それともキティに咒式を教えたからか……両方か」
「これは、いったい何なのだ? 普通の剣ではないことは理解できるが……」
「く、くく。それは((我|オレ))の行きたかった世界の武器だ。ああ、転生者であることは話したよな?」
「? ああ。荒唐無稽な話ではあったが、話に矛盾がなく、咒式なる魔法を扱える理由としては納得できるものがあったな……まさか」
どうやらキティも気づいたようだ。しかもこれは、あのレメディウス謹製の最高傑作『内なるナリシア』なのだからな!
「その剣。正式名称は『内なるナリシア』。さる高名な博士が作り上げた、最後にして最高の作品だ」
キティに覚えている限りの説明をしていく。
「魔杖剣は咒式発動の補助をする。((我|オレ))のように実力で発動できるものは少ないからな、言いかえれば発動媒体だ。そして、主に防御に関しては最高を誇る自動咒式がそれには存在する。魔力を込めればそれは多重の干渉結界を生じ、状況を分析する演算を開始する」
それ以外にも言わなければならないことは多いが、さすがの((我|オレ))ももう細かいことは覚えてなどいない。
「魔力を込めてみるがいい。どれほどのものか((我|オレ))も興味がある」
「ああ、わかった。では……うぉ!」
「ぬっ!」
周囲に多重の咒式干渉結界が作動。さらに咒印からは良く分からないが、演算咒式と思われるものも発動している。試しに<((銀嶺氷凍息|クロセール))>を発動するが、発動段階で妨害が入り、発動後もガリガリと威力が減衰。至近距離で発動したのに、結局半分もいかないうちに無効化されてしまった。魔法も『燃える天空』を使用してみたが、((我|オレ))オリジナルである魔法干渉結界に阻まれて無効化された。
「凄まじいな……対魔法戦に関しては最強の守護を約束していないか? 否、状況分析を補助されているから、攻撃も行いやすい……」
「そう思うが、慣れすぎは良くないな。緊急時以外は使用しない方がいい」
「それもそうか。アベアット」
少し惜しそうに、キティは『内なるナリシア』を還す。その間にコピーを作成した((我|オレ))は、キティにコピーを渡し、オリジナルを受け取る。
「さて、少し咒式を学んでいけ。それを使いこなせるようにな」
「う、やはりそういう話になるか……」
まあ、嫌なのは理解できるぞ。咒式原理からして、この時代の人間には理解できないものが多すぎるからな。だが、これから別れる以上、教えられることは教えておきたいのが性というものだ。
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我も賞金首となった。仕方なくアフリカへ向かうのだが……修行内容はカットだ。 | ||
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訂正しました。誤字報告感謝です。(翡翠色の法皇) 「お、姉ちゃん。何を買っていんだい?」ですが、「お、姉ちゃん。何を買ってい「く」んだい?」と「く」が抜けてませんか?(KU−) |
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