IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第五話〜忍び寄る影?と就任パーティー |
翌日、授業再開の許可を得た僕は、夏兄と一緒に寮から教室へ向かった。ちなみにここの寮は学校から歩いて約200m前後。山田先生は「寄り道はいけませんよ」とか言ってるけど、正直ここまで近いとするのが馬鹿馬鹿しいたっらありゃしない。
「それにしても昨日は大変だったな……全く、ここの女子は極端に男子の交流を求め過ぎなんだよ」
「そうだね。あれは一種のトラウマになりかねないよ」
昨日、夏兄がまた来てくれて話し相手になってくれたんだ。一人なのは寂しいからさ嬉しかったよ。でもクラスの女子ほぼ全員が狭い保健室に入ってくるんだから……怖かったよ。押しつぶされて死ぬかと思った……。
これは前からだけど僕達が一緒に歩いていると必ず聞こえる言葉がこれだ。ほら、現に今も。
「光輝くんが男なんて信じれないなぁ。完全に女の子じゃない」
「やっぱり、兄弟で付き合ってるってのもありよね」
「はぁ、はぁ、光輝きゅんっ。お持ち帰りしたいなぁ」
「一?光がいいかな、それとも光?一がいいかな?」
うわ〜、一部の人が僕達を見る目が危ない方向にいってるよ。夏兄は兄みたいな存在だけどさ、そこまでの関係じゃないから! でも夏兄となら……って!
「僕は何を考えてるんだぁぁぁ!」
「うおぅ! どうした光輝!?」
はっ! 僕は何を言ってるんだ……。しかも夏兄の前で……、あぅ、恥ずかしい。
その声は学校全体に聞こえたらしく、騒ぎに発展しかねたとか。気をつけます……
「ってことで一年一組代表は織斑一夏くんに決定です。一繋がりでいいですね!」
朝のSHRにて。夏兄がまさかのクラス代表就任。山田先生が嬉々と喋り、クラスの女子も大いに盛り上がっている。そして肝心の夏兄というと、暗い。よほど嫌だったんだんだね。でも僕も嫌だからね。
「頑張って夏兄! 何か力になれるなら手伝うからっ!」
「おおう! 助かるぜ光輝! サンキュー!」
「あっ、弟さんは副代表ですから。それにしても兄弟で代表ですかぁ。なかなかありませんねっ」
……え? ちょっと待って!
「山田先生! なんでぼ、僕が副代表に!?」
「わたくしを始めとするクラスのみんなが賛成したからですわ!」
この声は間違いない。振り向けばセシリアさんが腰に手を当て、立っている。一体どうなってるんだよ!?
「一夏さんはわたくしに負けました。ですがあえてクラス代表になって貰うことで、クラスの力になって頂くと共に実力を付けていただきたいと思ったからです。光輝さんはその実力で一夏さんのサポートをしてもらいたいと思い、推薦しました。お分かりかしら?」
なんか無理やりな気が……ど、どうしよう。
「いやあ、セシリアも分かってるよね!」
「そうだよね! せっかくISを動かせる男子が同じクラスになった以上持ち上げないとねー」
「私達は貴重な経験を積める。他のクラスの子に情報が売れる。織斑兄弟はすばらしいわね」
商売になってるよ……。てか僕達は売られるの!?
「仕方ねぇ。光輝、やってやろうじゃないか」
「えっ? 本当に言ってるの?」
心の整理が早いなぁ。相変わらず堂々としてカッコいいんだから。そこはお母さんと似てるなぁ。
「夏兄がやるなら僕も頑張ってみるよ……」
目立つのは嫌いだけど、二人なら大丈夫。恥ずかしがり屋なのを直すチャンスかもしれないし。とにかく頑張ってみよう。
「なら決まりだな。クラス代表「織斑一夏」副代表を「織斑光輝」とする。異存はないな?」
お母さんの声に、はーいと、クラス全員の女子が返事をする。しかし、軽く頭に響く……。女子はいろんな意味で恐ろしい。まぁ決まったら仕方がない。頑張ろう!
「夏兄は真っ直ぐ突っ込み過ぎなんだよ。上手く相手の攻撃を避けながら接近しないと」
その日の放課後、僕と夏兄は第三アリーナで特訓をしていた。今は終わって、アリーナの中の更衣室で着替え中。
白式の単一仕様能力『零落白夜』は相手のシールドエネルギーを切り裂いて絶対防御を発動させたり、相手のエネルギー兵器の無力化とかできる。でもそれを発動している間は、自分のシールドエネルギーが減り続けるから使い勝手が悪い。でもダメージは半端じゃない。
「そうだよなぁ。武器が雪片弐型以外にも、遠距離の武器が装備できればいいんだけど」
「白式は、後付装備(イコライザ)ができないんだよね……」
一般のISは後付装備で武器を装備を変えたりできるんだけど、白式はそれができない。拡張領域(バスロット)を全部使っているからだ。ちなみに僕のISのνガンダムも装備を変えることができない。まぁ、種類が豊富だし今は困ってないけどね。
「瞬間加速《イグニッション・ブースト》もいいけど、一回使ったらそれ以降は見破られる可能性だってあるよね。箒さんのところで剣術をまた鍛え直して、動体視力を養うのもありだと思うよ」
相手の一瞬の隙を見極めて接近する。元々夏兄は剣道やってて、接近だったら僕も負けそうになる(でも剣筋がゆっくりに見えるから回避は容易)。箒さんに鍛えてもらったら昔の感も取り戻せるし、動体視力も鍛えれるからISの戦闘では有利になるんじゃないかな?
「そうだな。明日、箒に稽古をつけてもらえるか聞いてみるよ。いろいろアドバイスありがとな光輝」
夏兄が僕の頭を撫でてくれる。暖かい手だね、姉弟そろってだなんて反則だよ……。
「ぼ、僕にできることがあったら、なんでも言ってね。夏兄には昔、いろいろわがまま言ってたし……」
「え? あぁ、気にすんなよ。今はこうやって仲良くしてるじゃないか。光輝は自慢の家族だぜ」
「あ、ありがとう夏兄」
やっぱり夏兄は夏兄だよ。分け隔てない優しさ、そして自分の信念を貫く、これらが夏兄の強さだと僕は思う。夏兄のおかげで僕もちょっとずつ自信はついてるよ。まだまだ、だけどね。でも変わろうときっかけをつくってくれたのは、お母さんと夏兄のおかげ。いつかちゃんと、お礼をしないと。
「よし、寮に戻ろうぜ光輝!」
「うんっ!」
夏兄の元気な声に僕も元気いっぱいに返事をして、更衣室を後にした。
「ふうん。ここがそうなんだ……」
光輝と一夏が更衣室で着替えている同時刻。IS学園の正面ゲート前に、小柄な体に不釣り合いなボストンバックを持った少女が立っていた。
四月の暖かい風になびく髪は、ツインテールにしている。肩にかからないギリギリくらいの髪は、金の留め金がよく似合う艶やかな黒色をしていた。
「えーと、受付ってどこだっけ?」
上着のポケットから一切れの紙を取り出す。くしゃくしゃになった紙は、少女の大雑把な性格と活発さをよく表していた。
「本校舎一階総合事務受付……って、だからどこにあるのよ」
愚痴を言いながらも少女――凰鈴音(ファン・リンイン)の足は動いている。とにかく実践、そういう少女だ。
歩きながら、とある男子の事を思い出す。
――元気かな、アイツ。
彼はこの『女尊男卑』という今の世の中でも、自分の意志を強く持っている。とにかく元気で、暗いところを見たことないくらいだ。
「でね……ああいうときは……」
ふと、声が聞こえる。その方向に視線をやると、女子がアリーナから出てくるようだった。
――ちょうどいいや。場所を聞こっと。
「なるほど……なかなか難しいなぁ」
アリーナに小走りで向かう鈴音は不意を突かれ、身体はびくんと震えて足と止める。
男の声――それも知っている声によく似ている。おそらくは同一人物。
――あたしだって分かるかな、分かるよね? 一年ちょっと会わなかっただけだし。
鼓動が緊張と予期せぬ再開でペースが上がる。
「いち――」
「夏兄、ちょっとずつやっていこうよ。一つ一つさ」
「おう! いやー光輝の説明は分かりやすいよ。それに比べ箒ときたら……」
すたすたと歩いて行く二人の女子と男子。
――誰なのよ、あの女の子? なんで親しそうなの?
先ほどまでの鼓動の高鳴りは嘘のように消え、ひどく冷たい感情と苛立ちになる。
それから無事に総合事務室は見つかった。アリーナの後ろにあるのが、本校舎だからだ。灯りがついていたので分かった。
「手続きは以上です。IS学園へようこそ。凰鈴音さん」
「あの、織斑一夏って何組ですか?」
鈴音は不機嫌ですとばかりな声で聞いた。それでも愛想よく答えてくれる事務員はよくできている。
「ああ、噂の子? 一組よ。凰さんは二組だからお隣ね。確かクラス代表になったんですって。織斑先生の弟さんなだけはあるわね」
噂好きは女性の性。その体現な事務員を冷ややかに見ながら、鈴音は質問を続ける。
「二組の代表って決まってますか?」
「えぇ。決まってるわ」
「名前、分かりますか?」
「分かるけど、どうするの?」
鈴音のおかしな態度に気付いたのか事務員が戸惑う。
「お願いしようと思って。代表をあたしに譲ってって――」
その笑顔には、血管マークがついていた。
「というわけでっ! 織斑くんクラス代表決定おめでとう!」
夏兄は大変だね、とか思いつつ、クラスのみんなとは少し離れた場所で、オレンジジュースを飲みながら夏兄を見守っていった。
今は夕食後の自由時間。場所は寮の食堂、一組のみんなが全員集まって盛り上がっている。
壁を見ると、目立つように『織斑兄弟クラス代表、副代表就任パーティー』と書いた紙がかけてある。就任って……そんな大袈裟なものじゃないでしょ。
「光輝さん? そんなに一夏さんが恋しいですか?」
「えっ!? そ、そうのじゃなくて、なんか落ち着かないって……」
そうからかってきたのは隣に座っているセシリアさんだ。あの決闘が終わってからよく話してきてくれるんだよね。自分から女子に話すのは慣れてないし、助かってます。
「は〜い、そこのお二人さん? 新聞部のインタビューに答えてもらいます〜」
オーと一同が盛り上がる。そんなに盛り上がるとこなの?
「私は二年の黛薫子(まゆずみかおるこ)。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。これ名刺ね」
差し出された名刺を受取って見る。けっこう本格的な名刺で……。なかなかですね。
「では早速、織斑光輝くんっ! 副代表になった感想を!」
ボイスレコーダーをずいっと僕に向け、好奇心丸出しの顔で見てくる。
「いきなり言われても……」
感想って言っても困るな。そんな期待丸出しの表情で見ても、期待に応えれるような感想は言えませんよ!
「えっと、代表を補佐できるように頑張ります」
「え〜。もっといいコメントちょうだいよ〜。僕を止めることはできやしない! とか」
えぇぇぇぇ!? そ、そんなの言えやしないよ……恥ずかしいじゃないですか!
「女子と間違えないでね?」
「う〜ん、可愛いんだけどさ。なんかこう迫力がないと言うか……。まぁ適当にねつ造しとくね」
こらこら。それは新聞部としてどうなんですか!? こうやって間違った情報が伝わっていくのか……恐ろしいよ。
「セシリアちゃんもコメントちょうだい」
「いいですわよ。なぜわたくしが――」
「長そうだからねつ造しとくね。光輝くんに惚れたってことにしよう!」
「な、な、ななっ……!?」
いきなり顔が赤くなったセシリアさん。そりゃねつ造されるって聞いて怒ってるんだね。分かります。ってことで援護を。
「何を馬鹿なことを言ってんですか」
「え、そうかなー」
「そ、そうですわ! なんで馬鹿にされなきゃならないのですか!?」
なんで僕は怒られてるの? 言い方がおかしかったかな?
「まぁ、とりあえず二人とも並んでね。注目の専用機持ちなんだからさ、写真撮りたいのよ」
「えっ!?」
意外そうなセシリアさんの声。取材と言えば写真だよね。でも写るのは好きじゃないなぁ。どうしよ……
「あの僕は結構ですから一夏くんとセシリアさんで撮ってもらえませんか?」
「え〜、ノリが悪いなぁ。いいじゃない」
先輩の説得を断る僕だったが、
「光輝さんっ! 一緒に写りましょう!」
セシリアさん! 声が大きいし、顔が近いよ! なんでそんなに顔が赤いのさ? やっぱりセシリアさんも恥ずかしいから? でもそれなら断ると思うし、分からないなぁ。
僕は渋々了解して写真を撮るようになった。
「撮った写真は当然、いただけますわよね?」
「そりゃもちろん」
「でしたら今すぐ着替えて――」
「時間がかかるからダメ。さっさと並んで」
先輩は強引に僕とセシリアさんの手を引いて、握手まで持っていく。女子握手なんて初めてだから緊張しちゃうなぁ。
ふと、セシリアさんを見ると、こっちをじろじろ見ている。どうかしたのかな?
「どうかしたの?」
「な、なんでもありませんわ!」
変なセシリアさん。緊張かな?
「それじゃあ撮るよー。35×51÷24は〜?」
「なんですかそれ! とりあえず2?」
「ぶ〜、74・375でした〜」
ここは普通2でしょ!? この先輩はよく分からないなぁ。
パシャッとシャッターが切られる。やっぱり慣れないよ。
「はい! ありがとうございました〜。じゃあまたね」
そういうと今度は夏兄の方へ行かれた。せわしない先輩でした。
「やった! 光輝さんとツーショット!」
セシリアさんがガッツポーズしながら小声で何か言ってる。なんか嬉しいことでもあったみたい。よく分からないけど、良かったね。
このパーティーは遅くまで開催して、疲れた僕は部屋のベットで爆睡しました。
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