ISジャーナリスト戦記 CHAPTER06 邂逅ノ時(後) |
―――そして、翌朝。
何事もなかったように彼らは旅行に予定調和として含まれていた筍掘りの名所「藤原竹林」へと足を運んだ。一時間当たり一万二千円と割りと高めではあるものの、その一時間でコツさえ掴めば驚くほど量が取れると言うのだから元を取る気合さえあれば後はどうとでもなるらしい。
冷凍保存して宅配するサービスもあるということで慧音の分も頑張って手に入れるとやる気になった灯夜は完全装備の下、スコップ片手に意気込んで構えて言う。
「・・・筍狩りの男、ス○イダーマッ!!」
テテレッテーテテ、テテレッテレーテー↑(荒ぶるポーズ)
「覆面はとりあえず外したほうがいい、完全に不審者だよ」
「ならばヒーロー全員が不審者ということか、Disってんじゃねーよコラ」
「今貴様は子供達を敵に回した・・・生きて帰れると思うなよ」
「管理人まで何で怒ってるんだ!?そしてさり気なく握手し合ってるし!!」
特撮好きに悪い奴はいない。管理人のもこたんこと藤原妹紅さんとは良い酒が飲めそうだったんで意気投合したまでだ。
「あと、プリ○ュアも最近面白くなってきたよね〜」
「男の子向けだった特撮の戦隊モノを女の子向けに変換した感じがあるけれども結構凝ってる部分があるから嫌いにはなれないのよ」
「「あーわかるかわる」」
「一気にハブられたよ僕!!」
追加攻撃がにとりと幽香から放たれ霖之助の心のライフは程なくしてゼロになった。だが、そんなことは知ったことではない。それよりも優先すべきこと・・・筍狩りがあるのだ。
「えー、じゃあ時間になりましたらコールして呼びますんで、それまでご自由に楽しんでいってくださいね」
「「「はーい!」」」
「・・・はーい」
元気よく返事をし彼らの一時間限定筍ハンティングが幕を開けた。・・・・・・同時に灯夜に対する包囲網が敷かれたとも知らずに竹林の奥へと彼は足を踏み入れた。
「ねー灯夜、何個見つかった?」
「あ?・・・十個だな」
「早っ!!まだ五分しか経っていないのに・・・・・・何でそんな早いの?」
「勘だよ、勘。昔っから探し物を探すのは得意だったからな、自然と何処に何があるのか分かっちまうんだ」
そのおかげで妙なものばかり手に入れることが多かったが大体はその場で使ってしまうので現在手元に残っているのは僅かな記憶の断片とも言うべきモノだけ。特に売るほど価値のあるものではないし、売ったら売ったで二次災害を引き起こす恐れがあるので厳重に保管せざるを得ない状況なのである。(例のごとく、全てこーりんのせいで手にすることになった霊的アイテムばかり)
怪奇現象が起こった時に探索役を全面的に引き受けていたのだから仕方ないね。
「流石は寺もとい神社生まれのTさん、お勤めご苦労さま」
「バカ、親戚に代わって管理しているだけだっつーの。神社は副業みたいな感じで手伝っている、それだけだ」
本来、博麗霊夢が持っているべき能力を持っているせいなのか霊感がやけに強く、加えて霊力とやらがアホなぐらい強いらしいのでその能力を買われて俺はお払いやら儀式やら学生時代に参加させられていた。そのせいでついたあだ名が「神社生まれのTさん」、神社なんだからJさんでいいだろうというツッコミは聞き入れてもらえなかった。確かに灯夜とうやだからTであっているけれども。
「うう〜・・・見つからないよぅ、たけのこ〜」
「手当り次第掘ればいいってもんじゃねえんだ、よく目を凝らして見てみろよ。・・・ほれ、また一つ見っけた」
本当に初心者かと疑うような手つきで次々と目的の筍を狩っていく灯夜。下手したら竹林に生えている筍全部を狩り尽くしてしまわんとするペースに他の三人はただならぬ焦りを感じ視線を合わせて会話する。
「(どうすんのよ・・・これじゃ、交渉に持ち込めたとしても藤原さん涙目状態になるじゃない)」
「(五分で十個だから単純な計算では一時間で約120個ぐらい狩りつくされることになるね・・・・・・いくらその前に行動に移すにしても必然的に50個以上狩られるのは覚悟しておいた方がいい)」
「(完全に元を取る気で来ているね灯夜・・・もう、私達は手を付けないで灯夜一人だけでいいんじゃないかな筍狩り)」
そうすれば慧音を含む五人で分けたとしても一人当たり10個採ったことにはなる。一万円弱支払ってこれだけ狩れるのならもう充分ではないだろうか。
「―――おっ、あっちの奥の方に沢山有りそうな予感が・・・・・・すまん、ちょっと此処離れるからな〜!!」
「あ、うん!!いってらっしゃい!!」
「僕らは此処らへんで動かず待っているからくれぐれも迷わないでくれよ」
「了解ー!!」
皆の心配を余所に彼はたった一人、竹林の奥深くへと掛け声と共に消えていった。・・・・・・それがよもや自身の身を危険に陥らせることになるとはまだ知らずに。
「―――さてと、勘を頼りに進んでみたはいいが・・・結構竹の密集しまくっている場所まで来ちまったな。これは元の場所まで戻るのに一苦労しそうだ」
そう言いながらも既に対策は施してあったりする。ヘンゼルとグレーテルよろしく、目立つ色の白石を事前に用意していた彼は今いる地点に来るまでに等間隔に落としてきていたのだ。こうすれば迷うことはないし、安全かつ楽な方法で皆と合流することができる。念の為に自分の周りをぐるりと眺め大体の位置を把握すると握り締めた鉄のスコップを地面に突き立てた。
「ありゃりゃ・・・これはよく見たらデカ過ぎるな、穂の部分しか食べられそうにない」
知らない方もいると思うが、地面から芽の出かけているものを一般的に「筍タケノコ」と呼ぶのだそうだ。ちなみに数メートル程成長したものは食べらないわけではないが、大体は穂先・・・つまり、通常時とほぼ同じ部分だけを切り取られ食べられる。この場合の呼び方は穂先だけなのでその名の通り「穂先タケノコ」と呼ばれているらしい。
主に市場に出回って食用とされているのは、中国から伝わったとされる孟宗竹モウソウチクという種類の筍で皮は黒班と粗毛におおわれている。他にも皮が淡紅色のハチクと皮が薄い黒班だらけのマダケという種類の筍がよく知られているらしいが、今回掘っているのは今挙げた三種類とは違う「カンチク」という黄色または黒紫色の晩秋から冬にかけて出る筍だ(品種はキンメイ・ギンメイ・チゴと三種類あるそうな)。竹自体は径数mmと細いようだがその色は紫黒色で光沢があり美しく、飾り窓や家具などや庭などに植えられて観賞されるといった使われ方をされている。
肝心の筍の味はというと、すこぶる美味なようでその味を知る人からは秘かに絶賛され好まれているという。そんな、ある意味レアなモノを現在私は狩りまくっているわけでありますが、ちゃんと保存問題などは対策を整えているのでご心配なさらず。にとりが開発した掘り立てのまんまの新鮮さをほぼキープできるボックスがある限り何本取ろうが無敵なのだ。・・・まあ、流石に掘りすぎて迷惑かけないよう自重はするつもりではある。
―――ブワッ
「おっと・・・」
続けて近辺の筍を見つけ掘っていると全身を押すような風が急に吹き抜けた。焦ることなく手を地につけてバランスを保ち持ち堪えた俺は舞ってきた枯葉に耐えながら引き続き作業を続行する。
〜たけのこ探索中〜
「うん、今度は良い感じのサイズだ」
暫くして満足げに頷き、頭についたゴミを払いつつまた新たに目的のブツを手にした彼は座りっぱなしだった脚を伸ばすために立ち上がる。例のボックスには既に幽香達が危惧していた数よりも若干少ない量の・・・それでも多いと言わざるを得ない筍がわんさかと入っていた。
背中に背負ったその筍軍団に新たに仲間を投入しまた付近をぶらつこうと考えた灯夜は、いざ落ち着けそうな別の場所へ向かおうと移動を開始する。だが、この何気ない自然な行動はその途中で遮られることになった。灯夜は何かを察知して突然巧みなステップで後ろへと飛んだ。
「―――!」
飛んだ衝撃で落ち葉が周囲を舞う。しかし、そこには本来あるはずもない謎の煌めきが存在し太陽の日差しを受けて怪しく光を放っていた。形状からしてそれは何処からどう見ても西洋で使われているであろう刻印の付いたナイフそのものであった。トラップか何かと彼は一瞬考えるが無断で侵入した者を撃退するにしてもましてや≪刃を潰して丸めていない≫ナイフを使うなどありえない。第一、管理人にはちゃんと許可を取った上で現在筍を掘っているのだ、狙われる筋合いは全くない。
不自然極まりないこの事態に彼は一気に警戒心を高め身構えると思考を張り巡らせつつ、素早い動きで投擲され地面に突き刺さったナイフを拾い武装する。
「(・・・まさか、このタイミングで襲撃?ナイフはISの武装ではなく本物・・・ということは暗殺者の類か何かか)」
幾ら何でも私有地でISを暗殺目的で使うのは無理がある。とすれば考えられるのは生身の人間による襲撃、そしてこんな事をするのは現在自分が追っているテロ組織か第三者しか思いつかない。
思考の最中にも飛来するナイフを避け脱出を試みたが狙ったように退路が塞がれる。陸路ではもはや逃げることは無理かと考え自身の姿を消し空路で脱出を隙を見て実行に移そうと決めた灯夜は一旦、竹が密集し壁のようになっている地点まで駆け抜け身を隠した。荷物も其処に置いて身軽な状態にいい加減なる。
「(幽香達が無事だといいな・・・)」
簡易的な式神を放って確認しても良いのだが今はそうも言ってられない。自身の命がこんなところで潰えるのは情けないので迅速かつ慎重に脱出をしようと足に力を入れ飛行の準備を開始する。
しかし、特に危険もなく順調に行くと思われた彼のこの行動は背後から密かに忍び寄っていた存在によって邪魔されることとなる。その証拠に灯夜の首の近くにはナイフとはまた違う、投擲を視野に入れなければリーチの長さが大きい真剣・・・俗に言う日本刀が添えられていた。彼はギリギリのところでそれをナイフで受け止め姿勢を崩さずにいる。
「・・・はぁ、素直に逃がさせてくれないわけね。展開的に読めていたけどさ、二人組かそれ以上かよ」
つまらなそうな、それでいて焦る様子も見られない姿のまま膠着状態を保ち灯夜は動かない。刀を手にしている相手も受け止められるとは思いもしなかったのか何の反応もないまま喋らずにいた。
「どうして気づいたって顔してるだろ?悪いが、いくら素早く近づいても風の動きは誤魔化せない」
人間が、生き物が動けば必ず『流れ』というものが発生する。風がその代表的なものだ。真空状態の空間でもない限り空気という風の流れを抑えることなど不可能に近い。故に俺が風を操り読むことのできる人間である以上、死角というものはそもそも存在しないのだ。(限定的に)
回収した別のナイフを空いていた手に装備し振りかぶる。この膠着状態から抜け出すために殺意を一時的に放ちながら相手との距離をとると俺の瞳には、まだ幼さが残る銀髪か白髪のおかっぱ頭に近い日本刀を二本も携帯していた少女が映った。同時に彼女が誰であるのかが瞬時に理解できた。
「(―――成程、魂魄妖夢か)フッ・・・」
「(―――ッ!この人・・・できるっ!!)」
一夏からの情報で彼女がこの世界に存在していることは既に把握していた。こんなところで会うとは予想外であったが、恐らく彼女の性格からして誰かの命令に従って俺を狙ってきたに違いない。殺意は感じられないのであくまで拘束に来たのだろうか。単独では流石に無理があるので黒幕が何処かに潜んでいる可能性がある。まずは先のナイフ投擲が妖夢のモノではないと判断し気配を念入りに探ると彼女とは別に後ろから自分を狙っている誰かがいた。多分、位置的にその誰かは俺を追い込む役・・・つまり誘導役だろう。向こうは此方が位置を把握したことに気づいてもおらず次の攻撃の準備をしているようだ。
ならば、今狙うべき相手は目の前の少女ではなく不意打ちが突ける存在か。じっと刀を向けたままの立っている妖夢に親切(?)にも灯夜は忠告してあげた。
「身構えるのはいいが、それよりも心配すべき相手がいるんじゃないのか?」
「・・・何を言っているんですか」
無愛想な顔で返答する彼女はまだ俺が仲間の位置を捉えた事を理解できていない。可哀想だが、これ以上は行動に移してわからせてあげるほかなかった。先程脱出しようとしていたように俺は脚に力を込めた。
「自分よりも『君のお仲間・・・・・』の身の安全は気にしなくていいのか、と言っているんだ!!」
反応を待たずして一気に飛翔し竹を蹴って動きを複雑化する。常人では再現不可能な跳躍力を持ってして自分から離れた事に唖然としている妖夢の姿を放って逃亡した灯夜は竹林の間を駆け抜け進み続けた。そして、事前に気配を確認した通りの場所には目標の・・・竹林に居ること自体がおかしいメイド服姿の少女が明らかに人工的に作られた足場の上に立っているのを視認した。
向こうもこちらを確認して驚いているがそんな事はもう関係ない。銃弾が跳弾するように彼女の後ろの竹へ一度向かって蹴ってから背後に接近し両手を拘束する。妖夢と同じく年は中学生あたりが妥当な銀髪少女は意外にも余計な抵抗をすることなくすぐに大人しくなった。
「咲夜さんっ!」
一時的にフリーズしていた妖夢も陸路で追いつき顔を見せる。傍から見たら自分が人質をとっている犯人役で妖夢が人質を救出に来た主人公にも見えなくもない構図の中、灯夜の視線は二人の少女の方ではないあらぬ方向へと向く。
「・・・おい、出てこいよ。よくもまあこんな茶番に付き合わせやがって―――覚悟はできているんだろうな、お前ら」
実は今拘束しているメイドの十六夜咲夜の気配を発見した際に彼女とは別の、それも良く知った気配を彼は捉えていた。距離は少しばかり離れていたとはいえ、まるで動こうとしていないのが不自然でおかしかった。只の偶然なら良かったが、接触した少女達が一緒に来ていた幽香達を人質するという手段に打って出なかった時点で白からグレーへと疑いの色は変わった。殺すつもりがないのなら何も旅行中に襲撃する必要もない、道端で車に押し込めば済む話である。従って導き出されるのは旅行自体が仕組まれていたということ。つまり、初めから「自分達以外の人目につかない場所」に誘い入れることが目的だったのだ。そうなると必然的に管理人も怪しくなる。何故なら俺を拘束する場を筍狩りの場として提供したのだから。
灯夜の静かなる怒りを見て、隠し事をするのはもう無理だと考えたのか隠れていた三人はぞろぞろと姿を現す。彼も咲夜を抱えて地上に降りしっかり向き合うと溜息をつきイライラしながら問うた。
「・・・で?黒幕は何処にいるわけよ」
ナイフを使ってあろうことかジャグリングを開始した灯夜は今回の件が三人だけで考えられたものでないくらいわかっている。有力候補として管理人の妹紅がいるが、誰かを率いて何かをするという器には向いていない。だとすると姿を見せていない統率力のある、言うなればカリスマ的存在が関わっているはずだ。
「それは・・・・・・」
こうも簡単に計画に気づかれるとは考えていなかったのか、それともいくら腕が立つからといって少女二人に拘束を任せたのが悪かったと思っているのか定かではないが、にとり達の戸惑いは大きくなかなか口を割りはしなかった。恐らく予定では拘束に成功して自分達の前に座らせて有利な状況になるシナリオだったのだろう。ショックで何も言えない状態がこのまま続くのを覚悟して彼は話すまで何時までも待つと忠告した。
すると、そんな状態の彼らを見ていられなかったのか何者かが近づく足音が彼らが集まっている場所へと迫る。ようやく友人を使って自分を捕まえようとした元凶の顔が見られると内心歓喜した灯夜は、自分が優位であることを崩さないよう表情を一定に保つ。そして沈黙と化した場を打開するためにやってきたのは、白衣とスーツ姿のこれまた銀髪のような髪色の美しい女性であった。彼女は困った顔でにとりに近づき口を開いた。
「何をやっているのよ、にとり。失敗したのなら失敗したでちゃんと話して交渉をしなさいと言ったでしょう?」
「せ、先輩・・・すみません。でも、まさか常人離れした行動でめちゃくちゃにされるとは思いもしなかったので・・・・・・」
「言い訳はいいの。此方が知りたいことが聞ければいいんだから、どんな事があろうと仕事は全うしなさい」
「・・・・・・しゅみましぇん」
身長差からして妹を叱る姉にも見える微笑ましい光景が目の前にあるわけだが、それは置いてといて早速俺は詰問すべき相手に話しかける。
「・・・アンタが黒幕か」
「ええ、そうよ。初めまして睦月灯夜さん、会える日を心待ちにしていたわ」
どうやら過程はどうでもよく俺と会えればそれでよかったらしい。じゃあ、普通に会いに来いよと言いたいところだがそれが素直に言えないのが今の自分の現状だ。だから、出来るだけ人目のない協力者のみが存在する場で会う必要があったという。八意永琳と名乗った彼女はまず無理矢理拘束しようとした非礼を詫び、巧みな話術で今に至った経緯を簡潔に述べた。
「―――つまり、私達は貴方が大会を抜け出した時に何があったかを知りたいのよ。以前の政府が隠蔽した真実を、ね」
「・・・成程、大体把握した」
あの時の小さな苛立った呟きが聞かれて、それも覚えられているとはね・・・・・・しかも、真実を知りたい人間の中に現政府の議員の、大学でお世話になった四季先輩が含まれているとは想定外だった。
「だから、貴方だけが戦っているんじゃない。世間から見たら小さな集まりだけれども、私達はそれでも今の世の中を変えたいと思っているの」
幽香の悲痛とも受け取れる言葉に灯夜の心は揺さぶられる。
確かに今の政府の支援を極秘裏に受けられるのは魅力的な話だ。今まで以上の行動が可能となり情報収集だって大幅に楽になるだろう。こんな待遇を受けられるのは本当に稀だといえる。
だが、不安が残る。結局は言論での社会変革となるのだから敵対勢力(篠ノ之束・亡国企業)が武力を持ち出した際に対抗する手段がないのだ。支援を受けている間に目を付けられて集会を壊滅状態にさせられる恐れがある。仕方がないことだが何かを成すためには身を守るための武力が必要になるのだ。それが用意していなければ迂闊に手を組むとは言い切れない。
その旨を詳しく話し対策は施してあるのかと確認する灯夜。彼の心配の内が明かされると最後まで聞いた永琳とにとりは顔を見合わせ真顔で言った。
「「それならあるよ(わ)」」
一先ずこの目で実際に見てみないとどんなモノかがわからないので、一応その言葉を信じ俺は彼女達が集まっているという『永遠亭』へと車で向かう事となった。
彼女の住まいがある永遠亭に着いてすぐに案内されたのは日本の伝統である和室ではなく、現代的な造りの妙に秘密結社臭のする秘密基地の会議室だったのは今となっては良い思い出です。
冗談はさておき、永琳が予め俺を(拘束するか説得して)連れてくる予定で呼び寄せていたメンバーがいる会議室に俺が入室して数分も経たないうちに話はモンド・グロッソの影で起きた事件に関しての内容となった。
「私達は誘拐事件があったんじゃないかという所までは貴方の発言で予想はしているの。けれど、それ以外の詳細が全くわからないから・・・・・・」
「情報収集に躍起になっているんですね。で、一番知っていそうな俺に白羽の矢が刺さったと」
「そういうこと。余りにも資料が少ないものだから困っているのよ」
いくら政権が奪われたからって資料残さないとは前政権馬鹿なのと言いたい。言ってももう無駄だって分かっているけどさ、何いつまでも国内で揉める原因を作ってんだよ。・・・まあ、愚痴よりも総理直々に資料求めてるという話ならば話さないわけにはいかないので情報提供するわけだが。
「事実として誘拐事件はありましたよ。被害者の名前は『織斑一夏』、かのブリュンヒルデの弟です。犯人側の要求は織斑千冬の決勝直前での棄権で、首謀者と実行犯の2グループが存在しています」
実行犯は裏の世界で知られている第二次世界大戦時に生まれたと言われる秘密結社『亡国機業』であり、メンバーの一人はアメリカから奪取したと思われる第二世代型IS『アラクネ』を保持している。幹部の名前は今のところ『オータム』と『スコール』しか判明していない危険なテロ組織だ。そして、問題の首謀者に関してであるがこれはどの軍が関わったかまで既に掴んでいる。
「この事件の真犯人は情報提供を行なったドイツ軍なんですよ。・・・正確には一部の高官の独断のようですが」
「じゃあ今、織斑千冬は誘拐の犯人に協力しているようなものなのね」
「ええ、その通りですよ。教官として迎えるためにわざわざ事件を起こしたわけじゃないみたいですけれど」
真相はこうだ。退役したドイツ軍の高官から話を聞いた限りではドイツ軍には『マリアに抱かれぬ子供達』という、鉄の子宮で育った強化人間の研究施設があったそうだ。其処はISが登場する以前から存在しており強化人間だけでなくクローン人間まで研究していたようで、ISによって技術が爆発的に進化したの今ならテロメア問題を解決している可能性があるという。つまり、優れた遺伝子を入手すればその人間を己の技術で増やしまくることが可能ということだ。そう簡単に事が上手くいくとは思えないが強化人間が存在するなら一人か二人はクローン成功体がいても何らおかしくない。
「確かな証拠までは入手していないのでわかりませんが一番辻褄が合うかと」
「ISの業界で最強の称号を持つブリュンヒルデの遺伝子欲しさに弟を誘拐ねえ・・・ありえなくはないね」
生身でも強いとされる織斑千冬を大量にクローンとして生産し私兵に出来ればいいな、との○太もびっくりな願いをドイツ軍が叶えようと本気で躍起になっていたりする今日この頃。何その恐るべきチルドレン計画、・・・怖いわー。
「今言った件に関してはどうしようもないのでこの先の話をしましょう」
「そうよね。国に問い詰めたところでそんな事実はないと言われるのが当たり前よ。先回りして物事を考えないと」
レミリアの言う通りこの事実を確かめる術は現状ではないに等しい。あったとしてもそれはやはり先の話となる。
促されるように俺は起こりうる事態について自分の意見を述べた。それが以下の二つだ。
・『亡国機業』による特殊な第二世代〜第三世代型ISの奪取
・篠ノ之束の妹『篠ノ之箒』のIS学園強制入学時に起こるトラブル
「『亡国機業』はアラクネに代表されるように軍事利用に特化したISを今後手に入れようとする可能性があると俺は睨んでいます」
「具体的に言うとどんなISがターゲットになるんだ?」
「例えば・・・武装がどのレンジでも対応できる程の性能を秘めていたり、ワンオフ・アビリティーが特殊すぎたりする奴ですよ」
強いて言うならば無線コントロール式の射撃武装付きのISや暮桜のようなシールドバリアー無効化能力などがあるISがその対象となる。これらのようなISがもし奪われるようなことがあればテロリストに要らぬ力を与えてしまうのだ。
「既に第三世代型の開発に着手したという国の噂は聞いていますから現実になる日はそう遠くはないと思います」
続いて篠ノ之束の妹の件だ。これは散々危惧している通りの結果が起こるに違いない。いや、100%起きる。
「四季先輩には大学時代に言ったと思いますが篠ノ之束は社会不適合者です。故に自分の独断と偏見によって動いているので何を仕出かすかわかったものじゃありません」
「確か妹が入学する際に各国が開発に躍起になっている世代以上のISを作り上げる可能性があるって言っていたわね。他にも何かわかったの?」
「いえ、特には何も。しかし、彼女に関わったことのある人物を俺はかねてよりマークし続けています」
その人物とは誘拐事件からの付き合いである織斑一夏だ。彼はこの場にいる魂魄妖夢の弟弟子でもある。
「・・・何故彼なの?」
「さあ、何ででしょうかね・・・と、言いたいところですが実は訳があります」
妹の箒を束は溺愛しすぎている。これは所謂、親バカと同じ状態だ。対象の子供に欲しいモノがあれば簡単に与えてしまうそんな心理が篠ノ之束は存在していると俺は考えている。
「もし仮に今も妹の箒が家族同然として幼い頃付き合っていた一夏君を好きだったとしたら、こーりん、篠ノ之束はどんな行動を取ると思う?」
「え、急に言われても・・・・・・そうだなぁ、IS学園に圧力をかけて整備科でもいいからねじ込むとか?」
「それも一つの正解だ。だが、篠ノ之束はそんな常識に則って行動をするような人物じゃない。もっと派手にやらかす女だ」
ただでさえISという非常識兵器を世に散蒔いたのだから、ここでは常識に囚われてはいけない。もっと非現実的に考えないと答えには行き着かない。
「・・・・・・まさか、ISを男が乗れるようにしてしまうとかじゃない・・・よね?」
にとりがこーりんの発言を受けて引き攣った顔で俺に問いかける。しかし、俺が頷く前に妹紅が遮り反論した。
「そんなことになったらまた世の中が狂ってしまうぞ!幾ら何でもこれ以上のパワーバランスを崩すようなことは・・・・・・!!」
あるはずがない、と言いかけたところで俺は睨みつけ黙らせる。悲しいが事実は事実だ。この運命には抗えない。
「流石に全ての男性が乗れるようにするとかしないだろう。・・・俺が言いたいのは、『織斑一夏だけがISに乗れる』ようにするということだ!!」
気に入った人間に対してはしつこいぐらい絡むのが篠ノ之束という人間だ。彼女に好かれるか関わるかすれば大抵の人間はトラブルに巻き込まれる。現に間接的に関わった者たちが不幸になっていた。
「篠ノ之束に≪常識≫を求めるな。あの女は全てが≪非常識≫によって構成されているんだよ、だから所詮気に入った人間でさえも駒としか思っていないんだ!!」
テーブルを叩きつけ怒りを露わにし灯夜は叫ぶ。それほどにまで篠ノ之束は世界を自分のおもちゃ箱としか感じていないのだ。
「・・・だったら、私達はどうればいいのですか?」
さとりが怒りを沈めるように静かな透き通った声で質問する。これに対し彼は少し落ち着いたのか口調を戻して答える。
「戦うしかありません。篠ノ之束は言論だけで手に負える相手じゃないんです。時には武力を持ってしてでも戦う必要があります。その為の力を持っているんでしょう、貴方達は」
ざっと全ての席に座ったメンバーを眺める。ここに来るまでの話が本当ならば持っているはずだ、この混沌の時代を打開する切り札を。期待した目で強く視線を合わせ答えを静かに待つ。
そして、一秒一秒が長く感じられるその中で俺は聞きたかった言葉をついにこの耳で聞いた。
『持っているとも。君のような人間が持つに相応しい、真実を求める為の≪力(チカラ)≫を』
振り向いた先にいた『彼』は大型液晶パネルの中から俺に向けて改めてそう宣言した。・・・これが俺と『彼』、『I.O.S.(イオス)』との運命の出会いであった。
『役者』は揃い、物語はここから始まる―――――。
色々端折った点もありますが、お許しください。
私はまだここでの更新を続けます。
次回予告
「『I.O.S.計画』・・・?」
「これが君の乗る・・・いや、装着するモノさ」
「・・・おー」
「よろしく頼んだわよ、二人共」
謎の人工知能らしき存在『I.O.S』、『彼』が提唱した計画は篠ノ之束や亡国機業と本格的に戦うための計画だった。灯夜に与えられた≪力≫は何を記録していくのだろうか。
そして、IS学園への介入計画も同時に動き出す。
次回、『CHAPTER07 計画提唱』お楽しみに。
説明 | ||
ストレスがマッハでしたが更新。 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
3016 | 2850 | 4 |
コメント | ||
にじファンのほうでもジャーナリスト戦記の更新を再開されたようですが、こちらも変わらず更新されるようでありがたいです! にじファン自体がいつ消滅するかわからないと危惧してますのでwwww(ぼるてっかー) | ||
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