鋼の錬金術師×テイルズオブザワールド 第六十一話
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〜オルタータ火山〜

 

もうここに来ることは無いと思っていた。

 

だが、そう思っていただけ。

 

この世界を探る途中、また来る羽目になる事は、エド自身分かっていた。

 

『あ――――……でも、そんなに熱くなくなったな…』

 

『まぁ、ほとんどクリスタルで囲まれてるからな』

 

ラザリスの浸食が進み、今や宝石の洞窟に入ったかのように、キラキラ輝く洞窟になっている。

 

だが、エドはこの輝きは好きでは無かった。

 

『しかし…気持ち悪い火山になったもんだぜ。』

 

イフリートが殺され、ルカも殺された場所

 

出来る事なら、立ち寄りたくは無かったのだが。

 

『ここまで温度の低下が著しいなら、調査には最適ですね。感謝致しましょう。』

 

『…………』

 

思えば、こいつらは何も知らないのだったな。

 

そんなこいつらの無知が、恨めしく感じた。

 

『ん?どうしたエド』

 

『いや…なんでもない。』

 

だが、その気持ちは心の奥で噛み殺す事にした。

 

 

 

 

 

 

 

奥から奥へと進むと

 

より一層、クリスタルの壁が広がっていく

 

まるで生きているかのように、心臓の鼓動が中で起こっているかのように

 

光が強くなったり、弱くなったりを繰り返す

 

『まるで生きてるみてぇだな……』

 

『世界外物質の一部ですので、そんなに不思議ではありませんけどね。』

 

『……余裕だなお前』

 

『ええ、これから調べるのですから。当然です』

 

ジェイドはそう言って、着々と前へ進んでいく

 

『そんな事を気にする必要は無い。今は前に進む事を考えろチビ』

 

『……………』

 

エドは、鋭い目つきでアッシュを睨みつけた

 

アッシュは涼しい顔でただ前へ進んでいる。

 

エドが強烈な殺意の波動をアッシュに向けていたが

 

アッシュは微塵も気付いていないようだった。

 

『何してんだお前』

 

ゲーデにツッこまれた

 

エドはブツブツ文句を呟きながら歩き続けた。

 

ジェイドは涼しい顔で歩き続け

 

アッシュも涼しい顔で歩き続け

 

ゲーデは辺りを見渡しながら歩き

 

ルークは気に入らない顔でゲーデとアッシュを睨みつき

 

エドはブツブツ文句を呟きながら歩き続ける

 

端から見れば、囚人を捉えた騎士団に見えるかもしれない。

 

だが、これで全員騎士団だ。

 

これでも一応、調査の為にオルタータ火山に足を踏み入れた。

 

『!』

 

瞬間、アッシュが敵の存在を察知し、身構えた

 

『お前らは下がってろ』

 

『俺に命令すんじゃねぇ!』

 

先ほどまでブツブツ言っていたエドは、戦闘態勢になって機械鎧の甲を刃に変えた。

 

『どけ、三秒で片づける』

 

『邪魔すんじゃねえぞ!これは俺の獲物だ!!』

 

ゲーデとルークも、負けずに身構え、刃を抜いた。

 

岩の陰に何かが居る

 

それだけが分かって、ジェイド以外の者が身構えた。

 

岩の陰を睨みつけ、そいつが出てくるのを待つ。

 

岩との睨み合いが続く。

 

『!』

 

岩陰から動いた

 

そう感じ更に身構えた。

 

そして出てきたのは、宝石を担いだネズミだった

 

『…………』

 

全員が、ただそのネズミを茫然と見ていた。

 

何だ?

 

おい何だこれは?

 

『…ふざけんなよなぁ……』

 

そう第一声を言ったのは、ルークだった。

 

先ほどまで活き込んでいた自分がかなり馬鹿らしいのだろう。恐ろしい程脱力していた

 

エドもガクリと肩を下ろし、アッシュも不機嫌に鼻を鳴らして剣を鞘に戻した。

 

ゲーデだけが、身構えを直さなかった。

 

『…………』

 

『?』

 

その様子に気づいたエドは、ゲーデを見た。

 

『おい、ゲーデ……』

 

瞬間、ネズミは急に凶暴化し、宝石が割れ、そこから謎の物体が露出してきた。

 

『!!』

 

明らかにその物体は、ネズミの体積のキャパを超えており、人間の手のような形で

 

まるで異次元から現れているかのようだった。

 

『こいつは…!?』

 

ルークは、異形な物を見る目でそれを見た。

 

徐々に現れる物体、それが大きな魔物に

 

『キュッ!!』

 

『っとぉ。』

 

なる前に、ジェイドが槍でネズミを刺殺した。

 

宝石から現れた物体は、主が無くなったと共に扉が突然閉まったかのように、

 

千切れて床に落ち、動かなくなった。

 

痙攣するように、ピクピクとは動いている。

 

その光景が不気味で、ルークは身震いをした。

 

『みなさん。油断は大敵ですよ?学校でその事は沢山習いましたよね?』

 

ジェイドが馬鹿にするような口調で全員にそう告げた。

 

全員何も言えないで居たが、ルークだけが抗議していた。

 

『だってよー!そいつ卑怯じゃね!?弱そうに見せて変な所で実力晒すなんてよぉ!!』

 

『脳のある鷹は爪を隠しますよ?分かりますか?ルーク君』

 

ジェイドは笑顔でそう答えた。

 

『分かったか?ルーク君』

 

アッシュも答えた

 

『っせーよ!つかテメェも剣を鞘に戻してんだろうがぁ!』

 

『なっ!貴様は座りこんだだろうが!』

 

『50歩100歩って言葉知ってるか?油断してたのはお互い様なんだよぉ!!』

 

『ぐっ………』

 

ルークもほとんど自虐するように言っていたが、アッシュを問い詰めるのに平然と使っていた。

 

口喧嘩でここまで優勢に来れたのは珍しいのか、ルークは優越な表情になっていた。

 

『おやおや?ルーク君にしては随分難しい言葉使いましたね。偉い偉い』

 

『君を付けるのは止めろ!ジェイド!』

 

『しかし、確かに油断していたのは皆同じです。ねぇエドワード君?』

 

ジェイドが、エドワードの名前の部分を強調して言った。

 

表情と口調から、かなり楽しんでいる事が明らかだった。

 

『うるせーっ!!とっとと行くぞ!!おるぁああ!!』

 

エドは、顔を見られんようにと先頭に走り、そして進んだ。

 

このパーティの中でも、一番子供っぽい反応だった。

 

『……あいつ逃げたな』

 

『……ああ…』

 

アッシュとゲーデは、逃げるように走るエドを見て、そう呟いた

 

 

 

 

 

『ったくよ。奥に進めば進むほど、壁が宝石に浸食してる比率が高くなってるなー。』

 

以前は壁と天井だけが宝石と化していた場所だったが

 

今、エド達が立っている場所は

 

床までもが宝石に浸食されているような場所

 

もう少しで、岩と土が無くなっていくような場所になっていたのだ。

 

以前マグマが通っていた場所は

 

凍っているかのように宝石と化し

 

不気味に呼吸をするように光が強くなったり弱くなったりする

 

ここまで来れば、エド達は、この宝石が”生きている”認識が明らかになっている。

 

『……妙に生命感が感じられる宝石ですよね。中心部にはどれ程の物体があるのでしょうか。』

 

『…』

 

エドは、そう言えば中心部を見た事があった。

 

キバ

 

まるで、獣の牙…犬歯のような形をして

 

生きているかのように不気味だった。

 

そいつが、イフリートとルカを殺した為

 

あまり思い出したく無い

 

その為、エドは会話を続ける事は無かった

 

『くだらない雑談をしている暇があるなら、この辺の調査でもしたらどうだ?』

 

『おっと。それもそうですね。ではこれの欠片を頂きましょうか。』

 

ジェイドはそう言って、宝石を槍で突き、ヒビを入れて欠片を作った。

 

欠片が地に落ちた瞬間、カタカタと揺れ、獣の悲鳴のような音が聞こえた。

 

『ん?』

 

瞬間、宝石は爆発した

 

『うぉお!?』

 

宝石の欠片はただの砂と成り、空を舞って行った。

 

『…………』

 

『力が小さい物体では、この空気に耐えきれなくて破裂してしまうらしいですね。』

 

ジェイドが冷静に分析していた。

 

エドとルークはこの現状に驚きしか見出せなかったのに

 

他の三人は、見ているものが違うかのように冷静だった。

 

『これはやはり、中心部まで歩き続ける必要がありますね。では行きましょう。』

 

表情を変えずにジェイドは更に前へと歩いた。

 

暗い顔をしていたエドに対して、いじり始めたのだろうか

 

そんな事が頭に過ったエドは、更に無性に腹が立った。

 

『………っけ!』

 

エドは少しでも思い通りに行かせないように、ヅカヅカと更に早く足を速めて歩いた。

 

少しだけジェイド達に優勢に立てた気がして、気を紛らわせた。

 

『エドワード君、危ないですよ』

 

ジェイドが呼びかけた時にはもう遅かった

 

『ん?……うぉおお!!』

 

目の前には既に、宝石に浸食されたウルフが15対程待ち構えていたからだ。

 

『ちっ、今度こそ本当の敵か!』

 

『どけ、チビ』

 

アッシュの言葉に、エドは怒りの声で反応する

 

『ああっ!?』

 

『どけと言ったのだ。怪我したいのか?』

 

アッシュがそう告げた瞬間、エドは錬金術で瞬時に床の一部を盛り上がらせ、

 

あるウルフには強烈な打撃を、

 

そしてあるウルフにはバランスを崩させた。

 

『てめぇの出る幕は無えよ!!』

 

エドはそう言って、よろめいているウルフをまとめて回し蹴りで一掃する。

 

『ふんっ!!』

 

まだ立っている、襲いかかってくるウルフには、機械鎧の刃で一閃して切りつける。

 

宝石は堅いとしても、たたき壊せない程ではない。

 

『へっ!どんなもんだ!!』

 

エドは一旦腕を引っ込め、体制を整える。

 

その間に、アッシュは剣を綺麗な形の振り方で一掃する。

 

『下品だ』

 

残りのウルフを一回の振りで半分程蹴散らし、先ほどのエドの攻撃の感想を述べた

 

『あぁん!?』

 

『力はあるが、どうにも強情と明らかな攻撃が表され、行動が読める』

 

更に、返しようの無いクレームを付けられた。

 

『エドは錬金術が使えるんだからよ、こんなパッツン野郎の言う事なんて気にすんなエド』

 

『………ちっ!!』

 

明らかに不機嫌になったエドを見て、ジェイドは微笑の呼吸をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

クリスタルに囲まれた空間

 

その奥に続く道に、明らかな異常の光が存在していた。

 

『この奥に異様なエネルギー反応を感じる』

 

ゲーデの言葉で、その奥のエネルギー集合体であるキバの存在をやや確認出来た。

 

『……つー事は、この先にあの馬鹿女が居るって事か』

 

『馬鹿女?』

 

ルークは、話が読めないような表情だった。

 

『そう言えばルークは知らないのでしたね。私もその場に居ましたので、簡単に説明します。』

 

『おお。じゃぁ簡単に頼む。』

 

『人間じゃありません。』

 

本当に簡単だった。

 

『なるほどな。じゃぁ見かけたらギッタギタにしてやっても良いって事か』

 

『これ程単純な人間も始めて見たな』

 

ゲーデが関心するような目でルークを見つめた。

 

その奥で、呆れて見下す表情でアッシュは睨んだ

 

『雑談している暇があるなら帰れ。そんな奴らは要らん』

 

『……お前…もうさ、ツンツンしすぎて浮いてんぞ』

 

エドも、呆れるような答えた。

 

『構わん。俺はお前らのような低レベルには合わせたくないからな』

 

『アッシュ。それでは弱い人間と同じですよ。』

 

ジェイドの言葉に、アッシュは眉間に皺を寄せた

 

『群れで行動せず一匹オオカミで行動する者は、いずれ滅びの道を進みます。』

 

ジェイドは、表情一つ変えずにアッシュに問いかけた。

 

アッシュは鼻を鳴らし、先頭を歩いた。

 

『下らん』

 

『でしょうね。』

 

ジェイドはそう言って、笑顔で対応した。

 

『何だったんだ…?』

 

エドが、訳が分からなそうにジェイドを見つめた。

 

とにかく、今は奥だ

 

奥にあるキバにまでたどり着く必要がある。

 

採取して、それを調べる任務

 

『行くぞ』

 

アッシュは、既に奥の部屋へと移動した。

 

 

 

 

 

 

〜オルタータ火山 精霊の間〜

 

久しぶりに見るキバは、更に成長していた。

 

まるで心臓のように脈を打ち、リズム的に定期的にキバの奥から紫に近い光が発光され

 

イフリートの死体があった場所は、山となり地面と一体化していた。

 

微妙に、顔や手のような名残がある。

 

『予想以上に大きいですね。研究しがいがありますよ。』

 

『うぇぇ…気分悪い匂いがする…』

 

エドは一度来たからか、そこまでこの空間の匂いには敏感では無い。

 

良く見ればアッシュも顰めた顔をしており、ジェイドはガスマスクを用意していた。

 

『あっ!ジェイドてめぇー!!何一人で回避しようとしてやがんだ!』

 

『ははは。残念ですがこれは一つしかありませんよ。』

 

『ずりぃーぞコラァー!よこせぇえ!!』

 

鬼ごっこが始まった。

 

『はは。そうは言いますが、こんな物くらいエドワード君に作って貰ったらどうですか?』

 

『え?』

 

『材料さえあれば、エドワード君は作れるのですよね?』

 

『まっ待て待て待て待て!!簡単に言うけど、こんな空間の中で、どう作れって言うんだよ!!』

 

正直に言えば、エドも不可能に近かった。

 

この空間は土がほとんど無く、何の物質か分からないクリスタルが敷き詰められているだけだからだ。

 

直感で変形させる事はかろうじて出来る物の、ガスマスク程の精密な物は作れそうに無かった。

 

『このクリスタルで作れば良いじゃないですか』

 

作れそうに無いと言っているのに、この男はっ……

 

『ふざけるなよお前!この未知な物質で物作ってみろ!あん時の暁の従者みたいに、ルークが変形して魔物になるかもしれねぇだろうが!』

 

『良いじゃないですか。強くなれるかもしれませんよ?』

 

『!?』

 

こいつ……本気で言っているのだろうか

 

エドは、動揺とイラつきが混じり合い、よく分からなくなった。

 

『黙れ貴様ら!!』

 

アッシュの声が、部屋に響いた。

 

『ガスマスク等、作る必要無い。とっとと採取して帰るぞ』

 

アッシュの言葉で、ようやくジェイドのイジリから解放されたエドは、

 

『お…おう』と返事をした。

 

アッシュは、剣を引き抜きキバに向けた。

 

そして、思い切り突き刺そうとした瞬間

 

ガキンッ!!という音がした

 

『ん?』

 

キバには傷一つ付いていない。

 

更に驚く事に、剣の方にヒビが入っているのだ。

 

『………なっ』

 

その驚くべき強度に、アッシュは脱帽した。

 

剣のヒビを、少しの間じっと眺めていると、ジェイドがエドの方に振り向いた。

 

『ではエドワード君。お願い致します。』

 

その言葉を聞いて、エドはしばらく経った後、ニヤけた。

 

『おやおやぁ?ほーうほう。残念でしたなぁアッシュ君?君では役不足みたいだよ。ここは俺に任しときなさい。ふっふっふ。』

 

嫌みの混じった声でアッシュにそう伝えた。

 

奥からルークが『良いぞ!もっと言ってやれ!』と囃し立てて居た。

 

ちなみにアッシュは、エドの方には絶対に振り向かなかった。

 

『じゃ、いっちょやるぜぇ!!』

 

エドはそう言って、手を合わせて錬金術を発動させた。

 

錬金術はキバに向かい発光して、一部が綺麗に取り出せるようになった。

 

詳しく言えば、キバに穴が空き、その中にキバで綺麗に作られた球体が出来上がっていた。

 

傷つける事無く、キバ本体にも傷が残らないように

 

『こんなもんで良いか?』

 

エドは、自信たっぷりのドヤ顔で球体をジェイドに見せつけた。

 

『ええ。お見事です』

 

『ま、傷つけて取り出そうとする下品な奴とは違うんだよ!下品な奴とは!』

 

『………………』

 

アッシュは、気にしていない顔をして、奥で腕を組みながら目を瞑り、壁を背にして立っていた。

 

逆に反応していたのは、ゲーデだった。

 

『いや、逆に傷付けてた方が良かったかもな』

 

『は?何で?』

 

『誰が壊せるんだよ、それ』

 

ゲーデの言葉で、エドは固まった。

 

そう言えば、これは錬金術でキバを球体にしただけの者で、

 

欠片にしたり壊したりは無しであり、もう一つのキバとなっている。

 

それを聞けば素晴らしい物体だが、欠点が合った。

 

アッシュの剣でも壊せなかったのだ。

 

解剖が、出来ない

 

『……………』

 

『まぁ大丈夫でしょう。研究で様々な手を使って、このキバの破壊方法を打策させます。あ、エドワード君の給料は研究費で差し引いておきますね。』

 

『てめぇ!!取り出したのは俺だぞ!!』

 

『ふん』

 

奥で、アッシュが鼻を鳴らした。

 

その態度が、エドに取ってはいちいちイラつく行動だった。

 

『……………』

 

しばらく睨みつけた後、再びジェイドの方へと向いた。

 

『おらよ』

 

手を上に向け、そのまま上へと投げるような投げ方で、ジェイドに渡した。

 

ジェイドは、何もおかしな事は無かった事を見るようにキバの球体を受け取った。

 

『おっと』

 

そのような言葉を発して、懐に入れた

 

『さて、これで任務終了だ。とっとと騎士団に戻っぞ』

 

若干不貞腐れたようにエドはそう言って、歩き始めた

 

『……皮肉だが、アッシュの言うとおり、本当に5人も要らなかったな』

 

『だから言ったんだ。俺は最初から』

 

ルークの言葉で、アッシュは呆れたように息を吐いた。

 

『ジェイド、一体何を思っていたんだ?』

 

『いえ?私は5人来て良かったと思っていますよ。』

 

ジェイドは、何のためらいも無くそう言った。

 

『エドワード君は、キバの採取に貢献しましたし、アッシュとルークも護衛役、私は、いざと言う時の指揮と詳細調査』

 

『こんな奴と俺と一緒にするな』

 

アッシュは、首で指すようにジェイドに言った。

 

『んだとぉ!』

 

『ちょっと待てよ、じゃぁゲーデは何の役割だ?』

 

エドはそう問いかけた。

 

言われてみれば、ゲーデは何故ここに派遣をされて来たのだろうか。

 

調査の為とは言え、ここまでの護衛は蛇足のような気がした。

 

『……………』

 

だが、ゲーデは何か分かっているかのように腕を組み、壁に背をもたれた。

 

『んー…まぁ、ゲーデも大変な重役ですので。』

 

『重役?こんな奴が?』

 

ルークが問いかけた。

 

『ええ。ゲーデはディセンダ―という事を知っては居ますよね?まぁ、エドワード君が言うには違う世界みたいですが』

 

『こんな禍々しい光を放っている者がディセンダ―とは、初めて聞いた時は幼き頃から聞かされた言い伝えに笑ったよ。』

 

アッシュが皮肉らしく言った。

 

『その通り。で、ラザリスはもう一つの世界…で、ゲーデはラザリスと面識があるのでしたよね?』

 

『ん?ああ。そこまで強くなかった気がするけどな』

 

『強くなかろうがどうでも良いですが、それはむしろ好都合ですのでよろしくお願いします。』

 

ジェイドのよろしくお願いしますの言葉で、全員が大体予感が出来た。

 

全員がもう一度キバの方に振り返ったが

 

『…………』

 

当然のように、何も無かった

 

『……ま、ラザリスが常にここに居るとも考えられねぇしな。最後に会ったのは天空の城?だっけか。そんな所だもんなぁ。』

 

『まぁな。一応世界なんだがなぁ』

 

『ああそうそ……ん?』

 

地面が、微妙に歪んでいる気がした。

 

妙な歪みとエネルギーの流れを感じ、

 

『!?』

 

エドは謎の悪寒がした

 

『離れろ!!』

 

エドが叫ぶと、ジェイドとゲーデ以外が反応し、身を引くように退がり、戦闘態勢に入った。

 

エドも錬金術で機械鎧の甲を刃に変え、その地から離れる。

 

『こいつ…』

 

地面が次第に歪み

 

形を変えて盛り上がり

 

それは段々と人の形を成してきて

 

得体の知れない生命が母親から生まれるように

 

エド達の前へと現れた。

 

『………』

 

少女のような風貌

 

クリスタルを纏ったような格好

 

得体の知れない雰囲気

 

『久しぶりだな……ヴェラトローパ以来か?』

 

『…………』

 

ラザリスは、ただ俯いてこちらを見ようとしない。

 

ただならぬ殺意は見えていても、表情はよく分からなかった。

 

『何だ?』

 

『………お前は、どうして……』

 

『?』

 

ラザリスは、ゲーデの方へと向いた。

 

しばらくゲーデを見てフラフラと体を左右に動かしたと思ったら、

 

目を急に見開かせて、手をゲーデへと指した。

 

『そこに居る!!』

 

瞬間、地面が盛り上がり、上へと上がった

 

『!』

 

クリスタルが、大きく突き刺そうとするように襲いかかって来たのだ。

 

『うぉあ!』

 

それは、エドやルークにまで被害が出ようとしていた。

 

だが、ゲーデは錬金術で辺りに壁を作り、その攻撃から身体を守っていた。

 

『んだぁ?危ねぇな』

 

『……君には失望したよ。ディセンダ―…』

 

『あ?』

 

ゲーデは、ラザリスが言った事に少し不満があるようだった。

 

『君も…僕と同じだと思っていたのに…この世界を憎んでいると思っていたのに…』

 

『世界を憎んでいる?ああその通りだ』

 

ゲーデはそう言いながら、そこから一歩も動こうとしなかった。

 

『…なら何故、人間共に付いている?』

 

『目的が同じだから』

 

『目的が…?この世界の人間がこの世界を滅ぼそうとするのか!?』

 

再びラザリスは、攻撃を開始した。

 

地面が盛り上がり、それは生物のように意思を持っていた。

 

それらはゲーデに襲いかかろうとしていた。

 

だが

 

『ふん』

 

アッシュがそれらを全て一掃してしまった。

 

『………人間に助けられるなんて、君も落ちたものだね』

 

『助ける?はっ。こいつらは俺の事仲間だと思っちゃ居ねぇだろうよ。』

 

ゲーデは頭を掻いて興味の無さそうにラザリスを見つめた

 

『でも実際、君は助けられた』

 

『なら、全ての攻撃を俺に向けて撃ってみろ。こいつらには傷一つ付けずにな』

 

『おいゲーデ、何を…』

 

エドがそう言おうとした瞬間、辺りが一斉に盛り上がり、敵が出現した。

 

『!』

 

多い

 

ほとんど全員がそう思った。

 

『分かったよ。”僕は”君以外の奴には攻撃しないでおくよ。だけど』

 

クリスタルで包まれた巨大な触手のような化物は、全てがゲーデ以外の者に向けられていた

 

『ちぃい!やっぱ俺達もかよ!!』

 

エドは戦闘態勢に入って、触手に向かって走った。

 

『うるぁああああああああああ!!!』

 

刃で切りつければ、かたい部分が存在し、一閃する事が難しい。

 

だが、少しばかり反応させる事は可能だ。

 

そこら辺の壁と比べれは柔らかい方なので、決して切れないという事では無い。

 

『せぇぁああ!!』

 

刃が触手に食い込んだ瞬間、エドは手を合わせて錬金術を発動した。

 

分解で構築を止めた所で、触手は大砲に撃たれたような大穴が空き、千切れた。

 

『ナイスエド!』

 

『ルーク!手を止めるな!!』

 

ルークがよそ見して触手に刺されそうになった所、

 

アッシュはその触手に剣で食い込みを入れた。

 

『あ…』

 

『ふん!!』

 

その後、力任せで思い切り一閃して切り倒した。

 

だが、これは先っぽの方である為、完全に殺しては居ないだろう。

 

まだ、オレンジ色の液体をまき散らしながら触手は暴れていた。

 

『よそ見をするな。馬鹿が』

 

『……悪かった。サンキュ!!』

 

再び、ルークは戦闘態勢に入り、剣を握って触手に向かった。

 

『やれやれ。私も本気をださなければなりませんか。』

 

ジェイドは眼鏡を直して槍を掴んだ。

 

『すみませんが…実験体に傷を付けようものなら、容赦はしませんよ?』

 

そう言葉を発した時にも、触手は襲いかかってくる。

 

そして、ジェイドは呪文を唱え、魔術を発動した

 

『グランドラッシャー!』

 

地面から巨大な岩の槍がいくつも発射され、触手は大きなダメージを負う。

 

それも一つや二つでは無い。十は超える程の触手がどんどんと千切れていく

 

『へぇー…すげぇなあのクソ野郎…』

 

エドも、これには感心していた。

 

 

 

 

 

『僕の出した触手は、僕の世界では何本もこの世界で言う木の様にいくつも生えてるんだ。君の仲間の人間は、どこまで耐えられるかな?』

 

『さぁな。もしかしたら死んでしまうかもしれねぇ』

 

そう言って、ゲーデは興味無さそうに明後日の方向を見ていた。

 

『……なぁ、もしかして本当に仲間じゃ無いのか?』

 

ラザリスが、その態度にはいい加減疑問を持たざるを得なかった。

 

『ん?まぁ敵でも無くなったけどな』

 

『………どうして…』

 

ラザリスがそう答えると、ゲーデはただ一言言った。

 

『目的が、今のこいつらと同じだからだ』

 

ゲーデの言葉に、ラザリスを眉間に皺を寄せた。

 

『………同じ…?』

 

『そうだ。さっきも言った様に、こいつらも世界の崩壊を望んでいる』

 

『…どう言う事だい?以前会った時は、こいつらは間違いなく世界の崩壊を望んでいなかった。』

 

『………お前、この世界の近くにずっと居ながら、本当に知らないんだな』

 

ゲーデはそう言って、ラザリスの元へと一歩ずつ歩いて近づいた。

 

『……どういうつもりだ?』

 

『さぁな。お前が敵かどうか、ちょっと興味を持っただけだ』

 

『敵じゃないかな?少なくとも僕は、人間は大嫌いだ』

 

『俺も好きじゃねぇな』

 

一歩一歩、ラザリスの元へと近寄る

 

『だが、目的が同じなら話は別だ。とことん利用してやるまでだ』

 

『……君はそれで満足なのかい?』

 

『ああ。それにこいつらは、俺が満足できる物が出来ると言っている。それが結構楽しみだぜ』

 

『だけど、奴らは人間だ。欲深い、醜い、世界を破滅へと導いて行るのに、世界を救うなんて世迷言を言う悪魔のような奴らだ!』

 

『………そんな奴より、もっと酷いのが居るんだけどなぁ。』

 

ゲーデは、段々と一歩ずつちょっとずつラザリスに近寄る。

 

ラザリスが発動している魔術を受けながら、涼しい顔で

 

『ほう、それは誰だい?』

 

 

 

 

 

 

『畜生!いくら斬っても斬ってもキリが無え!!』

 

ルークが剣を思い切り斬りつけ、触手の攻撃から避けようと動き回っていても

 

着実に少しずつ数を減らしているはずなのに

 

いくつ斬っても、減っている気がしない。

 

『ルーク!危ねぇ!!』

 

エドは、そう叫びながら錬金術を発動させた。

 

『え?おわぁ!!』

 

錬金術は、ルークの足場を盛り上がらせ、バランスを崩した

 

『イテっ!てめぇ何しやが…』

 

『っ!』

 

エドは、錬金術を行っている最中に、触手に身体を巻きつけられた

 

『エドォー!』

 

だが、手が自由に動かせていたので、エドは手を合わせ、錬金術で触手を分解させた。

 

長さを失った触手は、アッサリとエドの身体を離した。

 

『ぐっ!』

 

思い切り受け身を取ったエドは、再び戦闘態勢に入る。

 

『ルーク!よそ見をするな!』

 

『分かってんよ!!』

 

エドの言葉に、再びルークは正面を向いて、触手を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

『神様だ』

 

『……神様だと?』

 

『ああ。ここの神様は酷いぜ?人間殺して星晶を作るんだからよぉ。』

 

星晶

 

その言葉を聞いて、ラザリスは顔をしかめた

 

『星晶……僕が一番嫌いな言葉だ…』

 

『そうかそうか。それはご愁傷様だったなぁ。じゃぁよ…』

 

ゲーデは、いつの間にかラザリスの目の前に立っていた。

 

ここで刺せと言われたら、思い切り刺せる距離

 

頭を撫でろと言われたら、撫でられる距離だった。

 

『星晶、これからぶっ壊さねえ?思いっきり』

 

『……そこに人間は来るのか』

 

『だろうな。今のこの人間、それを目的にしてる』

 

『……じゃぁ、嫌だ』

 

ラザリスがそう返答すると、ゲーデは鼻を鳴らした。

 

『お前、人間みてぇだな』

 

『………っ!!!』

 

ラザリスは、その言葉を聞いて逆上し、手をクリスタルの剣に変形させ

 

『っ』

 

ゲーデの腹に思い切り突き刺した。

 

『もう一度そんな事を言ってみろ、今度は本当に殺すぞ!』

 

『人間みてぇだ』

 

ゲーデがもう一度言うと、剣は思い切り上に上げられ、ゲーデの上半身は真っ二つになった。

 

 

 

 

 

 

 

『ハァ…ハァ……ッ…くそっ!!』

 

アッシュは、見事に疲れているように剣を握りしめながら顔をしかめていた。

 

『いくら斬ってもゾロゾロと……鬱陶しい』

 

そう呟いた瞬間、触手はアッシュに襲いかかった

 

『甘い!』

 

アッシュは再び剣を触手にめり込ませ、一閃しようとする

 

だが

 

『っ!!』

 

もう一本の触手がアッシュの右手を貫通し、剣が弾き飛ばされた。

 

『がぁっ……!!』

 

衝撃で吹っ飛ばされ、何度も地面に叩きつけられながら吹っ飛んだ。

 

『ぐっ…こ…この野郎…』

 

触手は容赦なくアッシュを狙い、襲いかかろうとした。

 

このままでは死ぬ――――

 

そう感じた瞬間、小さな人影が目の前に現れた。

 

『!』

 

それは、エドワードが触手を機械よりの刃を用いて殴り、貫通させていた。

 

更に手を合わせ錬金術を行い、触手を分解させて消えさせていた。

 

更にもう一つの触手には

 

『うらぁ!!』

 

回し蹴りを行い、触手を一旦飛ばした後

 

手を合わせ、錬金術を発動し、触手を分解させた。

 

『……っし!一丁上がり!』

 

エドはそう言って、飛ばされた剣の方へ向かい、拾った。

 

『おら、』

 

剣をアッシュに差し出すと、不敵の笑みでからかうように言った。

 

『それとも、もうここで見学かぁ?』

 

その言葉を耳に入れたアッシュは、険しい表情になって、無理やりのようにエドから剣をはぎ取った。

 

『ふざけるな。まだ左手がある』

 

『あっそ、あんま無理すんなよ』

 

『ふん……貴様も、思ったより無理をしている』

 

そう言って、両氏とも戦闘態勢に入る。

 

『足手まといになんなよ。片手』

 

『貴様も片方手が無いだろうが。』

 

アッシュにそう言われ、少しイラついた笑みを浮かべながら、触手に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

『っ!?』

 

剣で真っ二つになったと思ったら、ゲーデの身体は再生していた。

 

顔も、次第に繋ぎあわされるように下から徐々に繋がっていく。

 

『……まぁ、俺はもう人間らしくもなれねぇんだけどな』

 

『……どう言う事…だ?』

 

ラザリスが、疑問の目でゲーデを睨みつける。

 

『俺の身体の中には、大量の人間の命が入ってる』

 

『大量の…人間の命…?』

 

『ああ。ウレズン帝国の奴ら、アルケ村の奴ら、後…忘れちまったが、国二つ分の命は入っている』

 

ラザリスは、信じられない物を見る目でゲーデを見た。

 

『………お前のような、人間の形の奴にそんな事は信じられない。』

 

『だろうな。まぁ…お前も厳密に言えば人間じゃぁ無いんだけど』

 

『厳密で無くても、人間じゃない!』

 

ラザリスは、再び逆行した。

 

『俺は、人間は好きじゃないけど、嫌いでも無い。』

 

『……?どう言う事だ』

 

『…お前は、本当は人間をどう思ってるんだ?』

 

『嫌いだ』

 

即答で答えた。

 

『そうか。だが、魔物よりもお前の方が遥かに人間らしいぞ』

 

『……っ!!それほど屈辱的な言葉は無い!』

 

『聞け、確かに人間ほど欲深い奴は居ないかもしれねぇ。怨み憎みを持つ奴は居ないかもしれねぇ。だが、同時に人間程仲間思いな奴も居ねぇんだ』

 

ゲーデがそう言い捨てると、ラザリスはしばし黙り込み

 

そして、呆れるような顔でゲーデを見た。

 

『は?だから何だと言うのさ。それでも人間は世界を壊し、欲深いが為に自然の資源を奪っているんじゃないか。』

 

『そうだろうな。だが、それは効率の為だ。生きる為だ。そして仲間の為だ。』

 

『…君は、人間の味方をしているのかい?』

 

『いや、さっきも言ったように、仲間でも敵でも無い。それに俺が言っている事は、人間の事だけじゃない』

 

ゲーデは、しばらく間を置いてから、答えた

 

『お前の事も、言ってるんだ』

 

 

 

 

 

 

 

『ジェイド!』

 

ルークが叫んで問いかけると、ジェイドは振り返らずに呪文を唱え続けている。

 

『危ない!』

 

だが、間に合わない。

 

ルークは、焦る気持ちが増しながらもジェイドの方へと駆け寄った。

 

だが、発光現象が突如発生した。

 

『!』

 

光は、ジェイドに向けて攻撃してくる触手に向かって伸び、触手は光に触れた瞬間

 

爆発した。

 

『インディグネイション!!』

 

巨大な雷と共に、触手は一斉に感電し、一瞬で黒こげとなった。

 

『いやぁ、助かりましたよエドワード君。』

 

『へっ、これで研究費はチャラだな。』

 

『それとこれとは別です。』

 

『もう助けねぇからなぁ!!!』

 

エドは、ジェイドの言葉に文句を垂れた。

 

 

 

 

 

 

 

『っ……』

 

『お前も、お前の世界の為にこの世界を潰そうとしているんだろう?それは人間のやってる事とほとんど同じじゃねぇのか?』

 

『……………』

 

ラザリスは、返す言葉が無いようだ。

 

思えばそうだ。ラザリスはこの世界を自分の世界にしようとしている。

 

それは、性質の悪い人間とほとんど同じだ

 

醜い人間どもと、いつの間にか似たようになっていたのだろうか。

 

『僕……僕は……』

 

ただ、怖かっただけだった。

 

自分が消えてしまうのが、このまま何もせずに死んでしまう事が

 

産まれずに、この世界に取りこまれたままになる事が

 

『今、この世界は俺によって滅ぼされる事になる』

 

ゲーデは、ラザリスに向けて手を差し伸べた。

 

それは、握手を求めているのか、それとも

 

『滅ぼされた後、その後は好きにすれば良い。世界を征服しようが、人間どもを滅ぼそうが。どうでもな』

 

『………僕は、本当にそれで良いのか?』

 

『何だ?死にたいのか?』

 

『…………』

 

その事について、ラザリスは返答しなかった。

 

死にたいはずが無い。生きていたい

 

この世界を取りこんででも、僕は生きていたい。

 

だけど、それは人間と同じじゃないのか?

 

あの憎い、醜い人間と、ほとんど…

 

僕は、何をしたいんだ?

 

こんな事をして、僕は何を…

 

僕…僕は…僕……

 

『インディグネイション!!』

 

『!!』

 

ジェイドの魔術で、巨大な雷が落とされた。

 

同時に、洞窟が揺れ、上から瓦礫が落ちようとしてくる。

 

『危ねぇ!!』

 

ゲーデは、錬金術を発動させて、壁を作り出し、その壁から天井も作りだした。

 

『!』

 

衝撃で、後ろに倒れてしまった

 

ラザリスも、包むように

 

『っの野郎。こっちにまで被害出しやがって……本気で殺してやろうか?』

 

強度の強いその壁は、瓦礫を貫通させる事は無かった。

 

どんな瓦礫でも、ゲーデを、ラザリスを守ってくれた。

 

そして次第に、揺れは収まり、瓦礫は降ってこなくなった。

 

『おら』

 

瓦礫の音がしなくなれば、ゲーデはラザリスに手を差し伸べた。

 

『…………え?』

 

『手ぇくらい、貸してやる』

 

ゲーデがそう、ラザリスに言うと

 

ラザリスは、しばらくゲーデを見つめた後、

 

少しだけ顔を赤くして、ゲーデの手を取った。

 

『………僕を、助けたつもりか?』

 

『さぁな。』

 

ゲーデは、気にしないようにラザリスを引っ張った。

 

ラザリスが立ち上がれば、手を離した。

 

『お前が、死にたいかどうかまだ聞いてないだけだ』

 

ゲーデがそう答えると、ラザリスは再び黙り込んだ。

 

『………僕は…』

 

そしてしばらくし、ラザリスは口を開いた。

 

『……………死にたくない…』

 

『そうか。じゃぁ俺の仲間になれ』

 

ゲーデは、何の躊躇いも無くそう言った。

 

『………』

 

『世界を滅ぼすんだろ?それとも人間殺すか?』

 

『……………』

 

ラザリスは、俯いてた。

 

顔が暗くなっている上に、ゲーデの方を見ようとしていない。

 

その様子を見て、ゲーデは少しだけ諦めていた。

 

『………僕は、人間が嫌いだ。だが、それ以上に閉じ込めたこの世界が嫌いだ。』

 

ラザリスは、ゲーデの顔を見ないようしながら手を差し出した。

 

『にっ人間の仲間になるのは嫌…だけど、君の仲間になら…なってあげるよ…。』

 

『?』

 

これは、了承されているのか良く分からなかった。

 

仲間になってやる。と言ってる割にはゲーデの顔をみようとしなかったからだろう。

 

一体、こいつが何をやっているのか理解不能だった。

 

『何で俺の方を見ないんだよ』

 

『……別に良いじゃないか…』

 

やっぱり理解不能だ。

 

ゲーデは首を傾げながら、ラザリスの手を取った。

 

『…………!』

 

ますます、ゲーデの顔を見ていないにも関わらず、今にも怒りそうで顔がみるみる赤くなっている。

 

仲間になりたいのか、今にも俺を殺そうとしているのか、どっちなんだ

 

疑問に思いながらも、ゲーデは握手を済ませ、手を離した。

 

 

 

 

 

 

『!?』

 

エドは、今見ている光景が少し信じられなかった。

 

『触手が……消えている…!?』

 

まだあんなに多く残っていた触手が、みるみると昇華されるように消えて無くなっているのだ。

 

『良かった。資料は無事ですよ皆さん。』

 

『ああ。これで任務は終了だな。』

 

二人は、相変わらずエドとルークを労うわけも無く、任務優先だった。

 

色々守ってやったり、協力してやったりしていたのは俺達なのに

 

『それにしても……ゲーデの奴、ラザリスを倒したのか?』

 

『へぇ…やっぱゲーデの方が強いのか?』

 

この状況は、やっぱりゲーデがラザリスを倒したと考えても良いのだろうか。

 

そう考えていたが、一つ疑問点があった。

 

『………何で、キバが残ってるんだ?』

 

『そう言えば、消えてませんね。キバ』

 

この巨大なキバの存在が、消えていないのに疑問を持った。

 

一番消えていなければ困る物なのに、これが消えていないとか

 

ラザリスを倒したとなれば、色々残念な結果のような気がする。

 

『おーい!ゲーデ!終わったのかー!?』

 

エドが、ゲーデが作り出した壁の向こうに居るゲーデに声をかけると、壁はしんとしている。

 

音は一つもなっていない。

 

『………どうなってんだ?』

 

エドは、ゲーデが作り出した壁に近づくと、壁は急に崩れだした。

 

『おっ!?』

 

エドは下がると、壁は更に次第に崩れてきている。

 

いよいよ向こうが見えようとした時、

 

ゲーデは壁の横から歩いて現れた。

 

『終わったぜ。』

 

ただ、その一言を言って

 

『いや、終わったのは分かったけれど、お前、ラザリスは……』

 

エドが、質問を言い終える前に答えが分かった。

 

ラザリスは、崩れた壁の向こうにちゃんと生きて存在していた。

 

『……おい、ディセンダ―貴様戦っていたのでは無いのか?』

 

『戦っていた』

 

『全然無傷のような気がするが?』

 

アッシュが、文句を言うようにゲーデに問いかける。

 

『………エド』

 

ゲーデは、エドに向けて睨みつけた。

 

『……お前、俺を騎士団に入れて後悔しているか?』

 

『知らねぇよ。その文句はジェイド言ってくれ』

 

エドはそう言って、ジェイドに親指を向けた。

 

『強い者が入隊してくれた事には、結構寛大ですよ。私は』

 

『そうか。じゃぁ、こいつも騎士団に入れておいてくれ』

 

『おおそうか……っておおい!?』

 

一番驚いていたのはルークだった。

 

『良いですよ?実力は分かってますし。』

 

ジェイドの軽い言葉に、アッシュは呆れたように言葉を吐いた。

 

『…ジェイド、俺達は特別騎士だ。そんな簡単に通して良いとでも…』

 

『仲間に入れておいて、損は無いでしょう?』

 

ジェイドは、笑顔でそう答えた。

 

『………何を誤解している?』

 

ラザリスは、口を開いた。

 

腕を組んで、エド達を見下すような視線で見つめている。

 

『僕は、君たち人間の仲間になるつもりな無いよ。』

 

『ふーん。じゃ、どうすんだよ』

 

エドは、少し分かり切っているような顔で答えた。

 

『僕は、このディセンダ―の仲間になる。君たち人間は、僕にとっては敵だからね。だけど今は殺さないよ。』

 

ラザリスは、邪悪に微笑みながらエド達に言った。

 

『君たち人間を絶滅させるのは、世界を滅ぼした後だ。全てが終わった後、君たちは覚悟した方が良い。』

 

『…………』

 

『全てが終わった後、次は僕とディセンダ―が君たちを殺してあげるから!楽しみに待っていなよ!!』

 

ラザリスがそう言い終えた後、ゲーデは全員を置いて行くように歩き出した。

 

『じゃぁ、今は城に戻るとしようぜ。』

 

『………ふん』

 

ゲーデが歩き出そうとすると共に、ラザリスは続くようにゲーデに近づくように歩き出した。

 

それを見ながら、三人は付いて行くように歩き出した。

 

兎にも角にも、これで任務は終了したのだ。

 

全ての問題が掻き消される事が起きる日まで、恐らくそう遠くないだろう。

 

『…………』

 

その後ろで、ルークが不満そうに頭を掻いた。

 

『……あーあー!なんで俺んとこのギルドは、最近こんな物騒な奴らが入ってくるんだ!』

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その3
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