魔法戦記リリカルなのは聖伝 〜SDガンダム・マイソロジー〜 002ステージ −始まりの月−
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時也 SIDE

 

海鳴市に引っ越してきた初日、オレは引っ越してきたばかりの土地の事を知る為に散歩している。時音姉さんの好意で自分の荷物の整理が終わったから、散歩してきても良いと言われた。姉さんの監視は出来ないけど…姉さんの事は父さん達に聞けば大丈夫だろう。

 

何時までこんな事を続けていれば良いんだろうか…? オレにとって姉は以前も今も大切な家族だ。ここなら、失った両親も生きている。…聖獣(マイソロジー)の事や“彼女”の事、スバルちゃんの事を全部忘れてしまえば楽になれる。もう、姉さんを疑わずに済む。

 

龍也達には悪いが管理局も関係ない、マイシスも関係ない…。そう開き直って全て忘れてしまおうとも考えたことも有る。…だけど…“エイロディア”…奴の存在だけは許す訳にはいかないんだ。管理局と戦う事を止める訳にはいかないんだ…。

 

ハーディアを…エイロディアを…聖獣達を復活させてしまったのは、前回のオレの責任なのだから…。管理局と戦うのは、ハーディアのパーツと共にオレに託された願いなのだから…。

 

…ついでに逆恨みと分かってはいるが…託された“彼女”の願いを穢したクロノ・ハラウオンも絶対に許したくは無い。…願いを汚した奴はやり直される前に死んでいる。そして、今のクロノと前回のクロノと重ねてしまうのも失礼とは………一秒ほど思ったが、早々にまあ良いかと切り捨てている。

 

そして、こうして、龍也達がPT事件に巻き込まれた海鳴に引っ越した事でオレも厄介事に巻き込まれる事は間違いないだろう。ウイングゼロとクロスボーン…ここを中心にマイシスの幹部の二人も動き出しているのだから…。

 

ハーディアという様々な厄介事を引き寄せる餌はオレの中に有るのだから…。厄介事は向こうから来てくれる事だろう。

 

そう考えながらオレは空を見上げる。二十歳位の桃色のポニーテールをした美しい女性がいた。

 

現に今も厄介事が一つ引っ掛かってくれたな…。他の人の気配もしないし、隔離する為の結界も張ってくれているんだろう。

 

まったく…管理局の狗の狗が…お前らとは死んでも仲良くしたくないとつくづく思う。本当にこいつ等は管理局に居なくても余計な事に巻き込んでくれるな。将来の狗共…悪魔と死神と仲良くしてるあの二人の気持ちが理解できない。

 

だろう…

 

「すまない。心苦しいが。我が主の為、悪いがその魔力、貰っていくぞ。」

 

この、似非人…狗の狗共の将、シグナム!!! 

 

「…どちらかと言えば、狸かあの女は。」

 

思わず本音が吐き捨てるように出てしまった。

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 

 

「…どちらかと言えば、狸かあの女は。っと。」

 

いつの間にか迫ってきた女の剣をバックステップで交わす。

 

(…確か、狸の狗は守護騎士とか言う…魔力を奪う…蒐集だったか? そんな機能がある魔道書…『夜天の魔道書』とか言ったか…? それのデータ生命体。…確か、それが関係している事件だったな、あの狸が管理局に入った切欠は。まったく、ジュエルシードの事件が有ったばかりだって言うのに、一年過ぎない間に一体、何件事件が起こるんだ、ここは? 何かそう言う物を引き寄せる要因でも有るのか?)

 

「ほお、我が太刀を交わすとは。」

 

(…あの狸が…。前回といい、今といいオレに恨みでもあるのか!? チッ! どうする、戦わなかったら、最悪ハーディアが奪われる…戦えばオレも二人の様に管理局に目を付けられる可能性もある。大体、この女の相手は龍也の担当だろうが!?)

 

女の言葉を耳に入れず攻撃を避けながら時也は自分の取るべき選択肢を上げるが、どちらも彼にとっての最善とは程遠い。最悪と最悪の二者択一。

 

「大人しくしてくれないか? あまり傷つけたくない。」

 

軽く溜息を付き、自分の取れる行動の結果に存在する不利益を考え、まだマシと言える選択肢を選ぶ。

 

…ハーディアを奪われた時の不利益と、管理局に見つかった場合の不利益を考える。前者は奪い返す手間が掛かり過ぎるし、マイシスの動きに対応できなくなる。…後者は精々KY筆頭の局員共を叩き潰す程度…。最悪でも龍也と適当に手を抜いた戦闘の真似事をする程度だ。マイシス時代の様に洗脳されている訳でも無いので本気の潰し合いにはならないだろう。

 

(よし、考えるまでも無い。)

 

そう判断すると避けるのを止め、

 

「観念してくれたか。」

 

安心した様に見当違いの事を言う女を一瞥しながら、時也は己の中の始まりの英雄の力を借りる為の言霊を告げる。

 

 

「ユニオン!」

 

 

叫び声と共に時也の肩に装飾の無い白い肩当が装着され、同時に腕を覆う装甲が装着される。白い装甲が胸部、足と覆っていく。二本のブレードアンテナが額の前に浮かぶと、時也の装甲が包んでいない場所を装甲が覆っていく。

 

全身が装甲に覆われると、白い色を残しながら青、赤、黄の三色の色彩を得、最後に十字の星が刻まれた盾が現れ、それを背中に背負い、右肩に赤いペガサスを思わせるマークが表れると、時也はその姿をMS『ガンダム』へと変えた。

 

 

 

「な!? その姿は? それに…その魔力は…。」(姿も魔力も、あいつに似ている。)

 

「何で丁寧に、自分の手の内を一々敵に説明してやら無きゃならないんだ?」

 

ガンダムの姿を見て驚愕を浮かべているシグナムを一瞥しつつ、そう答える。

 

目の前の…厄介事を運んできてくれた相手への怒りを感じながら、理不尽かもしれないが、『狗の罪は飼い主の罪』と、こいつらの主とは“絶対に”仲良く等するかと八つ当たり気味に思う。…親しくなる気など最初から無いので丁度良いとも思ってるし。

 

そんな事を考えながら、バックパックから伸びる柄を外しそれを握ると柄からビーム状の刀身が伸び、ガンダムの接近戦用の武器『ビームサーベル』を抜き放つ。銃等の遠距離武器もあるが、間合いを考えてこれが最適と判断する。

 

「…さっさと掛かって来いよ…騎士気取りの通り魔風情が。」

 

憂さ晴らしの嫌味を言いながら、シールドを背中から腕に装着し、戦闘準備を整える。戦闘準備を整えた時、相手から放たれる殺気が増すのを感じ取る。そして、表情を見て…

 

(笑ってるな…。前回…龍也の時もそうだったけど…この女…本当に戦闘狂(バトルマニア)だな…。まったく…こっちは本当にいい迷惑だと言うのに。)

 

余計に怒りを煽ってくれる。厄介事に巻き込まれた挙句に、最悪と最悪の二者択一をさせてくれたと言うのにその本人は楽しんでいるのだから無理も無いだろう…。

…後で大事な主に報復を兼ねての襲撃とにやっている事の大暴露でもしてやろうかと物騒な腹癒せの方法を考えながら、

 

「名乗ろう。我はヴォルケンリッターが将シグナム。」

 

(普通なら、自分の名を名乗る所だろうがな…。オレだけこんな思いをするのも不公平だろう?)「通り魔の騎士ごっこに付き合う義理は無い。騎士ごっこで遊びたいなら、他でやれ。」

 

イライラを感じながら、少しでもこの思いを思い知らせてやろうかと思って、プライドと使命に泥を塗る様な嫌味を言ってやる。そう言ってやるとシグナムの表情に怒りが浮かぶのを感じる。

 

「ふっ、それもそうだな。」

 

だが、返された言葉を聞き心の中で舌打ちしてしまう。相手も自分の行動を自覚しているのだろう…。

 

余計な事を考えず、意識を戦闘用に切り替える。前回の記憶では龍也が多く戦った相手だが、自分が戦った経験が無い訳ではなく、実力者だと言う事は良く理解している。

 

「「行くぞ!!!」」

 

ガンダムとシグナムの声が重なる。

 

「レヴァンティン!!!」

《ja》

 

「はぁ!!!」

 

ガンダムは相手の剣をビームサーベルとシールドで防ぎながら剣戟を繰り広げる。最初から理解していたことだが、剣の技量では残念ながら相手の方が上なのは理解できる。

 

本来万能型のガンダムとしては相手の得意では無い。もっと言ってしまえば、相手の不利な間合いでの戦闘に持ち込むべきなのだが、残念ながらそれは簡単にはいかない。バックパックに有るブースターの加速を利用して、パワーでは上回れるがそれでも、有利には働かない。

 

聖獣を使えば一気に勝利できるのだが、下手に使って管理局に存在を教えたくは無いという考えから、バインド化も聖獣(マイソロジー)の力も使っていない。

 

それに

 

(…舐めてるのか…? って、それはオレも同じか…。)

 

地上で戦っている相手に対してそう思ってしまうが、改めて考えると、それはお互い様だとも思う。バインドや聖獣を使わない時点で自分も同じなのだし、ガンダムが得意ではない空中戦…バインドや聖獣の力が無くては空中には跳ぶ事しか出来ないのだから。

 

シグナムに対してガンダムに有利な点が有るとすれば、それは武器の質だろう。

 

シグナムの持つレヴァンティンは斬る為の剣なのに対して、ガンダムの武器はビームサーベル…斬る事も突く事も出来る万能な武器である。そもそも、実体剣とビームの剣では切れ味も格段に違う。力を溜めるために引く、振り上げると言った動作が必要なシグナムに対してガンダムは斬る動作にさえ引く必要も無ければ、振り上げる必要もない。

 

戦闘において一動作の差が動きを大きく分ける。故に剣の技量の差を武器の質の差でカバーできている現状でもあるのだ。

 

…付け加えて言うと、バックパックに収納されているガンダムのビームサーベルはもう一本ある。防御を無視してシールドを投げ捨てて二刀流にすれば攻撃回数では圧倒できるだろう。

 

だが、付け焼刃程度の剣術に、二刀流の真似事では余計に不利になる可能性も有るので、シールドを使っての防御は欠かせないのだ。

 

前回の時に彼女と戦った時の経験を活かそうにも、精々ビームライフルによる遠距離攻撃か、隠す必要の無かった聖獣(マイソロジー)の力を使ったのでこの場に活かせる経験にはならない。ならば…切り札を知られていない内に、接近戦の経験値を得ておこうと考える。

 

「ふふ、面白いな。」

 

「こっちはいい迷惑だ!」

 

「そう言うな、出来ればお前の名前も聞きたかったな。」

 

「…言ったはずだ…通り魔の騎士ごっこに付き合う気は無い!」

 

そう叫びながら廻し蹴りを放ちシグナムとの距離を取る。はっきり言って苛立ちを感じてしまう。自分にしてみれば、迷惑しているというのに相手は現状を楽しんでいるのだから…。

 

(…後先考えずに必殺技(エクリプス・クライド)を撃ち込んでやろうか…。)

 

「レヴァンティン、カートリッジロード!!!」

《Schlange Form》

 

ガンダムが距離を開けるとシグナムもレヴァンティンへと形態変化を命じると、刀身の付け根部分がスライドし、薬莢が排出される。

 

(この戦闘狂(バトルマニア)…。どうする…? あの形態に対抗する方法は…聖獣(マイソロジー)を使うか…? いや…ダメだ。)

 

それの事は記憶している。前回の記憶の中で龍也…デスティニーガンダムが翼を広げて掻い潜っていた蛇腹剣の形状。この間合い、それに対抗する武器は聖獣(マイソロジー)を除いて一つしかない。

 

(…聖獣(マイソロジー)は使えない…。こんな所で頼っているようじゃダメだ。オレは、もっと強くならなきゃ駄目だ…。マイシス幹部の…ウイングや…クロスボーンの域まで…。)「武器選択…ハイパーハンマー。」

 

ビームサーベルを収納し、鎖付きの鉄球『ハイパーハンマー』を呼び出す。

 

(そうじゃないと…オレは…オレ達はエイロディアを倒せない!!!)「うぉぉぉぉぉぉお!!!」

 

ガンダムの咆哮と共に鉄球に付けられたブースターによる加速と共にハイパーハンマーが振るわれる。

 

(ハーディアの力なら…バインドの力なら勝てるだけどな…。)

 

前回の時、不意打ちや策略を使い戦っていたウイングも自分達は一対一では勝てなかった。ウイングに勝てたのも、焔に龍也、雷斗の三人の協力が有ってだ。しかも、相手はヘルメディアの能力を一切使っていなかったのだ。

 

ウイングは十分過ぎるほどの実力の上に策略を用いる戦い方を用いているのは、単純に効率的に戦えるからだった。

 

エース・オブ・エースを相手に本気を出さずに互角に戦えるだけの能力を持ったマイシス一の策士。それが、親衛部隊隊長『ウイングガンダムゼロ』なのだ。

 

(…ハーディアに頼るだけじゃない…。オレ自身がもっと強くならなきゃ…マイシスは止められない…。エイロディアは倒せない! オレの意思を貫くためにも…オレは強くなる!!!)

 

特化した部分が無いゆえの弱さが己の弱点ならば、特化した部分が無い万能さが己の長所…ならば…最弱の万能の先に有る“最強”となる事。それが、マイシスと戦う為にガンダムの出した“答え”だ。

 

ただ、ガンダムの場合は得意分野としてはやや射撃の方に偏っても居るのだが。

 

「そんな武器まで持っていたのか!?」

 

ガンダムの振るったハイパーハンマーの鎖が蛇腹剣に巻き付いていく。

 

「見せてないだけで、持っていたんだよ!!!」

 

思わず前回の記憶の中の彼女と同一視してしまった台詞を叫んでしまう。そう、今回使ったハイパーハンマーは前回の時は使わなかった武器なのだ。

 

前回の時は常にマイシスとの戦いが控えている事を前提としたり、聖獣(マイソロジー)の事が既に知られていた為に、ハーディアやバインドを使って戦っていたのだから。

 

武器を封じると同時にハイパーハンマーの加速を利用して地面に叩きつけようとするが、その前に鎖は切断されてしまう。

 

(…やっぱり、鉄球をぶつける武器じゃこれ位が限度か。)

 

そのまま体制を立て直したシグナムを一瞥しつつ、再びビームサーベルを抜く。

 

「楽しかったぞ。だが、これで終わりにさせてもらおう。」

 

剣を鞘に収め、居合いのような構えを取る。よくは聞こえなかったが、無機質な声と薬莢が飛び出した音も聞こえた。

 

(…あの構えは!? 大技が来るか…仕方ない…。)

 

既に覚悟を決めているのだから、聖獣を見られる事を改めて覚悟し、自身の影へと触れる。第一、

 

「来たれ…月を守護に持つ我が聖獣(マイソロジー)…聖獣(マイソロジー)ハーディア!!!」

 

告げられるは神候補の一角たる己の聖獣(マイソロジー)を呼び出すための祝詞。

 

ハーディアは『月』を守護に持つ聖獣。月の満ち欠けによってその特性を大きく変える。バインド使い…バインダーの精神状態の変動にも影響される。不安定な心で使った所で大した事は出来ずに終わるだけだ。

 

その呼び声と共にガンダムの影から現れる漆黒のガンダムに似た巨大な人型の異形の影。ソード状になった左腕に、鋏…否、口の様になった右腕。それこそがガンダムの聖獣(マイソロジー)ハーディア。

 

「!? そんな奥の手まで持っているとは…やはりお前は面白い!」

 

「それはどうも。今回は素直にそう言わせて貰うよ。」

 

そう言いながらガンダムが左腕を振り上げるとまったく同じ動作でハーディアもソード状になった左腕を振り上げる。そして、

 

「紫電…。」

「ヘカディ…。」

 

放たれるは互いの必殺技。

 

「一閃!!!」

「ブレイド!!!」

 

ぶつかり合うハーディアのソード状の腕とレヴァンティン…激突と衝撃…そして、ガンダムとシグナムはその衝撃によって弾き飛ばされる。

 

「くっ、互角か。」

 

「いいや…オレの勝ちだ!」

 

悔しげにそう言うシグナムだが、逆にガンダムは余裕の有る言葉と共に真上に腕を振り上げている。それも当然だ。まだガンダムには、

 

「受けろ…光と影の境界をも切断するオレの…ハーディアの最大の必殺技…。」

 

最大の必殺技を出していなかったのだから。

 

「なに!?」

 

既に追撃の…それも新たな技の体制に入っているガンダムに対して驚愕の声を上げるが、そのまま空中に立ち止まる。

 

「すまない、急用が出来た。」

 

「はぁ?」(行き成り襲ってきて、それか?)

 

「改めて名乗ろう、私は守護騎士ヴォルケンリッターの将にして烈火の騎士シグナム。…やはり、名乗ってはくれないか?」

 

「………………………。こっちは聖獣(マイソロジー)ハーディア、オレはハーディアのバインダー、ガンダムだ。」

 

何処か悲しげに告げられる言葉に従順の後、己の…英雄と聖獣の名前を名乗る。

 

「そうか。ガンダム、勝負は預けた。この決着は何れ…。」

 

「二度と来るな。」

 

そう言って飛び去っていくシグナムの背中にそう言い放っておく。溜息を付きながらガンダムの姿から戻ろうと考えた時、ガンダムはハーディアへと視線を向ける。

 

「どうした、ハーディア?」

 

ハーディアの視線がシグナムの飛んでいった先へと向いていた。それだけじゃない…ハーディアが何かに共鳴している。

 

「…他の聖獣がこの先に…? ここに居るとすれば…クロスディアか、アローディアか…? 雷斗か龍也の二人でもいるのか?」

 

心の中でウイングとクロスボーンだったらどうでもいいとも思っているが、マイシス総帥の存在だけは無いとも考えていたりする。寧ろ、それだと逆にシグナム達の方が心配になる。

 

「…仕方ない…あいつ等だった時の事を考えて、オレも行くか。行くぞ、ハーディア。」

 

そう告げてガンダムがハーディアの肩に飛び乗ると、ハーディアは背中の翼を広げ、シグナムの飛び去った先へと飛翔する。

 

 

 

 

 

 

つづく…

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