IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第六話〜転入生と強さ
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「織斑くんと織斑ちゃん聞いた? 転入生のこと?」

 

 パーティーの翌日。僕と夏兄は席に着くなりクラスメイトに話しかけられた。結構打ち解けてきたし、女子にも少しずつ慣れてきたよ。

 しかし夏兄には「織斑くん」、僕には「織斑ちゃん」。一人のクラスメイトが言うには「だって男の娘でしょ?」といまいち分からないことを言ってきたのだ。確かに僕は男だよ? なのになんで「ちゃん」付けになるんだよ!?

 

「転入生? 今の時期に?」

「微妙な時期に転入してくるんだね」

 

 まだ4月の今日。そんな時期に入学じゃなくて転入。しかもIS学園は転入には厳しい条件だったはずなんだよ。試験はもちろんだけど、国の推薦がないと無理なはず。

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

 それなら納得。って代表候補生といえば……

 

「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」

 

 一組の代表候補生、セシリア・オルコットさん。僕からしたら対したことないけど、他と比べたらそれなりの実力はある。それは認めます。

 

「このクラスに来るわけではないのだろう? 騒ぐほどでもない」

 

 自分の席にいた箒さんがいつの間にか夏兄の傍にいた。確かに箒さんの言う通り、騒ぐほどでもない気がする。さすが箒さん。

 

「どんな奴なんだろうな」

「む……気になるのか?」

「ん? ああ、少しは」

「ふん……」

 

 夏兄は相変わらず鈍感だなあ。好きな人に他の女子が気になるって言われたら、嫌になるよね。

 

「それよりも夏兄。来月にはクラス対抗戦があるんだからさ、女子を気にしてる暇なんてないはずだよ?」

「光輝の言う通りだな」

「まぁ、やれるだけやってみるか」

 

 夏兄〜どんだけ意識が低いんだよ〜。このクラス対抗戦で一位のクラスは学食デザート半年フリーパスが貰えるんだ! 学食のデザートは結構美味しいんだよ。でも僕も副代表だから各クラスの副代表と戦わないといけないんだけど、みんな量産IS「打鉄(うちがね)」だし、なんとかなる。

 

「専用機持ちは一組と四組だけだから、余裕だよ」

 

 後は夏兄がやる気を出してくれればいいんだけど。

 

「――その情報、古いよ」

 

 教室の入り口からそんな声が聞こえた。一体誰ですか?

 

「二組の代表も専用機持ちになったの。そう簡単には優勝できないから」

 

 腕を組み、片膝をたて、ツインテールが目立つ女子。だから誰ですか!?

 

「お前、鈴(りん)か?」

 

 そう言ったのは以外にも夏兄だった。夏兄の古い知り合いかな? にしても夏兄は女子友達が多いよね。箒さん、頑張って!

 

「そうよ。中国代表候補生、凰鈴音(ファン・リンイン)。今日は宣戦布告に来たわけ」

 

 まさかこの子が転入生? う〜ん。なんか迫力がないなぁ。

 

「何格好つけてんだよ? すげえ似合わないぞ」

「んなっ! なんてこと言うのよ、アンタは!」

 

 会話からすると二人は結構な仲のようで……。箒さん、落ち着いて! 殺気をだしちゃダメだって!

 ふと、凰さんは僕の方へ向き睨みつけてきた。うぅ、気の強い女子は苦手だよ……

 

「あんた、なんでズボン穿いてるの?」

「へ?」

 

 思わず変な声が出てしまった。一体何を聞いてるんだ? だって制服だから。

 

「女の子の制服ってスカートよね?」

 

 ……はぁ〜。そういうことか。

 

「僕は……男だから……」

「へ?」

 

 今度は凰さんが変な声を出した。こんなに女子に勘違いされる僕って一体……。

 

「鈴、光輝は男子だぞ? でも初見なら間違えるよな」

 

 そんな……!? 夏兄まで……

 

「夏兄のばかぁ!」

 

 僕は立ちあがって夏兄のお腹に一発殴ってやった。

 

「ぐぉ! どうしたんだよ……光輝?」

「夏兄は間違えないって信じてたのに!」

 

 その様子を唖然とした感じで見ていた凰さんは、やって来たお母さんに出席簿で頭を叩かれ、しぶしぶ自分の教室に戻っていった。

 夏兄はなんで僕が怒ってるか理解してくれて謝ってくれた。僕こそ怒り過ぎたよ。箒さんは「よくやった光輝」とか言ってました。よくはないでしょ……。

 

 

 

「へぇ、じゃあ凰さんは夏兄の幼馴染なんだ」

 

 昼の食堂にて。セシリアさん、僕、凰さん、夏兄、箒さん、の順で座ってそれぞれ食べている。

 凰さんは夏兄が小五の時に転校してきた人で、中二の時に中国に戻ったという。僕はずっとお母さんといたから小学校に行ってなかったけど、時々夏兄に会ってはいろいろ話したなぁ。その時に凰さんのことを話したって夏兄は言ってるけど思い出せない……。

 箒さんとは小三のころに何回か会ってる。小四の最後らへんに転校してしまったのは残念だった。三人で遊べなくなると思うと、それを聞いた時は思いっきり泣いたのをはっきり覚えてるよ。

 でもこうやってまた再会したからいいけどね。

 

「鈴、こっちが箒。ほら、前に話したろ? 小学校からの、幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」

「ふうん、そうなんだ」

 

 凰さんはまじまじと箒さんを見る。箒さんも負けじと凰さんを見返す。

 

「初めまして、これからよろしくね」

「ああ。こちらこそ」

 

 ダメだ……この二人を会わせてはいけなかった。どうやら凰さんも夏兄のことが好きそうだ。要するに箒さんにライバル出現!? ってことだね。がんばれ夏兄。

 

「ンンンッ! わたくしの存在を忘れてもらっては困りますわ。中国代表候補生、凰鈴音さん?」

「……誰?」

「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表候補生、セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存じないの?」

「うん。あたし他の国に興味ないし」

「な、な、なっ……!?」

 

 セシリアさんの顔が怒りで真っ赤に染まっていく。感情の起伏が激しいひとだなあ、とか言ったら怒られそうだから言わないでおこう。

 

「い、い、言っておきますけど、わたくし、あなたのような方に負けませんわ!」

「そ。戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」

 

 一見、ただの自信過剰に思えるが凰さんは違う。この自信に溢れてるし、嫌味でもなさそうだ。どうなんだろうか?

 

「で一夏。その女子っぽい男子はいったい誰なのよ?」

「あぁ、光輝ね。俺の弟なんだ」

 

 そう言ってもらえると嬉しいよ。こんな僕でも夏兄とは兄弟なんです。

 

「へぇ。……光輝よね? あんた、ホントに男子なの?」

 

 なっ!? 教室で言ったでしょ!

 

「男子だよ! そんなにぼ、僕は女子に見えますか!?」

「うん。絶対女子じゃん」

「うぅ……酷い……」

 

 どうしたら信じて貰えるんだろ……

 

「落ちつけよ光輝。ったく鈴も光輝を苛めるのは止めてくれ」

「……分かったわよ。悪かったわね」

 

 凰さんは顔を赤くしながらも謝ってくれた。夏兄に言われたからって感じだよね、どう見ても! 

 

「でも私も初めて光輝を見た時は女子かと思ったぞ」

「篠々乃さんの言う通りですわ。光輝さん、本当に男子ですか?」

 

 くぅぅ……二人とも言いたいこと言いやがって……絶対に仕返ししてやるからな!

 

 

 

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翌日、クラス対抗戦日程表についての知らせが掲示板にあった。一回戦目の相手は二組、凰さんのクラスだ。しかも二組のクラス代表は凰さんだった。

 僕や箒さん、セシリアさんの特訓のおかげで夏兄の実力もついてきたけど、相手は代表候補生。実力は分からないが上なのは確かなはず。デザートの――もとい、クラスの命運がかかってるんだから頑張っていかないと!

 ってことでその日の放課後、僕、夏兄、箒さん、セシリアさんで第三アリーナに来ていた。

 

「夏兄、今日はとことん回避の練習にしよう」

「回避だけか? 接近戦の練習とかはいいのか?」

「確かに必要だけど、避けるのも大切だよ。今日は零落白夜」は使わなくていいからね」

 

 燃費の悪い白式は通常は回避に徹する。一回命中してしまうだけで白式の稼働時間は減ってしまう。今までは回避しながらの接近を練習してたけど、今日は徹底的に避けてね。

 

「でどうするんだよ?」

「夏兄にはフィンファンネルとブルーティアーズのオールレンジ攻撃を避けてもらうよ。ってことでセシリアさん、お願いしてもいいかな?」

「は、はいぃ! だ、大丈夫ですわ!」

 

 いきなり慌てるセシリアさん。僕は何か悪いことでもしたのかな? う〜ん、分からない。とにかく続けよう。

 

「箒さんは打鉄(うちがね)で待機しててくれるかな?」

「む……分かった」

 

 納得がいかないって顔してるけど、ちゃんと参加してもらうからさ。

 

「で各人準備してね。箒さんとセシリアさんちょっと話が……」

 

 

 

 みんなISも展開させる。ここにいるのは四機だけど、それぞれの個性が出ている。

「用意はいいね、みんな?」

「おう! いつでも大丈夫だぜ!」

「大丈夫ですわ」

「あぁ。こっちも大丈夫だ」

 

 ならさっそく始めようか。

 

「どんどん避けてね夏兄! フィンファンネル!」

「一夏さん、特訓だからって容赦はしませんわよ!」

 

 νガンダムの六基のフィンファンネル、ブルーティアーズの四基のビット(このビットがブルーティアーズっていうんだってさ。なんかややこしいよね……)を展開させ夏兄に向かわせ攻撃する。

 四方八方からの攻撃を行えるのは今のところ、フィンファンネルとビット(武装のブルーティアーズはビットと呼ぼう。紛らわしいね)だけなんだって。セシリアさんのビットはなかなかいい動きだね。今回は操作だけだから集中もしやすいからかな。

 夏兄もなかなかいい動きになってきたなぁ。全身を使って避けてるよ。さすがに頭上と後ろは避け切れてないけどね。

 

「夏兄〜、そろそろ行くからね〜」

 

 夏兄に個人間秘匿通信《プライベート・チャネル》で話す。そして女子二人組に合図を出す。

 箒さんがオールレンジ攻撃を避け続ける夏兄に向かう。

 

「一夏! 覚悟しろ!」

 

 その声にビックリしたのか、夏兄は接近していた箒さんの近接ブレードの攻撃を反応しきれず直撃してしまい、壁に吹っ飛ぶ。ちょっと中断しようか。

 

「二人ともちょっと中断〜。夏兄、大丈夫?」

 

 一旦、中断して僕達は夏兄の方へ向かった。ISを起動してるから壁に思いっきり当たったってどうってことはないと思うけど……それとも箒さんの攻撃が重かったかな? 

 

「大丈夫だけどさ、なんでいきなり箒が突っ込んでくるんだよ!?」

「そういう特訓だからだよ。一つの攻撃に集中して回避に徹するのもいいけど、周りを見ないとさ。いつ相手が向かってくるか分からないよ?」

「それを始めから言ってくれよ……」

「それじゃ特訓にならないでしょ?」

「あんなビームの雨を完全に避けるのは無理があるぞ!」

 

 まぁ、確かにそうかも。見切れることは出来ても回避は難しいか。

 

「でも動きが……良くなってますわね」

 

 セシリアさんの息遣いが激しい。ビットの操作に集中し過ぎてダメージが来てるのか。動きがフィンファンネルにも劣らない動きだったし、ここまで集中したのは初めてだったっぽいね。

 

「セシリアさんは寮に戻ってて。操作に集中し過ぎて負担がかかってるんだよ。あんまり無理されても困るしさ」

「……大丈夫ですわこのくらいなら……!」

 

――バシュンッ!

 

「なっ!? 光輝さん、一体何を!?」

 

 僕はビームライフルをセシリアさんに向けて放った。案の定、セシリアさんは避けることも出来ずに直撃。

 

「いつものセシリアさんならこのくらい避けれた。でも避けれなかった。しかも僕がライフルを構えたのすら分かってなかった。それほど負担がでてるんだよ。今日は休もう、ね?」

 

 セシリアさんの顔がどんどん赤くなっていく。熱でもあるんじゃ? 早く部屋に行かせようか。

 

「わ、わかりましたわ……その、こ、光輝さん、部屋に連れてってもらえ、ませんか?」

 

 にしても息が荒いよ。ちょっと恥ずかしいけど、そんなこと言ってる場合じゃない! 

 

「わかったよ。ごめん、夏兄に箒さん。セシリアさん連れていくから特訓やってて」

「おう、わかったぜ」

「気をつけてな……」

 

 僕とセシリアさんはアリーナを後にした。夏兄と箒さんを方を見ると、箒さんの顔がほんのり赤くなってる。頑張れ、箒さん!

 

 

 

 

――や、やりましたわ! 光輝さんと二人きり! しかも光輝さんのベッドだなんて!

 

 寮の光輝と一夏の部屋にて。本来ならセシリア自身の部屋まで送るべきなんだろうが、光輝の心配性なのもあり、ここで看病することに。光輝自身、自分の部屋の方が看病しやすいのこと。

 集中し過ぎて負担が重なり、体調不良なのは確かだ。だが中身はどうですか? と言われたとしたら病人とは思えない程のテンションの高さだ。

 

「ビットの操作に集中し過ぎてちょっとした体調不良だなんて。無理だけはしないでねセシリアさん」

「は、はい……でもそれを言うなら光輝さんもですわ……!」

 

 自分の精神を蝕むというのにサイコバーストを使った光輝は無謀としか考えれなかった。だがあの時の光輝の瞳に惹かれた。

 信念を貫くという瞳。例え、自分の身に何があっても果たすという強い意志が。

 

「あ〜、それを言われたら返す言葉がないよ。でも仕方のないことなのかもしれない」

「なぜですか……?」

「僕は人の暖かみを伝えたい。それにこんな考えを教えてくれたある二人に恩返ししたいから」

 

――やっぱり光輝さんは強いですわ。心が強いです。でも……

 

「一人で背負い過ぎやしませんか?」

 

 自分一人が犠牲になって伝えればいい。本当にそれでいいかセシリアは主張する。

 

「僕がある人と決めたことだからね。あんまり友達とか巻き込みたくないんだ」

「わたくしは構いません!」

 

 セシリアは光輝のおかげで変わることが出来た――その恩返しがしたい。そんな想いがセシリアによぎる。光輝が好きなのもあるけど。

 

「わたくしは……光輝さんのように強くなりたいですから……」

「セシリアさん……ありがとう」

 

 光輝はそう言ってセシリアの手を握って言った。男子とは思えない程の可愛らしい笑顔になり、それを見たセシリアは緊張が極度に増し、満足な顔を見せ気絶した。

 

「えっ!? セシリアさん! ど、どうしたの!?」

 

 いきなりベッドに倒れたセシリアにビックリして光輝は慌ててしまう。

 その後、一夏が部屋に帰ってくるまでセシリアは起きなかったという。

 

 

 

 

 寝る前に光輝は思う。

 

――僕のように強くなりたい……か。僕は弱いよ。お母さんや夏兄、セシリアさんや箒さんのような友達がいるから僕は僕であれるんだよ。

 

「感謝するのは僕だよ。ありがとう、セシリアさん」

 

 誰にも聞こえない小さな声で光輝は言い、眠りについた。

 

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