IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
その後すぐ織斑先生が近づいてきた。
というか、最後にダブルオーの最終回のパクリみたいな展開になるとは……いや、引き分けだったけど。
「ふむ、まさか更識と引き分けとはな」
「私もまさかでしたよ? ――っ」
一瞬歪んだ楯無さんの表情。
「楯無さん、どうしたんです?」
「ううん、ちょっとね」
左手で最後の一撃を当てた左の脇腹を押さえていた。
まさか……絶対防御抜いちゃった?
「大丈夫ですか!?」
「平気よ平気。ちょっと最後ので、ね。外傷はないから安心なさい」
「玖蘭、本人が大丈夫と言っているんだ。気にすることは無い」
千冬さんにまで言われるともうなにも言えない。
そうだ、これを聞いておかないとな。
「あの織斑先生、今回の模擬戦の意味は?」
「ん? ああ、テストだ。どちらにせよ入学してもらうことにはなっているが、実力ぐらいは知っておきたい。それで本来なら教師陣のだれかが相手の予定だったんだが、更識が立候補したから模擬戦をやってもらった。というわけだ」
生徒の最強に相手させるなよ……専用機あるし絶対に教師よりも強いだろ楯無さんは。
今回のバトル、あっちに俺の機体の情報が無かったようだから勝てたけど、知ってたら不意をつけないだろうしな。
それに広いところで良かった。楯無さんの機体《ミステリアス・レイディ》のあの技は正直しんどい。
「あーあ、それにしても負けかあ〜。最強の座は譲らなきゃいけないのかな?」
「いえ、技量だったら楯無さんのほうが上です。それにこっちの情報で事前に対策されたら勝てませんでしたよ? それに――」
「それに?」
「――会長って絶対仕事面倒ですよね」
俺がそういうと、楯無さんはカラカラと笑い始めた。
「ぷっ……あはははっ、ストレート過ぎるよ? あははっ、いや、その通りなんだけど…」
なぜここまで笑われなきゃいけない? 少しは笑われると思ったけどここまでとは……。
ひとしきり笑った楯無さんは、そこで一度姿勢を直す。そして、
「ふぅ……。さて、じゃあ改めて。――玖蘭拓神君、ようこそIS学園へ」
そう、笑顔で言ってきた。
………ハッ、違うぞ! 楯無さんの綺麗な笑顔に見惚れたわけじゃないからな!
――実際はそうだろう?
――ティエリア、テメェ! 心を読むな!
――僕は鎌をかけただけだ。自爆したのは君の方にすぎない。
――あっ……やっぱり畜生テメェ!
――ふふっ、まだ君も甘いな。
畜生、完全にバカにされてる。
一週間くらい無視してくれようか……って、出来ないよなあ。ティエリアにはISのサポートしてもらわないといけないし。
「あ、は、はい。よろしくお願いします」
我に帰った俺はそういって一度頭を下げた。
くそ、ティエリアに言われたせいで絶対顔赤くなってるよ……。
「あら? 拓神くんどうかした? おねーさんに見惚れちゃったかなー?」
「なっ、そ、それは無いですよ!」
「えー、それはそれでおねーさん傷つくなあ」
ちくしょう、ペースを乗っ取られた!
ペースジャックか……考えててむなしいから止めよう。
「……更識、玖蘭をからかうのはそこまでにしておけ」
ああ、今は織斑先生が天使に見える――
「もっとも、今の件について玖蘭はその通りだったようだが」
わぉ、天使が悪魔に変わったぜ? ……どこのシェ○ルだ!
「お、織斑先生まで何を!?」
「あら、おねーさん嬉しいな。……じゃあ織斑先生、私はこれで」
散々俺を弄った楯無さんは織斑先生にそう告げると、さっさとアリーナから出て行ってしまう。
うわっ、なにこの空気!?
「さて、改めて私からも歓迎しよう。それと、ほら」
少し苦笑気味の織斑先生から投げ渡されたのは、俺のバッグ。
そういえばさっきは、織斑先生の近くに置いてから戦い始めたんだっけ?
「あ、ありがとうございます」
「では行くぞ、寮を案内する」
「はい」
アリーナの外へと歩き出した織斑先生を追って、俺もアリーナから外へ出た。
◇
楯無side
拓神くんとの模擬戦を終えた私は、ピットの更衣室に戻ってきていた。
(それにしても、前に負けたのっていつだったかしら?)
なにも伊達や酔狂でこの学園最強の称号である生徒会長を名乗っているわけではない。
それにその程度では、ロシアの代表操縦者など任されない。
それでも、彼には負けた。
本気を出しても、負けた。
向こうの機体の情報は何も無かった…それはただの言い訳。
(はあ、悔しいなあ…)
それでも楯無は何か清々しい気持ちになっていた。
本気でやり合って負けた。その事実で。
それと同時に何か違う気持ちも感じていた。
(でも彼、かっこよかったな…)
容姿の方じゃなくて…いや、容姿もそれなりだったけれど。
最後の一撃。お互いに突っ込んだけれど、わざわざまっすぐ突っ込む必要も無かった。
最初にその意思を示したのはこっち。でも、彼にはまだ余力があったはず。
それでも、あれを受けてたった。なにもせずただ一直線に。
もし他のアクションを起こしたら、こっちも対応するつもりだった。というよりむしろそうしてくると思っていた。
それでもただ真っ直ぐに向かってきた。
ふと体を動かしたせいで、ロッカーの扉に左わき腹をぶつけてしまう。
「―――っ…」
ぶつけた痛みではない痛み。
それはさっきの戦闘で受けたダメージだった。
彼には何も無いといったけれど、実際は少し血が出ていた。
むしろ、絶対防御を抜かれてその程度で済んだことを良かったと思うべき。
けれど彼には心配をかけたくないと思った。
(これは…惚れちゃったのかな? …彼に)
戦闘中は全身装甲のISだったから、表情を見ることは出来なかった。でもきっと真面目な視線で私を見ていただろう。
そう、"私を見ていた"
それを考えると、ドクンと胸が強く脈打つのがわかる。
それに対して自分でも苦笑してしまう。
(何やってるんだろ私、私らしくも無い)
いつしか楯無のその苦笑は、妖艶さを含むものに変化していた。
(玖蘭拓神…君の心、奪うよ。多少強引にでもね)
◇
「お前の部屋はここになる」
織斑先生に連れられて寮の中を案内された後、俺の部屋となる場所に案内された。
……なぜかその最中に肉食の動物に狙われたような錯覚があったんだ。いや、本当に狙われたことは無いけどさ。
「一人部屋だ。それと……これを渡しておく」
受け取ったのは部屋の鍵。
部屋番号は『1045』原作で一夏と箒の部屋が確か……忘れた。番号なんて覚えてない。
部屋の場所はこの階の隅で、隣の部屋は今は倉庫になっているらしい。
女子と隣の部屋は、どちらにも何かしらの影響があると考えての配置だろう。妥当だ。
……でもそれだとしたら、一夏は良いのか? まあ、気にしない方向で行こう。
「ありがとうございます。あと、質問良いですか?」
「なんだ?」
「トイレはどうすれば……?」
「寮では部屋の中にある。校舎に居るときは、不便だと思うが男性教師用の所を使ってもらうことになるな。そのうち設置工事も完了するだろうからそれまでだ」
「分かりました」
「私は仕事に戻る。何かあれば聞きに来ても良い、職員室にいるからな。それと明日については分かっているか?」
「大丈夫です」
「よろしい。ではな」
「はい、また」
ツカツカと歩いていった織斑先生が、視界から消えたところでほっと息を吐く。
あの人は一緒に居るだけで威圧感が強い。
世界最強の威厳というヤツか?
◆
翌日、俺は教室(1−1)の自分の席に着いていた。
……うん、いまならすぐ近くに居る一夏の気持ちがすげぇわかる。
好奇心の目線でめっちゃ見られてる。
完全に上○動物園のパンダ状態だ。ああ、最初のな。
それはともかく居ずらい。今すぐにでもここから逃げ出したい。
「全員揃ってますねー。それではSHR《ショートホームルーム》を始めますよー」
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第6話『IS学園入学』 | ||
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