IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第七話〜赤き乱入者 |
五月になり数日。今日がクラス対抗戦だ。場所は第二アリーナのピット。
夏兄も特訓のおかげでだいぶ伸びてきた。だけど一回戦目は二組――つまり凰さん、油断は禁物なのです。
「夏兄、絶対に勝ってきてね!」
「まかせろ光輝! 絶対勝ってくるぜ!」
オープンチャネルで夏兄と話し、白を纏った夏兄は戦場に飛び立った。あの調子なら大丈夫そうだね。
「せっかく私達が特訓にしたんだ。一夏ならやってくれよう。心配しなくとも大丈夫さ」
「そうですわ。これで負けてしまっては情けないですわね」
そんなこと言っても心配なんだねセシリアさん。手が震えてるよ? でも心配なのはみんな同じか。
「夏兄、諦めたらダメだよ」
ピットから試合を見ていた僕らは驚きを隠せなかった。凰さんのIS「甲龍(シェンロン)」は肩アーマーに衝撃砲を装備していた。
衝撃砲は、空間自体に圧力をかけて砲身を生成したのち、余剰で生じる衝撃自体を砲弾化して打ち出す、というもの。やっかいなのは砲弾はもちろん、砲身も見えないんだ。しかも全方位に攻撃――つまり、フィンファンネルやビットのようなオールレンジ攻撃が可能という、なかなかの武装です。
それでも夏兄は上手く回避できてる。ハイパーセンサーの恩恵があって、やっと反応できてる感じだけどね。
「一夏さん、少しずつ押されてますわね……。このままでは」
確かにセシリアさんの言う通りだ。徐々に夏兄が追い込まれてるのが分かる。衝撃砲を掻い潜って(かいくぐって)接近するのは難しい。、『零落白夜』状態で攻撃が命中すればなんとかなりそうだけど、どうするか……。
ふと、箒さんの方を見る。夏兄のことが心配で身体が小刻みに震えている。
「箒さん、夏兄なら大丈夫だよ。こんな状況でも夏兄の目は諦めてない。だから大丈夫」
そう、夏兄はどんな劣勢でも諦めたりしないんだ。今この状況でもチャンスを伺ってるのが分かる。たぶん、瞬間加速《イグニッション・ブースト》で接近して一気に決着をつける気なんだと思う。
「あぁ……そうだな。ありがとう光輝」
「いえいえ、僕達も最後まで夏兄を応援し……っ!」
何かがアリーナに近付いてくる! 正確にはわからないけど、このままだと夏兄達が危ない!
僕はすぐにISを起動させ、アリーナに向かおうとするが箒さんとセシリアさんに止められた。
「光輝! ISなんか起動させてどこに行く気だ!?」
「そうですわよ! いくら一夏さんが押されてるからといって試合に割り込むのはダメですわっ!」
「行かなきゃ二人が危ないんだよ! だから行かせてっ」
「篠々乃、オルコット、行かせてやれ」
そう言ったのはお母さんだった。さっきから山田先生と一緒にピットにはいたけど、話さなかったな。
「早く行け。こんなことをしている間にも、お前の感じる奴が向かって来ているのだろう?」
「うん……。絶対に二人を助けるよ!」
そう言って僕は、ピットを後にしアリーナへ向かった。夏兄が瞬間加速で接近している最中だった。
――ズドオオオオンッ!!!
僕がアリーナに着いたと同時に大きな衝撃と轟音がアリーナに響いた。どうやらアリーナの遮断シールドを突破してきたようだ。それは同時に『何か』の攻撃力を測ることが出来る。しかし、その『何か』はアリーナの中央の砂煙で見えない。
――アリーナ中央に所属不明機を感知。白式と甲龍がロックされています。
アリーナの遮断シールドはISと同じ原理でできている。ということはそれを貫通する程の攻撃力を持った『何か』がやってきたということだ。早く二人を助けないと……!
「夏兄、凰さん早く逃げて! 今来た奴は危険だ!」
僕はオープン・チャネルで二人に呼び掛ける。ってこんな時に喧嘩しないでよっ!
「こ、光輝? なんで此処にいるんだ!?」
「てか危険ってどういうことよ!?」
「話は後で話すから、二人ともピットに戻って!」
試合をしていた二人のシールドエネルギーはかなり減っているはず。もし戦ってゼロにでもなったら命の保証はない。
突然、砂煙から二人に向かって熱源が連続で放たれる。二人は避けるが、あの熱源は……
「セシリアのISよりも出力が上だ。シールドを貫通させるだけはあるってことか……」
夏兄の言う通り。今放たれた熱源――ビーム兵器はセシリアさんの武装より出力が高い。
「夏兄、すぐにそっちに行くから! 待ってて!」
二人の方へ向うがビームがそれを遮る。こう体験してみると正確な射撃だ! ギリギリで避けながらも二人の元へ辿りつけた。
「大丈夫か光輝!?」
「うん、それよりも今は……」
ビームを連射してくれたおかげで砂煙が消え、相手の姿を見ることが出来た。
まず目につくのは全身装甲(フルスキン)であること。しかも真っ赤に染まっている。左腕には不明機と同じ高さのシールドが装備してあるが、その中央付近と左右の腰から伸びている短いスカートには奇妙な紋章が描かれている。全体的に重そうな雰囲気だ。
突然、ISのハイパーセンサーが反応する。
――MSN‐04 サザビーと断定。見た目によらず、機動性、運動性は高い。どの武装も火力が高く、特に腹部拡散メガ粒子砲はジェネレーターから直接エネルギーを供給しており、危険度は最大です。
ん? この不明機のことなんだろうけど、こんな番号は聞いたことないよ。夏兄達のハイパーセンサーは反応したのだろうか?
「二人とも、あの機体について何か情報が出てきた?」
「何も分かんねぇぜ……。一体なんだってんだ!」
「あたしも分からないわ。アンタはどうなのよ?」
「あれはサザビーっていうらしいんだ。機動性も運動性も高いし、火力も高いって出たんだけど……」
νガンダムのハイパーセンサーだけが解析したってことだけど、一体どうなってるんだよ……。というかさっきからサザビーから感じるこの感覚はなんだろう。人の意志? なのかもしれないけど、感じたこともない深い負の感覚。今分かるのはこの機体は危険だってことだ!
「お前、何者だよ」
「………………」
夏兄の声にも反応しない。当然と言えば当然かな。サザビーは動こうともせず、ずっとこちらを向いている。
「二人とも……早くアリーナから脱出して。あれの相手は僕一人でする」
「な、何言ってんのよアンタ! 三人でやれば……」
「鈴、光輝にまかせよう。あそこまで怒ってる光輝をみたのは久しぶりだ」
「っ! 分かったわよ……。でも遮断シールドがレベル4になってるし、全ての扉はロック中。これじゃ、脱出なんて出来ないわよ?」
凰さんの言う通りだ。このままでは二人が危ないし、どうしよう?
――警告! サザビーに完全ロックされました。
ISのハイパーセンサーがサザビーのロックを伝えてくれた。ちょうどいいや、これなら何とかなりそうだね。
「二人とも! 僕だけをロックしてきたから、邪魔にならないようにしてくれる?」
「分かったぜ光輝。負けるなよ光輝!」
「うん……。ありがと夏兄」
負けないよ。絶対に負けない。今度こそ約束を守ってみせる!
僕はビームサーベルを抜き、サザビーへ接近する。サザビーも反応して接近してくる。
黄色とピンクの光の剣が交錯し、互いに押し合う。
「負けるもんかぁぁ!!!」
死闘は始まったばかりだ。
「三人とも聞こえますか!? 返事してください!」
アリーナに残っている三人を呼び戻そうとオープン・チャネルで話す真耶だが、返事はない。ピット内の通信機器が壊れたかそれとも……。外の様子も見れなくなった以上、最悪の事態にもなっているかもしれないのだ。
「落ち着け山田先生。三人なら大丈夫だろう。甘いコーヒーでも飲め。糖分が足りないからイライラするんだ」
「えっと……織斑先生? それ塩なんですけど……」
「……なんで塩があるんだ」
そう言いながら白い粉を容器に戻す。千冬もなんだかんだで家族の事が心配で慌てているのだ。まぁ、当然だと思うが。
「さ、さあ……? でも大きく『塩』って書いてますけど……」
「…………」
「やっぱりご家族のことが心配なんですねっ!? だからそんなミスを――」
「……山田先生、コーヒーをどうぞ」
重い沈黙の中、調子に乗っている真耶に千冬の容赦ない罰を受ける。
「でもそれって、塩が入ってるやつじゃ……」
「どうぞ」
抵抗を試みるが失敗に終わった。真耶は涙目になりながら送られてきたコーヒーを飲む。
「熱いから一気に飲むといい」
悪魔が降臨した。
「先生! わたくしにISの使用許可を! いつでも出撃できますわ!」
「そうしたいが、遮断シールドレベル4。扉は全てロックされている」
「まさかあのISの仕業ですの!?」
「そうだろうな。今のところ、救援に行くのは無理だ」
落ち着いた口調で話す千冬だがその手は苛立ちを抑えることが出来ずに画面を叩いている。
「でしたら! 緊急事態として政府に助勢を!」
「やっている。今も、三年の精鋭がシステムクラックを実行中だ。遮断シールドを解除した後、ただちに部隊を突入させる」
そう続ける千冬は益々募る苛立ちを少しずつ表していく。それを危険信号と見たセシリアは頭を押さえながらベンチに座った。
――あのISは束の言っていた『赤い彗星』なのか? まさかνガンダムに魅かれて来たというのか? だとすれば光輝は……
昔、束に言われたことを思い出す。聞いた時は信じれなかったがでも今まさに起こっているのだ。
苛立ちと不安に駆られる千冬はただ家族の安全を祈るばかりだった。
「つ、強い! 一体何者なんだよっ」
未だサザビーにダメージを与えられない僕は苛立ちを感じ始めていた。
接近したまま追い詰めればよかったんだけど、ビームサーベルの押し合い時に腹部拡散メガ粒子砲を放ってくるんだから離れないといけなかった。
直撃は免れたけど、右足を少しかすったよ。でも驚くのは、かすっただけで絶対防御が発動してしまったことだ。もし直撃を受けてたら……僕は生きてただろうか。
[ファンネル!]
突然そんな声が頭に響いてきた。同時にサザビーのバックパックから何かが射出された。
かなり小さいけどビットやフィンファンネルと同系の武装か。円筒形から+の形にスラスターカバーが展開され、6基がこっちに向かってくる。
「それなら僕だって……行って! フィンファンネル!」
僕も6基全てのフィンファンネルを射出した。赤と白のファンネルが移動音を出しながら銃撃戦を行う。操作中、頭に映像が流れ込んでくる。
仮面の人が、僕達と同じくらいの人が、ロボットに乗って戦っている。周りは黒一色で時折キラキラしたものが写っている。
「なんだ……これっ。頭にどんどん流れ込んでくるっ!」
二人はロボットに乗って戦っている。同い年の人が止めを刺そうとした時、緑の大きいとんがり帽子のようなロボットが割り込んできて、仮面の人を助けた。青年にとって相手の二人は敵なんだと思う。でも青年は緑のロボットを撃墜したのに泣いている。仮面の人も同様に。そこで映像は途切れた。
「今のは一体? ――っ!」
集中が相手に戻った途端、急接近したサザビーに思いっきり蹴られ勢いよく壁にぶつかった。
映像に見惚れて反応が遅れちゃった。にしてもあれは何だったんだろうか? サザビーと何かしらの関係があるのだろうか……。
そんなことを考えている内にサザビーがビームサーベルを持って接近してくる。避けたいんだけど、身体が動かない。なんで動かないんだよ! このままじゃやられてしまるのに……! 僕は死を覚悟して目を瞑った。
「みんな、ごめんなさい。僕は先に逝きます……」
――ガキィィィン!!!
何かが交錯した音に気付いて僕は目を開ける。なんと夏兄がサザビーと鍔迫り合いをしていた。
「光輝! 大丈夫か!?」
「なんとかね……夏兄こそもうエネルギーが!」
「なんとかなるさ! 三人でこいつを倒すぞ!」
「で、でも……」
「いいから言うことを聞く! アンタの方がボロボロよ!」
横から衝撃砲を撃ちながら援護する凰さん。それに気付いたサザビーは一旦距離を取り、待機している。
「光輝、一気に接近してあいつを倒す方法を思いついたんだけど、やってみないか?」
「そんなことが出来るの?」
「ああ! やってみる価値はあると思うぜ?」
ただ向かっていくだけじゃこっちが不利になる。作戦があるならそっちを試してみよう。
「分かった。夏兄の作戦でいこう!」
「なるほど……それならいけるかも」
「へぇ、アンタにしたら考えたじゃない」
僕と凰さんは夏兄の作戦を聞いて納得した。成功するかは運だけど決まればいける。
サザビーは襲ってくる気配はない。どうもこっちの様子を伺っているようだけど、すごく助かります。
サザビーのファンネルは6基とも落とすことが出来たけど僕もフィンファンネルを全部落とされてしまったから上手い援護が出来ないけど、やれるだけ頑張る!
「いくぞっ!」
夏兄の声に僕達は作戦を実行する。同時にサザビーも反応してライフルを撃ってくる。僕達は一度、散開する。サザビーは僕を集中攻撃してくる。予想通りだ。
僕はサザビーの攻撃を全力で回避して、ライフルとビームキャノンで少しずつ攻撃して注意をこちらに向ける。
「――オオオッ!!」
夏兄が衝撃砲のエネルギーで更に速くなった瞬間加速でサザビーに接近する。
サザビーは後ろから接近する夏兄に反応しきれず、零落白夜によってライフルを持っている右腕を切られる。
――瞬間加速の原理を上手く活かしたね夏兄。
瞬間加速はその過程で慣性エネルギーが発生し、それを使って爆発的に加速する。このエネルギーは外部からのエネルギーでもいいのだ。速度は使用するエネルギーに比例する。最大出力の衝撃砲を外部エネルギーとして夏兄は一気に加速したんだ。結果、サザビーにダメージを負わせることが出来た。そして僕の番――
「これでッ!」
サザビーが戸惑っている間に僕も瞬間加速をして接近する。そして何回もサザビーを殴り続ける。
「うおおおおっ!!」
殴る度に凄まじい音がするが気にする暇はない! そして回し蹴りを食らわしてサザビーは壁にぶっ飛んだ。僕はその軌跡を追い、止めを刺す。
「これで――終わりだよ!」
サザビーの方に向かいながら、宙返りをしてバックパックに装備してあるνハイパーバズーカを発射する。なずけて『背面バズ』! なんてね!
「ふぅ、なんとか終わったのかな?」
砂煙に隠れてサザビーの様子が見れないけど、かなりのダメージは与えたはずだ。これ以上の戦闘は望ましくないし、三人ともシールドエネルギーがほとんど残ってないしね。
「やっと終わったみたいね。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなったわ」
「そうだな。光輝、鈴、早く帰ろうぜ!」
「そうだね! 帰ろう……」
[まだだ……まだ終わらんよ!!]
――この響く声はまさか!?
砂煙から音が聞こえて僕達はその方を見た。なんとサザビーが動いているのだ。
装甲全体には僕が殴りまくったおかげでボコボコになっており、各部からは紫電を放っている。今にも壊れそうな感じだが、それでもゆっくり歩いて近づいてくる。
立ち止り、最後の足掻きといわんばかりに拡散メガ粒子砲をチャージしている。なら一か八かだ!
「二人は離れてて!」
僕はそう言うとサザビーに向かって瞬間加速をする。この接近する途中で発射されたら直撃は免れないだろう。
こんなボロボロならこの攻撃を避けたら勝手に停止しそうな感じもあると思う。でも僕はそう感じることが出来なかった。
今のサザビーを動かしているのは絶望だと思う。対峙した時から感じるプレッシャーは凄まじいものだったけど、絶望もすごいものだ。何に対してかは分からないけど、それを断ちきるなら直接――僕が停止させる! その絶望を断ちきる!
僕はビームサーベルを抜刀し突き刺そうとするが、同時にメガ粒子砲も発射され周りが光に包まれる。
[守る為に戦うのはいいが、戦いに引きずり込まれるなよ]
そんな声が聞こえたのが最後で、僕は気絶した。
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戦闘シーンは難しいですなぁ | ||
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