IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第九話〜黒き冷水
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「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」

 

 転校生の一人、デュノアくんはにこやかな顔でそう告げ、一礼する。

 それにあっけを取られたのは僕を含めたクラス全員だった。

 

「お、男……?」

 

 誰かがそう呟いた。

 

「はい。こちらに僕と同じ境遇の方が居ると聞いて本国より転校を――」

 

 人懐っこそうな顔。礼儀正しい立ち振る舞いと中性的に整った顔立ち。髪は濃い金で、それを首の後ろで丁寧に束ねている。身体はスマートで制服がよく似合っている。

 貴公子のような印象で、嫌味のない笑顔が眩しい。

 でも何かしらの違和感を感じるのは気のせい? 何か隠しているような、ないような……。

 

「きゃあああああああ―――――っ!」

 

 耳が、耳がああ! クラスの中心から発せられた声は衝撃波に変わった。それ程、恐ろしいものなんだよ。

 

「三人目の男子!」

「しかも守ってあげたくなる系の!」

「地球に生まれて良かった〜〜〜〜〜!」

 

 うぁぁ……耳が痛い! ここの女子は男子に飢え過ぎだよ!

 

「あー、騒ぐな。静かにしろ」

 

 その一言でクラスが鎮まった……お母さんすごいよ。でもめんどそうな言い方だったなぁ。こういう反応が嫌なのかな。

 

「まだ自己紹介は終わってませんからね!」

 

もう一人も異様な容姿なはず。まぁ僕から見たらどうってことはないけど。

 輝くような銀髪。それは白にも近く、腰近くまで降ろしている。綺麗だけど、整えてるわけでもなく、ただ伸ばしてるって感じなのかな? そして左目に眼帯。医療用とかじゃなくて、軍隊で使いそうな黒い眼帯。右目は赤色だけど、でも冷たさしか感じない。髪といい、眼帯といい、冷徹な彼女にはよく似合ってるよ。

 『ドイツの冷氷』。彼女はそう呼ばれていた。

 

「………………」

 

 な、何か喋ろうよ。せめて名前をだけでもいいから。重い空気は嫌いだよ……。

 

「……挨拶をしろ、ラウラ」

「はい、教官」

 

 お母さんには素直だな〜。みんなビックリしてるよ。異国の敬礼を向けられたお母さんはまた違う意味でめんどくさそうな顔をする。

 

「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私の事は織斑先生と呼べ」

「了解しました」

 

そう答えるラウラは、ぴっと伸ばした手を身体の真横につけ、足をかかとで合わせて背筋を伸ばしている。――懐かしいな。ドイツの一年間はけっこう長かったね。

 ――ある事情でお母さんは一年ほど、ドイツで軍隊教官として働いていたことがある。僕も付いて行ったよ。でその時にラウラに出会ったのか。あれが13歳の時だから一年たって、ドイツから日本に帰って来た時に束さんに会ってνガンダムと出会ったんだよね。いや〜懐かしい。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」

「………………」

 

 クラスメイト達の沈黙。無口なのは相変わらずだけど、もうちょっと何か言えばいい……んじゃない?

 

「あ、あの、以上……ですか?」

「以上だ」

 

 空気に耐えれなくなった山田先生が精一杯の笑顔で訊くけど、返ってきたのは無慈悲な答えだけだった。うわ〜、これは気まずい……。

 そんなことを考えているとラウラが夏兄に激しい敵意を向けていることに気付いた。

 

「! 貴様が――」

 

 ラウラが夏兄の席に歩いている。まさか……!

 すぐさま僕は立ち上がり――

 

 パンッ

 

「……お前は」

 

 ラウラが夏兄に平手打ちする前に立ち上がり、手首を掴んで阻止。いきなり暴力なんてダメだって!

 

「いきなり人を殴るなんて酷いよ」

「ふん、お前ごときに言われる筋合いはない。離せ」

 

 激し過ぎる敵意を向けてくるけど、ここで逃げるわけにはいかない。

 

「離さないよ。そしたらまた殴ろうとするんでしょ? 家族を守るのは当然だから」

「…………私は認めない。お前達二人があの人の……!」

 

 ラウラは無理やり僕の手を放し、席に向かっていく。ふぅ、何とかなった……。

 こうして二人の転校生を迎えることになった。

 

 

 

「くぅ、負けるなんて……」

 

 3人目の男子、デュノアくんが転校してきたことで女子の勢いも増してきた。やはり男子に飢えているこのIS学園、男子にとってはある意味危険だ。

 そんな中、部屋割も変える必要があるらしく、じゃんけんの結果、夏兄とデュノアくんの相部屋。そして僕が一人部屋、という結果になった。今じゃ一人寂しく部屋で暇をもてあそんでるよ。

 

「開けておくれ〜」

 

 どんどん、と扉を叩く音と声が聞こえる。大人数の女子が乱入しないように部屋の鍵は常に閉めるようにしている。まぁ今回は一人だけっぽいね。

 

「その声は……布仏(のほとけ)さん?」

「そのと〜り! てことで開けておくれ〜」

 

 ――どんな理屈だよ。まぁこの人なら大丈夫かな。

扉を開けるとそこには

 

「やー、おりむーU。 一緒に夕食しようよ〜」

 

 寮にいるときは常にダボダボのパジャマを着ている、布仏本音(のほとけ ほんね)さん。自分のサイズより2つぐらいはでかいナイトキャップがズリ落ちては、余っている手で直そうとする。

 

「うん、いいよ。てかその愛称は決定なの? 普通に織斑でいいんだけど」

「決定なのだよ〜。普通じゃおもしろくないしね〜」

 

 ちなみに夏兄は『おりむーT』。この人の考えてることはよく分からない。センスがないに等しいと思う。

 

「まぁいいや。行くなら夏兄達も誘っていこうよ」

「え〜、二人きりでいいよー」

 

 布仏さんは僕の腕を無理やり掴み――けっこう力が強いぞ! 振りほどけないよ……――そのまま食堂に連れ去られました。

 

 

 

「疲れた……食べる時ぐらいゆっくりしたいのに」

 

 食堂で夕食を取ったわけだけど、僕と布仏さんの周りに女子が集まり過ぎて潰されそうになった。一年はもちろん二、三年の先輩たちもいたわけで……けっこうな人だった。

 

「はぁぁ、考えただけで疲れる。忘れよう……」

 

――こんこん

 

 なっ!? またノックが! 一体誰だよ……。

 

「光輝、いるか?」

 

 その声の主は箒さんだった。この人なら大丈夫……大丈夫なはずだ。

 扉を開け、箒さんを迎え入れる。箒さんならまだ気が楽かな。

 

「珍しいね、箒さんが相談なんて。僕で力になれるならいいけど」

「いや、光輝にしか言えないことだからな……」

「そうなの? で相談って何?」

「う、うむ。実はな――」

 

 箒さんの相談を聞いたけど、これはまた大胆な……。でも箒さんと言えば箒さんらしいのかな? でもどうなることやら……。今日はいろいろなことがあったけど、最後の追い打ちと言ってもいい程だよ。

 

 

 

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