IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第十二話〜力を揮う責任 |
「怒りに我を忘れてラウラに挑むか。お前のことだ、オルコットと凰がボロボロなのを見て冷静さを失ったんだろ?」
「……………」
アリーナの事件が終わって織斑先生――お母さんの部屋に呼ばれた僕は一対一で部屋にいる。自分のやったことに後悔はしてないよ。許せなかったから。
「光輝、これを持て」
そう言われて手渡されたのは日本刀だった。以外にも重く、僕の力では片手で持つのは難しかった。でもなんでいきなり日本刀を?
「それが人を傷つけることに対する重みだ。お前ならこんなことしなくとも分かっていると思ったんだが……」
お母さんはそれ以上なにも言わなかった。日本刀の刃の部分に僕の顔が写るが、その表情は歪んで見えた。
あのまま、ボーデヴィッヒさんと戦ってたら僕は唯の――戦闘狂になってしまったのかもしれない。相手を瀕死に追い込むのが楽しみになって、何も感じなくなってしまうところだったのかもしれない……。
考えているとお母さんは僕の持っていた日本刀を取り上げる。
「ゆっくり考えるんだな。そうそう、今度のトーナメントは二人組での参加が必須となるのだが、お前はリムスカヤと組め」
いきなり話題が変わったのは気にしないように。気にしたら負けなんだ、きっとそうだ! ……話を戻しましょう。
二人組が必須か。しかもご指名ですか。
「なんでまたエリスさんと?」
「別に大した意味じゃないさ。あいつのISも『ガンダム』だろ? それ繋がりだな」
「それなら夏兄か、シャルルくんが良かったな……」
「あの二人はもうパートナー同士だぞ?」
ま、まじか……! まさかもうそこまで決まってるなんて。
「という予想だ」
「な、なんだ〜。それなら――」
「でもリムスカヤと組んでもらう。少なくともリムスカヤはお前と組みたいようだがな」
エリスさんが? う〜ん、どうしようかな……。お母さんを見ると心なしか笑ってるようにも見える。
「悩むくらいなら本人と話してみるんだな。せっかくお前と組みたいと言ってるんだ、話ぐらい聞いてみたらどうだ?」
「は、はい。そうしてみます。では……」
そう言って僕は部屋を後にしようとするが
「おっと、気をつけろよ? 一年の女子は今頃お前を探すのに必死なはずだからな」
「だ、大丈夫ですよ」
「とは言ったものの、さてどうしようか……」
部屋を後にして保健室を目指している僕に多大な障害に阻まれていた……!
今度のトーナメントが二人組なのが条件なのは話しました。障害であるこの女子達はどうやら僕を探して見つけてパートナーにするというのを盗み聞きしました。
お母さんの部屋を出て、感じたのは女子の異様なプレッシャーだった。欲望に取り込まれているというか……とりあえず、捕まったら終わってしまう気がしたのは言うまでもない。
障害さえなければすぐに保健室に行けるのに……、注意しながら遠回りして30分! この角を過ぎれば保健室だけど……。角に隠れながら様子を見る。
「保健室の前で女子が五人待ち伏せか。さてどうしよう……」
早くしないと、ここも危ない。くっ、何かいい手はないか!?
「お前達、何をしている?」
「お、織斑先生!?」
なんと別の場所から現れたのはお母さんだった。お見舞いかな?
「一体何の騒ぎだ? うるさくて敵わんぞ」
「そ、それはですね……ええと……」
五人の一人が説明しようとするが、お母さんの覇気にやられてるらしく言葉が続かない。
「ったく、なんでもないならさっさと寮に戻れ。邪魔だ」
言葉にちょっと棘が入ってるなぁ。イライラしてるのが分かります……。
「「「「「し、失礼しました!」」」」」
五人は逃げるようにその場から立ち去った……。さすがお母さんだ、凄い……。
しかし、五人が居なくなってもお母さんは保健室に入ろうとしない。どうかしたのだろうか?
「光輝、さっさと行け」
そう言ってお母さんは何処かへ行ってしまった。まさか助けてくれたのか!? ありがとうお母さん! 助かりました!
ダッシュで保健室に向かう。ここまで来れば大丈夫!
「あ〜、おりむーUだ〜」
その声の方向――後ろを向くと、仏布さんを含めた内のクラス全員がそこにいた……。
「さあさあ! 私と……!」
「光輝きゅん! 私と組んで!」
「私とヤろうよ!」
なんか危ないこと言ってる人がいる! だが保健室まで一直線なんだ! 全力疾走ならいける……!
僕は全力で保健室を目指した。入ってしまえばこっちのものだよ。
ドアノブに手をかけ、保健室内に入る。はぁ……はぁ、息切れが激しいよ。でもこれで大丈夫だ! 安心からか一気に疲れが出た僕は扉の前でへたり込んだ。
「また騒がしくなってるみたいだけど……って光輝くんっ!? どうしたの?」
「クラス相手に、頑張ってました……はぁ、はぁ、はぁ」
こっちの様子に気付いたのか、夏兄、シャルルくん、ベットで起き上がっているセシリアさんと凰さん。そしてパートナーになりたいと言っている本人――エリスさんがそこには居た。
――ドカンッ!!!
「観念だよ〜おりむーU〜」
「光輝きゅん〜ここ開けてぇ」
「なんで逃げるのよ! 私とヤるのは嫌なの!?」
もたれかかってた保健室の扉がへこんだ……。その衝撃で僕は数メートル飛ばされてしまった。これがクラスの女子が団結した力だっていうのか……!
怖くなった僕は咄嗟にベットの下に隠れた。
「夏兄〜助けてよ〜」
「わ、分かった。なんとかしてみるぜ……!」
そう言って夏兄は扉の前に立つ。今もなお扉に衝撃が加えられている。
「みんな、ここは保健室なんだから静かにしろよな! それに光輝は窓から逃げたぜ」
扉越しに声をかける夏兄。それを聞いて納得したのか衝撃は止まり、移動していく足音が聞こえる。た、助かったぁ〜。
「やっぱり夏兄は凄いなぁ。一言でみんなを止めるんだもん」
「正直、自信なかったけどやってみるもんだな。ってもう出てきても大丈夫だろ」
「そ、そうだね。ふぅ助かった〜」
ベットの下から出た僕は改めてことの収束したことに安堵を感じた。
そしてベットにいる怪我人の二人に声をかける。
「二人とも今度のトーナメントは大丈夫なの?」
あれほどの損傷なら修理にかなり時間がかかるはず。トーナメントに間に合えばいいけど……。
「さっき山田先生が来て、二人の損傷レベルがCまでいってたから今後を考えて今回のトーナメントは出場禁止なんだよ」
そう言ったのはシャルルくんだ。そんなことって……。余計なことを聞いてしまったな。
「ごめん二人とも。何も知らずに聞いて」
「私たちなら大丈夫ですわ! この雪辱は必ず晴らしてみせますから!」
「次は負けないわよ!」
悔しさと復讐を感じる。でも復讐なんてやったら……。
「またいつか挑むのはいいと思うよ。でも、復讐に取りつかれちゃダメだよ。周りが見えなくなってしまうから」
一気に空気が重くなってしまうけど、これは言っておかないといけないことだから。
「分かりました。肝に命じておきますわ」
「けっこう、難しい話ね……。まぁ覚えておくわよ」
おお、あの二人が真剣に話を聞いてくれたよ。セシリアさんなんか心なしか顔が赤いし、どうかしたのだろうか?
「それはそうと光輝、今度のトーナメントは誰と組むんだ? 俺はシャルルと組むことになったんだけど」
ッ! お母さんは預言者なのか!? 本当に組んでたよこの二人……。 でも僕はもう決めてるから大丈夫さ。
「そのことなんだけどね、エリスさんと組もうかと思ってるんだよ」
「わ、わたし!?」
「うん。なぜか知らないけど、織斑先生に直接頼んだんでしょ? 組むのは良いんだけど理由が知りたいと言うか……」
エリスって大胆ねぇ〜、と凰さん。そして顔を赤くさせるエリスさんと憤慨しているセシリアさん。三人の違う表情を見ると面白いと思う自分がいます。
「はぁ〜光輝。そういうのは聞かないのが優しさってもんだよ?」
「え? そうなの? う〜ん、シャルルくんがそういうなら……」
突然シャルルくんに注意されてしまった。よく意味が分からないけど、聞かない方がいいなら止めておこう。無理やり聞いて相手を傷つけたくないし。
「エリスさん、今度のトーナメント僕と組んでくれますか? 嫌ならそう言ってもらっても構わないから」
「私が頼みたいくらいなのに……。是非、私と組んでください!」
最初の方はよく聞こえなかったけど、僕と組んでくれるようだ。パートナーが見つかって良かったよ。
「じゃあ優勝目指して頑張ろうか! でもその前にハイメガキャノンの調整を完璧にしなくちゃね」
「あはは、そ、そうだね。まずはそこからだね」
こうして今度のトーナメントのパートナーはエリスさんに決まった。
しかし、さっきからセシリアさんがこちらをすごい形相で睨みつけている。
「織斑兄弟はなぜこうも鈍感な方々なんでしょう……」
それってどういう意味だよセシリアさん!?
時は進み、トーナメント一週間前の放課後。僕とエリスさんは第三アリーナで模擬戦の準備をしていた。ハイメガキャノンの調整も完璧になり――アリーナのシールドエネルギーを消滅させるのを100%とすると、今は30%程度。装甲を溶かすのが60%の出力でした――絶対防御を発生させるかどうかの瀬戸際だ。それでもダメージは大きいけどね。まぁ溶かすよりかはいいでしょう……。
今このアリーナにいるのはISを纏った僕達だけだ。ハイメガキャノンの調子が狂った時のことを考えて他の生徒は怖がって入ってこないらしい。確かにハイメガキャノンの威力を知ってる人からしたらそうなるのかな。
「エリスさん、準備はいい?」
「大丈夫だよ。いつでもどうぞ!」
そう言って僕達は身構える。いつも明るいイメージのエリスさんだけど戦闘時にはかなりの気迫を感じる。その静かな環境を先に破ったのはエリスさんだった。
バックパックに2つ装備してある21連装ミサイルランチャーを発射してきた。僕はそれを素早く回避しつつ頭部バルカン砲でミサイルを破壊する。このミサイルはホーミング力が高いから避けるのが辛い。こうしてバルカンで破壊できるけど何個かは壊せずに当たってしまう。ホーミング力の高さもあるけど、大部分は反応はできるけど身体が追いつかないというのは本音です……。
更にエリスさんはもう片方のミサイルランチャーを発射し、2連装ビームライフルまで撃ってくる。エリスさんの射撃精度はそこそこだ。でも今はビームライフルではさんでミサイルの命中を狙っているのが見え見えだ。なら……。
「行って、フィンファンネル!」
5基のフィンファンネルは反応して僕を中心にピラミッド型のビームバリアを形成する。これならビームライフルはもちろん、ミサイルも防ぐことが出来る。制限はだいたい1分ぐらいなのでミサイルの猛攻には耐えれるはず。
エリスさんは接近戦にするのか背中に装備してあるハイパービームサーベルを抜き、こちらに接近してくる。ZZガンダムのビームサーベルはνガンダムのものより出力が上なのだ。でも接近ならこっちに部がある。ZZガンダムのは少し大きめなので大振りになってしまうがνガンダムは比べて小さく、適切な場面でビームの刃も出るので小回りがよく効くのだ。まぁエリスさんは接近より射撃が向いているのもあるかな。
僕はビームバリアを解除してサーベルを抜き、エリスさんを待つ。これはエリスさんの太刀筋を見極めると共に大きな隙を見つけて、カウンターを放つという作戦だ。箒さんや夏兄のように見極めれてもカウンターが難しい人もいる。相手によっては危険な行為とも言える。
そんなことを考えている内にエリスさんが僕に切りかかる。僕はそれをギリギリの距離で避ける。エリスさんは手を休めることもなくどんどん切りかかってくるが僕はそれを避け続ける。
だんだんイライラしてきたのかエリスさんの太刀筋が荒いものになってきた。そろそろ見えてくるかな……。
「あたれぇぇ!」
気合の入った切りつけだけど、今までで大きな隙だ! 僕はその攻撃を避け、姿勢を低くしてサーベルを切り上げる。案の定、エリスさんはそれを避けることが出来ずにシールドエネルギーで守られるがダメージを負う。距離を置くと思ったが、エリスさんはサーベルを持った僕の手を掴む。
「ゼロ距離なら当たるはず……!」
「まさか……ちょっと待った! この距離でハイメガキャノンは止めて! さずがにISが持たない!」
「止めないよ。私だって光輝くんに勝ちたいんだもん!」
「負けを認めるから止めて! どっちにせよゼロ距離のハイメガキャノンを受けたらエネルギーが0になるのはわかってることだしさ!」
エリスさんは考え込む。なにやら小声で喋っているが何を言ってるかは分からない。一体僕はどうなるんだ……。
「やっぱり私の負けでいいよ。模擬戦でここまでする私が馬鹿だったんだ。ごめんね」
そう言ってエリスさんは手を放すと同時にISを解除する。いきなりどうしたんだよ? 僕は何か酷いことでも言ってしまったのか?
「いや、そこまで気にしなくていいから! だから元気出して!」
「うん……。あのね、今から私の部屋に来てくれないかな?」
「別にいいけど、相方の人は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。今日は遅くなるって言ってたから」
何をするのかよく分からないけど、僕にも非があるしエリスさんが元気になってくれるなら行こう。
「分かった。模擬戦はここまでにしようか。他の人も待ってるし、ZZガンダムの調子もバッチシだしね。さて着替えますか」
そう言って僕達はアリーナを後にした。この後悪夢があることも知らずに……。
「う〜ん。光輝くんて才能あるね〜」
「……」
「本当に男性なのが信じれませんわ」
場所は変わってエリスさんの部屋にて。なぜかセシリアさんもいるがこの際どうでもいいよ。この二人が元気なってくれるならに僕は嬉しい。でも……。
「だからって女子の制服を着る僕って一体……」
「だからそんなに悲観しなくていいって。すっごく似合ってるよ! そうだよねセシリア?」
「そうですわね。でも少し嫉妬します。男性なのに女性の私達より綺麗なんて……!」
「それはそうかもね〜。もしかして本当は女とか……!」
僕にじりじりと向かってくる遠距離が得意なお二人様。いやいや! 僕はちゃんとした男だよ!
後ずさりしているとベットに躓(つまず)き、倒れてしまった。地味にかかとが痛い……。そんなこと考えてたら二人がすぐ目の前に! 万事休すなのか!? 誰か助けてくれー!
「よし! このままの恰好でご飯食べに行こうか! いいよねセシリア?」
「もちろんですわ! 今日は可愛い光輝さんをしっかり拝みましょう!」
「ちょっと待って……このままの恰好はさすがにダメだって! 絶対いろいろと勘違いされちゃうよ!」
あぁ……お願いだからそれはやめてくれー! 二人から異様なプレッシャーを感じるし、後ろに不気味なオーラが見えるぞ! これが女子の本当の姿なのか!?
抵抗も空しく、僕は二人の女子にこの姿のまま食堂へと連れ去られたのだった。悲惨だったことは言うまでもない。そして二度と思い出したくもないし、その話をするのも嫌だ!
あの女装事件が終わって食堂から部屋に帰ってきた僕はシャワーを浴びてベットでのんびりしていた――もとい、のびていた。
「つ、疲れた……もう嫌だ」
あの惨劇は夢に出てきそうで怖い。まぁ終わったことは気にしないように……。うん、大丈夫なはず!
自己暗示をしているとノック音が聞こえてきた。この感じは……さっきの事件の首謀者の一人である、エリス・リムスカヤさんその人だ。今度は一体何だ!?
僕はドアの前まで移動して立ち止り、「何?」と尋ねる。警戒しなければ何をされるか分かったもんじゃないよ。
「あのさ、渡したいものがあるんだけどいいかな?」
「……今度は変なことしないって約束できますか? あの惨撃を繰り返さないと約束できますか?」
「だ、大丈夫だよ。さっきのは反省してます……。セシリアも私も調子に乗り過ぎたから。本当にごめん」
真剣な口調で謝罪するエリスさん。警戒する必要はないみたいだね。僕はドアを開けてエリスさんを中に入れる。
「お詫びの印って訳じゃないけど、これしてほしいなって思ってさ」
そう言って制服のポケットから取り出したのは羽の髪止めだった。エリスさんが前髪にしているものと同じものらしい。
「へぇ〜、エリスさんとおそろいの髪止めか。ちょっと恥ずかしいけど早速止めようかな」
「ほんとに!? ありがと光輝くんっ。えっとさ、私が止めてもいいかな?」
僕自身、どこに止めていいか分からないしここはエリスさんにおまかせにしよう。
「うん、エリスさんにおまかせします」
「じゃあ目を瞑ってて。すぐに終わるから」
そう言われ僕は目を瞑る。エリスさんと同じ髪止めかぁ。恥ずかしいけど嬉しいな。
「はい。開けていいよ。私は左に付けてるから光輝くんは右に付けてみたけどどうかな? 私は凄く似合ってる思うよ」
差し出された手鏡で自分の前髪を見る。うん、違和感もないし前が見えやすくなった気がする。
「ありがとうエリスさん。さずがに寝るときは外すけど明日から付けていくね」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。じゃあ私はそろそろ帰ります。また明日!」
嬉しそうなエリスさんを見送りながら僕はこの髪止めに夢中になっていた。
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