真・恋姫†無双〜天兵伝〜 第7話
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孫堅の荊州討伐は順調であった。

 

 

緒戦で、迎撃に向かってきた黄祖を打ち破った。士気高く、鍛え上げられた江東の兵士たちはまさに『精鋭』であった。孫堅を抑えることはできなかった黄祖軍は敗走した。

 

 

「いや〜、勝利の後の酒は美味い!!」

 

 

孫堅は、勝利の美酒を思う存分堪能する。

 

夏江を攻め落としてからというもの、孫堅軍は破竹の快進撃を成し遂げていた。

 

 

「あ、堅殿!! それは儂の酒ですぞっ!!」

 

「いいじゃないか別に。 貴女の酒は私のものだろうに」

 

 

孫堅は高らかに笑い、酒を喉に流し込んでいく。

 

 

「プハァ! 最っ高!!」

 

「わ、儂の酒が・・・・・」

 

 

カラになった容器を眺めながら、一人の女性が半泣きになる。

 

孫堅に仕える武将、黄蓋は涙目で孫堅を睨みつける。

 

 

「それは儂が出陣のときから大事に大事にとっておいた酒なのですぞ!!」

 

「んー、知ってるけど」

 

「な・・・・! 知っておきながらそんな非道なことを!!」

 

「いいじゃないか別に」

 

「良くないッ!!」

 

 

ウガー!と咆える黄蓋を肴に、孫堅は別の酒を口にする。

 

そんな2人の様子を見かねて、孫堅の娘である孫策が苦笑いを浮かべる。

 

 

「元気ねぇ・・・・。というか、母様。 あんまり飲んだら酔いが残っちゃうんじゃない?」

 

「何を言っている。 こういう時に飲まずにいつ飲む」

 

 

「それに」と言うと、孫堅は愛娘にビシッと指を指した。

 

 

「お前も人のこと言えんだろうが。 酒樽まるまる三つ飲み干したくせに」

 

「母様は五つでしょ。 あと、祭のお酒」

 

「五つくらいどうってことないわ」

 

 

酒を飲むことを止めない孫堅に、「ダメだこりゃ」と孫策は匙を投げた。

 

 

「それにしても、あっという間に漢水まで来れたわねぇ」

 

「んー。敵が大したことなかったからな」

 

 

コクコクと喉を鳴らしながら、孫堅は娘の呟きに答えた。

 

 

「もっと手ごたえのあるものかと思ったが、そうでもなかった。 殺し甲斐のない雑魚ばかりで正直つまらん」

 

「ま、おかげでこっちの被害は最小限に抑えられてるから構わないんだけど」

 

「しかし、気になることもある」

 

「祭が母様のお酒に手を出してること?」

 

「なんだと!?」

 

 

ハッ! とその場を見渡す。 すると、自分がわざわざ持参していた酒が黄蓋に侵略されていた。すでにいくつかは空っぽのようだ。

 

 

「何をしている!! それは私の酒だぞ!?」

 

「うるさいうるさい! 堅殿が悪いんじゃ〜!」

 

「わあああああ!? バカ!よせ!!やめて!!」

 

「仕返しじゃ〜!」

 

 

涙目で止めにかかる孫堅。まるで子供のケンカのような光景だ。

 

孫策は楽しそうにその様子を眺めていた。

 

 

 

孫堅が言っていた、『気になること』。

 

それは孫策にもわかることだ。

 

 

『荊州に天の御使いがいる』

 

 

情報は不確かだが、無下にはできない。

 

この侵攻作戦は荊州の占領が目的だ。だが、もう一つの目的がある。

 

天の御使いの確認、および奪取。

 

御使いを手に入れれば、大いに役立つだろう。

 

 

だが、もし御使いが牙をむけば?

 

 

未知の敵が立ちはだかったその時、自分たちは勝てるだろうか。

 

ただでは済まない気がする。

 

気にしすぎているだけかもしれないが、不安が拭えないのもたしかだ。

 

 

「雪蓮、手伝ってくれ!! このままでは私の『命の水』が!!」

 

「儂を怒らせるとどうなるか、身をもって思い知るがいい!」

 

「・・・・やっぱ大丈夫かも」

 

 

「私も飲むー」と言って二人の元へ向かう孫策。

 

 

 

この夜、孫堅軍は大いに宴を楽しんだ。

 

 

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同刻。

 

 

 

「御使い殿、作業すべて終わりましたっ!!」

 

 

数十人の兵士が、とある部屋の扉の前に整列をする。部屋の中には、硬質の黒い箱が山のように積まれている。

 

 

「すまねぇな。 緊急時だってのに」

 

 

これらは全てヘリに積み込まれていた物資だった。劉表が兵士を貸してくれたおかげもあり、スムーズに武器弾薬の搬送が終わった。

 

 

「今度、礼に酒でも持ってくよ」

 

「あ、ありがとうございます・・・・」

 

 

兵士たちの、不安を押し隠したような表情。

 

その理由は単純明快。『孫堅』のことだ。

 

敵の矛先が、ここ襄陽であるのはすでに一刀も知っていた。徐福から聞いた話によれば、敵は黄祖という将軍が率いる迎撃部隊はすでに敗退しているそうだ。今、劉表たちが今後の方針について軍議を開いている。

 

不安。

 

最前線で戦うことになるのは、兵士だ。つまり、いま目の前に立っている彼らだ。彼らが武器を持ち、駆け抜け、勝利を掴み取らねばならないのだ。

 

 

「お前らはどこの所属だ?」

 

「襄陽西部、隆中山の防衛部隊です。 御使い殿が降りられた森も、隆中山の一部ですよ」

 

「そうだったのか」

 

 

意外な事実だった。

 

あのヘリと海兵隊パイロット達が眠るあの場所に、名前があったとは。

 

どうでもいい些細な事なのだが、どうにも笑えてくる。自分が何日も過ごしてきた場所だけに、愛着のようなものを抱いているのかもしれない。

 

 

「あの場所には、『3人の仲間』が眠っている」

 

「仲間・・・・?」

 

「ちょっとした『まじない』を教えよう。仲間と皆でやってみな。そしたら、『奴ら』があの世から加勢をしてくれるぜ?」

 

 

 

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徐福が一刀のもとへやって来た。軍議が終わったようだ。

 

軍議の結果、抗戦の継続が決定した。

 

襄陽を防衛拠点として部隊を展開、総力をもって迎撃をするとのことだ。

 

 

「血気盛んだな。元気なこった」

 

「ですが、士気はあまり高くありません。みんな孫堅軍を恐れていて・・・・」

 

「まあ、そうだな。 運搬を手伝ってくれた兵士たちも元気なかったよ」

 

「なんとかして士気を高めたいのですが・・・・」

 

 

兵士の『士気』とは、『質』と同じくらい重要なもの。練度が低くても、士気が高ければ相応の戦果は残せる。

 

逆に、士気が低ければどんな戦況にも呑み込まれてしまう。

 

 

「で、劉表たちはどう戦うんだ?」

 

「地形上、敵は南方から攻めてくるでしょう。なので襄陽の南方面に防衛線を張り、迎撃します」

 

「そうかい。徐福も出るのか?」

 

「はい。ですが、正直なところあまり兵法には詳しくないんです・・・・。防御の方法とか、北郷殿はご存知ですか?」

 

 

徐福が困り顔で尋ねてきた。

 

一刀は記憶を探り、覚えていることを引っ張り出す。

 

 

「『陣地防御』ってのは数種類ある。一つは『陣前減滅』で、防衛線を越えられないようにする戦法だ。もう一つは『陣内消耗』で、敵に防衛線を越えられるのを前提にした戦い方だ。 防衛線を突破した敵はいわゆる『突出点』となり、あらゆる方面から攻撃を受けて被害が大きくなるだろ。大規模な『面攻撃』を喰らわせ続けることで敵部隊を消耗させるんだ。三つ目は『陣前消耗』てやつだ。防衛線にて敵部隊を消耗させてから、わざと後退する。そんで敵を陣地内部に誘導させたところで反撃を展開、最終的に撃滅させる戦法だ」

 

「おぉ・・・・!!」

 

 

はたして理解できたのだろうか。そんな一刀の心配をよそに、徐福は目をキラキラと輝かせているだけだった。

 

「だけどな」と、一刀は注意点を挙げた。

 

 

「防衛は守るだけじゃ勝てねぇんだ。『反撃』してこっちが攻勢に出ねぇと敵は撃退できない」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「できないっつーか、しにくい」

 

「へぇ」

 

 

防衛における『反攻』の重要性は、『スターリングラード攻防戦』という戦闘が良い例となるかもしれない。

 

それはさておき、劉表軍の方針は理解できた。徐福も劉表軍と共に戦線に出るというのもわかった。

 

では、一刀自身はどうするべきか?

 

劉表達は一刀の事を『天の御使い』と認識している。ならば、予想される一刀の未来は2つ。

 

一つは、大切に厳重に保護される。宝物のような扱いを受ける未来。

 

もう一つは、劉表軍に従軍して戦線に加わるという未来だ。

 

劉表が一刀をどう扱うつもりなのか、それによって一刀の未来は大きく変わるだろう。

 

 

だが、それはあくまで『受け』の立場であった場合の話だ。

 

一刀に意志があれば、話は変わる。

 

 

「徐福が戦闘に出るんなら、俺も出るか」

 

「勝手に決めて大丈夫なんですか・・・・?」

 

「俺がいつ劉表の配下になった? 俺はお前に協力する立場にあるだけだ。たとえ徐福が劉表の配下であっても、俺は劉表の配下ではない。つまり、間接的な関係に過ぎねぇんだよ」

 

 

そう言うと、一刀はポケットから積載物一覧表を取り出した。

 

どれを使用するか考えていると、徐福のいる方から「あの・・・・」と声が聞こえた。

 

見ると、劉表の姿があった。

 

 

「何をして・・・・おられるのですか・・・・?」

 

「んぁ? 何を装備するか決めているところだが」

 

「そ、装備・・・・ですか・・・・?」

 

「ああ。 戦闘に装備は不可欠だろ?」

 

「え・・・・北郷様も戦場に・・・・!?」

 

 

どうやら、一刀が戦闘に参加することは劉表にとって予想外だったらしい。

 

劉表は知らない。

 

陸上自衛隊が、防人であることを。

 

つまり、一刀が兵士であることを知らないのだ。

 

 

「心配すんな。戦場は、俺の『居場所』だ」

 

「居場所・・・・で、ございますか・・・・?」

 

「あぁそうだ。 見てな」

 

 

 

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「進軍開始!!」

 

 

襄陽から南へ少し離れた場所に―――――――長江最大の支流である漢水でも、川幅が約一里(500メートル)ほどの場所がある。

 

孫堅軍は渡河地点をそこに決定した。孫堅は各部隊を船に乗せ、朝日が昇るころには渡河を完了させていた。

 

 

「んー、今日は良い天気だ!! 戦をするにはもってこいの日だな!!」

 

 

孫堅の気分はすこぶる良く、また配下の兵士の状態も最高だった。

 

健康状態良好、練度最高、士気最高、装備万全。

 

一つたりとも不安要素はない。

 

 

「堅殿、はりきってますなぁ」

 

「いつも通りの母様じゃない?」

 

 

黄蓋と孫策はカラカラと笑う。二人の状態も万全だ。

 

三人は部隊を進撃させ、北を目指す。

 

襄陽まであと一息。襄陽を占領し、劉表を討てば荊州が手に入る。無論、敵は迎え撃ってくるであろう。しかし、負ける気がしない。

 

不安なのは『天の御使い』のみ。 だが、不確定要素に満ちた存在を恐れたところで、どうにもならない。

 

屈強な兵士達、一騎当千の武将たち。彼らの存在がある以上、『御使い』が相手でも勝てる自信がある。

 

 

だが、隆中山の麓に差しかかろうとしたその時。

 

孫堅の『自信』は砕け散った。

 

 

 

《ドォン!!》

 

 

「!?」

 

 

鈍い炸裂音。

 

ふと左を見れば、陣形に『凹み』が生じていた。

 

兵士たちがバタバタと倒れている。

 

攻撃か?

 

 

「何が起こった!!」

 

 

黄蓋が状況の把握を開始。

 

同時に、孫策が『何か』を発見した。

 

 

「母様! 前に誰かいる!!」

 

 

娘の言葉に、視線を前方へ移した。

 

すると、弓矢が届かないくらい離れた所に人影が二つ見えた。

 

誰だ。

 

目を凝らす。

 

何か細いものを持っている。

 

その隣にもう一人。馬に乗っている。

 

何者だ?

 

 

 

「ツキの無い日にギャンブルとは最悪だ。 勝てない上に身ぐるみ剥がされちまう」

 

「なんだ貴様は?」

 

「テメェのギャンブルに付き合う男だ。大切な部下も、貴重な物資も、勝利を信じる心も、全部賭けてかかってこい」

 

 

刹那。

 

男は手に持っていた細い物を構えた。

 

 

「掻っ攫え!!!!」

 

 

男の怒号の後、隆中山が凄まじい叫び声をあげた。

 

 

「「「「「「「「「 Once a Marine!!! Always a Marine!!! Semper Fi!!! 」」」」」」」」」

 

 

「へっ、気合は十分か・・・・・!! oohrah?」

 

 

「「「「「「「「「 oooooooohraaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaah!!!!!!!!!!!!! 」」」」」」」」

 

 

 

 

一刀がRPG-7 サーモバリック弾を撃ったと同時に、隆中山から海兵隊の掛け声を叫ぶ劉表軍が襲い掛かった。

 

説明

スーツ高すぎワロエナイ
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コメント
更新再開待っています。劉表が好きで、なおかつ、孫家が大嫌いな私としては、この作品の展開がドストライクです。(Daisuke)
この戦いで孫堅が死んじまうのか? それとも生存ルートか?(ロンリー浪人)
孫家の獣、増してや孫堅と真正面から戦おうとする天の御使いなんてそう居ないだろうなー(TAPEt)
おぉぉ・・・これは凄い。でも相手はあの孫母娘ですから、何が起こることやら・・・(海平?)
おぉ、熱いなぁ。兵士達の訓練は「パパアンマーマワローリンベーッ♪」な感じになるなw(eitogu)
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