IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
「う……ふぁああっ、と」
真っ白な空間から浮上した意識が覚めて、最初に見たのは夕焼けの朱に染まる保健室。
「もう夕方になってたのか……ん?」
上体を起こして周囲を見渡す。
すると視界の隅に、見慣れた水色の髪が見えた。
「楯無、か」
楯無は俺のベッド脇にあるイスに座って、頭はベッドの上で自分の腕を枕にして寝ていた。
「ここで寝てんじゃねえよ……」
なんとなく手を伸ばして、その頭を撫でる。
ああ、髪の毛サラサラだなぁ……。
「んっ……拓、神?」
どうやら目が覚めたようだ。
「ああ、おはよう……なんてな。もう夕方だぞ?」
「だ、大丈夫なの!? 終わってから急に倒れたって聞いて、織斑先生に場所聞いて……!」
取り乱す楯無も珍しい。
でも、それだけ想われてるってことで……顔が赤くなりそうだ。
「そこまで心配されてもな。疲れで気を失っただけだ。でもありがとう、楯無」
「そうなんだ……まあ、どういたしまして?」
「なんで疑問だし…まあいいや」
「……本当、良かったわ。君に何も無くて」
「俺は死なないよ。俺は不死身(笑)だからさ」
不死身の某サワーさんって本当、不死身だよな。
そして最後は思いっきり幸せだよな。
「笑ってなによ、笑って……」
「ねえ…真面目な話、してもいい?」
急に真面目な顔になって、俺の目をしっかり見てくる楯無。
「あ、ああ。わかった」
「……拓神は、あの無人機のことを知っていた。違う?」
ああ、やっぱり、ごまかしはきかないか。特にコイツには。
「……あってるよ。再起動については知らなかったけどさ」
「どうして知ってたの?」
「……知りたいのは、ここの生徒会長として? それとも個人として?」
「質問に質問で返すのは、おいしくないなぁ…」
「これだけは聞いておきたいからさ」
今、生徒会長として。を選んだ場合、俺に真実を教えるつもりは無い。
さあ、どうする? 楯無。
「そうね……私には生徒会長としての義務もあるでしょうけど、個人よ。拓神を好きな一人の女として、君の事を知っていたい」
いつも通りストレートだなぁ。心が揺らぐだろうが。
"教えたくない、普通に暮らして欲しい"って。
「……知ってる理由を、教えても良い。でも、聞いたら戻れない」
「いいわ。もしものときは拓神が面倒見てくれるんでしょ?」
即答かよ。しかも、それは卑怯だぞ。
「なんだよそれ。――本当に?」
「ええ、覚悟はできたわよ」
自分から言っておいて、いざ言うとなると喉がカラカラになってうまく声が出せない。
信じてもらえるのか、気味悪がられないだろうか。そんな嫌な予測が頭を埋め尽くして、言葉を止めようとする。
でも、言う。
俺のことを想ってくれている、楯無のために。
「……わかった、教える。まずは―――――――
全てを話す事にした。
俺のこと。
そして半神について。
無人機、バグ。
現状で楯無に隠していることを全て話した。
無論、転生者であることと楯無の想いを受け入れられない理由も。
流石にこの世界の未来で起きることは教えなかったけれど。
話の最中、楯無は常に真剣な表情だった。
途中、驚きで多少表情が変わることはあったけれど、ほとんど気づかない程度。
―――これで全部。……どう思った? 俺は普通の人じゃないんだよ…ただでさえ転生者だ。幸せになる資格すらない」
多分、今の俺はとても乾いた笑みを浮かべていることだろう。
そんなレベルで―――
「――これが現実」
言い終えた俺は、うつむく。
今は楯無の顔を見れなかった。
認めてもらえるまで、見てはいけない気がした。
「「…………」」
「「…………」」
長い長い沈黙。
本当は短いのかもしれない。でも、とてつもなく長く感じる。
「ねえ」
楯無が口を開いた。
「何?」
「拓神は、本当にそんなことを思ってるの?」
「……なにが?」
「『幸せになる資格がない』なんて、本当に思ってるの?」
「ああ……思ってr――」
「――馬鹿言わないで!」
初めて聞く楯無の怒声。
俺は、うつむいてた顔を上げて楯無を見る。
「私の気持ちはいい、フラれても仕方ないって思える。けど、けど! そんな悲しいこと、言わないでよっ!」
「楯無……」
「ここにいるのは、拓神。『玖蘭拓神』以上でも以下でもない。拓神は拓神だよ……ここにいる拓神は偽者かなにかなの? 違うわよね? なら幸せになる資格も権利もある。だから……!」
「っ…!」
忘れてた、んだろうか。
それとも意図的に忘れようとしてたのか。
俺は俺、それ以外じゃない。そんな当たり前なことを。
転生したから、俺は普通の人間じゃないから……そんな理由はただの建前で。
―――なんでもない、俺は……俺だ。
「ゴメン、楯無。俺は俺だよな……。なんでかすっかり忘れてたよ。ありがとな、思い出せたよ」
「……うんっ」
今の半泣き状態の楯無からは、いつもの威厳もなにも感じ取れ無かった。
居るのは、ただの女子。一つ年上の女の子、それだけ。
ポフッ。とまた楯無の頭に手を載せて、撫でる。
恥ずかしいのか、頬を朱に染めて少しうつむいた。
◆
「落ち着いたか?」
「拓神のせいだよね?」
あの後、楯無が((復活|いつもどおり))になるまで俺は頭を撫で続けていた。
いつもの楯無の裏側を見れた気がして。それと、あんな状態の楯無は……可愛かった。
「なあ、楯無」
「ん? なに?」
「なんで、俺のことを信じたんだ? 普通だったらあんな事言っても信じてくれない」
「それは…拓神が、あんな場面で嘘をつくとは思えないもの」
「えらく信用されてるなあ……信じてくれてありがとう」
俺も人のことを言えないくらいに、楯無を信用してはいるが。
というか、なぜ楯無に本当のことを話したんだろう……?
(たぶん、甘えたかったのかな……楯無に)
俺は一応、そう結論つけることにした。
異質な俺を、そうと知らないでも好きになってくれた。だから……だろう。
「で、楯無。どうするんだ?」
「何が?」
「俺について。お前が俺に好意を寄せてるのはとっくに分かってる。というかアピールしすぎだ」
「あら? 嫌だったの?」
「うぐ……。それは……」
「あはっ♪ 冗談よ」
「私は……拓神がどんなでも私の気持ちは変わらないわ。あなたの…拓神のことが好き」
今更だが、面と向かって"好き"と言われたのは初めてだ……前世込みで。
そんな理由で、今更ながら顔が赤くなったのがわかった。
それでも、楯無からは目を逸らさない。
「……俺とお前じゃ、流れる時間が違いすぎる。さっき言ったろ? 俺の寿命は、人の寿命と桁が違うんだ」
「それでも。私が死ぬまでは、あなたのそばに居たい」
「まったく。本当、俺のどこにそんな魅力があるって言うんだ……」
「私からしたら、あなたは十分に魅力的よ?
……今すぐ食べちゃいたいくらいに」
ゾクッ、とした感覚が背筋を凍らせた。
というか、楯無は有言実行しそうで怖い。そして既に近づいてきてるのは、幻覚だと信じたい。
「お、おい、冗談……だよな?」
「……そう思うのかしら?」
じりじりと、ベッドの上の俺に迫ってくる楯無。
ベッドの上に上がると、四つん這いのまままだ思うように動けない俺の上に来た。
「それで――」
「?」
「あなたの答えは、出たの?」
「何の?」
「私の気持ちに……想いに対する答え」
……どうなんだろう。
俺は……楯無のことが……好き……なんだろうか? こんな俺を、受け入れてくれた楯無が……
好き………なんだよなぁ。好きに、なっちまったんだよな……。
今なら分かる気がした。楯無の言っていた『魂が惹かれる』という言葉の意味が。
本能で求めてしまう。俺は、楯無を……。
(ああ、これは宣言通り、楯無に"心を奪われた"よ)
「俺は……」
「うん」
「楯無のことが……」
「うん」
「……好きだ」
言ったことで、なんだかもどかしくなって……近くにあった楯無の唇を奪った。
もう何度かしたはずなのに、感覚が違う。
キスは一瞬で、俺はすぐに離れる。
「……嬉しいな♪ ありがとう」
「それは俺の言うべき言葉だよ……それと提案が一つある」
「提案?」
「そう、提案」
「どんな?」
「俺と同じ時間を生きるつもりはある?」
「……それは、私があなたと同じような存在になる。ということ?」
「ああ、そのままの解釈でいい。……別に今すぐじゃなくていいんだ。いつでも、その決意ができたときで」
「覚悟なら、もう『ダメだ』――どうして?」
「これは、そんなにすぐ決めて良いことじゃない。俺の時間は1万年、楯無が俺に飽きたとしてもどうにもならない」
むしろ俺は、今すぐにそうしてしまいたかった。
けど、本当にこれは簡単なことじゃない。
1万年は……永すぎる。
「なら、安心して良いわよ。私が拓神に飽きることなんてないわ」
「そんなこと、言いきれ『る、わよ?』」
「言ったでしょう? 魂が惹かれてるって。私はいつまでも…それこそ((永久|とわ))にでもいい。拓神と一緒に居たいの」
「……本当に?」
「本当に」
ずいっと顔を、鼻が触れるくらいまで接近してきた。
「だから……『迷惑になるかも』とか、そんな考えは捨てなさい?」
心を先読みされた気分……というかされた。
俺は今から、それを考えようとしてた。
それと―――
「……更識家はどうする?」
「そうね……ある程度したら、妹に任せるわ」
笑顔でそう言い切った楯無。
「いいのか?」
楯無の妹『((更識簪|さらしきかんざし))』。一年四組所属の専用機が無い、専用機持ち。性格は楯無とは正反対。
「あの子はそんなに弱い子じゃないもの。でもただ押し付けるだけっていうのは嫌だから、それなりにはやるけどね」
「そっか。楯無がそう言うなら……」
「しつこいけど、本当に良いのかよ?」
「ええ、お願いするわ」
「……わかった」
そう答えた俺は、今俺の上に居る楯無と場所を入れ替わるため、楯無の腕を引く。
「? ――きゃっ!」
楯無をベッドに引き倒すと、俺は起き上がって楯無の上に。
周りから見ると、俺が楯無を押し倒しているように見える。
「じゃあ、抵抗するなよ?」
それだけを告げて、楯無にキス。
ただのキスじゃない。永い時を共に歩むという制約の、契約のキス。
楯無の口内に舌をすべり込ませる。
「ん―――んんっ!? っ……」
自分の唾液に体の中を流れる、血液ではなく、あれから新しく感じているモノ――神力――を混ぜる。
そしてそれを、繋がっている口を通して楯無の方へ流し込んだ。
「んっ―――(ゴクン)」
楯無がそれを飲み込むのを確認する。
でもそれちょっとエロく見えた俺は、少し楯無とのキスを堪能してから唇を離した。
「ふぁっ……拓神って、以外と強引なのね」
体を起こして、楯無から離れる。
「少なくとも楯無が言える台詞じゃないだろ……なにか感じないか? 血液じゃない、体の中を流れるナニカを」
「ええ、まだなんとなくだけれど……これが神力?」
「ああ。人は誰でも神力を少しは持ってる、って父さん(神)が言ってた。俺はそれを増幅させただけ。……それでも、身体は半神のものに変化していくんだけどさ」
「……これで私も拓神と同じになれた?」
「まあ、な。……その感じてるものを目に行くようにイメージしてみて」
「え、ええ。わかったわ」
楯無が一度目を閉じて、少ししてから開く。
その目は"金色"に輝いていた。
「成功。見てみ」
ベッドの隣の棚の上にある、小さな置くタイプの鏡を取って楯無に向ける。
その目を一度見開いてから、楯無が口を開いた。
「金色……((境界|ウォーダン))の((瞳|・オージェ))みたいね」
「悪いけど、あれより性能が良いよ。意識すれば、制限無くどこまでも見える……解除にはその目から神力が無くなる感じで、イメージしてくれ」
そういうと楯無はもう一度目を閉じて、開く。
すると、いつも通りのルビー色に戻った。
「OK、解除もできてる。他にも色々あるけど、使い方は今と同じ。その場所に楯無の神力を集中させるイメージでいい。ちゃんと認識できてるし、暴走することもなさそうだ」
「そう、わかったわ。……そうだ、楯無が借り物の名前ってことは知ってるのよね?」
「ああ、更識家当主が継ぐ名前だろ?」
「そう。でも、あなたには本当の名前で呼んでもらいたいな」
「それを知らないぞ?」
「だから教えるの」
そういうと、楯無は俺の耳元に口を寄せて
「私の本当の名前はね――『更識 ((結|ゆい))』よ。二人きりとか、特別なときはそう呼んでちょうだい」
「ああ、わかった。結」
「久しぶりね、その名で呼ばれたのは……少し、寝てもいい?」
「体が力に慣れてないから負荷がかかったんだろうな。少しすれば慣れて違和感も何も無くなるはず。……ああ、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい……」
すぐに寝息が聞こえてきた。
俺も気持ちの面で疲れが増えて、すぐにでも倒れそうだったからその場で並んで寝る事にする。
……今の幸せを噛み締めながら。
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第20話『拓神と楯無』 | ||
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