IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
保健室のベッドの上で眠りについた俺が起きたのは、日がもうどっぷりと暮れた頃だった。
もちろん楯無も一緒で。
そして誰もここに来なかったことに驚きだ。
「あー、寝すぎちゃったかしら?」
「いや、あの力はまだ慣れてない状態で使うと、気力を一気に消費するらしいからな。多分そのせいだ」
「使わせたのって拓神だよね?」
「……はい、そうです」
「敬語、戻ってる」
「仕方がないだろ。んなこと言われたら、非は俺にあるんだから」
「そんなわけで、罰ゲーム♪」
「人の話を無視するな!」
ったく、何で寝起きなのにそんなに元気あるんだよ。
「もう両想いだから……いいわよね?」
「なにが?」
「こういうこと」
俺はお互い寝転んだままの楯無に抱きしめられて、楯無の顔が俺の胸に。
そして、顔をうずめるようにしてきた。
「お、おい!?」
「はふぅ、拓神……」
「ちょっ、何やってんだお前!」
あれ? 楯無ってこんなキャラだっけ?
どうしてこうなった!?
それからしばらくしてから、俺は解放された。
「ふう、拓神エネルギー補給完了。さ、行くわよ」
「拓神エネルギーってなんだ!? てか、どこに行くんだ?」
「拓神エネルギーは拓神エネルギーよ。行き先は食堂に決まってるでしょ、もう夕食の時間よ?」
室内の時計に目を向ける。
すると、既に七時を回っていた。
「あ、マジだ」
「それとも、ここでこのまま私とえっちぃ事でもする? 私は構わないわよ?」
「俺が構うから。そして人の話を聞け」
「ゴメンゴメン♪」
「うわっ、謝る気ないだろ……まあいいや、行くぞ」
ちょっとした仕返しのつもりで、声だけかけて保健室からさっさと出て行こうとする。
「あ、待って!」
そうすると、すぐに追いかけてきた楯無が俺の隣に並んだ。
「で、どうしようと思う? バグについて」
「こんなところで話していいの?」
「ああ、どうせプログラムかなにかのバグの方だと思われる。……さっき説明した通り、バグは予測不能だ。神でもな。それで世界のどこかに巣を作る、でも行動基準は不明」
「謎ばかりね」
「それで更識の力を使えないかと思うんだよ、俺は。発生したバグと巣を探すだけでもな」
「情報があれば出来ると思うけど……そのバグがどんな形なのかも、なにも分かってないんじゃ無理よ。闇雲すぎるわ」
「ネックはそこなんだよ。このルートはまだ無理か。なら……? 楯無、どうした?」
「見てみなさい、面白そうよ」
「ん? なにが?」
「いいから」
たった今曲がろうとした角で、楯無に引き止められた。
楯無は、気づかれないようにその角のあちら側をうかがっている。
「?」
そして俺も、ワケも分からぬまま身を潜めることになった。
角から、向こう側のことを覗く。
「……一夏と篠ノ乃?」
「ね? なにか面白そうな雰囲気でしょう?」
これは確か……一巻の最後か!
そう思い出した瞬間に、箒が一夏向けて声を出した。
『ら、来月の、学年別個人トーナメントだが……』
なんか聞いてることに罪悪感を感じてきた。
といっても、イベントを見逃すわけにはいかないな。
『わ、私が優勝したら―――つ、付き合ってもらう!』
一夏に指を突きつけながら箒がそう言った。
「これは面白そうね。フフフッ」
それを聞いた楯無は、意味ありげな笑みを浮かべた。
あれか、あの『優勝したら一夏と付き合える』っていう噂を流したのはお前だったのか。
「あんまり騒ぎを起こすなよ」
「分かってますよ、私の旦那様♪」
……突然何を言いやがる。
いや、間違ってはないんだろうけどもさ。
くそっ、やっぱり不意打ちは卑怯だぞ!
「で、食堂に行くのか行かないのか。どうする?」
「あ、そうね……」
楯無が自分の腕時計を確認する。
俺も、自分の携帯を開いて現在時刻を確認。
「もう七時半すぎちゃったわね……。部屋にもどる?」
「だな。キッチンもあるしいいだろ。食材も一回分くらいはあったはずだ」
そんなわけで、俺たちは自分達の部屋に戻ることに。
「あー、俺料理すんのメンドイ」
「私がやるからいいわよ。拓神は座ってて」
「オーライ、今回も期待してる」
ちなみに楯無の料理は何度か食べたことがあるが、上手い。かなり美味い。両方とも誤字ではない。
俺も出来ないことはないが、楯無の料理と比べると月とスッポンくらいの差があると思う。
……
楯無の料理を美味しくいただいた後は、それぞれの行動に移った。
楯無は、生徒会長の仕事。
俺は『マイスターズ』の確認。
今日の戦闘で、何かしらの影響が出ていたら対策しなければならない。
◆
楯無が部屋から出て行ったあと、ティエリアに話しかける。
「ティエリア、『マイスターズ』の詳細データ出してくれ」
『わかった。……表示するぞ』
ネックレスから空中投影ディスプレイが展開、そこにデータが表示される。
そしてその画面の隅には、ティエリアが写っている。
「無人機との戦闘の前後で何か問題は?」
『現在のところは無い。しかしあのバグという存在が未知数だ、今でも問題のサーチは続けている』
「わかった。それは続けてくれ」
『了解』
他には―――
「ああ……そろそろ第三世代機をなるべく使い始めるぞ」
『なぜだ? アストレアTYPE−F2でも現環境なら十分対応できているが?』
「慣れといた方が後々有利だ。それにVTシステム事件の時には、第三世代機の姿を生徒の前でさらすことになる」
『全力、か?』
「そういうことだ、ティエリアもそのつもりでいてくれ。GNセファーもエクシアとデュナメスで使うかもしれない」
『了解した。そのつもりで調整をしておこう』
「任せた。それと聞きたいことがある、GNアームズはどうなってるんだ?」
『GNセファーと同様、任意で展開可能だ。だが、エクシアとデュナメスでしか使えない』
「問題ないさ。他に問題は……キュリオスだな」
『キュリオスが問題とは?』
「ああ、巡航形態への変形って大丈夫なのか…ってな」
『そういうことか……基本的には問題ない。変形中は特別な機構で身体への影響は無くなる。以降のキュリオス系列機も同様だ』
「そうなのか。なら良かった、気兼ねなく使えるな」
特別っていうのが何なのかは気になったが、本当によかった。巡航形態のときは常に痛みがあるとか無理だ。
『それと『キュリオス ガスト』になれば大気圏の突破が可能だ。もちろんその後の大気圏外活動も可能になっている』
ディスプレイに、ガスト仕様のキュリオスの画像とスペックデータが表示される。
「……この世界の事、色々超えたな」
『……そうだな』
宇宙で活動可能とか。行ってどうするんだよ……
『ん? ……更識が帰ってきたようだぞ?』
「そっか。了解」
ガチャッ
「ふぅ、ただいま」
「ああ、お帰り」
ティエリアが言ってた通りに楯無が帰ってきた。
どうやって知ったのかは気にしない方向でいこう。
「仕事ってなにしてきたんだ?」
「今日の襲撃事件に関することね…来月に『学年別個人トーナメント』ってあるじゃない? まだ確定じゃないけど、個人じゃなくてタッグになりそうよ」
「もしもの事態に対する対策と、自己防衛のために……か?」
「ご名答、その通りよ。また今回みたいなことがあっても、二組・四人いれば訓練機でも時間稼ぎにはなる……ということらしいの」
「ま、妥当だろ。もしもなら俺が力技で遮断シールド破るし」
「ふふっ。ま、頼りにさせてもらうわ」
微笑んでそう言った楯無は、自分のベッドに腰掛ける。
「それで? 拓神は何を?」
「今日の件で何か問題が起きてないか、調べてたんだよ」
「へぇ……。そういえば、さっきの話だとAIがあるとか言ってたわよね?」
ああ、そういえばティエリアについても言ったな。
「ティエリア、出てきてくれ」
『了解した』
待機状態のマイスターズから、ホログラフィックの人影が投影される。
肩より少し上までの紫色の髪に、中性的な顔立ち。眼鏡をかけて、ダブルオー1stシーズン時の私服を着たティエリアだ。
身長は元の大きさに戻っているので、目線の高さは俺たちとさほど変わらない。
『僕はティエリア・アーデ。このマイスターズの制御人格だ』
「制御人格……?」
『ああ、ISコアにあるとされる深層心理。それが表面に出てきたと考えてもらっていい』
「それって……」
「世界的にみれば、大発見どころの話じゃないな。ISに自我はあるとされてるが、それがこんな風に出てくるなんてのは例が無い」
「これもあなたのお父さん……神様のおかげ?」
「その通り。でも、普通のISにもそれぞれ人格がある。表に出れないほど深い領域にだけどな」
海で例えれば、海面から一万メートルレベルの海底ほどの深い領域だ。
たぶんトランザムライザーの意識共有領域なら、他のISでも表に出てこれると思ってはいる。そしてその後で、素質のある人格だけとはいえトランザムライザーの影響でイノベイターに覚醒するように、意識が覚醒するISコアもあるかもしれない。
あくまで予測の話だが、恐らくは起こる。
「んで、コイツにはIS使ってるときに一部の制御とかを任せてる。ビットとかな」
「ああ、だからあそこまでうまくビットを使えるのね。……なにせ一人じゃなくて二人でやってるんだもの」
「まぁな。卑怯だと思ったか?」
「そうね……少しだけ。でも、実戦じゃ卑怯も何もないわ。……勝った方が称えられるのよ」
『その通りだ、楯無嬢。勝てなければ意味が無い、それが戦闘というものだ』
「あら、あなたは何か知ってそうね?」
『確かにな。……教えないが』
「ざーんねん」
「……おい、なに二人で話してんだよ」
あー、なんだかむしゃくしゃする。
「あら? 嫉妬しちゃった?」
「……そうかもな」
「ふふっ、可愛い♪」
『さて、僕はもう邪魔なようだ。またいずれ、楯無嬢』
ティエリアの輪郭がぼやけて、そのまま消えるティエリア。
それを確認した楯無は、自分のベッドに身体を倒した。
「? シャワー浴びないのか?」
帰ってきて、まだ浴びてないはずだ。
「少し休ませてもらうわ、お先にどうぞ」
そっか……それじゃ、
「お言葉に甘えさせてもらうよ。じゃ、お先に」
着替えを持って洗面所(脱衣所も兼ねている)に。
てきぱきと服を脱いで、洗面所からシャワールームへ。
ちなみに、この学園のシャワールームは広い。
流石に二人だと狭く感じるだろうが、一人だと十分な余裕があるくらいだ。
シャァァァァァァ……
とりあえず頭からシャワーを浴びる。
「はあっ、今日は疲れた……」
精神面でも肉体面でも、な。
ある程度浴びてからシャワーを止めて、シャンプーを取って髪を洗う。
ちなみに、俺はリンスやコンディショナーはつけない。
理由? 面倒だから。
またシャワーを出してシャンプーを落とす。
そこまでしたところで、拭くためのタオルを洗面所のほうに忘れたことに気がついた。
扉がある後ろに振り向いて―――
ガチャッ
ドアの開く音。
そのまま恐る恐る首だけで振り向くと……。
「はーい☆ 忘れ物よ?」
楯無。
俺のタオルを持っているが、なぜかスク水、なぜ旧スク水。そしてエロい。
「ありがと……じゃなくて、何でスク水――うおっ、入ってくるな!」
さっきの通りこのシャワールーム、広いには広いが一人の場合。二人はきつい。
つまり、必然的にお互いの体がくっつくわけで……察してくれ。
「スク水で何しに来たんだ?」
「タオルを渡しに来たの」
そういってポフッ、とタオルを頭に載せられた。
持ってきてくれたことは普通にありがたいので、髪を拭く。
「……じゃあ何でスク水?」
「あら、裸の方が良かった?」
「違う!」
俺は裸だけどな!
「あははっ、本当は背中流しに来たの」
「そうかい……。好きにしてくれ」
やっぱり勝てる気がしない。
「じゃあ、好きにしちゃうよ」
ゾクリ、と変な予感が脳裏を走る。
だが俺が動く前に楯無の手が俺の身体の前にまわってきて……
「お、おい! なにして――っ!?」
その綺麗な指が、俺の胸板を這うようになぞる。
「な、なにをっ……!?」
「ふふっ、拓神は可愛いなあ」
「背中を流すって言ったろ―――くぅっ」
「『好きにしてくれ』って言ったのは拓神だよ?」
耳元で囁くようにそう言われる。
というか言葉の内容はどうでも良くて、楯無の熱い息が耳にかかる。それと胸をなぞる指の感覚で、なにかこみ上げてくる感覚が俺の理性を削る。
「っ――好きなように解釈するなよ」
「え? 違った?」
「分かってるくせに―――うぁっ」
「ふふ、拓神も好きに動いていいのよ?」
「くっ――そうかよ……」
神力についての追加知識。
これは、体外に出す際には大体自由に変質させることが出来る。ちなみにこれは楯無にした、力を渡すとは別。
毒とかにも出来ることには出来るのだが、それをすると自分まで確実に食らうのでそういったのは使えない。
頻度が高そうなのは(まだ使ってないため、どれをよく使いそうなのか分からない)、治癒(再生)と睡眠。
今考えたが、睡眠はコイツをとめるのに重宝しそうだ。
そういうわけで、さっそく。
首だけで楯無の居る後ろを振り向く。
「なあに?」
「いや、そろそろ止めようと」
片腕を伸ばして楯無の頭を引き寄せて、口付けをする。
それと同時に口から、『睡眠』に変質させた神力を出す。
「んっ―――ふぁっ……? 何かした?」
「眠らせるために、な」
すぐに楯無の目は虚ろになって、閉じられる。
そして俺にもたれかかるように寝てしまった。
「危なかった。……さて、何とかするか」
まず自分だけシャワールームから出て、着替えを着る。
そしてまたシャワールームに戻って、楯無をお姫様抱っこで抱きかかえる。
そして邪念を振り払いながら水で濡れた楯無をある程度拭いて、俺のワイシャツを気休め程度でもスク水の上から着させて、ベッドの上に寝かせて布団をかけた。
「これで、よし…と」
自分の服は濡れないようにしたから問題ない。
その後、もう一度シャワーを浴びて体を洗う。
出てきてから、まだ慣れてない力を使った影響なのか、いつもより大きな眠気に襲われることになった。
「ふあぁ――っと。……ふぅ、寝るか」
そして俺は、“楯無が居る方の”ベッドに入る。
いつも迫られたりしてるんだ。このくらいのご褒美はもらってもいいだろ?
俺は楯無の頭を一回撫で、頬にキスして目を閉じた。
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第21話『その後とティエリア』 | ||
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