IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
俺とシャルルがグラウンドに到着した時には、もう時間ギリギリ。十秒遅かったらアウトだった。
え? 一夏? ……合掌。
「おい玖蘭、織斑はまだか?」
「えっと、来るときにシャルルを逃がす盾……生け贄にしたので、もう少しかかるとおもいますよ」
「……そうか」
なにやら複雑そうな顔をした織斑先生は、グラウンドの入り口の方に顔を向ける。
兄妹として何か思うことがあるのかね?
まあ、織斑先生“だけには”弟さんを生け贄にしてスミマセンって言いたいけど。
それから5分後。一夏がグラウンドに走ってきた。
「遅い!」
バシンッ!
「っ――! すいません」
「織斑、早く並べ。授業が始まらない」
しょんぼりとした一夏が、俺の隣に並ぶ。
なんやかんやで、笑いを堪えるのに必死な俺だ。
そんな一夏にセシリアが話しかける……自殺行為だ。理由は分かるだろうに。
「あら一夏さん、随分遅かったですわね」
ま、その原因俺だけどね。
「スーツを着るだけなのに、どうしてこんなに時間がかかるのですか?」
ちなみにISスーツ。当たり前だがISに乗れるのは例外である俺と一夏を除き、女性のみ。つまりスーツも女性用のみしか必要が無い。
だから普通のISスーツは水着……まあ所詮スク水に近く、肌の露出は多い。でもISにはシールドバリアー及び絶対防御があるので、スーツの面積は少なくても何の問題もない。
それでも、ISスーツにも通常の拳銃の小口径弾を防ぐ(しかし衝撃は通る)くらいの防御力はあるんだが。
「道が混んでたんだよ」
あながち嘘じゃない。
一夏は女子に足止めされて遅れたんだから。
「ウソおっしゃい。いつも間に合うくせに」
美しい花には棘がある、だっけか?
セシリアお前そんなこと言って、鈴と言い争ってなかったか?
「ええ、ええ。一夏さんはさぞかし女性の方との縁が多いようですから? そうでないと2月続けて女性からはたかれたりしませんわよね」
「なに? アンタまたなんかやったの?」
後ろの列(二組)から鈴が話しに加わった。
くそっ、被害者が増えていく。俺にはなにも、出来ない……。
「こちらの一夏さん、今日来た転校生の女子にはたかれましたの」
「はあ!? 一夏、アンタなんでそうバカなの!?」
ああ、もう手遅れか……。
「安心しろ。私の前にも二名いる」
((織斑先生|ラスボス))登場。BGMはターミネーター。
ギギギギッ、と錆び付いたネジのような動きで後ろを振り向く鈴とセシリア。
バシバシーン!
あー、今日も良い天気だなぁ。よく響くんだぜ?
◆
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「「「はい!」」」」」
二クラス合同の授業のため、人数も通常の倍。三倍で赤では無いのであしからず。
織斑先生への返事も、いつもより大きい。
ちなみにあの二人は、
「くうっ……。何かというとすぐにポンポンと人の頭を……」
「……一夏のせい一夏のせい一夏のせい……」
二人とも涙目で叩かれたところを押さえて、鈴に至っては呪詛をつぶやくように一夏の名前を出してる。
うん。そうだね、怖いね。
……これ、元ネタ古いよなぁ。
「では、今日は戦闘を実演してもらおう。ちょうど活気溢れんばかりの十代女子もいることだしな。―――凰! オルコット!」
「ど、どうしてわたくしまで!」
そろそろ織斑先生に対する抵抗は無意味だと知れ。
「専用機持ちはすぐに始められるらだ。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが……」
「一夏のせいなのになんでアタシが……」
「お前ら少しはやる気を出せ―――あいつにいいところを見せられるぞ?」
うわっ、人の恋心を利用してる。ヒデェ。
「どうした玖蘭、何か言いたそうだな」
「な、なんのことですか?」
あぶなっ。なんで!? 心読めるの?
とはいえ、ぎりぎりセーフか。
「やはりここはイギリスの代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね! 専用機持ちの!」
それにしても単純だなコイツら。
こんどコレ利用して、楯無と一緒に弄ろうかな?
「それで、相手はどちらに? わたくしは鈴さんとでも構いませんが」
「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるな馬鹿ども。対戦相手は―――」
キィィィィン……。
空気を切り裂く音。
……来たみたいだな。
「ああああーっ! ど、どいてください〜っ!」
一夏に向かう、見覚えのありすぎる影。
ドカーン!
一夏はかろうじて白式を展開することに成功したが、ぶつかってきた影と一緒に数メートルごろごろと転がる。
土煙が晴れ、そこにいたのは―――
我がクラスの副担任山田先生(IS装備)。
そして一夏は、山田先生のISスーツでより強調されたその豊満な胸を鷲掴みしている。
うん、死ねば良いのに。
――ティエリア、デュナメスの右腕とピストルを展開。
――了解、GN−002『デュナメス』部分展開。
俺の右腕前腕部が装甲に包まれる。手の中にはGNピストルが一丁。
ビシュン!
一夏がビームを、背を反らせてかわす。
これは俺じゃない。やったのはセシリア(怒りver)。
「ホホホホホ……。残念です。外してしまいましたわ……」
ガシーン
今度は鈴。
両手に持った双天牙月を連結。両刃の青龍刀にすると、それをフルスイングで投げる。
「うおおおおっ!?」
それを再度のけぞってかわす一夏。
ちなみに双天牙月。連結すると、ブーメランのように投擲可能。そう"ブーメラン"のように。
つまり―――帰ってくる。
のけぞって、仰向けに倒れた回避不能の一夏に向かって双天牙月が迫る―――
「はっ!」
ドンドンッ!
銃声。やったのは山田先生。
いつものほわほわした雰囲気から一転。目つきも鋭くなって、上半身だけを起こした状態で双天牙月を射撃。その軌道を逸らした。
明後日の方向へ飛んでいこうとする双天牙月。
「なら、俺が狙い撃つ」
ババッ!
俺は、右手のピストルを構えて双天牙月の軌道を再修正。もちろん一夏の方に。
これ以上の修正は山田先生にも無理なようで、双天牙月はそのまま一夏の―――
ザンッ!
――― 一夏の首、そのギリギリの地面に突き刺さった。
あぁ、もちろんわざと外した。ティエリアの計算の元な。流石に死人を出すわけにはいかないさ。
一夏は口をパクパクさせて、まばたきすらしない。
「ちっ、ミスったか」
「拓神!? お前何してくれてんだよ!?」
「ん? お前みたいなラッキースケベは許せないだけだ」
な? と、セシリアと鈴に話を振る。
二人はもちろん、と肯首で答える。
「命拾いしたな。次は無いぞ?」
右前腕部の装甲とピストルを粒子に返還して元に戻した。
「まったく、授業が進まないだろう。おい小娘ども、さっさとはじめるぞ」
「え? 山田先生と二対一で?」
「いや、さすがにそれは……」
「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける……ああ、それと玖蘭」
「なんですか?」
遠慮する二人を挑発した織斑先生が俺を呼んだ。
……呼ばれる理由が見当たらない。
俺、なんかしたか?
「この戦闘が終わったら次はお前だ」
「へ? ど、どうゆう?」
「なに、簡単な話だ。お前にも山田先生と戦ってもらうだけだからな」
え? 弟を生け贄にした罰?
……織斑先生はやっぱりブラコンだった。
ズパンッ!
あれ? いま出席簿が音速超えた気がする。そしてそれは俺の頭に。
「―――っ!?!?!?」
イテェ。容赦なく痛い。半神の体でもすげぇ痛い……。
「ふん、失礼な事を考えた罰だ」
このb―――これ以上なにか考えるのは止めるか。また音速超えの出席簿を食らいたくはない。
「ごほん! では――はじめ!」
俺は山田先生対セシリア&鈴が飛び立つのを、頭を抑えながら横目で見送った。
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第25話『実戦訓練』 | ||
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