IS《インフィニット・ストラトス》 駆け抜ける光 第二十一話〜闇に囚われたその先に……
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 旅館の一室、私は光輝くんの看病をしている。戦闘中に意識を失った光輝くんを連れて帰って一時間。今は旅館で寝ているけどいつ起きるか分からない。

 

 一夏くんと箒の作戦も失敗に終わった。一夏くんは背中にもひどい火傷を負ったし、IS自体もかなりのダメージで修復中。箒は一夏くんの寝ている部屋でずっと正座していた。精神的にダメージが多いのかやつれていた。

 

[エリスさん、ありがとう。あのまま海に落ちていたら光輝君は死んでいた……]

「私は嫌な予感がしていただけです。見事に当たってしまったけど……でも助けることが出来て嬉しいです」

 

 モニターで赤い彗星との戦闘を見ていた私達は、奮闘する光輝くんを静かに応援しながら見ていて、光輝くんがサイコバーストを発動した時に嫌な感じがしたんだ。私は急いでISを起動させて駆けつけた。

 

 着いた時には光輝くんが宙から落下していて、瞬間加速で助けることが出来た。あのISはモノアイでずっとこちらを睨みつけ、こう言った。

 

[彼はもう戦えない。私の気の変わらない内に逃げるんだな]

 

 光輝くんの仇打ちをしようとしたけど、圧倒的な実力差を感じてそのまま逃げだしてしまった……。

 

「アムロさん、光輝くんはなんで気を失っていたんです?」

[赤い彗星――シャアを取り巻く人の心の闇を直接喰らったんだ。恨みや憎悪を受けた光輝くんは精神的にかなりのダメージを受けたんだ。ただでさえ、純粋な少年だからその傷は計り知れない……]

「そんな……」

「うあああああっ!」

 

 寝てる光輝くんがうなされてる。大きな声だったので少しビックリしてしまった。

 

「大丈夫、光輝くん!?」

「怖いっ。光が消えてく……! 誰もいない……孤独はもう嫌なんだ!」

 

 そう叫んで泣いている……。

 

「大丈夫だよ! 私やアムロさん、みんながここには居るんだから! 光輝くんは一人じゃないよ!」

「誰か……たす……けてよ」

 

 そう言って光輝くんは糸の切れたマリオネットのように静かになった。誰の声も届かなくなるまで君の心は傷ついてしまったの? 私には何もできないの……?

 

[……みんなを集めてくれないか?]

「え? でも今は箒がショックで来るかどうか……」

[なら先に箒さんの所に行こう。すまないが僕を連れっててくれ]

 

 私はνガンダムの待機状態であるT字の首飾りを首に架け、部屋を後にした。光輝くんが心配だけど今は……。それにしてもアムロさんは一体何をするつもりなんだろう? 

 

 

 

 山田先生に光輝くんの看病を頼んで、私達は一夏くんの部屋に来ていた。箒はまだ俯いたままで見ているこっちが辛かった。

 

[君の失敗は何だと思う?]

「…………」

 

 箒は黙ったままだ。箒のことだから本当は分かってるんだと思う。

 

[力を手に入れたから嬉しいのは分かる。君は一夏君の隣で戦いたかったのだろう?]

「…………」

[一緒に戦いたいと願った。だから力が欲しかった。でもその使い方を間違えば――]

「貴方に何が分かる! 私は……私は……!」

 

 その叫びには憤りと悲しみを感じる……。箒はどんな思いで一夏くんの隣に居たかったのだろう? どれだけ力になりたかったんだろう。  

 

「……私はもう、ISを使いません。もうこれ以上は……!」

[甘ったれるな!]

 

 アムロさんの怒声が飛ぶ。いつも優しい口調なだけにちょっとビックリした。

 

[自分の可能性を潰すんじゃない。君なら分かるはずだ。力の意味を、それでどうするのかを]

「私の、するべきこと……私は戦う! 今度こそ福音を堕とす!」

[それでいい。君達の歳でふさぎこむのはよくないからな……]

 

 優しい、包み込むような優しさがアムロさんにはある。それは一番の力、人と人を繋いでいく思いなのかな? 

 

「全く、やっとその気になったわね」

 

 振り返ればそこには専用機持ち全員がいた。誰しもが箒の復活を待ち望んでいた。仲間がいればどんな困難も乗り越えることが出来る。それの絆はなのものよりも強く、堅い。

 

[ちょうど良かった。みんな、光輝君を助けるのを手伝ってほしい。あの子に心の光で、命の輝きで助ける]

 

 

 

 僕は暗闇に居た。何も見えない。聞こえない。感じない。いくら歩いても何処にも着かなくて、怖くなった僕はそこに座りこんだ。

 

『うああああっ!』

『こんな所で死にたくない!』

 

 また聞こえてくる。人の死ぬ間際の叫び声。無理やり戦いに出せれて、そして命を散らす。心の光が消えていく……。死んでしまえば光は消え、永遠の闇に囚われる。

 

「人は争うことしかできない。そうすることでしか分かり合えないのが人なの? じゃあ僕のやっていることは全部無駄なの!?」

 

 争うことが前提でしか分かり合えない? でもそうやっても必ず分かりあえるとでも言うの? じゃあどうすれば……。

 

[確かに人はそうしないと分かり合えないのかもしれない。でも、諦めてしまったらそこで終わる]

 

 声をかけられ顔を上げると前から人が近づいてくる。この闇の中で不自然な程の輝きをだしている。年齢は20歳後半だろうか? 初対面のはずなのに、なぜか安心できる。この人は一体?

 

[この姿で話すのは初めてだね。君を助けに来たんだ]

「その声、アムロ……さん? どうしてここに?」

[君を助けたい人達がいるから。だから君のところに来た。さぁここで立ち止まっては何もできないよ]

「……もう僕には光なんてありません。あるのは悲しみや妬み、憎悪なんかの闇の部分だけです。光なんてすぐに消えてしまうものなんです……」

[光は絶対に消えないんだよ。今は眠っているだけで君の光は消えていない]

「…………」

[人の心に闇はある。でもそれを拒絶しちゃいけない。それを受け入れた時、初めて人の心の光を見せることができる]

 

 受け入れる? この苦しみを……? でも、

 

「僕には……できません。怖い、怖い、怖い! 闇は昔のことを思い出すから嫌だ!」

[だからって! それでも勇気を出して前に進むことが、君にはできる! ちょっとずつでいいんだ。焦らずゆっくり進めれば大丈夫だよ]

「ゆっくり? 一歩前に……」

 

 僕は立ち上がって一歩進む。この一歩が早いとか遅いとか関係は無い。この一歩を出せることに意味があるんだ。

 

[一歩出せたことの勇気が人を更に強くする。光を強くする。それに君はみんなが居るじゃないか]

「みんな……! 声が聞こえる。僕を呼ぶ声が! こんな暗闇でも僕は一人じゃない!」

 

  僕は今まで人に助けられてきた。僕はその人達に光を見せたい! それが僕にできることだから!

 

[それでいいんだ。そうやって強くなるんだ! さぁみんなが待ってる。行こう!]

 

 僕はアムロさんの声に僕は走る。僕は憎しみや悲しみを拒否しない。過去とも向き合って見せる。激し過ぎる負はいけないけど、でもそれも人の心の一部なんだ! だから僕が光を見せて勇気を……!

 

 

 

「ん、うぅ」

「やっと起きたか」

 

この声はお母さんか。身体を起こそうとするけど、身体が痛いのなんのって……νガンダムの負担なのかな、これは……。なんとか起き上がれたけど、ここまで至るのに身体中が悲鳴を……。

 

「織斑先生、此処に居て大丈夫なんですか? それに作戦は?」

「慌てるな。順を追って話す」

 

 僕はあの後の事をさらっと聞いた。夏兄は意識不明の重体で危なかったがなんとか持ち直して今は大丈夫そうだ。

 

「じゃあ福音は今も待機中なんですか?」

「ああ。あのまま逃げてしまうかと思ったが、ずっと待機している。たぶん、自己修復だろうな。それに赤いIS――ナイチンゲールはこの空域から離脱した」

「でもまた来ますよ、彼は。その時はまた僕が抑えます」

「だが――」

 

 その時、襖を慌ただしく開けられる。来訪者は山田先生だが一体どうしたんですか?

 

「お、織斑先生! 専用機持ちのみんなが無断で福音の撃墜に!」

「なんだと! なぜ止めなかった!」

「私には全員は止められませんよ〜……」

 

 涙目になる山田先生。確かに専用機6人を教員一人で止めるのは無理な話だ。でもなんでそんな無謀な……!

 

「山田先生、すぐに作戦室に戻ってくれ。私もすぐに行く!」

「は、はい!」

「さて、織斑弟。立てるか?」

「だ、大丈夫です……」

 

 痛みを堪えてなんとか立つが、歩こうとすると身体中に激痛が走る。

 

「くぅぅ、痛い……」

「全く……世話の掛かる奴だ」

 

 そう言うと、お母さんは僕をおんぶしてくれた。かなり恥ずかしいけど、懐かしい気がする。なんでだろ?

 

「お前をこうしたのは、あの時以来だがやっぱり成長してるな」

「あの時って?」

「お前が倒れているのを私の部屋まで運んだ時のことだ。覚えてないか?」

「……覚えてないです……」

「それはそうか。気絶してたからな」

 

 そんな会話をしながら僕達は作戦室に着いた。モニターの正面に来るようにお母さんは僕を背中から降ろしてくれた。もうちょっとだけ、あの暖かい背中にいたかったな……。

 

[千冬、あの子たちを止めないのか?]

「……止めたくても止めれませんよ。今はあいつらに任せましょう」

 

 福音に対して6人。それでも互角に戦う福音は異常な戦闘能力だ。ナイチンゲールも福音も多人数との戦闘が得意か? 

 

「あれ? ZZガンダムの姿が変わってる気が……それだけじゃない! あのでかいライフルはなに!?」

 

 ZZガンダムの上半身にアーマーを加えて、更にはZZの全長を少し超えそうなぐらいの長砲のライフルが装備してある。エリスさんはみんなより後ろに下がって援護している形だけど、あの装備だったら当然か。

 

「あれはフルアーマーZZ。束がリムスカヤの為に創ったZZ専用の強化パックだ」

 

 束さんが? 珍しいな……あの他人嫌いの束さんがエリスさんの為に創ったなんて。

 

「理由は分からんが、あいつにしては珍しい。アーマーを装備したことによって、火力も機動も防御も上がったが、細かい動きが難しく接近が不利なるらしい」

[いい強化じゃないか。エリスさんは射撃の方が得意そうだから良かったんじゃないかな]

「確かにそうかもしれませんが……で、あの長いライフルは?」

「ハイパーメガカノンという名前で、ZZのハイメガキャノンより威力は何倍も高いが、一発だけしか撃てないからな。チャンスを見ているのだろう」

 

 ……火力が上がり過ぎでしょ!? まさに動く武器庫じゃないか! しかし、こう見ているだけだなんて、僕は耐えれない! 

 

 なんとか立とうとするが激痛が僕を襲う。でも行かなきゃ……僕は暗闇の中、みんなに助けられた。だから今度は僕がみんなを助けに行く!

 

[光輝くん、行ってはダメだ]

「っ! どうしてです!?」

 

 僕のだした声に教員二人が振り向く。

 

[あの子たちはあの子たちの戦いをしている。それを邪魔してはいけない]

「でも、だからって……!」

[ちゃんと見届けるんだ。彼女たちの戦いを……覚悟を!]

「覚悟……分かりました。悔しいけど今はみんなが勝てるように祈ります……」

 

 福音は強い。でもみんななら大丈夫! だから絶対生きて帰って来て!

 

 僕は必死に祈った。今はこれしか出来ることがないけど、この祈りが届くように……!

説明
シャアを取り巻く心の闇に取り込まれた光輝は人間の断末魔を聞いて光輝は絶望する。
また、箒も福音討伐失敗は自分のせいだと責める。
その二人にアムロのとった行動は?
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インフィニット・ストラトス 心の光 

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