異能者達の転生劇 Inネギま
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 この世界にはクレストマンシーはいない。そう思い始めたのはいつ頃だったのかな。

 今の自分に必要なものが揃わなかった時? 少し前の、年上の人から苛められた時? それより前の、村の皆が石にされた時? もっと前の、お兄ちゃんやお姉ちゃんが皆いなくなっちゃった時?

 ……結局はお父さんや白髪のあの人、クレストマンシーみたいに、困った時に助けてくれる人はこの世には数えるぐらいしか居ないんだって。

 それでも。

 もしも貴方がこの世界の何処かで、人を助けているのならお願いがあります。

 

 どうか、この『幸せ』が長く続くように((皆|・))を助けてください。

 

 

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2002年4月

 

 魔帆良学園では噂の消滅が不可能と言っても過言ではない。

 バケモノに出会った時、学園の何処かに隠れている魔法少女や魔法使いがすぐさま助けに来るだとか。図書館島の地下には本好きには垂涎(すいぜん)必須の楽園、地底図書室があるだとか。桜通りに吸血鬼が出るだとか。その吸血鬼とメンチ切ってたびたび喧嘩する悪魔の女が居るだとか。

 女子中等部にはぬらりひょんが居るだとか。

 

「さて……言い訳はあるかのう?」

「「全面的にこいつ(此奴(コイツ))が悪い!」」

 

 犬猿の仲を具現化させた二人の声がハモった。二人に問いかけた人物は深〜いため息をつく。

 深いため息をした人物は、とある妖怪と見間違うほど頭部が異常発達していて仙人のような風貌だ。普段はとある妖怪の如く掴みどころの無いひょうきんな学園長なのだが、今は二人の喧嘩を止めるのに尽力を尽くしきって焦燥感漂っているため、飄々とした雰囲気なんてケシ粒ほどもない。

 そんな愉快な生物の前には魔法の縄に縛られた((件|くだん))の二人。

 金髪のフランス人形のような小さな少女とみすぼらしい片腕に包帯を巻いた女性。

 

「いつも言うておるじゃろうが、人払いを張らずに魔法合戦はやめてくれんかのう? 一般人バレの可能性もあるし第一危ういじゃろう? 喧嘩をするなとは言わん。じゃが、そういうとこをキチンとして欲しいんじゃよ。特にティチューバ君は素行が悪いと苦情の電話が鳴りっぱじゃ」

「「貴様(((手前|テメェ)))、人払いかけ忘れたな!?」」

「……ホントは仲良いのではないか?」

「「ハッ! 誰がこいつ(((此奴|コイツ)))と!!」」

 

 一言一句名詞以外はぴったりと合わさる二人に頭が痛くなる学園長。それなのに何でここまで仲が悪いのか? と。

 

「いい加減この魔法を解きやがれ……!」

「いだだだだだだだだ! 引くな力むな引っ張るな!」

「ぎっ。ぃ、((貴女|アンタ))こそ……!」

 

 ガルル、ガルル、と。唸る二人にあきれる。

 因みに二人は纏められて縛られてる為、片方が逃げようとするともう片方が締め付けられるよう出来てる。

 協力すれば解けるかもしれないが、この二人の間には『協力』と言った言葉は存在しない。

 そんな険悪なムードの学園長室に、眼鏡をかけ、腰に刀を挿した妙齢の女性が入ってくる。

 

「学園長」

「―――((葛葉|くずのは))君、か。……どうかしたかの?」

 

 何でもいいからワシを助けて! といった視線を向ける学園長に葛葉は苦笑しながらも眼鏡の位置を直した。

 

「……ええ、あの、魔法バレがまた一人……」

 

 学園長はジトーと二人を睨む。二人はそんな事は知らんといったように口喧嘩をしている。学園長は諦めた。

 普段あまり見られない学園長の疲れ切った表情に驚きを隠しきれない葛葉はその魔法バレした一般人について纏めた((資料|レポート))を手渡した。

 手に取ったレポートに目を通す学園長は―――眉根を顰める。

 

「……葛葉君」

「はい」

 

 

 

「この生徒には誰も接触せんよう皆に伝えておいてくれんかのう。厳重にな」

 

 学園長の一言に、報告をした葛葉と喧嘩中でも聞き耳を立てていたエヴァンジェリンは理解できなかった。

 

 

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5月

 

 もう暖かくてやる気が蒸発してしまうこの季節。

「古(クー)部長〜!。手合わせお願いしますっ」

「んだとテメェー。空手がナンバーワンっつぅ事実、身に刻んでやろうかっ!」

「そこの褐色系のお姉さ〜ん! ちょい僕らと付きおうてみいひん?」

 

 ……この学園では特に変わらないみたいだ。あ、青髪達撃沈した。

「飽きないなあいつら……。あ、((小籠包|しょうろんぽう))一つ」

―――何かをずっと続ける事は良い事だと思いますよ? はい。お待ちどう様です。

「どうも。そうは言ってもナンパを長く続けるって、未だに女捕まえてませんって言いふらしてるモンだぜ? お、美味いなこれ」

 

 当の上条さんは、格闘系娘にチャレンジをしたりひたすら喧嘩やナンパにかまけたりせず、のんびりと((超包子|チャオパオズ))でラーメンとか啜ってるわけです。

 で、今喋ってるのは超包子の名物コック(シェフ?)の((四葉五月|よつばさつき))。中学生らしいけど、教師の相談に乗ってあげるほどしっかりした子だ。

 

「今日店長さん来てる?」

―――残念ですけど、今日はまだ。

「そっか〜。残念だ」

―――ふふっ。また来て下さいね。

 

 何が残念かというと、結構前に超包子の美味しさの秘訣を四葉に聞いた所、秘伝なので責任者である店長に直接聞いて欲しいと言ったからだ。この店の味を家庭で安価で気軽に味わいたいし。

 しかし、俺が店に来るたびにその店長は店を開けてたり違う客の接待をしていたり忙しいようだ。

 『仕送りたて』の膨れたサイフを取り出して提示された金額と同じ額を出し、寮へ足を向けようとした時、

 

 ぐきゅるるるるるるるるぅぅぅぅぅぅぅううううううう、と

 アップダウンの効いた音。

 音源は地べたで這い蹲ってる白い修道服の女の子のお腹から。

 

「四葉、肉まん一つ」

 

 絶えないため息を吐きながら肉まんを手渡される。

 見るからに行き倒れに近づいて、―――丸まっているから、恐らくは頭辺りに―――肉まんを近づける。するとぷるぷる震えていた身体がビクンッ! と跳ねた。

 

「お〜い。食わないのか〜」

 

 肉まんをピコピコ上下に振る。そのたびに白い物体がビクビク跳ねる。

 だが次の瞬間。

 ガバァ! と白い物体は銀と陶磁器のような肌色の生物に変わり、

 

 ガブリ!

 

「ぎゃぁぁぁ――――――――――――――――――――!?」

 

 後から彼女に聞いたのだが、今日の上条さんの手は肉まんの味がしたんだとか。

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「シャークティーって酷いんだよ! 『仮にも主に仕える者が暴飲暴食に囚われるとは何事ですか! シスターならば欲に打ち勝つ心を持ちなさい!』ってさ! でも教会のご飯ってタンパク質が少なくて野菜ばかりですぐお腹減っちゃうんだよ。戒律があるのはわかってる。けど、だからこそこうやってお腹いっぱい食べた方が良いかも! 我慢して我慢して教えを説くよりも煩悩の中で教えを説いた方が真に近づけれるかも! ねぇ、とうまもそう思わない?」

「その力説をシスターの目の前で言えばいいじゃん」

「……さつき、この点心美味しいかも」

―――美味しいかも、じゃなくて美味しい、ですよ。

「誤魔化すな暴食シスター」

 そもそも聖職者は肉や魚を口にしちゃダメじゃなかったか? そんな事が頭に((過|よぎ))ったが、このシスターにその決まりを守る事は出来なさそうだ。

 

「後、頼めるか四葉?」

―――はい。

「代金は―――」

―――え、と……これぐらいです。

「シスターが来るまでこのままで」

 

 四葉がおずおずと差し出す領収書の額には驚いた。仕送りの約半分だったから。

 食事代(これ)はシスターシャークティーに押し付けるとして、

 

「インデックス」

「むっ!? とうまが悪だくみしてる顔になってるんだよ!」

 

 シスターシャークティーが来るまでどうやってコイツが逃げないように足止めするかだな。

 

 

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翌日

 

 学校にいる間は近くにいる自分が見張り、それ以外の時間は交代で見張ると決めた週明け。

 身体のあちこちに歯形がついた監視対象が教室に入ってきた時はド肝を抜かれた。

 いや、学校を休んでたり、その次の日に包帯巻いてご登場とか結構あったけどさ! 犬に噛まれたのか!?

 ……はっ! そんな事よりも監視だ。監視。

 

 授業が開始されて周囲に気を配ると、視線はかなり多かった。

 警戒心駄々漏れの奴。それなりに潜めてる奴。好奇心や自分達と同じような観察からくる奴。女子生徒を舐めるように見つめる奴。

 ……一つおかしい奴があったが、改めてこの世界には自分達とは違う『魔』に関わる人種が多い事を認識する。

 互いに相容れないはずの科学とオカルトが融合してしまうぐらいの世界だ。……自分の常識の方が通じない事をよく考え直さないといけない。

 

 昼休み

 いつものようにクラスメイトを上手く交わしながら屋上で美月と少食で腹を満たしてる時、思わずポツリと訊いてしまった。

 

「なあ美月」

「何」

「……俺達と同じ人種って、この世界にどれだけ居んのかな」

「1億3千万」

「そっちじゃない」

「少ないでしょ」

 

 美月はこっちを向かずに言った。こっちからは美月の表情を見れない。

 けど、今の自分と同じ表情かもしれない。

 

「だけど今の状態で世界は回ってるんだし、増えようが減ろうが知ったこっちゃない」

「そうだな」

 

 それ以上会話は無く、またそれぞれの日常に戻っていった。

 

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 昼を過ぎた辺りからシトシト雨が降ってきた事以外、これといった動きを見せずに放課後になり、

 

「頼む! 理科室の掃除代わってくれ!」

「え〜……」

 ((上条当麻本人|かんしたいしょう))から接触された。しょーもない理由で。

 

「え……何で?」

「洗濯物干したまんまだったから!」

 

 こっちはお前を監視しなきゃならない。忙しいのはお互い様だ。

 代わってやっても良いけど……。

 

「すまん。こっちもこっちで、な」

 

 美月に殴られる。というかあまり負担をかけたくないしな。

 

「そっか。ごめんな」

 

 上条当麻はそう言うと他の連中に声をかけに行った。

 俺はというと、自分が頭の中で考えた事にあれ?と思った。

 結局自分一人で監視してね? と。

 

「頼む! 掃除代わってくれ!」

 

 今度は普段無口な生徒に声をかけていた。いつも無口で本を読んでる為、根暗と陰で言われてる生徒に声をかける辺り流石である。(なにが?)

 無口な生徒は黙って上条当麻の話を聞き、数回こくこくと頷くと人差し指を立てた。

 

「ただじゃねぇのかよ」

 

 こくりと頷く。しかし指は立てたまま。

 

「いや、金取るのは良いけどさ……。人に頼まれたりした時はもっと取った方がいいと思うぜ?」

 

 根暗な男子生徒はむぅ、という顔をしながら指を五本立てた。

 

「うん、それでいい」

 

 上条はそう言って財布から500円玉を出して根暗な男子生徒に渡した。……本当にお人好しだなあいつは。

 ありがとな、と言う声が廊下から聞え、俺は慌てて廊下へ飛び出した。

 

 

 余談だが、俺が教室から出て行った後、コイン弾きに失敗して転がっていった500円玉を追いかける生徒が見れたそうだ。

 

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「クッソ! 見失った……」

 

 アリーナで鍛えた脚力が追いつかないとは……! ある程度強く降り始めた雨の中で、ずぶ濡れになりながらそう思った。

 悪くなった視界を食い入るようにターゲットを探している最中、雨水が顔や身体に当たらなくなった。正確には雨を遮るものが出来たというか。

 

「暖かくなったとはいえ、ずぶ濡れになれば誰でも風邪になるよ」

「頭を重点的に冷やしたまえ弟よ」

 

 いつものだらけた顔の女の子と眼鏡をかけたダンディーな男性教師、高畑が居た。

 高畑は師匠と面識があり、ちょくちょく俺達に気をかけてくれる。一応こっちでの保護者的な存在だ。

 

「はい、気をつけます……」

「君達に何かあったら、あの人に顔向けできないからね」

 

 欠点というか、少し師匠を透して俺達を見る嫌いがある事か。まぁ、俺達にはわからないが、少し前にあったと言う大戦の影響かもしれない。

 たとえ教えを((請|こ))いてる身だとしても、師匠と俺たちは別だ。

 

「……そうだね。それはそうとどうしたんだい? こんな雨の中、傘も差さずに」

「それは―――」

「私達で調べてる事があるんで」

 

 美月が俺の言葉を遮った。

 

「調べてる事?」

「高畑さんにも内緒ですから。それじゃ」

 

 美月が俺の手を引く。高畑と『何か手伝える事があったら言って欲しい』という音は雨の音と視界の悪さで消えて行った。

 

「……高畑さん、気付いたかな」

「気付いたんじゃないか?」

 

 手を引かれながらやっと出た会話はこんなもの。

 高畑には悪いけど、今回は『魔法使い』の監視としてではなく『((魔術師|メイガス))』としての研究で動いてる。『魔法使い』の高畑は自分のやる事だけに集中してくれ。

 

「しっかし、完全に見失ったな。行く場所はわかるけど……」

「けど?」

「男子寮にお前連れてったら確実に騒がれる」

「……」

「『使えねぇーなーコイツ』って目をするなコラ」

 

 でもいきなり関わりが薄い俺が上条当麻の部屋に押しかけても……、

 

「いや、結構イケるんじゃ……いやいや流石に無いだろ……けど名高き単純王だしまさかの……?」

 

 そんな事考えてると、美月はバッグから水晶玉を取り出した。

 

「でんでけでっでで〜。遠見の水晶ぉ〜」

「そんなテンション低いドラにゃんが居るか」

「……これがあればどんな場所をも水晶に映せるのだ〜」

 

 変わらずに一定テンションの美月にやれやれと思うことにして……。

 あれ? 遠見の水晶?

 

「なぁ」

「何? メンドクサイ」

「今更なんだけどさ。……それでずっと監視しとけば良かったんじゃ」

 

 二人の間に沈黙が流れる。

 俺は責めれない。俺が思いつくまでずっと上条当麻を監視してたから。

 実は美月も責めれない。授業中、遠見の水晶を弄くって遊んでいたから。

 

「「……」」

 

 互いに何も言えない。

 美月は何事も無かったかのように礼装を発動させた。

 

「お〜い。馬鹿姉」

「うるさい愚弟。……」

 

 水晶が輝きだし、美月は顔を顰めた。

 不調か?

 

「……座標が特定出来ない」

 

 不調だな。

 

 

 

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男子寮

 

「べくしっ」

 

 ぅぅ、何か寒気がする。当たり過ぎたか?

 それはそうと早く洗濯物取り込まないとな。

 鍵を取り出し差し込んで回した。

 

 

 鍵は軽く回った。

 疑問符を浮かべ、部屋に入る。

 ワンルームの部屋を見回した所、誰もおらず、荒らされた箇所も無い。もしかしたらまだ隠れてるかもしれないから、玄関にあった靴ベラと傘を装備して、静かに進む。

 辺りを警戒して電気をつけた。

 案の定、誰もいなかった。

 

「―――ふぅ」

 

 ここを出る時に鍵をかけ忘れたか。そう思った時、

 ドン! と肩に何かぶつかった。確かに誰もいなかった部屋なのに。

 何がなんだかわからないまま手を伸ばし、見えない何かを掴んだ。

 

「きゃ!? この、ド変態ガっ!」

「ぐへぇ!?」

 

 見えない何かから腹に一撃入れられ手を離しかけた。が、掴んでた手と逆の手を伸ばして相手の手らしき部分を掴み取った。

 

「伊達に、不良の喧嘩に巻き込まれてねぇんだよ……!」

 

 手を掴んだ瞬間、見えない相手が息を呑んだような気がした。

 ぐるりと視界が反転し、床に叩きつけられる。肺の空気が吐き出され思考がブレた。が、掴んだ手は離さない。

 

「こ、んの!」

「うわっ!?」

 

 すぐに体勢を整えて、掴んだ手を思いっきり振り回して、見えない相手を壁に叩きつける。

 

「っが―――!」

 

 見えない相手のうめき声が聞えた瞬間、バチッ! と火花の散る音が聞えた。

 どっかぶつけて壊したか? と思って音のした方向を向く。

 音源は虚空から噴いた火花で、少しの間眺めているとすぅ、と虚空から実態が現れる。

 

 それは髪をお団子状に纏めた中華系の―――

 

「女の子ぉ!?」

 

 幸か不幸か、俺の叫び声は雨の音にかき消されて寮には伝わらなかったようだ。

 

説明
第一部:人が死に、人ならざる者に出会い、異世界への生を与えられる。
自然の摂理に反した者が罰せられないのは間違っている。
第二部:紅き騎士は全てを消された上で異世界に放り出され、本来の主役は過酷な運命を課せられ、黒髪ツンツンは否応なしに巻き込まれる。
これは、狂いに狂った混沌とした物語。

原作に入るのはもっと先です
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