世界を渡る転生物語 影技4 【リキトア流皇牙王殺法】
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 カイラと二人、魚取りや湖畔のキャンプのように塩味のきいた焼き魚を食べ、なかなかに満足できる昼食を終えた後─

 

「いいかニャ? ジン。こういう燃えカスの後始末はきっちりとやらないといけないニャ」

 

ー水 撒 消 火ー

 森が火事になる可能性を0にするために、俺がコップに水を汲み、焼き魚の骨と一緒にしていた、未だにほのかに赤く燃える炭へと水をかける。

 

 ジュっという音を立てて蒸発する水が水蒸気となって漂う中─

 

「うんうん、それで後はっ!と」

 

 そういってカイラが地面に手をつくと─

 

ー流 動 魔 力ー

 カイラの手から、俺の知識にはない……エネルギー的な((何か|・・))が出ているのを、俺の【((解析眼|アナライズ・アイ))】が捕らえる。

 

 残念ながら、俺自身が扱えないものなのか、視覚化までには至らなかったのだが……たとえるなら電気のような力の流れが、地面を伝って土の大地にしみこむような動きを見せたのだ。

 

 そして─

 

?【土門】【拳技】・【((土拳|サフィスト))】?

 

ー連 土 拳 打ー

 

 その何かに答えるように、しみこんでいった何かが作用し、土が盛り上がってその形を変え、土の拳として持ち上がる。

 

 燃えカスの周囲を取り囲むように複数の土の拳が顕現すると、その土の拳が顕現した際にへこんだ部分へと燃えカスや灰が落ちていく。

 

 そして、その上に土の拳が折り重なるように灰と燃えカスを飲み込んで蓋をし、その土の盛り上がりがすぐに平坦な大地へと戻っていく。

 

「……これがカイラが言っていた【リキトア流皇牙王殺法】」

 

 俺がカイラに初めて出会ったときに見た、土の拳・木の拳・葉の瞳・土人形。

 

 あれも全て【リキトア流皇牙王殺法】なのだろう。

 

 カイラ自身が、何か特殊な力で大地に働きかけて作用させる技のようではあるが……。

 

(自己解析で見つけた【気力】とか【魔力】とかいうのだろうか……)

 

 それは……前世で見たことのある、ゲームで見たような能力の名前。

 

 現代社会では視認することなどありえないもの。

 

 まだ俺には視認できないが……しかしながらそれは確かにこの世界に存在していた。

 

 存在が目の前で証明されたのだ。

 

 俺がその土の拳のできる過程と、穴を埋める過程をじっと見ていたのを感じたカイラが─

 

「ふふ〜ん、どうにゃ? これぞ【四天滅殺】が一。我らリキトアが誇る御技【リキトア流皇牙王殺法】ニャ?!」

 

ー威 厳 後 光ー

 カイラが自慢げに鼻息荒く、俺に腰に手をあてて胸を張りながらそう言いはなつ。

 

 自然を武器とし、己の一部として扱う技、という事なのだろう。

 

 未だに信じられないその技術に、半ば呆然としつつも─

 

(……でも、そんな御技とかいうぐらいの技を、高々火の後始末とかに使ってもいいんだろうか……)

 

 そんな素朴な疑問もあったのだが、そこはあえて口にはせず、【((解析|アナライズ))】していた【((土拳|サフィスト))】と呼ばれる技の記録を、【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】から引っ張り出して内部空間で何度も再生しつつ、先ほど見た力の流れの構成を調べ始める。

 

 考え込むように、ゴミを処理し終わった場所を見つめる俺に対し、カイラが得意顔で俺に話しかけてきた。

 

「お、なにやらジンは【リキトア流皇牙王殺法】に興味ありありニャね? ふふ?ん♪ ならちょこっとだけ教えてあげよ?!」

 

ー岩 石 胡 坐ー

 その土の場所から離れ、ちょっと大きい岩に胡坐をかいて座るカイラが手招きをし、俺はそれに従うようにカイラの真正面にあった小さい岩に腰をかける。

 

「カイラ先生の【リキトア流皇牙王殺法】講座にゃ?! と、いってもそこまでわかってるわけでもないけどにゃ?」

 

「わかってないのかよ!」

 

 俺は思わず突っ込みながらもその言葉に苦笑し、カイラの話す内容に耳を傾ける。

 

「生きるもの全ては、自然より生まれ、自然と共に生き、そしてやがては自然へと還るもの。そんな人の中でも森に生き、森に還る私達【牙】族は、得に……自然との結びつきが深い。そんなアタシ達だからこそ扱えるのがこの力。精神力を【魔力】として大地に与え、大地に溶けた【魔力】を糧として生命力を生み、それが意思の形となって現れる。これこそが【リキトア流皇牙王殺法】ニャ」

 

 いつもの明るくおちゃらけた態度がなりを潜め、真剣な顔のカイラが俺に向かって説明をする。

 

 この世界を構成する力には、大きく分けて三つの力の流れがあると伝えられているらしい。

 

 自然の円環や強き意思・精神力を源とする力……【魔力】。

 

 生命の輝き、肉体や大地の育む命の流れ……【気力】。

 

 この世界に生きとし生けるすべてのものは、この二つの力を体に宿すのだという。

 

 自然は大地を育み、大地は自然を生み出す。

 

 魂は肉体に宿り、精神を宿して命を燃やす。

 

 燃える命はその生命の力と魂の力を放出しながらやがて老いていき、肉体を大地に還し、それはやがて自然へと還って行く。

 

 巡る命の循環は、それ自体が力となり、この世界を回す。

 

 この力こそが三つ目の力……【((自然力|神力))】と呼ばれるものであるという。

 

「そう、出現させる力の形を想像し、その想像した意思を【魔力】に乗せて大地……土や樹木へと流す。それを受け取った土や樹木達はその【魔力】を糧に生命力を生み出し、その【魔力】通りの形となって現れる。いわば自然の循環に沿った形で現れる力。たとえば─」

 

 そういってカイラが近くにある樹木へと手を伸ばし、手を当てる。

 

?【木門】【拳技】・【((木拳|トラフィスト))】? 

 

 その手から……【((解析|アナライズ))】され、徐々に視認できるようになりはじめた緑色の光が、樹木へと染み入るように伝播されていき─

 

ー木 拳 連 打ー

 

 木の幹から、枝が高速で生い茂るかのように、拳の形で顕現される木の拳達。

 

?【木門】【覚技】・【((瞳葉|リーズァイズ))】?

 

ー葉 瞳 開 眼ー

 

 そして木々に青々と広がる葉の一つ一つに線が入り、その線が開いて瞳となってカイラに周囲の情報を送る視覚共有能力。

 

(『【((解析|アナライズ))】進行中……初期構成を開始。情報整理・構築を開始。……初期条件の【魔力】および【気力】を理解する必要あり』)

 

 俺の目に表れていた【((解析|アナライズ))】のターゲッティングが、まずは源となる【魔力】や【気力】を理解しないことには、【リキトア流皇牙王殺法】の解析が進まないことを示す。

 

「こういう感じにゃ。【牙】族に置いても、意思の力と大地に流すための【魔力】の力の大きさ、イメージが大事で、これ次第で【リキトア流皇牙王殺法】の威力が変わるんだニャ」

 

 先生然とした感じで得意げに人差し指をピンと立て、俺に講義をするように俺に語りかけるカイラ。

 

 【リキトア流皇牙王殺法】で展開された【((木拳|トラフィスト))】や【((瞳葉|リーズァイズ))】が元の木々や葉に戻っていくのを確認し、感嘆の声をあげながらも、俺はカイラの説明に頷く。

 

「そっか?……カイラって物知りだね」

 

(自然理論か……。前だったら考えられないような事だなあ)

 

 カイラの話を整理しつつ、『自然には意思がある』とされる自然理論……ガイア理論とも呼ばれる話を思い浮かべる。

 

 少なくとも、この世界ではそれが証明されるからだ。

 

 神妙な気持ちになりながらカイラを素直に褒める俺。

 

「にゃっはは! ……まあ、耳にたこが出来るぐらい聞かされた話だにゃ。これを理解しないと【リキトア流皇牙王殺法】は使えないからにゃあ」

 

 学習していた時のことを思い出したのか、うんざりとした表情をつくるカイラ。

 

「あ゛?……真面目に話しすぎて肩こったニャ……慣れないことはするもんじゃないニャ?」

 

 そう苦笑しながら、肩をもんで腕を回しつつ、首をバキバキと鳴らすカイラを見て苦笑する俺。

 

「お、そうだ……ねえ? ジン。アンタにいい事教えてあげる! これは狩りにも使える事だから覚えていても損はないしニャ! 夕食までの修行の時間だにゃ〜!」

 

「?」

 

 首を鳴らし終えた後、ふといいことを思いついたといわんばかりの表情をしたカイラが、腰かけていた岩から降りて俺の傍へとやってくる。

 

 修行だという事から、気持ちを引き締めながら頷き、カイラからの指示を待つ俺。

 

「おっし、ジン。両手を出してみるニャ」

 

「? うん」      

 

ー差 出 小 手ー

 言われるまま、俺は自分の小さな手を差し出すと─

 

ー重 包 両 手ー

 カイラが俺の掌に自分の掌を重ね、優しく包み込むように握りこむ。

 

 触れた手から感じられる暖かなその感触にちょっとどきどきしながらも、何をするのかを疑問に思いながらカイラを見上げていると─

 

「まずは……目をつぶって大きく息を吸い込んではくんだにゃ。ほい!」

 

ー深 呼 吸 入ー

 俺は言われた通り、すっと目をつぶり、カイラと一緒に深呼吸を始める。

 

 大きく息を吸い、息を吐き出す。

 

 その行動を数回繰り返し、目を閉じて行っている分だけ静かな気持ちになれる。

 

 心がおちつきを取り戻し、閉じられた瞼の暗闇を照らす暖かな太陽の日差しと、カイラが握っているその両手のぬくもり、二人の間を駆け抜ける風のにおい、自分が座る大地と草の感触が顕著に感じられるようになっていく。

 

「──ん、やっぱりジンは筋がいいね。じゃあ……アタシとつないだこの両手を通して、【魔力】を呼び水をするような感じでアンタに流しこむ。アンタに流れ込んだアタシの【魔力】は、アンタ自身が【魔力】を生み出す適正があれば、反発しようとして出てくるはずニャ」

 

 カイラが、目を閉じたままの俺に対してそう語りかけ、俺は目を閉じたままその言葉に頷きながら、意識をカイラとつないだ手のぬくもりに集中する。

 

「いくニャジン。ふぅ?……これが……【魔力】だよッ!」

 

ー魔 力 流 入ー

 カイラがそういうのと同時に、カイラの手から流れ込んでくる……力の流れ。

 

 静かな清流のような、吹き抜けるさわやかな風のような……そんなやわらかな感触がカイラの手を通して俺の手に入り、俺の体に流れてくる。

 

 五感を駆け抜けるその力の流れに、俺の胸のあたり……心臓に重なるように何かが開くような感覚と共に同じような力が溢れだし、俺の体内を駆け巡ってカイラの【魔力】を押し返そうと猛然と荒れ狂う。

 

 そしてそれはカイラへと逆流するかのようにつないだ両手へ流れていき─

 

「……んっこれは……」

 

ー両 手 離 脱ー

 そういいながらカイラが吐息のような声を漏らしながらつなげていた両手を離し、カイラから送られていた力の流れが断ち切られる。    

 

 しかし、合流しようと俺の中からあふれ出したその力が、行き場を求めて体を駆け巡り─

 

ー魔 力 流 出ー

「……ぉぉ……」

 

「うんうん、それがジンの【魔力】だニャ。その感覚をよくつかんで、自在に出し入れできるようにするんだにゃ。それは意思を伝える能力となり、【リキトア流皇牙王殺法】……は【牙】族の関係上無理だけど……【((呪符魔術士|スイレーム))】、そしてその体を守るために使う事もできる便利な能力だからにゃ〜」

 

「うん、わかった!」

 

 目を開いて、自分から溢れ出すこの力の感触……感覚を確かめながら、その力の流れを導くように意識を集中する。

 

 俺の意識に反応した魔力は胸から流れ始め、血流のように腕から指先、体を抜けて足へと。

 

 そして足から再び胸へと戻り、循環する流れを作り出す。

 

ー魔 力 循 環ー

(……これが【魔力】……静かな力の流れだな……色でいうと……カイラの【魔力】が緑色で、俺の【魔力】の色は緑の色が濃い……青といえる色だ)

 

 俺はしばらくその循環を続けた後、胸から溢れ出す【魔力】の流れを制御・抑制しながら徐々に徐々に【魔力】の放出を抑えていく。

 

ー魔 力 流 止ー

 蛇口を閉じるようにしてゆっくりと少なくなっていくその力は、ゆっくりと巡って胸に戻るのと同時にピタっと収まる。

 

「……驚いた。本当にジンはすごいニャ。【魔力】をアタシが流したからといって……その力の流れを感じ、操るだなんて……リキトアの闘士見習い達ですら早くて三日から一週間はかかるっていうのに……」

 

 唖然としたようなカイラ、俺に対して感嘆の声をかける。

 

 実際、俺の場合は俺に付加された三つの能力のおかげで上達が早いだけなので、その言葉にはなんとなく微妙な表情を返してしまったものの……俺はその【魔力】とよばれる新しい力になれるために、再び胸から【魔力】を体に流し、今度は一部分に集約させたり、体全体に覆ったりと、【魔力】の出力調整・運用のための技術を練り上げる。

 

 ある程度慣れてきたところで、俺は体内に流れる【魔力】を再び静かに抑えていき、ゆっくりと呼気を吐き出しながら再び【魔力】の流れを止める。

 

「ん。抑え方もさまになってきたニャ。しかし……大したもんだにゃ。それだけコントロールできるなら、【気力】もすぐ操れるようになりそうだにゃ〜。……おっし、【魔力】だけにしようかと思っていたけど、【気力】もやっちゃおう! あ、ジン? 【魔力】が体内にあふれているうちは【気力】が流せないからきっちり押さえるにゃよ〜?」

 

「ん? なんで?」

 

 俺が不慣れならがも【魔力】を抑えたのを見て、カイラが褒めながらも【魔力】を押さえるようにと言ってくる。

 

「まあ、普通に人間には二種類の力が宿っているとはいえ……【魔力】のほうは発現するほうが稀なんだにゃ。本来、肉体的運用には【魔力】は必要ないもの。だから、肉体から溢れる力である【気力】は、【魔力】を追い出そうと反発してしまうんにゃよ。まして、扱いに慣れていない人間の体では【魔力】と【気力】を同時に発現させていまうと……ぶつかり合った際に、肉体のバランスを崩しかねないほどに強力な反発力……そうだにゃ、爆発みたいなものが起こると思ってもいいかもしれないにゃ。そんなものが体の内部で起きてしまうんだにゃ。それを補うための技術として、【気力】を変質させて【魔力】に変えたり、【魔力】を変質させて【気力】に変える【流動】という技術もあるんにゃけど……まあ、それはまた後でかにゃ」

 

「……なるほど……」 

 

(同時に発現しようと反発する……つまり、イメージ的には体がこう……ボンっと! ………………やめよう、うん。普通にご飯がおいしくなくなる映像だし……)

 

 カイラの言葉を【((無限の書庫|インフィニティ・ライブラリー))】に刻み込みながらも、俺は思考を巡らせる。

 

 【魔力】というのは基本そう目覚めるものではなく、主に【気力】が主流として使われる能力であるらしい事。

 

 そして同時に発動させようとすると反発し、恐らくは暴発する事。

 

 【リキトア流皇牙王殺法】は【魔力】を使用し、イメージを【魔力】で形にし、自然を変容させて戦う力だという事。

 

 与えられたキーワードと情報を元に、俺は思考を続ける。

 

 そして、そんな思考を続けていた俺の手を、再び握るカイラ。

 

 俺の目を見て頷くカイラに応じて、俺は再び目を閉じてカイラの手に意識を集中させ、気持ちを落ち着けるために数回の深呼吸を繰り返した後─

 

「んで、これが……【気力】だにゃ! はっ!」

 

ー気 力 流 入ー

「ッ!!」

 

 カイラの暖かい掌の感覚から、再び流れ込む力の流れ。

 

 それは……暖かい……いや、熱いと感じるほどの……脈動する命の流れ。

 

 荒れ狂う激流のように俺の体に侵入してきたそれは、俺の体をかき乱すかのように暴れ狂う。    

ー熱 気 発 生ー

 

「ッ……ぁぁ!」

 

「落ち着きなジン! 下っ腹あたりに、額に感じたものがあると思って意識を集中させてごらん! 大丈夫! ジンなら出来るはずだよ!」

 

 そうカイラに言われた瞬間─

 

ー気 力 噴 出ー

 意識を集中させようとしていた部分にカイラの【気力】が到達し、その刹那……猛烈な反発力と共に力が溢れ出す。

 

「っ!? これは……!」

 

ー弾 手 離 脱ー

 噴出した【気力】がカイラの気と、つなげていたカイラの手を弾き飛ばし、俺の体を【魔力】とは比べ物にならない勢いで荒れ狂う。

 

(くっ……! ぜ、んぜん違う! ずいぶん……暴れん坊なんだな……!)

 

 さきほどカイラから指示があったように、下っ腹……丹田の位置に意識を集中し、あふれ出す【気力】を制御しようと試みる。

 

ー橙 色 噴 出ー

 太陽のような橙色に輝きながら俺の体から放出されるその流れは、脈打つように放出され、外へと拡散していく。

 

 俺はその様子を見ながらも、その拡散放出されるその【気力】の流れを体内にとどめるために、腰を落として両足を踏ん張りつつ、中腰で下っ腹の丹田の当たりで指先と指先をあわせて菱の字型になるように構えながら、深呼吸と共にその部分に【気力】が集まるように試みる。

 

(……まるで炎みたいだな……! くぅ……外にあふれ出す【気力】を……体内に循環……させる……!)

 

ー激 流 気 噴ー

 イメージするのは……血液。

 

 この脈動する流れは、激しく運動をするために、心臓が送り出す血液の流れ。

 

 俺はそのイメージを持って、深呼吸をしながら心臓や呼吸を収めるイメージで、丹田へと【気力】を流し、また全身へと流し込んでいくイメージを固める。

 

ー深 呼 吸 入ー

 深く息を吸い、息を吐く。

 

 先ほど流れを感じ取った【魔力】のように、体を血液が流れて丹田という場所に溜め込むイメージで【気力】を体中へと循環させていく。

 

 【気力】はやがてその意識の集中とともに放出から内燃へと形を変え、体内を巡って肉体を活性化させ、その力を高めていく。

 

ー気 力 纏 漂ー

「……いや、【魔力】っていう前例があるからいけるとは思ってたけどニャ……本当にやれるにゃんて……」

 

「ふぅ〜……」

 

 体を薄く覆うように赤い輝きが俺の体の回りを包み込んでいるのを感じ、俺は深く息を吐く。

 

(ん、やっぱりこういう流れが俺にあってる)

 

 先ほどまでの荒々しい流れが、静かな……まるで目の前の湖面のようにゆったりとした流れになった【気力】の姿に満足しつつ、再び深呼吸と共に【気力】を丹田へと収めていく。

 

 橙色の輝きが体の中へと集約されていき、その輝きが体内に集約されていき……俺の状態はいつもと変わらない通常状態へと戻っていく。

 

「にゃは?……まいったニャ本当に……【気力】は【魔力】よりも暴れん坊だからもっと時間がかかるのに……」

 

ー頭 撫 乱 暴ー

「わ〜?! やめろよ〜?!」

 

「にゃっはははは! このこの〜!」

 

 明らかな驚愕を顔に貼り付けたカイラが、【気力】の収まった俺の頭を髪をくしゃくしゃにするかのように乱暴に撫でる。      

 

 髪がぐしゃぐしゃになり、文句を言いながら髪を撫で付ける俺と、そんな俺に笑いかけるカイラ。

 

 しかし、カイラが急に真面目な顔になり、俺に諭すような口調で話しかけてきた。

 

「……正直、ジンがここまで才能にあふれてる子だとは思わなかった……。いい? ジン。さっき【魔力】も【気力】も全ての人がその体に内包している力だっていったけど……それには続きがある。この二種類……これが目覚めるのはあくまである一定の修練を積んだ……才能在る人間達だけなんだ。正直言えば、ジンが才能ありそうだから先ほどの手を使って【気力】や【魔力】を扱えるようにしてあげられたけど……実際はさっきのやり方でも目覚める確率はそう高くない。大抵は送り込まれた【魔力】や【気力】が異物として体内に残り、体調を崩してしまうのがほとんど。それ以外だと……この森の中のように、その能力に目覚めやすい環境で己を鍛えぬいて【魔力】や【気力】を感じ取れるまで自らを高めるしかない。実際、一生【魔力】や【気力】の感覚をつかめないまま終わっていく人だって少なくない。どちらか一方が目覚めただけでも、もう普通の人とは一線を画す存在といえるの

 

「…………」

 

 先ほどまでの口調とはまったく違う口調で、俺に語りかけてくるカイラ。

 

 ひどく真剣なその視線は、俺を心配する色も含んでいた。  

 

「簡単に言えば、【魔力】や【気力】は武具そのもの。格闘技術が同じもの同士が殴りあうとするならば、普通に鍛えた人間が裸の状態。【気力】か【魔力】を身に纏ったほうは、その両手に鉄板のついたナックルをつけ、全身にくまなく重さのない鎧を身に纏っているほどの違いが出る。わかる? 向こうの攻撃は効かないのに、こちらの攻撃は通りまくるという一方的な展開になる。今回、新人指導を担当するはずだったアタシだけど……新人達が【魔力】や【気力】を得る状態にない事と、その力を得ても耐えられそうにない事から指導が見送られたの。我等【牙】族は、生まれてより自然と共にあることで【魔力】に目覚めやすい。そして【リキトア流皇牙王殺法】には【魔力】が必須であり、【魔力】に目覚めなければ一人前の【狩士】とは認められない。だからこそ、我等【牙】族は修練と精神修養を重ね、自然と一体化する術を学び、より【魔力】に目覚めやすい環境で修練を重ねて【リキトア流皇牙王殺法】の習得を目指す」

 

 真剣に見つめあうその瞳を逸らすことも出来ず、俺はカイラを見つめあいながら、カイラの説明してくれる内容に聞き入る。

 

 俺は【((進化細胞|ラーニング))】の恩恵でここまで簡単に扱えるようになった訳だが……実際には相当狭き門だったようだ。

 

「……だから、そのどちらにも目覚め、尚且つこんな短時間でこれを収めたジンは……その力の意味を知らなければならない。力を持つ意味と……力を振るう覚悟。これからはその力の扱い方と、心構えを教えてあげる。戦いかたもそうだけれど……力をもてあましたり、急に力をつけたものは……その力を誇示したい、その力を発散させたいとして、時に凶悪に、そして破壊的に暴れまわることも少なくない。だから、そうならないように、アタシがジンを導いてあげる。そういう馬鹿を作らないために……我等先達がいるのだから」

 

 俺の両肩を掴み、真剣な瞳で俺にそう言い聞かせるカイラ。

 

 俺は、そんなカイラの言葉を胸に刻み、しっかりと目を合わせたまま頷く。

 

 この状況自体が、能力に振り回され気味の自分とぴったりと重なり合うように見えるからだ。

 

「うん……カイラ、何回も言うようで悪いけど……よろしくお願いします!」

 

「……ふふ、うん、ジンなら……大丈夫だね。よっし! 真面目モードは終わりにゃ〜〜〜〜! さ、これからはカイラさんのサバイバル講座! はじまるよ〜〜〜!」

 

ー強 引 抱 擁ー

「わ?!」

 

「にゅふふ?♪」

 

 そう、真面目な顔をいきなり崩し、にやりとした微笑みを浮かべて素早く俺を後ろから強引に抱きしめるカイラ。

 

ー首 筋 擦 合ー

「ひゃ! く、くすぐったい! くすぐったいよカイラ!」  

 

「いいじゃな?い♪ このさらさら感がたまらないのよにゃ?♪」

 

 抱き締めて動けない俺の顔に、自分の顔をこすり付けてくるカイラ。

 

 その際、髪の毛が俺の首筋を触り、非常にくすぐったいのだ。

 

 どうにか逃げようとするが、カイラが絶妙な力で捕らえたまま逃がそうとせずにがっちりホールドしていた。  

 

(むう……それなら……!)

 

「おりゃ!」

 

ー尻 尾 掌 握ーー

「にゃはぅ?!」

 

 俺を後ろから抱き締めて頬擦りする際、楽しいのか大きく揺れる尻尾が視界に見えていたのだ。

 

 俺はその尻尾が俺の手元に来た瞬間、お返しとばかりにその尻尾を握り締める。

 

(わ??い! もふもふ! もふもふだ??!)

 

ー揉 毛 撫 尾ー

 久々のもふもふな手触り、なかなかいい毛並みの尻尾の感触に満足しつつ、丁寧に手櫛を通していく。

 

「んっ……! あ、あんまり強くしただめにゃよジン?! 中身はいってるんだからニャ!」

 

 そんな事をいいながらも、気持ちいいのか顔をへにゃっと崩すカイラ。

 

 きっと俺の顔もおなじようにへにゃっと崩れているんではないだろうか。

 

(まあいいや、そんな事より今はこのもふもふを?♪)

 

 カイラは俺の抱き心地を、俺はカイラの尻尾のもふもふを。

 

 俺達二人は、先ほどまでの真面目な雰囲気が嘘のようにのんびりとした時間を過ごしたのだった。

 

 

 

 

 

「はっ?! いけないいけない! く……ジンめ! なんて和みモードを発動させるんだニャ!」

 

「いやいや、人のせいにしないでよ?!」

 

 そして数時間後、突然はっと正気に戻った二人。

 

 ようやく和みモードから抜け出した俺達は、暗くなる前にと森の中で食材を調達しに森へと入っていく事になった。

 

 手分けして果物や野菜を採取するという事になり、俺はとりなれた果物を取りに行くために、森の茂みに分け入ろうとした瞬間─

 

「とりゃ!」

 

ー指 先 突 爪ー

「たっ!?」

 

 そんな俺の背後から、カイラが突然、俺の頭をつっついて森の木々の陰へと隠れていったのだ。

 

(というか、カイラ爪! 爪! 刺さってるから?!)

 

「カイラ! 痛いよ!」

 

『にゅっふふ?♪ くやしかったら探してみるニャ?♪』

 

ー人 影 隠 匿ー

 

 俺の抗議の声に答えるカイラではあったが、その声は森に反響して出所が分からず、カイラも姿を隠しているためにどこにいるのか分からない。

 

(……む??! 一体どこに……)

 

 突かれたお返しをしようと、森を警戒しながらきょろきょろと見渡す俺ではあったが……。

 

ー指 先 突 爪ー

 

「あいた?!」

 

「にゅっふっふ?! 隙だらけだにゃ!」

 

(だから爪! 刺さってるから?!)

 

 にゃははと悪戯っぽい笑顔を一瞬視界に捉えた後、再び森に溶け込むように隠れるカイラ。

 

(む???!)

 

 そんなカイラを追いかけるため、どうにか気配を掴もうとするのだが……カイラの気配は周りの木々の気配と同化してあっという間にその痕跡を消し、足取りがつかめなくなる。  

 

(……気配を隠す……いや、周囲の木々と溶け込むようにしているのかな? ……本当にわからないものだな……)

 

 注意深く回りを見渡しながら、俺はついさっき覚えたばかりの【魔力】や【気力】の感覚を捕らえられるようにと、自分で感じる感覚を押し広げる。

 

ー木 葉 擦 音ー

 そんな中、俺の耳に届く葉が揺れるような音。

 

(そこか?!)

 

 俺は音のした方向に咄嗟に顔を向けてみるが─

 

ー指 先 突 爪ー

「あいた?!」

 

「にゅふふ、あまいあま?い!」

 

 俺の背後から再び俺の後頭部を突き、爪をちょっと刺して俺から離れるカイラ。

 

「っカイラーー!」

 

「にゃっはっはっは♪」 

 

(だから爪刺さってるんだってば!)

 

 痛さでやや涙目になりながらカイラをにらむが、そのときにはすでにカイラは森の中へ入って気配を消しており、中々捕らえることができない。 

 

ー全 力 疾 走ー

(それなら……!)

 

 俺は咄嗟に思いついたことを実行するため、カイラの気配を探しながらも、カイラからの攻撃を避けるために森を全力疾走する。

 

(立ち止まっていたらいい的だな……とりあえず移動をしなければ……!)

 

 俺はそう考え、動き回って的を絞らせないようにしながらカイラを警戒し、周囲を見回しながら走り続ける。

 

ー気 配 凛 然ー

 そんな中、森の中に感じられる存在感ある気配。

 

(っ! カイラか!)

 

 俺は、かくれんぼは終わりだ! とばかりに気合をいれ、その気配を感じる少し離れた場所へと、気配を追って走りだす。

 

 そして、その気配がゆっくりと進む先に先回り、カイラにお返しをするんだと意気込んで、俺は森を迂回しながら気配の前へと踊りだした。

 

ー行 手 先 回ー

 やっと捕まえられるとばかりに、意気揚々と雑木の間をぬけ、森から抜け出してカイラを捕まえようと─

 

「カイラー! いい加減に……ぇ?」

 

ー大 獣 唸 声ー

 したのだが……しかしながらそこに存在していたのはカイラではなく……低い唸り声をあげる、体長2mに及ぼうかという、黒に近い灰色の毛並みを持った……狼だったのだ。 

 

 よほど飢えているのか、その牙の生え揃った大きな口を開け、口からは透明な糸を引く涎が地面にしみを作り……その目は血走って俺を見据えて離さない。

 

 獰猛さを感じさせるその顔は、俺という獲物を見つけてその口元をゆがめ、まるであざ笑っているかのようだった。

 

 そしてその狼が体制を低くしたかと思うと─

 

ー跳 襲 大 獣ー

 

 その体のためから一瞬で俺との間合いをつめながら、その大きな爪を持って俺を引き裂かんと襲い掛かってきたのだ。

 

「っ!!」

 

ー転 逃 土 抉ー

 とっさに横に転がってその爪の一撃を避ける俺ではあったが─

 

ー爪 斬 肩 血ー

「うっ……!」

 

 その狼の攻撃の速さに避けきれず、俺の右肩に狼の爪跡が刻まれ、血が空中に線を引く。

 

(っ痛い……!)

 

 右肩を抑えつつ、俺の肩を掠めて通り抜けた狼へと視線を移すと、着地した勢いを利用して再び身をかがめる姿がそこにあった。

 

「っく!」

 

 どうにか立ち上がり、狼のほうへ体を向けると─

 

ー跳 襲 大 獣ー

 

 再び襲い掛かり、今度はその牙で持って俺を食いちぎらんと、その大きな口を開く狼。

 

 再び回避行動を起こす俺ではあったが、その足元の根に足を取られ─

 

ー回 避 転 倒ー

「っ!!」

 

 その牙の一撃はどうにかよけるものの、俺はその場に転倒してしまう。

 

ー樹 木 噛 千ー

 俺が避けたことにより、近くの樹木を噛み締めることになったその狼は、憎しみを込めた目で俺を見下ろしながらも、その口を閉じながら木の幹を噛み砕き、その上を左薙に振るわれた狼の爪が通り抜け、近くの樹木を抉り、木の破片を撒き散らす。

 

ー連 転 回 避ー

ー連 爪 地 抉ー

 そして、その足を振り下ろし、その爪で引き裂こうとする狼の一撃を、俺は地面を転がることによって回避したのだが、逃がさんとばかりに狼からの追撃の爪の一撃が、次々と俺を捕らえようと振り下ろされ、俺が転がって避けるたびにその一撃が地面を抉っていく。

 

(このままじゃまずい! どうにかして逃げるチャンスを─)

 

 回転回避をする中、どうにかして逃げようと考えを巡らせていたその時。

 

ー背 当 樹 止ー

 背中に当たる木々の感触と共に俺の回転は止められ、木の根がジャンプ台のような要領で俺の体を宙に浮かせたのだ。

 

(……え?)

 

 呆然と宙を舞う俺に対し、歓喜を浮かべた狼の爪の一撃が、まるでスローモーションに見えるぐらい遅いスピードで振り下ろされ─

 

ー爪 撃 抉 飛ー

「ぐあっ!!」

 

 俺を完全に捕らえたその凶悪な爪撃は、とっさにガードをした俺の左手を深く抉り、ガードしきれなかった爪が俺の胸から腹にかけてを深々と切り裂き……狼の振りぬいた爪の斬閃が空中に血の筋を作る。

 

ー吹 飛 転 擦ー

「がっ……はっ」

 

 俺はその一撃で空中から地面に叩きつけられ、地面をバウンドしながら体と左腕から流れる血で線を描きながら地面でバウンドし、転がっていく。

 

ー樹 木 撃 止ー

「ぐっ……ぁぁ」  

 

 そして、樹木に背中をぶつけた衝撃で口に溜まっていた血を吐き出し、傷口から血が迸る。

 

 木に寄りかかることで辛うじてたっていられるような状態の俺に対し、食らいつくさんと迫る狼の凶悪な牙が、森の日陰の中で涎をともない鈍く輝きを放つ。

 

ー細 胞 再 生ー

 そんな絶望的な状況の中、体が軋む感覚と共に【((進化細胞|ラーニング))】が発動し、俺の体を健康な状態に戻すべく、凄まじい速度で怪我の修復を始めたのだが─

 

 そんな俺に時間を与える事なく、猛然と襲い掛かる狼。

 

 眼前に迫る死の恐怖が、明確な形となって姿を現しているのだ。

 

 その目に凶悪な輝きをたたえた狼が、その口を大きく開き、俺の上半身をその口内に納めんと目前に迫る。

 

(……もう、だめなのか……な)

 

 俺の心が折れ、絶望に染まろうとしたその瞬間。

 

「っ! ジンーーーーーーーーーーーーー!」

 

ー全 力 疾 走ー

 俺の姿を見て悲痛な叫び声を上げながら、俺の元へと駆け寄ってくるカイラの姿がそこにあった。

 

 疾風の如く驚異的な速度で迫るカイラではあったが……今のこの現状にその距離はあまりにも遠かった。

 

 しかし─

 

(カイラ……ああ、そうだ。あるじゃないか……まだできることが─)

 

 目の前に迫る牙。

 

 左手の傷口から右手を離した俺は、背中に感じる樹木へと、その右手をつける。

 

(─大事なのは【魔力】を流す際のイメージ。その【魔力】のイメージを受け取って木々や土は、その姿を変える)

 

ー魔 力 巡 回ー

 

 体の中から流れ出す青い【魔力】が、俺の体の中を流れ、巡回し……【魔力】の運営を始める。

 

 死の直前にあってクリアになる思考が、明確な意思を【魔力】に伝える。

 

 意思のこもった【魔力】は、右手から樹木へと溶け込むように流れ、その【魔力】を受け取った樹木は─

 

ー樹 木 隆 起ー

 その意思を形にする。

 

?【リキトア流皇牙王殺法】?

 

 それはカイラ達【牙】族の力。

 

?【木門】【拳技】?

 

 自然を武器として使う、リキトアに伝わる技。

 

?【((木拳|トラフィスト))】?

 

ー木 拳 連 撃ー

 

 樹木の幹から作られた木の拳が、俺の体の周りを覆おうように、俺の人型を残しながら囲うように放たれる。

 

ー撃 退 拳 打ー

ー苦 痛 呻 歪ー

 突如として繰り出された反撃の一手は、飛びかかるという行動を取っていた狼には避けることもできず、カウンターとなって狼の顔に深々と突き刺さる。

 

 牙を折り、自らの顔にめり込んだ拳に苦痛のうめき声を上げる狼だったが─

 

ー殴 打 連 撃ー

 木の拳はその一撃に留まるはずもなく、外敵を排除するべく追い討ちの如く叩き込まれる【((木拳|トラフィスト))】の連撃。 

 

ー吹 飛 転 擦ー

 

 その連撃に耐えかねたかのように、狼の体が【((木拳|トラフィスト))】によって押し返され、吹き飛ばされ、先ほどのジンの焼き増しをするかのように地面に打ち付けられて転がっていく。

 

(……や、ったのか……な)

 

 樹木に背を預けながら、ずるずると座りこんだ俺は、狼の吹き飛んだ方向を恐怖を持って見つめていたのだが─

 

「ジン!」

 

(あ、カイラ……)

 

ー柔 軟 抱 擁ー

 

 涙目で心配そうな顔で俺の元へとたどり着き、俺を優しく抱きしめてくれるカイラ。   

 

 俺は暖かな鼓動を感じた瞬間、助かったんだという実感とともに安心感を得た俺の意識は……途絶えていった。

 

 

 

 

 

 迂闊だった。

 

 それは確実にアタシのミスだった。

 

 【魔力】や【気力】という力の流れを先に身に着けたジンに、狩りに必須の相手の気配の捉え方や、自分の気配の遮断の仕方を教えるために悪戯心で仕掛けたかくれんぼだったのだが……。

 

ー全 力 疾 走ー

 何回かジンの後ろ頭をつついて警戒度をあげさせ、さらにはアタシの攻撃を避けるために、走り出したジン。

 

(お、まあまあの反応かニャ?)

 

 アタシが少し離れた位置から見守る中、ジンは森から距離を離しつつも、周囲を見回し、気配を必死に探そうとしていた。

 

 そんなジンの反応に満足しながらも、今度は徐々に気配を強め、ジンに気配を掴ませようとジンのとの距離をつめようとした矢先。

 

ー森 林 突 入ー

 何かの気配を感じたのか、笑顔で唐突に向きを変え、森へと突入していくジン。

 

(……ん? 一体どうしたのかニャ?)

 

 それが気になってジンを追いかけるアタシの目に飛び込んできたのは……木の幹につけられた獣の爪跡。

 

 それは、その獣の縄張りを示すマーキングの爪跡であり、ここら周辺がそいつの縄張りであることを指し示していた。

 

(っ! しかもこれは【((灰狼|グレイウルフ))】! ……この爪跡からいって結構デカイ!)

 

 それは、この森の力関係において上位の危険種である狼であった。

 

 その中でも、体長2m以上にまで成長する凶悪な種族である【((灰狼|グレイウルフ))】は、その大きな体に似合わない俊敏さと攻撃力を持つ種族である。

 

 当然の如く肉食であり、爪のマーキングを樹木に施すことによって自分の縄張りを誇示している。

 

 その縄張りに入り込んだ生き物は容赦なく捕食し、自らの糧とすることで己の力を示す。

 

(まずい! だとするとジンが感じた気配というのは……!)

 

 焦る気持ちがアタシを支配する。

 

 【魔力】と【気力】の扱いを教えたとはいえ、戦い方などはまったく教えていない。

 

 狩りの基本ですら叩き込めていない状況で、あの素早く獰猛な【((灰狼|グレイウルフ))】から逃れる術はない!

 

 我等【牙】族であれば、その身体能力を生かして木々の上へと逃げることも可能だっただろうが、ジンは未だに小屋に上る際に蔓を使っている。

 

 つまり、地面を走っての移動しかできない状況なわけだ。

 

(まずい! まずいまずいまずいまずい!)

 

 冷や汗が走るあたしの背を流れる。

 

 力のない子供を狩るなんて、【((灰狼|グレイウルフ))】には容易いこと。

 

 そして、アタシはジンを観察するためにジンとの距離を大幅にあけてしまったのだ。

 

 ……この距離はジンの生死にとって絶望的な距離となる。

 

(お願い! 間に合って!)

 

ー歯 噛 締 鳴ー

 かみ締める歯が軋み音を立て、アタシはあらん限りの速度でジンの気配を辿り、一直線に駆け抜ける。

 

ー樹 木 跳 躍ー

 木の幹を蹴り、木の枝に乗るアタシは、ジンの気配を追って唯ひたすら真っ直ぐに木々を飛び移り─

 

ー獣 響 咆 哮ー

 そんなアタシの耳に飛び込んでくる……獣の勝利の咆哮。

 

「っ! ジンーーーーーーーーー!」

 

 その耳に捕らえられた咆哮の方に顔を向けると、樹木に力なく背を預け、体を赤く血に染め、深い傷を負ったジンの姿がそこにあった。

 

 アタシの呼びかけに答え、一瞬だけアタシのほうに視線を向けたその瞳に宿る輝きは弱く、意識が保てなくなりかけているという事は、その体に負った傷が深い事を示していた。 

 

 そして、ジンの眼前に迫る……【((灰狼|グレイウルフ))】の大きく開かれた牙。

 

(!!!!! 【リキトア流皇牙王殺法】で……! だめ! 距離が! 間に合わない!!!!)

 

 絶望的な思いがあたしの心を埋めつくし、次の瞬間にまっている凄惨な光景があたしの脳裏に浮かび上がる。

 

 そんな絶望的状況化の中、アタシから目の前の狼に視線を移したジンの瞳にわずかに輝きが戻り─

 

ー魔 力 循 環ー

 

 ジンが己の意思を振り絞るかのように、その体に【魔力】の青い輝きが覆う。

 

(【魔力】の保護! でも……それじゃ足りない!)

 

 咄嗟の判断としては申し分ない判断ではあるが、相手が相手だけに多少の軽減でしかない。

 

 その程度では【((灰狼|グレイウルフ))】の攻撃を防ぎきるには至らないのだ。

 

 一瞬だけ【((灰狼|グレイウルフ))】の牙を防いだ後……その魔力ごとジンの体を牙が貫くだろう。

 

 しかし、アタシの見ている目の前で、その青い魔力の輝きは、樹木に添えられた右手に集約され─

 

ー魔 力 浸 透ー

 

 背を預け寄りかかっていた樹木へとその【魔力】がしみこむかのように流れていく。

 

(…………え?)

 

 それは、我等【牙】族、そして【リキトア流皇牙王殺法】を使うものにとっては見慣れた光景。

 

 その【魔力】は樹木の幹を劇的に変化させる。

 

ー木 拳 殴 打ー

 ジンの頭の上から、【((木拳|トラフィスト))】がまっすぐに【((灰狼|グレイウルフ))】を捕らえ、飛び掛ってきていた【((灰狼|グレイウルフ))】の顔を深く捉える。

 

 そして、その木の拳に追従するように、他の木の拳が【((灰狼|グレイウルフ))】をメッタ打ちにし、【((灰狼|グレイウルフ))】を吹き飛ばしたのだ。

 

(う……そ、あれはだって……【リキトア流皇牙王殺法】……!? そんな馬鹿な!)

 

 驚愕があたしの心を埋め尽くす。

 

 確かに【リキトア流皇牙王殺法】の心得と仕組みは教えはしたが……元々【リキトア流皇牙王殺法】は【牙】族限定の技。  

 

 自然と共に生き、自然と共に死ぬ。

 

 そんな獣の血が流れるアタシ達獣人族たる【牙】族にしか使えない御技であり、人間が扱えるという話は聞いたことがなかった。

 

「ジン!」

 

 内心の驚愕を抑えてジンの元へとたどり着き、崩れ落ちるその小さな体を抱き締める。

 

 抱き締めたアタシに視線を移したジンが、その表情に柔らかな微笑みを浮かべて安堵した気配を出した瞬間、ふっとその意識を失う。

 

(……よかった。そうだ傷は……ん、思ったよりもそんなに深くっ?!)

 

ー細 胞 再 生ー

 

 傷の深さを確認しようと、ジンの傷口を見たアタシの目の前で、信じられないほどの再生速度で傷口を塞いでいくジンの体。

 

 この出血量、おそらくは骨まで到達していたのであろう【((灰狼|グレイウルフ))】の爪跡は、ジンの体自身の身体能力により、徐々に肉をつくり、傷をふさいでいく。

 

 そんなに((深くなかった|・・・・・・))ではなく、深かった傷が再生していただけのようだった。

 

(……し、信じらんない……【リキトア流皇牙王殺法】といい、この傷の再生速度といい……ジン、あなた一体………………!? ぁ、まさか?!)

 

 そんな疑問を持ってじっとジンの顔を見ていたアタシは、ふと過去にリキトア遺跡で見た壁画を思い出す。

 

 記憶に蘇る……蒼い髪に緑色の瞳。

 

 古来から伝わり、今では失われてしまった我らリキトアの民の崇拝する対象だった、獣神の祖。

 

 その伝承によく似た……ジンのその姿。

 

 近年、発掘作業にて見つかった、その壁画に書かれていた……我ら【牙】族を守護するといわれる蒼月の女神の美しい姿。

 

 それに酷似していたのだ。

 

(……そうか……そうか! ジン、この子は……【牙】族の力を……自然の力を受け継いでいる血脈なのか……! 自然に愛されている神子! だからこの【リキトア】の森にこの子は……送られてきたのか!)

 

 この全身をかけめぐる驚愕。

 

 ジンの曖昧な記憶、突然この森にへと導かれた経緯。

 

 そして、すべてを魅了するような愛らしい美貌。

 

 抱きしめる手のぬくもり、この手に感じる絹のようないい手触りの青い髪を感じながらアタシは思う。

 

 太古の女神の血筋となる神子、本来ならばリキトアの神子として祭り、女王の下へと連れて行かなければならないところなのだが……。

 

(ジンは……そんな事を望んでいないような気がするし……ね)  

 

 何よりアタシ自身が、ジンに惹かれ、分かれがたい思いがある。

 

ー背 負 固 定ー

 ジンを背負い、そしてジンが初めて仕留めた獲物である【((灰狼|グレイウルフ))】を引きずりながら小屋へと足を向ける。

 

 背中に感じるぬくもりに微笑みながらも、アタシは誓を新たにする。

 

「改めて誓うよ、ジン。あたしは……【四天滅殺】【リキトア流皇牙王殺法】カイラ=ル=ルカは……ジンに力の使い方と生き方を教えてあげる。ジンが……そんな強力な力を授かったジンがくだらない死に方をしないように鍛えてあげる。だから……ジンはその血や力に踊らされるんじゃなく……自分らしく、自分の意思で、自分のやりたいように、生きていきなさい」

 

 沈みかけの夕日が、ジンの行く末を照らすかのように輝きながら道を照らす。

 

 その光景に、アタシはジンのいく道を見たような気がした。 

 

 

 

 

  

『ステータス更新。追加スキルを含め表示します』

 

登録名【蒼焔 刃】

 

生年月日  6月1日(前世標準時間)

年齢    6歳

種族    人間?

性別    男

身長    102cm

体重    27kg

 

【師匠】

 

カイラ=ル=ルカ 

 

【基本能力】

 

筋力    C 

耐久力   C⇒CC NEW 

速力    CC 

知力    C 

精神力   C 

魔力    D⇒C NEW

気力    D⇒C NEW

幸運    B

魅力    S+ 【男の娘】補正

 

【固有スキル】

 

解析眼   S

無限の書庫 EX

進化細胞  A+

 

【知識系スキル】

 

現代知識  C

サバイバル B 

薬草知識  B 

食材知識  B 

魔力操作  C NEW

気力操作  C NEW

 

 

【運動系スキル】

 

水泳    B 

 

【探索系スキル】

 

気配感知  C NEW

 

【作成系スキル】

 

料理    C

 

【戦闘系スキル】

 

格闘    D

リキトア流皇牙王殺法 D⇒C NEW

 

【魔術系スキル】

 

無し

 

【補正系スキル】

 

男の娘   S (魅力に補正)

 

【ランク説明】

 

超人    EX⇒EXD⇒EXT⇒EXS 

達人    S ⇒SS⇒SSS⇒EX- 

最優    A ⇒AA⇒AAA⇒S-  

優秀    B ⇒BB⇒BBB⇒A- 

普通    C ⇒CC⇒CCC⇒B- 

やや劣る  D ⇒DD⇒DDD⇒C- 

劣る    E ⇒EE⇒EEE⇒D-

悪い    F ⇒FF⇒FFF⇒E- 

 

※+はランク×1.25補正、?はランク×0.75補正

 

【所持品】

 

衣服一式

説明
 カイラに案内されたのは森の中でも一際大きな巨木と、その樹に飲まれるように立っている小屋の中へと案内され、風呂に入ろうという提案に、俺達は天然温泉へと脚を進める。 

 悪戯心を出したカイラにより混浴することとなってのぼせて、翌日までカイラが俺を抱きしめて寝ているという自体から目覚めると鼻血を噴出するカイラ。

 森の知識を俺に教えてくれるカイラのまじめな顔にうなずきつつ、その中で朝食を食べながらも教えを受け続ける俺。

 俺が記憶が曖昧だという話から、カイラと出会った日を誕生日にすればいいといってしばらく抱きしめられつつ、お昼は魚だというカイラに従って湖に向かった俺達は、素もぐりで魚をしとめることに成功し、意気揚々とカイラが整えてくれた焚き木に火をつけ、岩塩を発見して味付けをしつつ、焼き魚をおいしくいただくのだった。

※ この作品における【リキトア流皇牙王殺法】の技名は、作者がオリジナルでつけたものです!

 ご不快な点もあるとは思いますが、楽しんでいただければ幸いです!
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コメント
zendamanさん、ありがとうございます! 加筆していたら更新が遅くなってしまいました(笑) わかりました! もっとやりますよ〜!ヽ(*´∀`)ノ(丘騎士)
おお、だいぶん変わってきてますね・・・いいぞ、もっとやれ!    次回も楽しみにいています!(zendaman)
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