IS〈インフィニット・ストラトス〉 転生者は・・・ |
「―――その歪みを駆逐する!」
「―――!」
刹那、こちらの戦意を感じたのか黒いISが俺の懐に飛び込んでくる。
居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、一瞬で詰められた間合いから放たれる横の一閃。
ギンッ!
俺はそれを左のGNショートブレイドで受ける。が、ショートブレイドは俺の手から弾き飛ばされた。
そして敵はそのまま上段の構えに移った。……レプリカでこの戦闘力かよ、((織斑千冬|オリジナル))は化け物か?
続いてその構えから鋭い縦一閃。
ガギィ!
俺は自分と雪片の間にGNソードを滑り込ませ、その斬撃を受ける。なんつー重さだ!
「ぐっ――おらぁ!」
左手を腰の後ろに回してGNダガーを引き抜き、指の間に挟んだ二本のそれを敵に向かって突き出す。
ヤツはそれをバックステップでかわした。
そのバックステップで離れた敵向けて腰から引き抜いたダガーを投げつける。
だが、それは雪片で全て切り落とされた。
「おいおい……まったく、一度でいいからコイツのオリジナルを見てみたいぜ」
声は聞こえてるだろうから、織斑先生に向けた嫌味のつもりで言ってみた。後が怖いとか、今はどうでもいい。
ソードを構えて俺は黒いISに突っ込む。
「おおっ!」
ガンッ、ギンッ、ギャッ、ガッ、ガギッ―――
GNソードを、敵は全て雪片でいなすか弾く。それでもレプリカ程度に反撃させるほど俺は弱くない。
と、そこで。
「―――拓神! どけよ!」
それと同時に、黒いISは横から来た白いISに吹き飛ばされた。
だが、突然のことでも対処している辺りが恐ろしい。
「一夏……なんで来た」
白いISは、一夏の白式。
普通のISの修復が二〜三十分程度で終わるわけが無く、GNミサイルで破損した左腕は破損したまま。
「そいつが気に食わねぇからだよ! アレは千冬姉のデータだ、それは千冬姉だけのものなんだよ!」
「ブラコンとシスコンか……救えないな」
その瞬間、背筋に何か冷たい感触が走ったので、この思考を捨てる。
「だからって、お前がアイツを倒せるのか?」
「ああ、やってやる! あのISも、そんなよくわかんねえもんに振り回されてるラウラも、一発ぶん殴らないと気がすまねぇ」
「ま、できるならやってみな―――できるかどうかは知らねぇよ」
一夏の後ろに黒い影が見えた。俺は一夏の脇を通り、それが振り下ろす刀をGNソードで受け止める。
ガギィン!
「でもな、今のここで油断は大敵だぜ?」
今受け止めたのはわかりきっているが、あの黒いISの雪片。さっきはただ一夏に突き飛ばされただけで、ダメージは無い。
俺はそのまま力任せにGNソードを振り上げ、雪片を弾く。
「――プロトビット!」
六基のGNプロトビットが、黒いISを取り囲むと同時に射撃。しかし黒いISはこれも避けてみせた。
「やっぱりこの程度じゃ駄目だよなぁ……で、一夏。どうする?」
「……やるよ。俺が、やる。コイツを倒す」
どうやら、一夏の決意は固いみたいだ。なら、友人の俺がすることはその背中を押すことか。
「なら、俺がやるからトドメはお前がやれ。俺は一瞬で決める」
「おう!」
――ティエリア、セファーを((収納|クローズ))
――了解した。
背中からコアブロックが消え、プロトビットもその全てをGN粒子に還す。
「覚悟しろよ? まばたきも禁止だ」
プロトビットのかく乱から開放された黒いISに向き直る。
「その歪み、俺たちが破壊する――『トランザム』」
俺は赤い残像を残しながら黒いISに肉薄。振り下ろしてきた雪片をかわし、すれ違いざまにGNソードで横一閃を叩き込む。
「一夏!」
「ああ! ――『零落白夜』発動」
斬撃を受けて隙を見せる敵。そこに零落白夜は発動させた一夏が、雪片弐型を上段に構えて接近。防御行動を取れない黒いISを縦一閃。
「ぎ、ぎ……ガ……」
俺と一夏に十字に切り裂かれた黒いISは紫電を走らせながらラウラを解放、力なく崩れ落ちたラウラを一夏が抱きとめた。
「やっと終わったか……」
俺のつぶやきは、この広いアリーナに消え去った。
◇
強さとは――何なのか。
その答えを見つけられたのは、ただの障害だと思っていた二人のおかげだった。
『強さっつーのは心の在処。己の拠り所。自分がどうありたいかを常に思うことじゃないかと、俺は思う』
『強さねぇ……そうだな。自分の正義に従ってやりたいことを貫くことじゃないか? やりたいことやらなきゃ、損だろ』
……では、お前たちは……? どうありたい? 何をやりたい?
『俺のやりたいことか? ……俺はただ守りたい。好きな女と、その世界を。そのために力を手に入れたんだからな』
――お前には守りたい者がいるのか……
『ああ、最高の奴だ。本当の俺を受け入れてくれた。―――ソイツに呼ばれてるしな。俺は行くぜ?』
そう言って、やさしい微笑みを浮かべていたそいつはこの場から消えた。
私は残ったもう一人を意識する。
――お前は?
『俺は……俺はまず強くありたい。そしてやってみたいことがあるんだ』
――お前も、やってみたいこと……?
『ああ。でも、俺は拓神みたいに守りたいものがまだわかんねぇし、それだけの強さも無い。―――それでも、強くなって誰かを守ってみたい。自分の全てを使って、ただ誰かのために戦ってみたいんだ』
――それは、まるで……
『そうだな。だから、お前も守ってやるよ。ラウラ・ボーデヴィッヒ』
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◇
「ふぅ、疲れた……」
自室に帰ってきた俺を迎えるのは、誰もいない。
楯無は今回の件についての対処で忙しいみたいだ。
このあとは、すぐにでも教師陣の事情聴取を受ける事になっている……気が重い。
「にしてもさっきのは―――((相互意識干渉|クロッシング・アクセス))?」
『ああ、そのようだ。こちらでも確認した』
「GN粒子による脳量子波拡張の影響か? じゃなきゃ俺まで巻き込まれる理由は無いはずだ」
『可能性は――無いとは言えないか。調査するか?』
「いや、いい。どっちにせよ、ダブルオーライザーが使えればこれ以上のことができるんだからさ」
それにしても相互意識干渉……本音を隠せない場所なのか?
――でもまぁ、悪くは無いな。
さらに数時間後。
『トーナメントは事故により中止になりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため――――――』
ピ、と誰かが食堂のテレビを消した。
今は、俺・楯無・一夏・シャルルで夕食をとっている最中。
俺と一夏の事情聴取が終わったのがついさっき。楯無も仕事がちょうど終わり、シャルルは一夏を待っていた。
そして何があったのか興味津々で集まってくる女子をかわして、今になる。
「一夏くん、七味取ってくれる?」
「あ、はい」
「あ、次僕にください」
「はーい」
当事者二人までがのんびりしすぎだと言われても、気にしてはいけないのだ。
「ふー、ごちそうさま。学食といい寮食堂といい、この学園は本当に料理がうまくて幸せだ」
「一夏、爺くさいぞ。……ん?」
食堂の入り口付近。そこに溜まっていた女子のテンションが暴落した株を持っていたかのように下がっていた。
ちなみに理由は知っての通り。
「……優勝……チャンス……消え……」
「交際……無効……」
「……うわああああんっ!」
ばたばたー、と数十名の女子が走り去っていった。
「どうしたんだろうね」
「さあ……?」
ちんぷんかんぷんなシャルルと一夏を目の前に、俺と楯無は顔を見合わせて静かに笑う。
「…………」
女子の去った後に見覚えのあるポニーテールを発見。箒だ。
口からエクトプラズム(?)が出ているかのように見える。
そんな放心状態の箒に一夏が近寄っていった。
「さて、私たちは部屋に戻りましょう?」
「え? あ、ああ」
半ば強制的に楯無に手を引かれ食堂を出ることに。
……後ろから、鈍い打撃音と打撃音が聞こえたのは気にしちゃいけないぜ?
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第35話『その歪みを駆逐する by拓神』 | ||
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