仮面ライダーディージェント 第1話:代行者の誕生
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仮面ライダーディケイド・門矢士が仮面ライダーキバーラ・光夏海によって殺された瞬間、ディケイドライバーに内蔵されていたブラックボックスが解放されていた。

そのブラックボックスはディケイドが万が一破壊され、行動不能になった時に開かれるバックアップシステムであった。

バックアップはディケイドライバーに入っていたすべての情報を自身にダウンロードし、新たなライダーとして存在を構築していった。

そのライダーの名は…“仮面ライダーディージェント”

 

 

 

 

 

スーパーショッカーのアジト…そこで鳴滝は怪人たちを束ねるゾル大佐として怪人たちを集めていた。

ディケイドが死んだ今、彼の目的は達成されあとはこのスーパーショッカーという悪の組織を徐々に解体させるだけとなった。

鳴滝は元々、世界征服などという事を望んではいない。彼の目的はあくまでディケイドの破壊であって、このスーパーショッカーもただディケイドへの対抗手段として作り上げたにすぎない。

ディケイドがいなくなった今、あとは各世界から集めた怪人たちを元の世界に帰し、すべてを元に戻すだけとなった。

 

「さぁ、怪人達よ! 己の世界に行き、自らの信念に従って動くのだぁ!」

 

鳴滝はゾル大佐として怪人たちに向かって叫ぶ。

その言葉は逆に考えれば怪人たちがこれまで通りにやってこいと言っているだけで、怪人たちの士気を高めるだけに過ぎない。

 

『グオォォォォォォォォ!!』

 

怪人たちはその号令に対して何の疑問も持たず、彼の言葉に返事をするように雄叫びを上げる。

ここにいる怪人たちは比較的知能の低い者ばかりだ。知能が高ければ鳴滝の命令を聞かず、反乱を起こす者たちが現れるかもしれないという鳴滝なりの配慮だ。

このまま徐々に怪人たちを帰していけばすべてが元通りになる。そのはずだった……。

 

「おっと、悪いがお前達はここで消えてもらうぜ」

『ッ!?』

 

アジト内に聞き覚えのある男の声が響く。鳴滝と怪人達は声の聞こえた方へ一斉に向く。

するとそこには黒いコートにマゼンタカラーのインナー、目元が隠れそうなくらいの少し前髪が長い茶髪、そして若干キツそうな目に少しムスッとした口をした長身の男がいた。

鳴滝はその男を知っていた。忘れる筈がない憎き相手……

 

「き、貴様はディケイド!?馬鹿な!何故生きてる!?」

 

鳴滝がその男の名と疑問の言葉を口にする。するとディケイドと思われる男…門矢士が呆れたように小さく溜息を零すと鳴滝に言い放った。

 

「違うな、俺は確かに門矢士だがディケイドじゃない」

「何ぃ!?」

 

門矢士の返答に鳴滝はさらに疑問を口にする。奴はディケイド…破壊者でしかない。それ以外に何があるというのか。

そして更に門矢士は返答を続ける。

 

「俺はディケイドのバックアップシステムだ。この姿はディケイドライバーにあった情報から構築させてもらった仮の姿であってお前に言っている門矢士とは違う」

 

そして門矢士は返答しながら一枚のカードを取り出し鳴滝達に見せる。

そのカードに描かれているライダーは、ディケイドに似て非なるもの……

 

「俺の名は破壊の代行者…仮面ライダーディージェントだ!覚えておけ!!」

 

門矢士…ディージェントはさらにメリケンサックにゴツゴツとした四角い機械がくっ付いたディージェント専用変身ツール…ディージェントドライバーを右手に出現させた小さな灰色のオーロラ…次元断裂から取り出して腹部に宛(あて)がった。

 

すると四角い機械の先端部分から帯が飛び出し、帯はディージェントの腰の周りを一周し、カチリという音と共にドライバーの反対側に装着されてベルトを形成する。

更に、ディージェントはそこから流れる動作でディージェントドライバーの持ち手部分を引っ張って、四角い機械部分を時計回りに90度回転させ、上部にカードの挿入口を出す。

 

「変身!」

 

[カメンライド……]

 

変身コードを言い放ちながらカードを挿入口に装填すると、ディージェントドライバーから電子音声と「ギュインギュイン」という待機音声が流れる。

そこから間髪いれずに持ち手部分を押し込むと、機械部分も再び90度反回転し元に戻す。

 

[ディージェント!]

 

ディージェントドライバーが元の形状に戻ると同時に電子音声が鳴り響き、ディージェントの身体に変化が訪れる。

 

身体がアナログテレビに酷似した灰色の砂嵐とザーザーという音に包まれ、ディージェントドライバーの機械部分の中央にある丸く青黒い部分から黒い四角い板…ライドプレートが数枚飛び出す。

その板はブーメランのように回転しながら灰色の砂嵐に包まれながら身体を再構築しているディージェントの頭部に4枚突き刺さる。

残りのライドプレートは両肩に横に2枚ずつ、両脚の脛部分に縦に1枚づつ突き刺さり、するとその突き刺さった部分から砂嵐が消えていき全身を一瞬だけ薄い水色に染め、そこからさらにその色を深くさせ藍色になる。

そして最後にDを鋭角に尖らせ、鏡合わせに反転させた黄色く大きな複眼が光る。まるでエレベーターの閉口ボタンを彷彿とさせる形状だ。

 

その姿はディケイドに酷似した物だが、それでいて全く違うものだった。

 

深いインディゴカラーのシンプルな装甲と四肢と胸部に伸びる白いラインの入った黒いボディに黄色い複眼、中央の2枚のライドプレートは縦に突き刺さり、その角の一部には黄色い水晶のような物…シグナルポインターが付いていた。端の2枚は斜めに突き刺さっており、X字になる様に下の部分でつながっている。

その頭部を全体的に見るとまるで下を向いた二本線の矢印のようだった。

 

「さぁて、ディケイドに代わって計画を再開させるか」

 

変身が完了するとディージェントは軽く手を二回はたきながら眼前に群がる怪人達に言い放った。

 

 

 

「な、何なんだ…これは……」

 

鳴滝はそう呟きながら辺りを見渡す。

この場にいたすべての怪人はたった一人のライダーによって全滅していた。

グロンギやアンノウンは身体を爆散され、オルフェノクやイマジンはその身を灰や砂に還され、アンデッドは例え破壊してもすぐに復活するためご丁寧に封印用のブランクカードを生成してそのカードの中に封印した。

そしてディージェントは新たな攻撃対象を見る。その黄色い複眼の先にいるのは…鳴滝……。

ディージェントは鳴滝にゆっくりと近づきながら次元断裂空間から1枚のカードを取り出す。そのカードは…ファイナルアタックライドのカード。これで止めを刺すつもりなのだろう。

鳴滝は腰が抜けたのか上半身を必死に動かしながら後ずさる。

 

「往生際が悪いぞ、鳴滝」

 

そう言い放ちながらカードをディージェントドライバーに挿入する。

 

「お前は俺達の計画には邪魔な存在だ。ここで倒しておかないと面倒だからな」

 

[ファイナルアタックライド……]

 

「おのれ…おのれディケイドォォォォ!!」

 

「だから、俺の名はディージェントだ」

 

目の前にいる脅威に怖気づきつつも叫ぶ鳴滝に呆れながらも言い返し、ドライバーの持ち手部分を中央に押し込んでそれですべてを終えようとしたが……

 

[ディディディディージェ………]

 

電子音声がそこで止まった。

鳴滝は疑問に思いつつディージェントの全身を見ると、ディージェントの身体からザァーという静かな音とともに身体から粒子が飛び散り、消えつつあった。

 

「な、何だ!?一体、何が起こって……」

 

ディージェントも自身に起こる現象に狼狽しつつも、自身の中の入って来た情報に驚愕する。

 

「馬鹿な…ディケイドが復活しただと?」

 

ディージェントはディケイドのバックアップであり、ディケイドに代わって計画を遂行することを目的として造られた。

だがディケイドが復活した今、ディケイドライバーからダウンロードした情報がすべてディケイドに返還されようとしていた。それはつまり、ディージェントの抹消を意味していた。

 

「ク…クソッ……!」

 

ディージェントはまだ残っている情報から次元断裂を展開すると、その中へ逃げ込んだ。

一人残された鳴滝は何とか立ち上がると神妙な顔で呟いた。

 

「助かったか…だがディケイドが復活してしまった…早急に対処せねばならんな……」

 

鳴滝は次元断裂空間を作り出すと、その中を潜ってアジトを後にした。

 

 

 

 

 

とある世界…その世界はほぼ破壊された状態だった。

その元凶ともいうべき一人の青年は、廃墟の中を覚束無い足取りで歩いていた。

青年は研究員が着ている様な白衣を身に着け、その所々を崩れた建物の残骸に擦りつけたのか汚れてしまっている。髪は少し長めの黒髪を真ん中で分け、目はまるで死人のように虚ろで焦点が合っているかも怪しい。

 

「僕が…僕がいたから、こんな……」

 

青年は物心ついた時から次元移動能力を持っていた。

 

この力を使えば、次元断裂空間を通じて様々な場所へ移動することができる。この力に目を付けた研究者達は、これを応用して軍事戦略として使おうとしていた。

例えば敵国の上空に次元断裂空間を展開させてそこから爆弾などを投下させれば、突然の事態に対処できないだろう。

しかもこの次元断裂空間は発生させた人間の任意で通ることを阻んだりすることができるため、敵側が次元断裂空間に攻撃してもこちら側に来ることはないのだ。

 

青年は少年だった頃からこの力が軍事関係に使われている事は知っていた。しかしどうにもできなかった。それが青年の存在意義だったから……。

 

彼に両親は居たが青年の力を気味悪がって研究者達に売り付けてしまった。もう両親の顔もほとんど覚えていない。

そして研究者たちが青年の力を応用して作った空間断裂装置が今のこの世界を作り出した結果だった。

次元断裂空間を作り出す度にその世界にわずかな「歪み」を発生させる。

その「歪み」は少しだけならすぐに世界が修復していくため、全く問題はないのだが、連続して何度も起きると世界が対応できず大きな「歪み」を生んでしまう。

その「歪み」はやがて、他の世界…謂わば「並行世界」と繋がり、その世界の脅威がこちら側に流れ込んでくるのだ。そして今青年の目の前にもその脅威が存在していた。

 

獣人…とても言えばいいのだろうか。ライオンの顔をした二足歩行の生物がこちらにゆっくりと歩いてきながら右手の甲を左手の指で軽くなぞる動作の後、青年に向かって駆け出した。

 

この獣人は十中八九自分を殺そうとしているのだろうが、青年は何もせずにそこに立ち止まるだけである。

獣人はただ諦めただけだろうと安直な考えを巡らせながら自身の頭上に現れた天使のような光の輪に右手を突っ込み、そこからズルズルと片刃の大振りの剣を取り出す。そのまま上段からの一刀両断で青年を真っ二つにしようとした。だが……

 

『グゥッ!?』

 

突如獣人の目の前に灰色の壁が出現した。剣は壁にぶつかり一瞬だけ白い雷のようなものが出たと思った瞬間はじかれていた。

弾かれた反動で踏鞴(たたら)を踏む獣人だったがすぐに態勢を立て直し、眼前の半透明の壁越しから青年を睨みつける。

しかしそれに対して青年はただただ虚ろな目でこちらをジッと見ているだけだった。

 

だがその睨み合いもすぐに終わる事になった。

 

『グォ!?』

 

突如目の前の壁が何の前触れもなく獣人にぶつかってきた。壁に前から磔にされる形でどんどん青年との距離が開いていく。

 

『グオオォォォ!!』

 

何とか壁から離れようとするも、壁の移動するスピードが速すぎるうえにまるで接着剤でくっつけられたようにビクともしない。

 

不意に獣人が後ろを見ると、そこには途中で折れて鋭くとがった鉄筋がこちらに矛先を向けていた。恐らくビルが崩れた時に出来たのだろう。

いくら化け物といえど、この速度であれにぶつかれば一溜まりもない。青年はそう思いながらふとこんな考えが過(よ)ぎった。

 

(まだ、死にたくないのか?僕は……)

 

存在意義の無い自分がこの世界にいても全く意味がない。自分を必要としていた研究者達もすでに殺されてしまった。

そんな自分に生きる価値が一体どこにある?

 

青年が自虐的な思考の海に潜っていると、突然ある気配を感じた。

 

(…次元断裂?でも装置は全部壊された筈…なのにどうして?)

 

次元移動能力を持っている青年には次元断裂が起きればすぐにその気配を察知する事は造作もなかった。それは風が吹けばその風が何処から吹いているのか分かる事と同然の様に。

その次元断裂が発生したほうを向くとそこには異形がいた。

 

インディゴカラーに白いラインの入ったボディ。下を向いた矢印の形に黒い板がついた顔…いや、マスクだろうか?

そして黄色い大きな複眼は苦しそうに(表情はないがそう見えた)こちらを見ていた。

その身体からは灰が風に散っていくように粒子が出ていた。

 

(何だろう?今までの怪物達と違う……)

 

そのインディゴカラーの異形は苦しそうにこちらに近づいて来るが不思議と危険な感じはしなかった。

 

 

 

 

 

(やっと…やっと見つけた)

 

インディゴカラーの異形…ディージェントはそう呟こうとした。

しかしコレを構成する情報の殆どはディケイドに還元されてしまっており、声も出せなくなっていた。

あの後、スーパーショッカーのアジトから逃れたディージェントは次元空間を高速で移動していた。自分を使う事が出来る適合条件をもった人間を見つけ出すために……。

 

最早ディケイド等・「Dシリーズ」に備わっている「ライドカードシステム」も完全に使えなくなってしまっている。

元々ディージェントはディケイドよりスペック的には強いライダーだ。しかしそのため「ライドカードシステム」を加える容量がなかったのだ。

そこで使われた方法が「ディケイドが破壊された際にライドカードシステムをディージェントにダウンロードする」というものだった。

そうすることで容量は関係なくディージェントも「ライドカードシステム」を使えるようになる筈だった。

しかしその全てがディケイドに還元されてしまったのだ。最早この機械の塊に残されているのは「使命」だけだった。

 

ディージェントは青年の手を取りそしてそこから自分に残った情報を青年に流し込んだ。

 

「ク!?ウ…ウアアァァァ!?」

 

突然大量の情報を流し込まれた為、青年は頭を抱え苦しみ出す。しかしそれでもディージェントは青年に情報を流し込み続ける。

やがて全ての情報を流しこむと同時に、ディージェントは完全に消滅した。ガシャンと腹部についていたディージェントドライバーだけを落として……。

 

「ハァ、ハァ…フゥ」

 

青年は今自分の頭の中に入って来た情報に息を整えながら脅愕と納得をしていた。

 

(ディケイド…Dシリーズ…そして『Dプロジェクト』……)

『グオォォォォォ!!』

 

突然雄叫びが聞こえたほうを振り向く。そこには先ほどの獣人がいた。

その腹部には小さな穴があいていることからおそらくあの鉄筋に刺さった後、青年とディージェントが情報を交わし合った際に次元断裂が消えたのだろう。

 

(そうか…あの怪物はアンノウンというのか……)

 

手に入れた情報とあの怪物の情報を重ねながら青年は一人納得する。そして地面に落ちたディージェントドライバーを拾い取り、さらに次元断裂空間から一枚のカードを取り出して誰にでも無く呟いた。

 

「僕にも目的が出来た……。僕の…須藤歩の生きる理由が出来た。変身」

 

それは生きる目的の出来た青年…須藤歩の生きる希望を得た数分前の自分に対する返答と……

 

[カメンライド…ディージェント!]

 

仮面ライダーとして生きる決意をした言葉だった。

説明
ディケイドライバーがライダー大戦の際に壊れた際にバックアップとして生まれたディケイドの代理人こと破壊の代行者・仮面ライダーディージェント。
ディケイドに代わって本当の目的を果たそうとするも、門矢士が復活したせいで存在を保てなくなってしまった。
しかし自分の代わりに計画を実行できる素質を持った一人の青年に自分の力をすべて託し、青年はその計画を代わりに実行するために動き出す。
仮面ライダーディケイドに代わり、自らの使命を遂行する者、仮面ライダーディージェント。 自らの存在意義を求め、その歩みは何処へ行く
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