仮面ライダーディージェント 第6話:世界を救う為に…… |
蜘蛛型のワーム…スパイダーワームにパンチを繰り出しているうちに蠍型のワーム…スコーピオンワームが背後から斬りかかろうとするが、それを右に側転して避ける。そしてスコーピオンワームの攻撃はディージェントの前に居たスパイダーワームに当たってしまう。
側転して体制を崩している隙を付いて蜂型のワーム…ワスプワームが右腕についている40センチはある針で突き刺そうとするが、ディージェントはそれを予測していたのか、自分の目前まで迫っていた針を右手で掴み取ると、右側から黒い玉の様なものを何発も弾丸の様に吐き出していたダンゴムシ型のワーム…アルマジリディウムワームの前にを出し、盾代わりにして黒い玉を防いだ。
盾にしたワスプワームをアルマジリディウムワームの方へ蹴り飛ばして一時的に怯ませると、一枚のカードを脳内のクラインの壺から取り出し、ドライバーに装填した。
ディージェントドライバーにはカードを収納する為のライドブッカーが備え付けられていない為、変身している本人が独自に造り上げた異空間であるクラインの壺にカードを収納するしかないのだ。
[アタックライド…スラッシュ!]
「…ハァ!」
『ギュワァ!?』
カードの効果を発動させると、再び斬りかかって来たスコーピオンワームの大振りの攻撃でがら空きになった脇腹に手刀を叩き込んだ。
すると、まるでバターの様にスコーピオンワームの身体が切り裂かれて行き、完全に切り裂かれると同時にスコーピオンワームは一瞬苦しそうに呻くと緑色の爆炎を撒き散らしながら爆散した。
「スラッシュ」のカードはディージェントの攻撃に斬撃の効果を付加させる事ができるカードだ。
本来ならばディケイド専用のライドブッカー・ソードモードなどの斬撃系の武器の威力を上げるカードなのだが、ディージェントには専用武器が備わっていないので身体能力に直接付加させて効果を発揮させているのだ。
それを見ていた他のワームは身体に力を溜める様に構えると、次の瞬間姿を消した。
姿を消したかと思うと、ディージェントの体は何かに弾かれた様に宙に浮かんだ。
更に空中でも弾かれ、それが何度も繰り返される。
(コレがクロックアップか…思ってたより速い……)
ディージェントは弾かれながらもそう冷静に今の状況を分析した。
クロックアップ…「カブトの世界」に存在するライダーやワームが持つ特殊超高速移動能力である。
ワーム成虫体の体内や「カブトの世界」のライダー専用変身ツール…ライダーゼクターから生成されるタキオン粒子と呼ばれる超光速運動エネルギーを体表面に纏う事によって自身を通常の時間流から切り離し、ほぼ時間の止まった空間を移動することを可能とする能力である。
但し、タキオン粒子を常に体表面に纏わせていると肉体に大きな負担が掛かるため、数秒から一分の間しか発動できないという欠点もある。息を長時間止める事と同じである。
やがてクロックアップの効果が切れたのか、三体のワームは再びその姿を現した。
3体のワームはまるで嘲笑うかのように「キルキル」と口元の顎を鳴らしていたが、ディージェントが再び起きあがったのを見て再びクロックアップの準備を始めた。
ディージェントはその間に一枚のカードを取りだしていた。
「これなら少しは何とかなるかな?」
[アタックライド…ダッシュ!]
そう言いながらカードを発動させると、今度はディージェントの姿が消えた。しかし消えたと言っても僅かにディージェントの残像が見える為、ワームたちのクロックアップよりは遅いようだ。
一瞬姿を見失ってしまったワームたちは動揺して思わずクロックアップの準備を中断させてしまい、それと同時に今度はワームたちが吹き飛ばされる。
スパイダーワームとワスプワームはなんとかクロックアップを発動させるが、ディージェントの攻撃によって倒れ込んでしまった為、出遅れたアルマジリディウムワームはディージェントの速度が上がった事で威力も増した踵落としを胸部に食らい爆散した。
その隙を付く様にクロックアップをした残りの2体のワームは挟み撃ちをする様に襲いかかってくるが、ディージェントはその攻撃を両手で受け止めた。
『ギュヂィッ!?』
『ギュヂュッ、ギュ、ギュイィィィ!?』
「ヌウゥゥ…ハアァッ!!」
困惑するワームたちを余所に、ディージェントは2体の腕を持ったまま回転し、一か所に投げ飛ばした。
ディージェントが発動させたカード…「ダッシュ」は高速移動を可能にするカードなのだが、クロックアップ程のスピードが出せるわけではない。
それでもクロックアップの速度にある程度ついて行けるようになるので、後は自分の空間把握能力で何とか対処できるのだ。
2体のワームは投げ飛ばされた場所で蹲っているだけの様で、その間にディージェントは新たなカードを使っていた。
[アタックライド…ブラスト!]
「…ハッ!」
電子音声が響くと同時にディージェントは右掌をワームに向けると、そこから藍色の拳ほどの大きさの光弾を複数撃ち出した。
『ギュワアァァァァ!!』
2体のワームは光弾に直撃すると、奇怪な声を上げて爆散していった。
「本当に変身したわね……」
「…ウン」
亜由美たちはディージェントに変身した歩と、先ほどまで自分たちに化けていたワーム4体の死闘を遠くから見ていた。
加奈には歩の事が解らなかった。
何の関係もない亜由美を自分の都合で利用して、しかも下手をすれば命に関わる事に巻き込まれるかもしれないのにあの男は死人のような目で淡々と協力しろと言ってきたのだ。
そんなに亜由美を人柱にしたいのかと思った矢先にこれだ。
別の世界の脅威が現れ、それから亜由美たちを守る様に戦っているのだ。しかも、自分を含めて。
「あの人は本当に何をしたいの?」
「は?何言ってんだ加奈。そんなの決まってるだろ」
ふと口に出してしまった疑問が聞こえたのか皐月がその答えを口にした。
「歩は皆を守ろうとするヒーローだよ」
「……ヒーロー?」
加奈は皐月の返答に眉間を寄せた。だってそうだろう。とてもではないがあの男がヒーローなんて柄には見えない。
「そ、ヒーロー」
「どうしてそう思うの?」
亜由美も自分と似たような事を思ったのか皐月に聞き返してきた。
それに対し皐月は簡単な事の様に言ってのけた。
「だって歩は世界を救うのが使命だって言ってたんだぜ?だったらもう立派なヒーローじゃねぇか」
「でも…その為に亜由美を危険な目に……」
「別に無理にってわけじゃねぇし、そこは亜由美次第だと思うぜ」
「私…次第……」
確かに皐月の言うとおりだ。亜由美はただ自分がしたい様にすればいいのだ。自分が世界の危機にどうしたいのか……。
そう思っていると戦闘を終えたのか歩が変身を解いた状態でこちらに歩いてきた。
「終わったよ」
「……先生、一ついいですか?」
「なんだい?」
「これって元に戻るんですか?」
亜由美は今のこの街…いや、世界の惨状を見て歩に問いかけた。
その問いかけに歩は一瞬だけ難しい表情をしたがすぐに何時もの無表情に戻って淡々と答えた。
「それは…分からない。ここまで歪んだ世界に来るのは初めてだから」
「……そうですか」
「でも……」
亜由美がその返答に落胆していると歩は更に続けた。
「『ライダーサークル』を渡ってその世界の『歪み』を修正すれば、何とかなるかもしれない」
「…っ!それって、やっぱり亜由美を……!」
「待って加奈!もう決めたから……」
歩に異議を申し立てようとする加奈を止めると、亜由美は決意を新たにした。そう、世界を…日常を取り戻すために……。
「私とシンクロしてください。それで、世界が助かるなら……」
歩は驚いていた。加奈の話を聞いてから、してくれそうにないとは思っていたが、まさか、本当にしてくれるとは思わなかった。
彼女は何でもない極々普通の高校生だ。急に非日常的な事態に巻き込まれるというのに自分から申し立てて来たのだ。
「そうか…分かった」
そう言って亜由美に近づこうとした時だった。
『ギュウゥゥギギギギギギ!!』
上空を埋め尽くしていた黒い影…ダークローチがこちらに迫って来たのだ。それも、大量に……。
ダークローチは「ブレイドの世界」に存在する「統制者」と呼ばれるモノが世界をリセットするために使う手段だ。
本来ならば「ブレイドの世界」に存在する脅威・アンデッドの「ある一体」だけが存在していなければ現れる事はないのだが、どうやらその一体と「統制者」がこの世界に流れ込んできてしまったようだ。
「おわあぁぁぁぁ!なんかメチャクチャ来たあぁぁぁぁ!?」
「ちょ、先生!何とか出来るんですか!?」
「これは…ちょっと難しいかもね……」
「イヤですよ!?あんなGの大群に圧死されるなんて!折角覚悟決めたのに!!」
そんな事を話している間にもブラックローチの大群はどんどん迫ってくる。
もう一度変身しようにもあんなに多くいては自分は何とかなるが、亜由美たちまでは守りきれない。
次元断裂で何処かに飛ばそうにもやはりあの数の暴力には勝てないし、逆に自分たちを飛ばそうにもここまで歪んだ状態ではどこに飛ばされるか分からない。
万事休すかと思ったその瞬間……
世界が、止まった……。
「え?アレ?」
亜由美は何が起こったのか確認するために周りを見渡してみると、周囲の何もかもが完全に止まっていた。
街を闊歩する巨大な蟹も、空を覆い尽くす黒い影も、そして加奈や皐月までもが……
「加奈!?皐月!?どうなってるのこれ!?」
「どうやら、世界が完全に凍結してるみたいだね……」
「え!?先生!どうなってるんですか!?何で私たちだけ動けるんですか!?」
「次元移動能力者…『ワールドウォーカー』は世界の干渉を受けない。今回の場合は僕と亜由美さんだけが世界から切り離されてるんだ。そして、こんな大掛かりな世界操作ができるのは……」
「探しましたよ。ディージェント」
突如、亜由美と歩しか動いていない世界に誰かの声が響いた。
その声の聞こえた方を見てみると、そこには自分より少し年上に見える一人の青年が立っていた。
綺麗に整えられた茶髪、幼さの残る優しげな顔立ち、クリッとした大きな瞳…言っては悪いかもしれないがとても可愛い印象の青年だ。
しかしその表情は険しく、何処か威厳さえも漂わせていた。
「え?誰?」
「紅渡。今の『キバの世界』の基になった『オリジナル』だよ」
亜由美の当然の質問に歩は淡々と答えたが、再び疑問になる言葉を残していた。
「え?“今の”ってどういう事?それに『オリジナル』って?」
「『キバの世界』と一言で言ってもその『キバの世界』は無数に存在する。他のライダーの世界も同じだよ。そして、『オリジナル』っていうのはその無数に存在する世界に派生する前のルーツ…つまり最初の仮面ライダーキバだね。」
「へ、へ〜……」
この説明でもかなり簡略化されているみたいだが、話が壮大すぎる上に意味不明な単語まで出て来た為に、正直良く分からなかった。
「それにしても、まさかまだ動いてるとは思いませんでした。ディケイドが復活した時に消滅したのかと思っていましたが……」
「まぁね。あの時僕がいなかったら完全に消えていたよ」
「そう考えれば貴方には感謝するべきですね」
「いや、こちらも感謝しているよ。もし来なかったらあの後どうなっていたか分からないからね」
この二人は一体何の話をしているのだろうか……。
亜由美にもある程度ディージェントの情報が入ってはいるが、それでもほんの一部だ。
それにしてもよく話す…友達か何かなのだろうか。
「…ねぇ、ひょっとして知り合いなんですか?」
『いや(いえ)、今回が初対面だよ(です)』
「そこまでハモッておいて初対面と言いますか!?」
もしやと思って質問してみたが、二人は初対面とのたまってきた。
そこまで息ピッタリで何を……。
「でも知ってはいるね。ディージェントドライバーの情報の中に入っていたからね」
「僕も、貴方の事は知っています。でも知ったのはつい最近の事ですが」
「つい最近…?」
「ええ。つい先月…といってもこの世界では昨日の事ですが、『ライダーサークル』に近づいてくるDシリーズの気配があったのでもしやと思ったんです」
「成程。で、態々(わざわざ)『ノンポジション』のこの世界まで来たという事は……」
「はい。そういう事です」
「あの〜私にも分かりやすく説明してくれませんか〜?」
二人の会話に全くついて行けていない亜由美が痺れを切らしたのか、割り込んできた。
二人は一度、亜由美の方を見てから目配せをする様に互いに目を合わせると、亜由美にも話した。
「ん〜そうだね〜、じゃあこれからの方針を説明しとこうかな?」
「そうですね。では僕から説明させて頂きます」
歩が頭をガリガリ掻きながらそう言うと、渡が前置きを置いて説明を始めた。
「まず、これからディージェントには『ライダーサークル』に行ってもらいます。そこでそれぞれ九つの世界で発生している『歪み』を修正してもらいます」
「あ、ちょっと待って。さっきの先生の話だと一つの世界でも幾つもあるんですよね?じゃあどの世界に行けば良いんですか?」
「基本的に行くのはクウガ・アギト・龍騎・ファイズ・ブレイド・響鬼・カブト・電王・キバの九つで、取り敢えずどの『リイマジネーション』…つまり派生した世界でも良いんだよ」
亜由美の質問に歩はまた頭をガリガリ掻きながら淡々と答えた。
「じゃあ9回世界を渡ればいいの?」
「まぁそう言う事なんだけど、同じ世界に来てしまう事があるかもしれないから必ずしもそうじゃないんだよ」
「しかし、九つの世界を1回以上回れば何も問題はありません。そして、すべての世界を渡った後は僕たちが何とかします。それでこの世界に流れ込んできた脅威も消え去ります」
詰まる所こういう事だ。
まず一つの世界の「歪み」を修復したとする。そしてその修復した世界が「アギトの世界」だったとすれば、その修復した「アギトの世界」が他の「アギトの世界」と繋がるための道を作るので、後は行ってもいいし行かなくてもいい。
そしてそれを繰り返して九つすべての世界の「歪み」を修復すれば、後は渡たち『オリジナル』がそれらの世界を繋げて拒絶反応を起こさずに融合させる事で世界の融合崩壊は止められる。
これがディケイド達Dシリーズによる「Dプロジェクト」の一端である。
「では、後は頼みましたよディージェント。その間この世界は凍結させておきます」
「ウン。分かったよ」
「加奈…皐月…待っててね、必ず帰って来るから……」
大体の説明が終わり、歩たちはこの世界を後にしようとしていた。
本来ならば亜由美をこの世界に置いて行き、歩が去った後にこの世界と一緒に凍結させるはずだったのだが、凍結されると亜由美との繋がりを遮断されてシンクロ出来なくなるため、歩が保険として必要だと渡に説明し、渡もそれに了承し同行する事になったのだ。
そして今、この展開させた次元断裂空間の先に続く「ライダーサークル」へと亜由美と一緒に歩みを進めていった。
「ディージェント」
突然渡に呼び止められて振り返ると、そこには真剣で、それでいて険しい表情を作った渡が此方を見ていた。
「決してディケイドの二の舞を踏まないようにしてください」
「…?ウン、分かった」
歩にはディケイドの二の舞とは一体何の事か分からなかったが、おそらくディケイドに還元されてしまった情報なのだろうと深く考えずに相槌を打ってこの世界を後にした。
「……本当に大丈夫なのかなぁ?」
『そんなに心配すんなって渡〜。今回の為に、今まで色々と準備してきたんだろ?』
歩たちが去った後、渡は一人嘆息していた。そこに一匹の小型の蝙蝠型のモンスター…キバットバット三世が現れ、渡を励ましてきた。
今の渡は先程の様に角(かど)が立っておらず、何処か臆病な印象を受ける青年になっていた。
「うん…そうなんだけど、ひょっとしたら本来の目的を忘れてるんじゃないかなぁって思っちゃって……」
『あぁ〜確かにあの反応だと忘れてそうだしなぁ〜』
「でも、僕達の目的は変わらないよ」
そう言って正面を向き次元断裂を展開させると、その中へと進みながら言葉を紡いだ。
「僕達の世界を、取り戻す…その為だったら、何でもしてみせる……」
そう言い残すとこの世界を凍結させたまま次元断裂の中に消えた。
説明 | ||
ディケイドライバーがライダー大戦の際に壊れた際にバックアップとして生まれたディケイドの代理人こと破壊の代行者・仮面ライダーディージェント。 ディケイドに代わって本当の目的を果たそうとするも、門矢士が復活したせいで存在を保てなくなってしまった。 しかし自分の代わりに計画を実行できる素質を持った一人の青年に自分の力をすべて託し、青年はその計画を代わりに実行するために動き出す。 仮面ライダーディケイドに代わり、自らの使命を遂行する者、仮面ライダーディージェント。 自らの存在意義を求め、その歩みは何処へ行く。 |
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