仮面ライダーディージェント Dプロジェクトの原点 |
「お兄ちゃん、本当に行っちゃうの?」
とある洋館の出入り口、その館の住人の一人である少女…門矢小夜(かどやさよ)はこの館から出て行こうとするたった一人の肉親である兄…門矢士に不安そうな震えた声で問いかけていた。
その声に士は振り返ると穏やかな笑顔を見せ、小夜のサラサラの黒髪を優しく撫でながら諭す様に答えた。
「心配するな小夜。すぐに戻る。お土産に写真を取って来てやる」
彼女の兄、士は不思議な能力を持っていた。
彼は灰色のオーロラの様なものを作り出す事ができ、度々その中を行き来し様々な場所へと足を運んでいた。
小夜を館に残して……。
そして彼は今、旅に出ようとしているのだ。それも、別の世界に……
彼女は本当は兄に出て行ってもらいたくない、ずっと一緒にいて欲しいと思っていたが、自分のそんな我儘に付き合わせて彼を縛り付ける事なんて出来なかった。
小夜は士の去って行く後ろ姿に涙目で鼻声になりながらも声を振り絞った。
「お兄ちゃん…!」
小夜の声に士が振り返る。その顔はとても優しげなもので、本当に言いたいことが言えなかった。
「待ってるから……」
そう言う事しかできなかった。
「じゃ、行って来る」
そう言い残して士が去っていき更に静寂を増した館にとても小さな声が響いた。
「必ず…帰ってきてね……」
小夜と別れた士はすぐに灰色のオーロラ…次元断裂を展開すると、その中に歩みを進めて行き、やがて広い建造物の中に姿を現した。
その中は魔の巣窟と化していた。蜘蛛や蜥蜴(とかげ)といった何らかの生き物を模した怪人たちが自分を見つけると、まるで道を開く様に二手に分かれ、ある一か所に続く道を歩いて行った。
そこには巨大な玉座が存在し、その後ろには双頭の赤い鷲(わし)のレリーフがあり、その胸部には金色で「DCD」と書かれていた。
ここは大ショッカー本部。世界の征服を企む巨大組織である。
そしてこの大ショッカーの大首領…門矢士はその玉座にドカリと座るとこの場に居る一人の名を呼び出した。
「地獄大使、計画の方はどうなっている」
「はっ!ほぼすべての準備が完了しました!」
黒い東洋風の騎士甲冑を身に纏い、黒く大きな隈を作った壮年の男…地獄大使は士の質問にハキハキと答えた。
士の言う「計画」とは、自分の持つ次元空間移動能力を使って他の世界を侵略する計画、通称「Dプロジェクト」の事だった。
しかし自分の持つ能力だけでは別の世界との道は開けない。そこで発案されたのが「次元移動能力をさらに増幅させ、尚且つ自身の身を強化する装置の開発」だった。
そのための装置…ディケイドライバーも完成し、他のDシリーズの開発も着々と進められていた。
「よし、じゃあ始めるぞ!別世界への侵略を!」
『グオォォォォォォォ!!』
士の号令に怪人たちの雄叫びが返す。士は更にもう一人の人物を呼び出した。
「死神博士!ディケイドライバーを渡せ!」
「はい!大首領様!」
そう言って士に近づいてきたのは、長い白髪に白いスーツ、更に黒いマントを身に着けた老人…死神博士だった。
死神博士はとても老人とは思えないキビキビとした足取りでその手に持ったディケイドライバーを士に渡した。
「よし。他のDシリーズはどうなっている」
その手に持ったディケイドライバーを見ながら満足そうに頷くと、他のDシリーズ…特にディエンドライバーの開発進行過程を聞いた。
ディエンドライバーは戦略面においてかなり有効なDシリーズだ。それさえあれば計画は更にスムーズに進められる。そう思って死神博士に問いかけたのだが、死神博士はどこか言い辛そうに口をへの字にして押し黙っていた。
「どうした、早く言え!」
「は、はい!それがディエンドライバーを開発していた結城丈二が完成したディエンドライバーを持って逃走しました…!」
「結城丈二か…あいつは何時か裏切るとは思ってはいたが、この土壇場で裏切るとはな……」
結城丈二は大ショッカーの科学者だ。しかし彼はかつてともに研究していた友人でもある助手を大ショッカーに殺されてここの研究者として利用されていたのだ。いつか復讐を企てるのも当然のことだ。
「まぁいい。逃走した結城丈二はデストロンの者たちが追え!その間に俺たちは別世界への侵略を仕掛ける!!」
『グオォォォォォォォ!!』
士は再び号令を掛け、次元断裂空間を展開させるとその中へ次々と怪人を送り込む。
この計画を終えたら帰るのだ。小夜の…たった一人の肉親のいる我が家に……。
計画を始動させて一ヵ月後、ようやくすべての世界…「ライダーサークル」を制覇する事が出来た。
しかし、どう言うわけか世界征服の邪魔になる存在…仮面ライダーを倒した傍から世界が消滅してしまうのだ。
但し、その代わりと言ってもいいのか倒したライダーはデータ化されてDシリーズ専用のカードになり、そのカードを使う事でデータ化されたライダーの力を使う事が出来るのだ。
どう言う事なのか聞き出したいのだがこのDシリーズを造ったのは結城丈二だ。それ以外の人間が知る故もない。
死神博士の仮説では「すべてのライダーをディケイドライバーに記録させれば、そのライダーのデータを基に世界を自分の思い通りに構築できるのではないか」との事だった。
つまり、後は世界を一つに融合させる様に構築するだけという事になる。しかしどうやって構築すればいいのか…やはり結城丈二を探しだして聞き出すしかなさそうだった。
「遂にこの時が来たか……」
結城丈二は遠方から見える大ショッカー本部を見ながらそう呟いた。
ディエンドライバーを完成させてそれを持って逃亡し出してからの一ヶ月間、結城丈二はあるカードを作り出すために各ライダーの世界を渡っていたのだ。それも大ショッカーに世界を消滅させられてしまう前に行かなければならなかったので、鉢合わせしない様にするのは非常に困難だった。
そんな時、ディエンドライバーの成長記録機能がこの状況に適したカードを作成したのだ。
そのカードの名は「インビジブル」。このカードのおかげでカードの作成には手間取る事はなかった。
そして結城丈二が作ろうとしていたカードというのはその世界の「基点」となるライダーのある意思をディエンドライバーに記録させる事で作成される。
そしてその意志というのは…「何かを守りたいという心」だ。
その意志をデータ化されたライダー達に送り込む事によってディケイドライバーの中から出す事ができる。
その為にはこのカードをディケイドライバーに挿入させる必要がある。その為にここに来たのだ。
「では行くか……」
そう呟いて、結城丈二は大ショッカー本部へと歩みを進めた。
「何!?結城丈二が此方に向かってるだと!?」
「はっ!先程偵察していたショッカー戦闘員が結城丈二を発見したとの事です!」
士は驚いていた。まさか自分からノコノコと戻って来るなんて、余りにも不自然だ。
何らかの目的があるとするならば、やはり自分の首を取る事なのだろうが一体どうやって……。
「如何(いかが)なさいますか!?」
目の前の報告してきた地獄大使が問い掛けて来た。確かに何かあるのは確かなのだがそれはこちらも同じこと。結城丈二からディケイドライバーについて聞き出すのだ。
更に、あの男に裏切りの制裁を与えるために……。
「良いだろう。何を企んでるか知らないが、俺が自ら奴に制裁を与えてやる」
結城丈二はある一室に通されていた。その一室で両腕を鎖で吊るされ、目の前のこの大ショッカーの大首領・門矢士を睨みつけた。
「何だその目は」
結城丈二の目が気に入らなかったのか、士は結城丈二の顔に裏拳を浴びせると、この一室…拷問部屋の一角に置かれた西洋剣を手に取った。
それを大きく振りかぶると結城丈二の右腕に思いっきり振り落とした。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
右腕を斬り落とされた激痛に思わず悲鳴を上げる。その斬り落とされた腕は未だに鎖に縛られたままで、まるで振り子の様に揺れていた。
「で、態々戻って来た理由は何だ?やはり俺の首か?」
「………」
士の問いかけに何も答えず、再び睨みつけるだけだった。
士は何も答えない結城丈二に軽く溜め息をつき、こちらの話を切り出した。
「まぁいい、俺もお前には用があったからな。で、その用って言うのがこれだ」
そう言いながら次元断裂から白を基調とした掌大のバックル…ディケイドライバーを取り出すとそれを腹部に宛てがう。するとベルトの側面から帯が飛び出し、士の腰に巻き付いた。更に右腰に次元断裂が現れ、そこからディケイド専用カード収納可変型武器・ライドブッカーが現れると同時に右腰に備え付けられる。
そしてそのライドブッカーから一枚のカードを取りだした。そのカードの名は…ディケイド。
「変身」
士が音声コードを言い放つと同時に、事前に展開していたカード挿入口にカードを挿入する。
[カメンライド…ディケイド!]
電子音声が鳴り響くと同時に士の周囲に9体の灰色の人の形をしたビジョンが現れ、それが士に重なり士の身体が灰色に包まれる。その身体にディケイドライバーの中央に備え付けられた赤黒い石…トリックスターからライドプレートが複数飛び出し、士の顔に縦一列に突き刺さる。突き刺さった瞬間、その身体を一瞬だけ真紅に染め上げると徐々に淡くなって行き、やがてマゼンタカラーに変わった。
そこに立っていたのは、緑色の複眼に、バーコードの形状でマスクに突き刺さったライドプレート。
マゼンタカラーの装甲、胸部に斜めに走る白いラインで作られた十字。
そして顔に突き刺さったライドプレートの中央の一角に黄色いシグナルポインターが光り輝いていた。
仮面ライダーディケイド…「Dプロジェクト」の要となる存在である。
「この力ですべてのライダーの世界を渡ったはずなんだが、どういうわけかライダーを倒した途端世界が消滅してな」
そう言いながら身体の調子を確かめるように自分の腕を捻りながら、結城丈二の周囲を回り、やがて背後まで来るとゆっくりと近づいてその大きな複眼で結城丈二の顔を睨みつけた。
「そこでお前の意見を聞きたい。どうすれば世界を一つに出来る?このディケイドライバー…いや、Dシリーズはお前が造ったものだ。何か知ってるんじゃないのか?」
「……ハッ」
「何が可笑しい…?」
結城丈二が鼻で笑う事に不機嫌になりながら髪をグイッと掴みあげる。それに一瞬苦悶の表情になりながらも結城丈二は答えた。
「お前たちじゃあ、世界を一つにする事なんて出来やしない」
「フン、偉そうな口を」
ディケイドはその掴んだ髪を更に引っ張り、結城丈二の表情が再び苦悶に歪められる。
「そんなに早く死にたいのか?悪いが今はそんな生優しい事は出来ないな。楽になりたかったら吐け…!世界を一つに融合させる方法を…!」
今度は乱暴に顔を掴みこちらに無理矢理振り向かせるが、結城丈二は右腕の痛みで脂汗をかきながらも、余裕の表情でディケイドに言い放った。
「悪いが…お断りだ…!」
「な、何っ!?」
突如、結城丈二は自分の残った左腕を次元断裂に包み込ませると、ディケイドライバーのすぐ目の前に通過させた左腕を現した。
そして、その手の中には一枚のカード……。
結城丈二はすばやくディケイドライバーを片手で展開させると、そのカード挿入口に一瞬でカードを挿入させた。
[ツールライド……]
しかし……
[………]
何も起きなかった。
一体何をしたのかと思い、結城丈二に振り向こうとした時…変化が起きた。
ディケイドライバーに一瞬だけノイズが走ったのだ。更にそこから変化が起きる。
[カメンライド…]
「何…?」
[クウガ!]
「ぐあ!?」
突如ディケイドライバーのトリックスターの中から電子音声と共に白い光の固まりが飛び出して来たのだ。
その衝撃でディケイドが踏鞴(たたら)を踏む。
「貴様…!あのカードは一体……」
[アギト!]
「うぐぁ!?」
再び電子音声と共に白い光の固まりが飛び出して来て、今度はその衝撃で仰向けに倒れ込んでしまった。
その様子に結城丈二は失った右腕を抑えながらニヤリとニヒルな笑みを浮かべて答えた。
「俺がお前に使ったカードは、ウイルスだ」
「ウイルス…だと…!?」
[リュウキ!]
「うおっ!?」
ディケイドは何とか立ち直ろうとするが再び光が飛び出して来た衝撃でバランスを崩してしまった。
「そのウイルスはライダーたちの強い意思で作られたカードだ。その強い意思にデータ化されてしまったライダー達が反応し、ディケイドライバーの呪縛から解放されようとしている」
「何ぃ!?」
[ファイズ!]
「ぐぅ!!ク、クッソ…!」
今度は前屈みになって立ち上がろうとしたが、再び襲って来た衝撃で膝を着いてしまう。
そしてそのまま次元断裂を展開すると、この場から逃げるように姿を消した。
しかしその中に白い光も紛れ込んでしまっていた。
それを見届けた結城丈二はやり遂げた達成感に満ち溢れた笑顔で次元断裂を展開し、その場を後にした。
ディケイドが辿りついた場所は何もない荒野だった。
[ブレイド!]
「うぬうぅぅ…!!」
そこでは未だに次々と解放されるライダーのデータの塊である白い光の飛び出す衝撃で苦しんでいた。
[ヒビキ!]
「うあぁぁ!」
[カブト!]
「うぐ…!こ、これは……」
そしてある事に気がついた。飛び出してきた光がまるで自分を囲むようにその場に留まり始めたのだ。そしてその光が徐々に形を成して来ていた。
[デン・オー!]
「ぬあぁぁ!!」
その光はやがて収まって行き、まるでデジタルの荒れた画素の様な塊になり、その画素の塊は徐々に見覚えのある形を作り出していた。
[キバ!]
「うわぁぁぁ!」
その形とは、自分がこの一ヶ月間戦ってきた、世界を守る戦士達……
仮面ライダーだった。
説明 | ||
これは2年前、須藤歩がディージェントになるより更に前の2年前に起きた、「最初のライダー大戦」のほんの序章の物語である。 | ||
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